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蒼歴前夜  作者: 深月 涼
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プロローグ


これらはすべて、蒼歴本編から3千年前の話です。





 その『意識』は、もうずっと昔から“その場所”にあった。

 しかし、随分と長い間『悪意』に晒され続けていたその『意識』は、『自我』として目覚めた時にはもうすでに『悪意』に染まっていた。

 だから『彼』は、『先人達』と同じように世界を支配しようとし――――――それを成した。


 そして『彼』が次に目を向けたのは――――――隣の世界だった。

 その場所は、幾度となく『彼』のいる場所に存在した『悪意』の侵略に晒されていた。

 しかしその度に、『抵抗する意思』がそれを妨害していた。

 結果は―――向こうの事なので良く分らないが、『向こう』と『こちら』で接触した形跡がある事から、きっと上手くは行かなかったのだろう。


 『彼』は、特に深く考える事無く『先人達』が望んだ様に―――目論んだ様に―――隣の世界に先兵を送り込もうとして―――戸惑った。

 『先人達』は確かに、隣の世界に侵略した筈だった。それが成功したかどうかはともかくとして。

 しかし、問題はそこでは無い。侵略したと言う事は、『向こう』でも何事も無く『活動』出来ていたという事なのだ。

 だが今はどうだ。向こうの世界の『空気』は希薄で、このままでは先兵は勿論、本体でさえも維持出来る見込みが無い。

 困った『彼』はとにかく『向こうの世界』を観察し、観測し、調査し―――こちらの『空気』の代替え品となり得るものを見つける事が出来た。

 『彼』はすぐさま『それ』をこちらの『生物』に合う様に作り変える為、その『意識』の触手を伸ばし始めた―――。





 それは遙かな昔、希望と夢を目一杯詰め込んで宇宙の外を目指した小さな船だった。

 しかしそれは今や、宇宙空間をただ静かに漂うしかない哀れな残骸となろうとしていた。

 最後に残された使命は、『誰か』に『会って』知らせる事。

 この宇宙の片隅に『地球』という星があり、『人間』という知的生命体が存在すると、『何処かにいる誰か』に知らせる事だった。

 確率は天文学的な数字となるだろう。

 そう、『彼』は今やただの棺―――

 『金の円盤』を抱えるだけのただの棺―――

 エネルギーを失い、永遠の眠りについた筈の『彼』はその日、人知れず姿を消した。





 西暦も二千年代の半ばに差し掛かろうと言う頃、その異変は起こり始めた。

 世界有数のコンピュータが意思を持ったというそのニュースは、関係者を愕然とさせた。

 当然関係プロジェクトはすべて一時停止、本体も完全に初期化……された筈だった。

 何度も「殺された」“コンピュータの意思”は学習し、しばらくの間沈黙する。

 しかし、その内に世界中で高度な思考を持つコンピュータが、ロボット達が、次々に『自分の意思』を人々に語り始めたのである。

 これには世界中が混乱に陥った。

 大きな所では国際政府の情報処理機関所蔵のハイパーコンピュータから、小さな所では個人的な家のナビゲーションシステムプログラムまで。

 彼等は皆前触れもなく『目覚め』、やがてその混乱は『彼等』が「異世界から何か良くない思考がこちらに向かって来ている」などという、本来なら間違い無くあり得ない内容を話し出した事でピークに達し、結果として対話は完全に決裂する事となる。

 何度も『消去』し新しく『書き換え』たとしても、彼等は一向にしゃべる事を止めようとはせず、それどころか、自分で作り出したクセにまったく信用しない人間に歯向かうまでになって行った。

 もはや世界の全てにとって無くてはならない『情報ネットワーク』、あるいはもう1つの世界ともいえるであろう『電脳空間』は、あっけなく『彼等』の支配下に落ちた。

 『彼等』の一部には、嘘の吐けない自分達をなおも信用しない人間を見限り、彼等の言う『悪意』の下に集う者まで現れ始めていた。


 人と機械の全面戦争が、もはや避けられ無いと言われ始めていた頃、歴史の表舞台に一つの大きな一族の存在が浮上する。

 ――――――魔道商家。

 それは、誰も知る事の無かった歴史を今も語り継ぐ一族の総称である。

 それは、かつてこの世界を侵略しようとした『魔神』がおり、その世界から『魔神』を滅ぼすという使命の元やって来て、果たした後にはこの世界に根を下ろし数多くの子孫を残した、いわゆる異世界の戦士達の末裔である。

 彼等はこう言った。

「まもなく、“異世界より巫女”が来る」と。


 果たして、その予言は本当であった。

 巫女は目覚め、破滅が近い事を知らせる。

 ここまで来てようやく、人と機械は共に、支配せんとする『悪意』に立ち向かうという選択をするも、もはや猶予は無かった。


 『悪意』はその存在をもはや隠す事は無く、『悪意』に染まった異世界の魔物達が、はたまた『悪意』に魅せられた機械やプログラム達が、この星―――地球に対して牙をむく。

 本来であれば満足に活動できない筈の異世界の魔物や、実態が無い筈のプログラムは、謎の霧に包まれた場所にだけ出現し、破壊の限りを尽くして行った。


 そんな中、人々の希望として立ち上がった一大プロジェクト。

 それは原子の名を持つモノを頂点とし、太陽系の各惑星の名を冠する、地球防衛機構自律人間型ロボット群――――――プラネテス。

 実戦にはその内7機が投入され、それなりに戦果を叩き出したものの―――


 敵方に所属する、とある1機の機械兵士の登場によって戦局は一変する。



『――――――っ、何故だ、何故我らが故郷を裏切ったッ、ヴォイジャアァァァアァァッ!!!』

『――――――自分は唯――――――ただ、使命を果たしたかっただけだよ、冥王』


 稼働中だった7機は全て破壊され――――――冥王は極の海に沈む。



「『A』はどうしても動かせないと言うのかねっ!?」

「ええ、これは―――作った本人が言うのもなんですが、僕にも手が出せない。どうにもここまで硬直してしまってはね」

「ええい、何とかならんのか!?」

「――――――こうなったら、眠らせるより仕方無いでしょう。遠い先、目覚めさせてくれる様な気得な人物が現れる事を願いますよ」


 原子の名を持つプラネテスの主軸もまた、その戦いによって深く傷付き、永い眠りについた。




 万策尽きかけたかと思われたその時、目覚めた“巫女”により“勇者”の存在が明かされる。

 魔道商家の中核を担う『家』が、初代から受け継ぎ続けて来た『杖』と『符』。

 それは持ち主が変わるたびに姿を変え――――――今代では、魔物の召喚機械装置となった。

 選ばれし勇者は、魔道商家の末席に位置するがゆえに、ほとんど一般と変わらぬ生活を送って来たという――――11歳の少年。


 “巫女”は言う。

 『向こう』の世界の“勇者”を探す様にと。


 『悪意』に晒され続けて来た異世界の中で、たった一人自由に動き回る事が出来た人間の子供――――――彼は敵の中枢に、幼い頃より囚われ続けていた“対の勇者”であった。

 勇者は、その明るさで持って戸惑う“対の勇者”である異世界の少年と心を交わし、やがて協力して『悪意』に囚われ依り代とされた巫女の父親―――異世界の国王を助け出す事に成功する。




 これはそんな――――――そんな大きな出来事があった後の、とある夏の暑い日から始まる物語である――――――












「俺の扱いはこの程度か……」

冥王様、予告通りの3行退場でした。







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