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チートバスター

 見慣れた渋谷の町並。

 駅前を行き交う人たちは、なぜか剣や銃を持っていた。

 かく言う俺も、腰にビームソードをぶら下げている。まさしく某SF映画に出てくる何との騎士が持っているような物をだ。

 法治国家の日本で武器を持っていれば、銃刀法で捕まってしまう。だが今居る渋谷では捕まるどころか、警官すら存在していない。

 俺――ユウヤがいる渋谷は、現実世界ではない。

 仮想現実空間の中にある町。新型オンラインロールプレイングゲームのために、忠実に再現された町ということ。他にも新宿や秋葉原などが存在している。

「そろそろ仕事をしないとだけど、ライカの奴……また遅刻かよ」

 色々と訳があって、ゲームの中で仕事をしないといけない。どんな仕事というのは見ていれば判ると思うが、かなり面倒くさいものだ。

 それとライカと言うのは、俺のパートナーだ。かなりの廃人ゲーマーで頼りになる奴なんだが、時間にルーズだったりする。

 仕事は二人一組になってすることになっていて、できるだけ一緒に行動をするというのが規則の一つになっている。他にも規則は沢山あるけど、全てを覚えている奴なんて早々いないだろう。

「一応、連絡だけしてみるか」

 どうせソロ狩りでもして、時間を忘れてるだけなんだろうけど。

 連絡をするために、上着のポケットから携帯端末を取り出す。形状はスマートフォン型のタッチパネル式。操作方法もまったく同じだったりする。これは人によって形状を変えられるので、アーム端末やヘッドマウント型などがある。インターフェイスのカスタム性はかなり高いのが売りの一つであるけど。

 画面を操作してライカの短縮をだすと、そのまま電話をかける。

 数回呼び出し音がした後、気だるい感じの女性の声がしてきた。

「はいはい。ライカちゃんです。ただいま忙しいので、御用は――」

「おい! 俺だよ俺! ユウヤだ」

「……っち。で、なんかようか?」

「なんかようかじゃないだろ! 仕事だよ! 仕事!」

「……えええええ。ライカ、仕事に行きたくないぞ!」

 仕事という言葉を聴いた途端に、ライカの声が不機嫌になる。

 毎回毎回、ライカは仕事したくないとわがままを言ったりする。遅刻だけなら少しは大目に見れなくも無いが、仕事に行きたくないとかは言語道断である。俺だって、こんな仕事なんかしたくない。普通にプレイがしたいよ。

「そんなこと言わずに来てくれよ。ライカの言うこと聞いてやるからさ」

「ほ、本当か? その言葉に嘘偽りないか?」

 よし、釣れた。ライカとはそこそこ付き合いが長いので、奴の釣り方は簡単なものだ。まあ、その度にライカの言うことを聞いているんだがな。

「ちょっと一人では倒せない敵が居てさ、困ってたんだ。別にレアな装備や魔法が手に入るわけじゃないけど、面白い称号が手に入るんだよ!」

 不機嫌さは消えて、ライカの声は明るくなった。

 それとライカの倒したい敵の見当はついたけど、あれって二人で倒せるのか……。

 まあ倒せるかは後で考えて、とりあえず仕事を片付けないとな。

「仕事するなら座標を送るぞ。現地集合で良いよな?」

「それでいい。すぐ終わらせて、ボムニャを倒しに行くぞ!」

 やっぱりボムニャかよ……開発者が無双したいがために作った『ぼくがかんがえたさいきょうのもんすたー』それがボムニャ。倒し方はあることはあるが、それでも二人じゃ無理だろうな。せめて1PTは欲しいところだな。

 それも仕事を終えてからだ。携帯端末を軽快に操作して、ライカに座標をメールする。


◆ ◇ ◆


 渋谷の駅前からは、目的地の座標にはすぐについた。

 周りを見ると無駄に宿泊施設が多い。

「やっぱり、人が多く集まるからホテルが多いんだな」

「な、なにアホなこと言ってるんだよ!」

 お泊りと休憩とはゲームらしいな。

「てか、なんてとこで仕事させるんだ!」

 建物の形もゲームぽいし、ライカも来たことだし。

「ライカ、とりあえず休憩していこうか?」

「ふ、ふざけるな! ゲームといえ、誰かお前とラブホに入るか!」

 全力で拒否されてしまった。残念無念。

「仕事に来たんだろ! しっかりしろユウ」

 後頭部を思いっきり、巨大なアックスで殴られた。いくらゲームでも、死なない程度に痛みを感じる。ゴア表現もちゃんとしていて、俺の頭はパックリ割れていることだろう。せめてゲームなんだからパーティアッタクぐらい無くして欲しい。

 すぐさまライカは蘇生アイテムを使う。このゲームはHPが尽きなければ死ぬことは無いんだけど、ライカの一撃で俺のライフはゼロにされていた。

「ライカ、よくも殺してくれたな! 凄く痛かったぞ!」

「馬鹿は死ななければ、直らないだろ?」

 つっこみのために殺されるとは……。前衛職のライカは魔法は使えない。だから蘇生はアイテムでしてくれたんだが、このアイテムは高い。どれぐらい高いかと言うと、RMTで一個数万で取引されるほどだ。自力で手に入れるためには、途方も無いほどの時間を費やさないといけない。

 つっこみのために使いとは、ライカ恐ろしい子。

「てか、違法野郎はどこにいるんだ?」

「違法野郎とは、随分な言われようですね」

 ライカに答えるように、ラブホテルの中から声がしてきた。

 とっさに俺とライカは武器を構える。

「せっかくホテルでハーレムを堪能してたのに、外でイチャイチャされたら悔しいじゃないですか。死んでお詫びをしてください。GMの下僕さん」

 俺たちを威嚇しながら、ラブホテルから複数の人が出てくる。それを見た瞬間、ライカは声にならない声をあげていた。

 出てきたのは男と数人の女。ライカが驚いたのは、男の格好を見たからだ。

 その男はブーメランパンツ一丁。それも無駄にモッコリしている。

 周りの女たちは、男を恍惚の目で見ている。まるで洗脳でもされているかのようだ。

「だ、誰かGMの下僕だ! ライカはお前みたいな違法者を駆逐するために、一生懸命働いてるんだ! 好きなゲームの時間を削ってまで……お前みたいな変態を、ボコボコのギッタンギッタンにしてるんだ!」

「たしかに俺たちは、GMに頼まれて仕事をしています」

 頭に血が上っているライカの代わりに、俺が変態に説明をする。

「あなたは違法な力を手に入れて、このゲームで遊んでいます。他の人の迷惑にならない程度なら目も瞑れますが、見る限り他プレイヤーに危害が出ています。ですから、俺たち『チートバスター』があなたを裁くことにします」

 俺たちの仕事は、違法にゲームデータを改ざんしてプレイしているち『チート者』を見つけて、ゲーム上から駆除するとういこと。

 そのために特殊アビリティをGMから貰っている。いくら廃人超絶プレイヤーでも、チートされたらお手上げ状態だ。そのため対抗できるチート能力を、一つだけ開発者から直々に付加されているのだ。

「ふん。神から頂いたチート能力を甘く見ないでください。この光速のオリオンが返り討ちにしてくれますよ」

「上等だ! この白き悪魔と呼ばれたライカが、フルボッコにしてやんよ」

 身長よりも大きいアックスをライカは振り回しながら、光速の変態に啖呵を切る。

 この状態になったライカを止めるすべは無い。

「白き悪魔? その名前は聞いたことあるが、たしか女性プレイヤーだったはずだが……お前はどう見ても男じゃないのか?」

 変態はライカの一番触れてはいけないとこに、触れてしまった。

 たしかに身長はでかいし、胸もないし、がさつだが、ライカはれっきとした女性プレイヤーの一人だ。俺も最初男と間違えしまって、百回キルされたのも今やいい思い出の一つになっている。

「ライカにそれを言って、生きていたものは居ない……とりあえず、千回ほど死んでみようか?」

「私を倒せるものなら、たおして――ぐへ」

 それは嵐だった。ライカのアックスが変態を切り刻んでいく。

 深夜アニメとかなら黒い帯が入ってしまうほどの、グロシーンが俺の目の前で繰り広げられている。よくこんなゲームが日本で許されたと思うぞ。

 いくらプレイヤーには害が無いとはいえ、アレだけやられれば、気絶は免れないだろうな。下手すれば失禁とかもありえるぞ。

「でやでやでやでや! 死ね死ね死ね死ね! 塵芥に帰りやがれ!」

 変態は見事なまでに、ひき肉状態になっている。こんなん状態でも、蘇生させれば元に戻ってしまうんだから、ゲームの世界って便利だよ。まあ、ここには変態を蘇生させる回復薬はいないので復活できない。これでGMに報告すれば、仕事は終わりだな。

「ざまあみろ! ライカをど貧乳の男女とか言うから悪いんだ!」

 いや、変態は最初から女とは思ってなかったぞ。と、口が裂けても言えない。

「これは申し訳ない。でも、本当に女性なんですか?」

 ひき肉になったはずの変態の声。それと同時に、ライカの胸を覆っている部分がはじけ飛んで、まな板上の胸が露になる。

「きゃああああああああああああ!」

 すばやく胸を隠して、うずくまるライカ。俺はそれをかばうように、獲物を構える。

 自動蘇生。よくあるチートの一つ。変態は複数のチート能力を持っているか。

「こんなに細かくしてくれて、でも光速のオリオンには効きませんよ。私を倒すなら微塵切りではなく、言葉通り塵芥にしないとね」

 いつの間にか元の姿に戻った変態が立っている。

 格好もさっきと同じく、ブーメランパンツ一丁だけ。武器らしい武器は持っていない。

「く、くそ……ライカの胸を見るとは……高くつくぞ!」

 胸を隠しながら俺の隣にライカが立つ。顔が耳まで真っ赤になっている。

「ライカ、ここは下がれ。俺一人でなんとかなる」

「で、でも……わ、わかった。ユウに任せる」

 以外にも素直に引き下がる。いつものライカなら、鬼の形相で食い下がってきて手におえない状況になるんだが。まあ、いいか。

「ほう。白い悪魔さんじゃなく、そちらの雑魚っちいのがお相手ですか。相手がいくら弱くても、私は手加減はしませんよ。光速戦闘で叩き潰しますよ」

 光速戦闘。良く分からんがそれが変態の本当の能力なんだろう。

 それがどんな能力だろうと、俺には通用しない。

「五十パーセント。それだけの光速で十分でしょ。では、さようなら」

「言っている事が、意味ふ――」

「あ、危ない! ユウ避けろ!」

 ライカの声でとっさに避ける。同時に後ろの壁が轟音と共に崩れていく。

「良く避けましたね。次こそは、さようなら」

 俺は右手を相手にかざす。そして俺の能力を発動させる。

「特殊アビリティ発動。光速のオリオンのチート能力強制解除。お前のチートは俺が打ち砕いてやった。さようならはお前の方だったな!」

 ノロノロと歩いてくる変態に、俺はビームソードを振り下ろす。

 見事変態は真っ二つになり、地面に倒れこむ。

「ちょ! まだ能力半分しか使って――ぐぶ」

「だまれ!」

 止めを刺したのライカだった。アックスで変態の頭をぐしゃりと潰したのだ。

 今度こそ仕事は終わった。

「ようし、女の子たちはGMに任せて退散しようか。疲れたけど、約束だしこれからライカの言うことを聞いてやるぜ」

「その前にユウに聞きたいことがある。嘘ついちゃ嫌だよ」

「聞きたいこと?」

「もしかしてライカの妖艶な胸を見たりした?」

 ライカの質問に俺は息を呑む。返答次第では死ぬからだ。

「別に見たんなら見たで良いんだよ。別に怒らないから」

 その言葉に俺は気を許してしまった。

「ああ。妖艶か知らないけど、ライカの胸を見たぞ」

 なんで、こんな間違いを犯してしまったんだろう。

 俺の返事に、ライカの全身が朱色に染まっていく。そして手に持っているアックスを構えて、俺に向かって振りかざしてくる。

「ユウのエッチぃぃぃぃぃぃ! しねぇぇぇぇぇぇ!」

 この後、俺は地獄を百回以上見る破目になった。

勢いで書いてしまったので、読み切りみたいな感じです。

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