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或いは、御伽噺  作者: 玉響
第一章:夢現
7/7

1-3

 



「―――で、なんで居なくなるかなぁ」



華奈が苦笑したら、隣にいる麻音は遠い目をし、呟くように言った。



「……谷ちゃん、方向音痴だったね」



目的地に着いた二人の側に、美桜の姿は無い。


今目の前にある温室――彼女達の中では決定事項である――へ行く間に、少しばかり木々の間を通った。

その時、先行く麻音と美桜は横に並んでいたため、別々の道を行った。

別々の道とは言っても、木を左右に避けただけなのだが。

後ろに付いていた華奈は、荷物について話をしていた相手の麻音の後ろを行った。


ところで、何故荷物の話になったのかといえば、彼女達三人ともが何も持ってはいなかったからである。

ただ一つ、携帯電話を除いて。

何故携帯だけが手元に残ったのか、その事を中心に麻音と華奈は話していた。


そして、問題の美桜はといえば、話し始めに麻音がゴミを放置してきたかと心配した時、「そこか!」と裏手付きで突っ込んだきりだった。



「谷ちゃんを真ん中に入れるべきだったよね」

「二人が話して一人が聞いているだけなのもいけなかったね」



組み合わせは時によって違うが、華奈の言う様な図式になる事が彼女達にはよくあった。

それでも、今この状況でしてはいけなかったのだ。


気付いても、遅いけれど。



「手分けして探すのは…」

「無理」



真顔で即答する麻音に、そうだろうなぁと華奈は苦笑する。

それから、ちらりとまた周囲へと視線を走らせたところで、麻音に呼ばれた。



「あのさ、華奈ちゃん」

「ん?」

「谷ちゃん……大丈夫かな?」



そう言って俯いてしまった麻音の肩を、華奈は優しく抱いた。



「大丈夫だよ」



華奈が応えても麻音は俯いたままでいるので、肩を抱く手を移し、頭を撫でた。



「平気でいるとは言わない」



美桜は自分の心に真っ直ぐだ。

けれど、不安に思う気持ちや怖がる気持ちを押し込める時がある。



「麻音が谷ちゃんを心配しているのと同じように、心配してるよ」



きっと一人でいる今、そんなふうにして心を強くあろうとしているに違いない。



「でも、じゃあなんで、平気じゃないのに『大丈夫』なの?」

「それはね」



こんな状況なのに、華奈は緩やかに笑った。

それが不快に感じず、不思議だと思うだけに留まるのは、今までの付き合いがあるからだろうか。



言葉を続けようと華奈が口を開いた、その時。





「――!――!」





大声が聞こえ、華奈は顔から笑みを消して、声が聞こえてきた方へと顔を向けた。



「声、男の人だったよね?華奈ちゃん、聞き取れ――」

「麻音」



麻音は華奈を見たけれど、華奈は声が聞こえた方向へと顔を向けたままだった。



「麻音」



華奈はもう一度麻音を呼んだ。



「あたし、二人に言ってない事がある」



風に揺れて擦れる、葉の音がする。



―――華奈ちゃん。



華奈は麻音へと顔を向けない。



「二人に、謝らなきゃいけない」



葉の擦れる音が、耳に付く。



―――ねぇ、華奈ちゃん。



華奈は、まだ麻音を見ない。



「麻音」



葉の擦れる音が、徐々に大きくなっている気がする。



―――なんで、こっち見ないの?



華奈が顔を向ける動きを、やけにゆっくりと感じる。



「麻音」



葉の擦れる音が、止まった。



―――ああ。



華奈の顔がやっとこちらへ向いた、のに。



―――そんな悲しそうに笑わないで。





耳元で、葉の擦れる音。





「ごめんね」





麻音は強い力で後ろへと引きずり込まれた。



 


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