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帰り仕度を済ませ、下りのエレベーターを待つ合間、おもむろに華奈が携帯を取り出す。
「序章ちょっとだけ携帯で書いたから、一応送るね」
「おー!ばっちこい!」
「うわー、ドキドキする!」
美桜と麻音は素早く携帯を取り出した。
二人がうずうずとしているのが見て取れ、華奈は思わずふっと吹き出す。
「そんな期待されてもなぁ」
「いやいやするでしょ!そんで華奈は早く飲み終わんないと麻音が二度とゴミ捨てないって!」
「そうだよするよ!それから谷ちゃん勝手なこと言わないでよ!ちゃんと捨てますからね」
急上昇したなぁ、と華奈が思ったところで、ポーンとエレベーターの到着音がした。
扉が開き、乗り込む際に華奈が美桜に「持ってて」とパックを手渡す。
受け取った美桜は、飲みかけにしては軽すぎるパックを振ってみた。
「ってこれカラじゃん。潰しておこうか?」
「あらまぁ、お願いします」
「……華奈ちゃん、まさか」
わざとなんじゃ。
続くはずだった麻音の言葉は、華奈に満面の笑みを向けられ、飲み込まれた。
「あ、あー…華奈ちゃん?」
なので、飲み込まれた言葉の代わりに、聞こうと思ったことへ頭を切り換えてみる。
遠い目をする麻音に不思議そうな顔で、潰したパックを渡す美桜に複雑な思いを抱くのは、きっと気のせい。
「今更で悪いんだけど、ワンスなんとかの訳って何て言うの?」
麻音の問いに、華奈は一瞬きょとんとしてみせた後、心底楽しそうに笑う。
ポーンと音がして、エレベーターの扉が開く。
三人は手に携帯を持ったまま、外へ向かって一歩踏み出して。
そして、華奈はゆっくりと口を開き、言った。
「Once upon a time――」
まるで、秘め事を囁くように。
「―――或いは、昔々」