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「小説を書こうと思う」
椅子に座るなり、大川華奈はそう言った。
「なんで小説?」
華奈の言葉に、思わずストローから口を離して聞き返したのは、谷本美桜だ。
その隣に座る宮野麻音は、パックの口を開こうとしていた手を止めている。
彼女達が出会った頃から成人を過ぎた今も利用する、市の施設にある小さな憩いの場。
ここに集まる時は、近くのコンビニで小さなパックの飲み物を買うのがお決まりになっている。
美桜は二人よりも一足先に飲み始めたのだが、直後に華奈の言葉である。
そして、飲み始めたのも忘れて聞き返した美桜は、ごほっと少しむせた。
「どっ、ちかティッシュ、持って、ない?」
「何やってるの、谷ちゃん」
麻音はそう言いながらも、美桜――谷本なので谷ちゃんだ――にティッシュを手渡した。
受け取った美桜は口元にティッシュをあて、落ち着いたら麻音へと笑いかけた。
「ありがとー。麻音は手早いうえに優しい」
「はいはい、どういたしまして」
麻音はさらりと返事をしながら少し笑った。
そして、そこに少し呆れた色を混ぜ、二人より遅れてパックを開けている華奈へと向く。
「相変わらずめんどくさがりだよね、華奈ちゃんは」
「ホントだよ!今少しも動かなかったっしょ!」
同意する美桜は、文句を言いつつ顔は笑っている。
言われた本人である華奈は少し首を傾げたあと、さも気が付いたかのような顔をした。
「ん?ああ、麻音対応早いから出遅れるんだよ」
「いやいや、絶対面倒だからっしょ」
「まぁ、それもあるけど。十割くらい」
華奈がちらりと笑って肯定すれば、美桜と麻音が全部じゃん!とケラケラ笑った。
「もう、華奈ちゃんってば……それで、話を戻すけど、なんで小説なの?」
麻音が華奈の方へ身を乗り出せば、美桜も同じく身を乗り出す。
「そうそう。だって『夜遅くにごめん。突然だけど小説書こうと思う』って。本当に突然だし!」
「しかも真夜中だったからね。本当に夜遅いよって思った!」
「思った思った!」
「今回は今までで一番突拍子なかったよね!」
「そう!だから、ついに華奈の頭がオカシクなったかと思った!」
「―――二人とも」
腹を抱えて笑う二人に、華奈が満面の笑みを浮かべて言った。
「殴るぞ」
「すみませんでした」
「ごめんなさい」