一
すう、奏は息を吸い込んだ。気持ち良い味。やっぱり、夏というのはこんなものでなくては。日光による暑さと、それを掻き消すように自分に吹き付ける快い風。奏は息を、吐ききった。夏も盛りである。
*
奏は屋上で煙草を吸う。奏は高校一年生。年齢的には、煙草なんて吸ってはいけないものだ。でも、奏は吸う。なぜか?と聞かれたら如何にも簡潔な理由をお見舞いしたい。美味しいからだ。それ以外にあるのだろうか?この妙なものに奏は心を惹かれた。先生にバレる可能性も充分あるが、別にいい、と思っていた。
がちゃん、屋上の扉が開かれた音である。奏は扉を開けきって、また今日も深呼吸をする。さて、煙草をポケットから出してーと思った時に、ある人物がいることに気付いた。それは誰か、一瞬わからなかったが、確か先生だったはずだ。それが奇妙なる「先生」との出会いだった。
*
「先生」の名前は忘れた。なんという名前だったっけ。先生は「この時間生徒は来ないはずじゃないのか?」とつぶやいた。昼休みである。まだ依然として快い風が奏でに吹きつけた。その奇妙な先生は金属を舐めていた。これだけ聞くと真に奇妙な表現だと思われるかもしれないが、実際に先生は金属を舐めていた。それがなんの金属か、奏は考える。その金属は少し大きい釘だった。釘、だから鉄だろう。
「黙っててくれるか?」
先生はそう持ちかけてきた。「変な噂たっても嫌だし、こんなこと、知られたくないしな」自分はすんなり頷いて、
「その代わり、このことも黙っていてください」
と、ポケットからタバコの箱を取り出した。先生はハハ、と笑って、舐めていた釘を吐き出した。
「ほら、青が綺麗だぜ。来てみろよ」
先生は奏を、屋上の淵に招いた。奏は先生の方へ向かうと、屋上の淵のような部分に腰掛けた。屋上の周りはしっかりと柵で囲ってある。確かに、先生が言った通り空の青は綺麗だった。どこまでも澄み渡っていた。
「なんで先生は金属を舐めるんですか?」
「お前が煙草を舐めるのと同じようなもんだよ」
先生は空を見ながらそう呟いた。口髭が、先生に妙な貫禄を出している。
「なんだろうな、これだけ聞くと奇妙な表現かもしれないが、まずいのが美味いんだよ」
先生はそう言った。
「お前は絶対に舐めるなよ?こんな俺みたいに堕ちてしまう。」
先生はそう言って、釘をまた口に入れる。奏は痛くはなさそうだ、と思う。太いからだ。奏もまた、ポケットから煙草を取り出し、ライターで付けて吹かす。美味い。
「お前はどうして煙草をやったんだ?」
先生が奏でにそう聞く。
「押すな、っていうボタンは押したくなるもんでしょ?」
奏がそう返すと、先生はハハ、と笑った。確かにな、と先生は言う。自分の目から見ても、やはり先生は特異的だ。
「お前は毎日、今まで吸いにきてたのか?」
「えぇ、」
「そっか、ならまた明日」
先生はそう言い残すと、颯爽と屋上の扉まで行き、屋上を去って行った…




