一
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荻城下。
懐手にして飄々と町をぶらつきながら、高杉はにやりとその小柄な人影をみつけて笑んでいた。
「なにをしてる、この小僧」
楽しげに揶揄うように、何処か唄うように呼び掛ける高杉に、驚いて伊藤利助は顔を向けていた。
「…なにを小僧と、―――高杉様」
頭を低くして、荻城下町外れに街道の松が続くその山沿いに、あわてて身を伏せるように挨拶する小僧、――伊藤利助に笑んで返す。
「別に平伏なんてしないでよかろう。利助、塾では同じ塾生であろう」
「なにをおっしゃいますか、――――その、」
あわてながら頭をさげて、地面に高杉の足先をみながら、利助が目を泳がせて、緊張しているのをみて。
薄く微笑んで、高杉が促す。
すい、といつのまにか抜きしめしあげた、木刀の先を山の向こうへと無造作に差し向けて。
「つきあえ、…―――利助。打ち込みがしたい」
「…―――――」
言葉につまり、顔をあげた利助の前に、既に高杉が痩せたその身を軽々と運んでいる。
―――打ち込み、…――――。
町外れへと向けて、無造作に歩く高杉の背。
背の低い利助は、それをみて覚悟を決めたようにして、くちを結んで。黙ったまま、高杉の背を追うように歩き出していた。
高杉晋作――――ときに自ら幾つもの名を名乗り、いまは確か、狂と呼べと、周囲に云っていたと漏れきいている―――家は長州藩の由緒正しい武家の跡継ぎ、学問も幼い頃より藩の学問所である明倫館にて学ぶ俊才であり。
何より、いまはその学問よりも、尚、激甚であるという剣の使い手として、荻城下では有名である。
その身に、柳生新陰流の奥義を刻む為、激しい修行を涼しい顔をしてこなし、いずれ免許皆伝を授けられるであろうといわれている。
伊藤利助は、その高杉に打ち込みの相手を名指されて、逆らいようもなく後を追っている。
高杉は武家として由緒正しい家柄のいずれは城にて、藩主毛利家に直接拝顔することも許される身分の出。
対して利助は、伊藤という名字はついてはいるが、もとは百姓の身分であり、さらにその父が幾つかの家の養子としてなる内に、伊藤の姓を得たものである。
本来、こうして高杉と直接くちを利くのさえ、おそろしい。
それ故に、喩えどんな無茶を振られても、利助は逆らうことなどくちにさえできようはずはなかった。
高杉が先に塾というのは、私塾として長州では知らないものとてない、長州藩主毛利公におぼえめでたい天才が主催する塾に、端の身として、友人を頼り、その塾の外で講義をきく機会を得たことによるのであろうが。
―――高杉様の御目に掛るようなことは、せなんだはずだが。
脅えを隠すように震えながら、無造作に渡る背をみる。
何が同じ塾生などであるものか、―――…。
思いながら、ふと歩く道が随分と外れにきていることに気付いて凝視する。
―――これは、――――。
いつのまにか。
水の匂いがして、砂の白いさまが足許を覆い始める。
「―――――…刑場、」
町を外れ、幾分と歩くと、其処には法を外れたもの、或いは秩序を乱したもの、或いはと。
幾つもの事由で、刑罰を受け、藩命により処刑される者達が、刑を受け、或いは首を落とされる刑場がある。
どうやら、その刑場へと向けて、無造作に足を運ぶ高杉の背を、利助は言葉もなく見つめ、引きづられるようにして足を運んでいる。




