第29話_回復魔法の威力
昼食を作る前の時間帯に、手作りの野菜を作りたいと思いながら、部屋の中から庭を眺めていた。庭は充分な広さがあって畑を作るのに申し分ないけれど、私には畑作りの知識はなかったので誰かに聞く必要がある。
「何か困りごとがあるのですか。むずかしい顔をしていました」
いつの間にかプレシャスが、向かい側から横まで移動していた。
「料理の素材で野菜がほしいから、畑を作りたいと思ったのよ。でも農作業は素人だから、どのように野菜を育てていけばよいのか分からない」
「わたしもくわしく知りませんので、街の人間に聞いてみてはどうでしょうか」
プレシャスが提案してくれて、たしかにその通りだと感じた。何でも私自身で解決しようと思うから限度がくるのであって、これからはいろいろな人に聞きながらこの世界を楽しんでいきたい。
「今日の午後はハンターギルドで、お金の価値と回復魔法について少し聞くつもりだから、その前に買い物しながら聞いてみる」
「回復魔法を作るのですか」
「最初は身近な怪我や病気を治したい。本当はハンターギルドで聞いてから作るのが常識的な魔法になると思うけれど、自由な発想で宝石魔法は作りたい。だからこのあとに回復魔法を考えるつもりでいる」
もし常識からかけ離れる回復魔法になったら、その魔法を使わなければ誰にも知られない。それでも最低限の神聖魔法について、プレシャスに聞くのも手だと思っている。魔法を作る枠は充分にあるから、宝石魔法をいろいろと試したかった。
「回復魔法を覚えれば旅や魔物討伐が楽になります。もちろん無茶はいけません」
「遠出は魔物に慣れてからだけれど、この世界を堪能していきたい」
トリプルボアーを思い出した。下位魔物だけれど私は脅威に感じて、余裕で倒せる実力がないと旅は無理そう。
「時間はありますので、ゆっくりで平気です。わたしは回復魔法に使う宝石が気になりますが、どの宝石を使うのですか」
攻撃魔法と防御魔法を作った段階で、回復魔法の宝石は事前に決めていた。
「4大宝石で揃えたいから、ルビーとサファイアで作ったから次はエメラルドよ。緑色でいやし効果もありそうに思えるからちょうどよさそう」
私自身の宝石に対するイメージが魔法の効果に影響すると思うので、回復魔法にエメラルドは適していると思う。
「4大宝石ということは、もうひとつの宝石は何ですか」
「ダイヤモンドよ。最強の硬度で光の屈折率も高いから、それに見合った魔法にしたい。ダイヤモンドもすてきだけれど、今日はエメラルドを見せるね」
宝石魔図鑑を出現させて、該当の頁をプレシャスに見せた。
「吸い込まれそうな濃い緑色です」
プレシャスの感想だった。たしかにすてきな宝石は、宝石の中へ引き込まれるような感覚になるときがある。
「美しい緑色はエメラルドグリーンとも呼ばれていて、エメラルドカットという特徴的なカットが存在するのよ。原石は6角柱で表面に緑色が集まっていて、緑色を効率よく残すために生まれたカットね。鉱物の種類はアクアマリンと同じベリルよ」
アクアマリンはまだ見せていない宝石だから、機会があるときにプレシャスと一緒に眺めて楽しみたい。
「今までの宝石と形状が異なっていますが、この形がエメラルドカットですか」
宝石魔図鑑に立体映像のエメラルドが浮かんでいる。
「その通りよ。例えばダイヤモンドに同じカットで加工してもエメラルドカットと呼ばれるから、面白い呼び名でしょ」
「ほかにもエメラルドに特徴はあるのでしょうか」
プレシャスがさらに近寄ってきたから、エメラルドにも興味がでたのね。これからたくさんの宝石魔法を作るから、ほかの宝石も楽しんでもらえればうれしい。
「エメラルドを語る上で外せないのは傷と内包物よ。内包物はインクルージョンとも呼ばれていて、産地によって色味と内包物に特徴があるの。立体映像のルースは高品質で中身が透き通っているけれど、多くのルースはここまできれいではないのよ」
「きれいな原石を探して宝石へカットしているのですか」
「滅多にきれいな原石はないから普通はオイル処理をしているのよ。透明な液体を染み込ませると、中身の傷や内包物が見えにくくなってきれいに見える」
一般的なエメラルドはたいていオイル処理がされていて、何も処理しない無処理は希少性が高くて高価となる。
「アイ様がいた世界では、宝石に工夫を凝らしているのですね。まだ宝石に興味はありますが、魔法にも関心があります」
宝石魔法は自由度が大きいから、参考に神聖魔法の内容を確認したかった。
「神聖魔法はどの程度まで回復できるの? 宝石魔法で作った回復の威力が、異常に高いとおどろかれるから、神聖魔法程度の回復量にしたい」
「一人前と言われる神官では、軽い怪我や軽い病気と状態異常が治せます。各神殿にひとりいるかどうかの大神官では、大きな怪我や少し重い病気まで治せます」
状態異常は一人前になれば治せるのね。
「魔物退治で大怪我しなければ、神官がいれば平気そう。リリスールさんは神聖魔法を使えるから、ハンターの仕事内容を考えると神官相当かもしれない。聖女様は特別なのよね」
この前、街で見かけた大聖女様を思い出した。




