第26話_魔物は怖いけれど
準備を整えて家を出たけれど、まだ日は高いから夕方には家へ戻れそう。
「魔物で防御魔法の能力を確認したいけれど、手頃な魔物はいるかな?」
「意図的に魔物を探し出しますか、それとも歩きながら見つけますか。意図的なら魔物の気配で強さもある程度わかります」
「はやめに能力を知っておきたいから、手頃な強さの魔物を探してほしい」
魔物退治自体になれていないから、急に強い魔物で試すのはむずかしいと思う。手頃な魔物をプレシャスが見つけてくれれば、魔物退治にもなれるからちょうどよさそうに思えた。
「歩きながら気配で探しますので、わたしのあとについて来てください」
「お願いね」
プレシャスの横で一緒に歩きながら、森の中を移動する。途中で兎を見かけたので私が魔法を放ったけれど、威力調整が上手くいかずに丸焦げにしてしまった。狩りになれるまでは、食材はプレシャスに倒してもらうのがよさそう。
食材も少しだけ集め終わったころに、プレシャスが足を止める。
「アイ様にとっては少し強い魔物とは思いますが、魔物の気配を感じ取りました。アイ様、どうしますか」
「強いみたいだけれど、今後も森で出会う可能性があるのなら、この場で魔法の威力を確認しておく。魔法を準備してから近づくね。星剣ルビー、矢車サファイア」
宝石魔図鑑と基本ルースが出現して、剣と盾を手に取ると準備ができた。これなら急に襲われても大丈夫と思って、プレシャスに視線を移した。
「うつくしい魔法です。戦闘の準備は平気そうなので、魔物に近づきます」
プレシャスを先頭に歩き出したので、私もなるべく足音を立てないように注意深く歩いた。プレシャスの動きが止まって私に視線を向ける。
「少し先にトリプルボアーが1匹います。リーフウルフよりも大型で強いので、倒す際には気をつけてください」
視線を凝らして奥を覗くと、木々の間に魔物を見つけた。牛ほどの大きさがあって見た目だけでも強そうに思えた。
「魔物が想定よりも大きいけれど、防御魔法を試すにはよさそう。せっかくだから攻撃魔法もひとつだけ試したい」
「何を確認したいのですか」
プレシャスが聞いてくる。
「命中率よ。今までの攻撃魔法は全て魔物に当たったけれど、普通に考えれば簡単に当たらないと思う。でも宝石魔法は想像すれば反映されるから、トリプルボアーの反対側を向いて、トリプルボアーの側面に当てる想像で呪文を唱えてみたい」
「通常の攻撃魔法なら命中しません」
プレシャスの言うとおり、私も命中しないと思う。でも宝石魔法だから命中するのかを確かめたかった。
「これで命中すれば宝石魔法特有の能力になるから、試してみたい。攻撃魔法は反対側を向いて唱えて、防御魔法は半球形状の壁を試してみる。近づいてきたら盾の能力を試すけれど、私が倒れて危ない場合は助けてね」
「分かりました。アイ様、下位魔物ですが気をつけてください。わたしはいつでも対応できるようにします」
トリプルボアーを背後にして息を整えた。剣と盾を維持しながら魔法の威力を弱く想像して、同時にトリプルボアーの側面へ当たるように念じた。
「紅球ルビー」
基本ルースから飛び出した真っ赤な塊が急に向きを変えた。体を回転させて真っ赤な塊を追っていくと、トリプルボアーに向かって飛んで、みごとにトリプルボアーの側面へ当たった。
「命中させる場所も、想像で対応できた」
うれしくなって声が弾んだ。
「アイ様、注意してください。トリプルボアーがこちらに向かってきます」
プレシャスは冷静で、私の気持ちを引き締めてくれた。魔法の威力を弱くしていたので、トリプルボアーにとってはかすり傷程度かもしれない。トリプルボアーが私たちに向かって突進してくる。
「矢車サファイア」
半球形状の薄い壁が周囲を覆って、迎え撃つ準備ができた。
「魔法の威力は宝石魔図鑑と同じですか」
トリプルボアー程度なら驚異と感じていないのか、普段と変わらない雰囲気でプレシャスが聞いてくる。
「最初は宝石魔図鑑通りで確認したいから、何も考えずに唱えたよ。防御力が分かったら次は盾で確認するつもり」
トリプルボアーが近づいた。間近で見るとトリプルボアーの大きさに足がすくんだけれど、危険はないと私自身に言い聞かせる。トリプルボアーが薄い壁に体当たりしたけれど、薄い壁は壊れなかった。
「クリア」
薄い壁を消すと、トリプルボアーが私に向かってきた。盾を前に構えて迎え撃つけれど、近づくトリプルボアーは迫力がある。盾の影に隠れるようにして対応した。トリプルボアーが盾に体当たりしたけれど、わずかな衝撃しかなかった。
宝石魔図鑑に書かれている威力でも充分とわかった。
あとはトリプルボアーを倒すだけとなった。間近にみえるトリプルボアーの顔は大きな牙がふたつに、額には角が1本生えている。刺されたらひとたまりもないという恐怖心が沸いて、手足が震えだした。
「アイ様、大丈夫ですか」
緊迫した声でプレシャスが聞いてくる。プレシャスに視線を向けると、いつでもトリプルボアーを倒せる準備ができているみたい。でもここまで戦ったのだから、最後も私自身で倒したい。
「ちょっと驚いただけで、私なら平気よ」
私にはイロハ様とアイ様がついている。プレシャスも見守ってくれているから、何も心配はない。私自身に言い聞かせて、意識的に手足を動かす。
トリプルボアーの胴体に右手の剣を振りかざす。トリプルボアーが悲鳴を上げて足を止める。その瞬間を見逃さずに、何度も胴体へ剣を振りかざした。最後には泡が弾けるようにトリプルボアーが消滅した。
「アイ様、みごとです。慣れれば、たいていの魔物とも対峙できると思います」
「リーフウルフと違って怖かったけれど、なんとか倒せてよかった。魔物退治は慣れが必要と分かって、ハンターが存在する理由もわかった」
「トリプルボアーの受け止めと攻撃は見事です。怪我はなかったですか」
思った以上に動けたみたいで、プレシャスの声は喜んでいるようだった。
「盾が衝撃を吸収してくれたみたいで、ほとんど衝撃を感じなかったよ」
「アイ様の宝石魔法は、アイ様と相性がよさそうです」
「本物のアイ様に感謝している」
トリプルボアーが消滅した場所に、黄色の魔石が落ちていた。リーフウルフが落とした魔石と同じくらいの大きさだった。
「今回は黄色の魔石だけれど、何種類か色が存在するの?」
魔石を拾いながらプレシャスへ聞いた。
「基本は無色ですが、たまに強い魔物からは色つきがでます」
「魔石は売れると聞いたけれど、魔石についてもっと詳しく知りたい」
今後ハンターギルドで仕事する上でも、知っておいて損はない。
「大きさと色で価値が異なって、大きさは3種類あります。今回が1番小さい小粒で中粒と大粒があります。色は無色か色つきで、価値は大きくて色つきが高いです。ただ大粒は上位魔物からのみで、誰も見たことはないでしょう」
「大粒は出回らないのなら流通しているのは4種類ね。販売価格はハンターギルドで聞いてみる。受付のマイリンさんなら、魔石とお金の対価を教えてくれると思う」
「わたしも知識として少し知っていますが、この街の人間に聞くほうが確かです」
みんなから常識知らずと言われないように、少しずつでもこの世界の知識を増やしていきたい。
「魔法の確認も終わって食材も少し手に入ったから、暗くなる前に家へ戻るね」
プレシャスと一緒に森をあとにした。




