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第14話_力強いルビー魔法

 宝石魔図鑑があればイロハ様の世界を楽しめると分かってきて、魔法以外に宝石も堪能できるのがうれしかった。今日は午後にハンターギルドへ行く予定だけれど、今は使い魔のプレシャスと一緒に家のリビングにいる。


「魔物退治には攻撃魔法が欠かせないよね」


 この世界を楽しむために旅へ出るには、魔物を倒せる力があると便利なはず。ハンターの仕事のひとつとして魔物退治があって、魔物を倒せる手段が必要となる。


「攻撃魔法も必要ですが、防御魔法はどうしますか。アイ様よりも大きい魔物はたくさんいます」


 プレシャスが心配してくれた。元の私は成人女性だったけれど、今は元の世界で考えると中学生くらいの少女にみえる影響かもしれない。


「とうぜん防御魔法も作りたいけれど、一度に両方の魔法をおぼえるのは混乱するかもしれない。遠隔用と接近用の攻撃魔法をおぼえて、接近用の攻撃魔法なら防御面にも使えると思うのよ」


 宝石魔法作りには少しだけなれてきたけれど、実践で異なる種類の魔法を使い分けるのには、まだまだ時間がかかりそうだった。


「接近用の攻撃魔法がその場に留まるような魔法なら、街周辺の魔物くらいは平気だと思います。でも無理だけはしないでください」


「徐々に行動範囲を広げるつもりで危険は回避するようにするね。攻撃魔法だけれど最初は宝石選びからよね。魔法にも興味があるけれど、宝石を眺められる時間はずっと続いてほしいくらいのひとときよ」


 宝石魔図鑑を念じて呼び出してから、おもむろに開いて宝石を眺めた。誰でも聞いたことのなる有名な宝石から聞き慣れない宝石まであった。図鑑としてずっと眺めていたいけれど、今は魔法を作るのが優先だから攻撃魔法にあう宝石を考えた。


「攻撃魔法には威力が必要と思うのよ。迫力があって強そうなイメージは、個人的にはルビーがぴったりと思っている」


 宝石魔図鑑からルビーの頁を開くと、プレシャスが覗き込んできた。


「この世界にも同じ宝石がありますが、宝石魔図鑑の赤色はきれいな色合いです。たぶん名称は異なると思いますが、アイ様には同じに聞けると思うので気にしなくて平気です。ところでルビーを選んだ理由を知りたいです」


 名称は自動変換されるみたいだけれど、イロハ様の世界で呼ばれている名前も知りたいと思った。でもプレシャスに聞いてもルビーとしか聞こえなかったので、ルビーを選んだ理由について答えた。


「宝石の硬さと柔らかさを示す指標にモース硬度というのがあって、ルビーはダイヤモンドの次にこの硬度が高いのよ。ダイヤモンドを攻撃魔法にしてもよかったけれどダイヤモンドは衝撃に弱いから、ルビーのほうが扱いやすいと思ったのが理由ね」


「頑丈な宝石を選んだわけですね。ルビーは神秘的な赤色できれいです」


 プレシャスが納得したような表情を見せた。猫みたいな雰囲気だから判断がむずかしいけれど、最初にくらべて少しだけプレシャスの気持ちが分かるように思えた。


「産地によって色合いが異なって、希少価値が高い色はピジョンブラッドといわれるルビーがあるのよ。大粒で無処理のピジョンブラッドなら、庶民には手が届かない高額な宝石として取り引きされている」

「無処理があるのなら、その逆もあるのですか」


 プレシャスが宝石に興味を示してうれしい。宝石を一緒に語りあえるのも、私としてはこれからの生活を豊かにするひとつでもあった。


「採掘された状態の色合いをそのまま使用したルースが無処理で、人工的に熱を加えて色合いをよくしたルースが加熱処理ね。宝石は見た目の色合いが大事だから、宝石の種類によっては加熱処理などが昔から行われているのよ」


「人間は宝石で着飾りますが、処理しているかまでは知りません。興味本位で魔法を付加する人間もいますが、威力は小さいです」


「元の世界には魔法がなかったから、イロハお姉様の世界と異なっても不思議ではないと思う」


 宝石自身の処理や加工は異なる可能性が考えられるけれど、人間が着飾る部分は元の世界と同じ感覚で使われている。目と心を満たしてくれる宝石があればうれしいから、色々な宝石を探して楽しみたい。


「見た目が同じでも性質が異なるかも知れませんので、わたしの知らないルビーの話が聞きたいです」


 プレシャスの期待に応えるために、私が知っているルビーの情報から代表的な知識を思い浮かべた。


「ルビーは人間が最初に作り出した合成石でもあったのよ。天然石と合成石では価値が桁違いだから、それを見極めるために皮肉にも鑑別技術が発達したのよね」


「アイ様の知識を聞くだけでも宝石への興味が尽きません。この世界にも鑑定する魔法があって、能力が高いほど詳細な鑑定ができて高度な偽物も見破れます」


 プレシャスは鑑定と話してくれた。鑑別と違う言葉だけれど、イロハ様の世界では鑑別も鑑定と聞こえている可能性がある。確認のためにプレシャスへ聞いた。


「私の世界では鑑定と鑑別は別の意味なのよ。鑑定は宝石の価値を評価して、鑑別は宝石の種類を分析する。プレシャスには同じ言葉に聞こえているの?」


「価値と種類との違いは分かりましたが、どちらも鑑定と聞こえます」


 自動変換も万能ではなかったけれども、鑑定魔法は鑑別と思えば済むと思った。通常生活を送る上ではとくに問題なさそうね。


「細かい違いまでは上手く表現できないみたいだけれど、鑑定魔法の意味は分かったよ。ルビーの話しで長くなったけれど、そろそろ魔法を考えるね」


「どのような魔法を作るのでしょうか」


「接近戦を避けたいから遠隔用の攻撃魔法が重要よね。ルビーの色合いに似せて、炎の熱を持った塊が飛ぶと雰囲気が出そう。接近用の攻撃魔法は、剣に不思議な力が込まれている姿よ。腕力ではなくて魔法で相手を倒して、見た目でも凝りたい」


 遠隔用はピジョンブラッドしか考えられなかった。接近用はスタールビーを使えば立体的に作れそう。威力や特性などの魔法効果を考えて呪文も完成させた。顔を上げると近くでプレシャスが待ち構えている。


「魔法が作り終わったのですね」


 視線が合うとプレシャスが聞いてくる。


「威力が重要だけれど見た目もこだわって作ったよ。庭で試してみるね」


 庭に出て周囲を見渡すと、魔法の練習に適している広さがあった。プレシャスが見守る中、宝石魔図鑑を片手に準備が整った。


「遠隔用の攻撃魔法は熱い塊が飛ぶので、危ないから空に放つね。紅球こうきゅうルビー」


 宝石魔図鑑が開いてルビーの基本ルースが出現してから、真っ赤な塊が空に向かって飛んでいく。


「まるでルビーが飛び出したようで、ルビーらしい魔法です」


 プレシャスの感想だったけれど私も同じ意見で、狙い通りの魔法が作れた。落ちた塊に手をかざすと熱を帯びていて、こちらも想定通りだった。


「次は数や大きさを変えて試してみる」


 事前に想像してから呪文を唱えると、想像した内容に威力も変わる。威力や範囲を調整できるのは、うれしい機能でもあった。


「次は接近用の攻撃魔法だけれど、見た目にもこだわったから完成した姿を楽しみにしてね。星剣せいけんルビー」


 ルビーの基本ルースから剣が現れたので、柄の部分を手に取った。細身な赤色の剣で6条の光がらせん状にまとっている。重さはほとんど感じないから、私の力でも問題なく剣が振れた。


「武器と言うよりも装飾品です。アイ様の魔法には驚かされます」


「私も想定以上にきれいでびっくりした。さすがにこの場所では試し切りはできないから、森に入ったら試してみるね。デリート」


 基本ルースは消えたけれど、剣はそのまま残っている。


 デリートしても剣が残るのなら、クリアと異なるデリートにも唱える利点は何かあると思った。すぐに思いつくのは基本ルースが見えなくなるので、周囲に魔法の状態を知らせたくないくらいだった。


 まだ魔法を使い始めたばかりだから、デリートの利点はまだあるかも知れない。徐々に魔法を増やしながら試していきたいとも思った。


 ルビーの魔法はプレシャスも気に入ってくれて、目的の魔法確認も終わった。

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