第12話_生活魔法の応用
森の中から街道へ出ると少し遠くに馬車が見えて、いまは止まっていた。馬車から降りたと思われる人間がふたりと、馬車全体を取り囲むように、犬に似た大型犬くらいの動物が6匹みえる。
白色と青色で統一された服装を着ているふたりは、棍棒のようなものを持っているけれど腰が引けていて、魔物退治を職業にしているとは思えなかった。
どうみても魔物に倒されるのは時間の問題と思われた。
「アイ様、リーフウルフの魔物です。馬車で逃げてきたようですが、この場所で追いつかれたと思われます」
「何とか助けることはできる?」
この世界で初めて見かけた人間が、魔物に倒される場面はみたくなかった。
「わたしならリーフウルフを簡単に倒すことができます」
「お願いするね。私はこの場所で待っていたほうがよさそう?」
「近くにいたほうが守りやすいので、一緒に来てください」
「わかった。なるべく離れないように移動する」
私の声を聞くとプレシャスが走り出したので、私も全力で追いかけた。しなやかに走っているプレシャスは、きっと私の速さにあわせてくれている。リースウルフがどの程度の素早さかは不明だけれど、プレシャスはそれ以上に速いと感じた。
走りながら少しでも自衛する手段を考えた。手持ちの武器はないから、手段としては魔法しかない。
そこまで考えたときに、プレシャスが1匹目のリーフウルフを倒した。普通の動物と異なって、魔物は倒すと消滅するみたいで不思議に感じた。
プレシャスは次のリーフウルフに向かって移動する。リーフウルフは緑色の体に毛がのこぎりの歯のように波打っている。プレシャスは私にリーフウルフが近づかないように、位置取りを考えているように思えた。
遠くにいるリーフウルフの1匹が人間を襲おうとしている。プレシャスは反対側のリーフウルフを倒しに向かっていて、間に合うか分からない。
私に出来ることを試すしかない。
「雫オパール、揺らめきオパール」
無我夢中で唱えた。もちろん出現場所はリーフウルフの近くで、威力を強めに念じた。オパールの基本ルースが出現したあとに、ペアシェイプと多面体カットのルースが勢いよくルーフウルフの近くまで飛んでいった。
ルースから勢いよく水と火が飛び出してリーフウルフに直撃すると、リーフウルフは驚いたのか動きを止めた。その数秒がプレシャスに時間を与えた。
「アイ様、的確な判断です」
プレシャスが私に声をかけながら、最後の1匹である動きの止まったリーフウルフへ向かって一撃をあたえる。魔物の襲撃を退治した瞬間だった。
リーフウルフの全滅が分かると、馬車から子供の男女がふたり降りてきて、外にいた男性ふたりへと近寄って安心した表情をみせている。
男性のうちひとりが私のほうへ歩いてくる。すでにプレシャスは私の横まで戻ってきていた。
「魔物を退治して頂いて助かりました」
男性は私たちに向かって深くお辞儀した。
「魔物退治が間に合ってよかった」
「ワタシはタラーキンで、リガーネッタの神殿で神官長を務めています」
タラーキンさんの年齢は40歳くらいにみえる。ほかの人も同じような服装をしているので、全員が神殿関係者に思えた。
「私はアイで使い魔がプレシャスよ。この近くの森に住んでいて、魔物をみかけたので来てみたのよ。無事にみえるけれど、どこも怪我などはしていない?」
「かすり傷程度なので、このくらいなら回復魔法を唱えるほどではありません」
「それはよかった。ところで街道でも強い魔物が出現するの?」
プレシャスは簡単にリーフウルフを倒していたけれど、馬車に乗っている人たちでは退治できなかったので、もしかしたら強い魔物かと思った。
「ハンターがいればリーフウルフは脅威ではありません。今回は急用で近くの村まで行ったのですが、時間がなくてハンターを同行させられませんでした」
「リーフウルフはそこまで強くないのね」
私の言葉にタラーキンさんは頷いた。
「この街道は比較的安全でリーフウルフ3匹以下が多いので、ふだんなら馬車で逃げ切れるはずでした。お礼をしたいのですが、あいにく手持ちがありません」
神殿関係者だから、もしかしたら急な病人が村で発生して、急いで駆けつけたのかもしれない。
「たまたま通りかかっただけだから、お礼は気持ちだけで充分よ」
「そう言って頂けると助かります。もし神殿に来る機会がありましたら、そのときにお礼をさせてください」
「リガーネッタの街へ行ったら、神殿へ寄ってみるね」
「それではワタシたちはこのへんで失礼します」
タラーキンさんはもう一度深くお辞儀したあとに、馬車へと戻った。馬車の状態を確認してから、私たちへ手を振って移動を始めた。
馬車が見えなくなると、プレシャスが話し出す。
「神殿関係者は神聖魔法に長けている分、一般魔法が使えません。攻撃手段に関しては街中にいる住人と同様なので、魔物への対処がむずかしいのでしょう」
「プレシャスのおかげで神殿の人たちが無事だった。ありがとう」
感謝の気持ちを込めて、プレシャスのきれいな毛並みをなでた。モフモフとフワフワが手に伝わってきて、プレシャスの表情もうれしそうだった。
「リーフウルフ相手では準備運動にもなりません。それよりもアイ様の魔法には驚かされました。リーフウルフを倒せる威力はありませんが、動きを牽制させるには充分な魔法です」
「雫オパールと揺らめきオパールは生活を豊かにする魔法だけれど、とっさの判断で使った割には効果があってよかった」
「魔法もそうですが、何事も工夫次第だと思います」
「自由な発想が大事よね。宝石魔法は自由度が高いから、これからは楽しめる魔法も考えたい。探知の魔法を確認できたから、食材を探しながら家へ戻りましょうか」
プレシャスと一緒に来た道を戻っていった。




