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第10話_探知のロッククリスタル魔法

 宝石はロッククリスタルで、移動しているものを探知できる魔法に決めた。


「気配を感じ取るのとは異なるようですが、どのような魔法でしょうか。それと宝石の詳細にも興味があります」


 プレシャスは魔法にも宝石にも興味を持ってくれたので、話しがいがあってうれしかった。とくに宝石を語りあえるのは私にとって祝福のひとときだった。


「最初は魔法で使うロッククリスタルについて説明するね」


「水晶と同じと聞きましたが、呼び名の違いは伝わり方の違いでしょうか」


 さきほどの私が話した説明に対する疑問だった。言葉よりも見てもらったほうが早いので、宝石魔図鑑を心の中で念じて手のひらに宝石魔図鑑を出現させた。ロッククリスタルの頁を開くと、プレシャスが私の横へ来て覗き込む。


 立体映像には裏側が透き通ってみえる水晶玉、球体のロッククリスタルが浮いている。内包物と呼ばれる不純物がない水晶玉は非常に貴重で、天然ではないガラスで作られた水晶玉も出回っている。


「クォーツという鉱物の種類があって、その中の枠組みにクリスタルや水晶と呼ばれる宝石がある感じね。例えばアメシストと呼ばれる紫色の宝石も鉱物としてはクォーツで、紫水晶とも呼ばれているのよ」


 私自身は宝石の専門家ではないので、結晶構造の違いとか詳しい差異まではわからない。それでも宝石を選ぶ上で必要と思われる、一般的な知識は人並み以上だと自負している。


「鉱物名と宝石名が一致しないようなので、宝石の分類は奥が深そうです。ロッククリスタルは、見た目のように透明な宝石なのですか」


「プレシャスの考えている通りで、無色透明なクォーツをロッククリスタルと呼んでいるのよ。あと鉱物名と宝石名を考え出すと専門家以外には難解になるから、宝石名を基準に考えたほうが、宝石魔図鑑として分かりやすいみたい」


 宝石魔図鑑の分類も基本は宝石名になっているので、本物のアイ様が私に分かりやすい分類にしてくれたようにも思えた。


「オパールは7色が変化する見た目なのに対して、今度のロッククリスタルは色がなくて対称的にもみえます。この透明性を生かした魔法なのでしょうか」


 プレシャスがロッククリスタルの立体映像から私へと視線を向ける。


「ロッククリスタルは規則正しい周期性を発する性質があるから、色合いとは別の理由で探知魔法を考えたのよ。詳しい原理は割愛するけれど、元の世界ではいろいろな品物に使われていて、今回作りたい探知魔法に似た品物もあった」


 水晶の特徴を利用した仕組みで代表格では時計があるけれど、電化製品にもよく使われている。


「オパールと異なった特徴で、完成する魔法が楽しみです」


「効果は探知魔法と決まったけれど、どのような表示方法にするのか考えたい」


「時間はありますので、ゆっくり中身を検討してください」


 プレシャスが少し離れた位置へ移動してくれたので、集中して魔法の詳細を考え始めた。移動するものを探知する効果は決まっているから、あとはどのように表示するかと分かりやすい呪文よね。


 私自身を中心に移動するものが、前後左右のどの位置にいるか知りたい。できれば高低差もわかれば、上空から近寄ってくるかも確認できる。等間隔な表示を考えると円形からの延長で球体にすれば、もっと分かりやすい。


 表示される方向も考えた。私が見ている向きを基準にして、私が向きを変えれば一緒に表示も移動すれば、動くものを探すのが便利になる。もちろん探知範囲や動くものの大きさも想定できる。


 呪文はオパールと同様に、効果と宝石名を組み合わせて分かりやすくする。ここまで考えると、魔法の全体が決まったのも同然だった。


「魔法のイメージが固まったから、さっそく宝石魔図鑑に書き込むね」


 いま考えた内容を言葉へと置き換えて、宝石魔図鑑の枠を埋めていく。ほどなくしてロッククリスタルを使った魔法が完成した。魔法を書き終わると同時に、プレシャスが近くに寄ってきた。


「どのように魔法の効果が表現されるのか楽しみです」


「球体で探知を表してくれるけれど、私も実際を見たいから家の外で確認するね」


 宝石魔図鑑をもって、プレシャスと一緒に家の外へ出た。日はまだ高いので、魔法の確認が終わったらそのまま森の中へ行けそうね。


「わたしが近くにいても大丈夫ですか」


「球体が出現するだけだから、その位置にいても平気よ。魔法を唱えるね、探知たんちクリスタル」


 広い球技場くらいの範囲を想像しながら魔法を唱えた。


 宝石魔図鑑から、6角柱のようなロッククリスタルの基本ルースが飛び出して、私の周辺で回転しながら浮いている。その基本ルースから水晶玉と思われる無色透明な球体が出現して、私の前へ移動して止まる。


 球体の中心から、同心円の線が立体的に展開された。球体の外周に同心円が到達すると、いくつかの場所に点が表示されて、点は別々の方向へ動いていた。


「球体の中心が私の位置で、点の位置が動くものがある場所よ。私が見ている向きと連動するから、ちょうど前方の少し奥に何かがいるみたい」


「私が見てきます。お待ちください」


 プレシャスが走り出して森の中へ消えていった。


 球体にはプレシャスと思われる点が表示されて、前方で動いている点に近づいていく。動くものが確認できたのか、プレシャスの点が私に向かって戻ってくる。もうひとつの点は動きが速くなって、私たちから遠ざかる方向へ移動した。


「何がいたの?」


 姿を見せたプレシャスに聞いた。


「動物がいました。わたしに驚いて逃げ出しました」


「問題なく動くものが表示されたから、魔法は成功ね。プレシャスの動きも球体に表示されたよ」


「アイ様自身が出かけるときに役立つ魔法です。相手の気配や敵意も一緒に感じ取れれば、事前の行動に幅もでてくると思います」


「ざんねんながら気配は感じ取れないよ。でも動くものが対象だから、気配を消した人間や魔物がいても表示されるし、岩が転がってもわかる魔法よ」


 あくまでも対象との距離が変化したかで判断するので、物理的な要因以外には反応できない魔法だった。それでも充分満足のいく結果だった。


「面白い魔法です。敵なのかの判断はできませんが、隠密行動をしている敵がいる場合には有効です」


「気配を消す相手にも有効なのは便利そうね。探知範囲や動くものの大きさも指定できるから、いろいろと試してみたい。このまま森の中へ入って試したいけれど、プレシャスは構わない?」


「もちろん大丈夫です。魔物が近づいたらわたしが対処します」


 魔法をクリアとデリートしてから、プレシャスと一緒に森の中へ入った。

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