06 初恋
「後悔」「悲恋」「決別」「因果応報」「婚約破棄」「ざまぁ(ざまあ)」と親和性が高い。
テンプレというほどではないが、一定の傾向がある。世間一般でそう言われるように、web小説においても初恋とは成就しないものであり、喪失や破局へのフラグである。貴族令嬢が主人公の場合、幼い頃に顔合わせした婚約者がその相手で、婚約者はその場で暴言を吐く、あるいは幼い頃は仲が良かったが学園に行って心変わりしつつ婚約解消を言い出さない、または本心では主人公のことを想っているが気を引きたいがために当てつけに浮気をするといった愚行を経て「婚約破棄」(婚約解消)へ向かうのが定番。
それとは別に、男性側が「初恋の相手」に固執していて婚約者である女性を粗雑に扱い「婚約破棄」に至るという類型もある。これは相応に扱うべき婚約者よりもそうでない相手を優先して厚遇するという点で、「幼馴染み」や「従姉妹」、義妹や実妹などの病弱な親類がいる類型と近似する。どの程度が業務の範疇かという線引きが難しいが、「王女護衛」とも構造が類似する。
「初恋」を扱う作品は枚挙に暇が無いが、婚約関係またはそれに近しい関係にあった男女双方が時間差で傷心する作品に、好きになった頃の振る舞いに男性が固執する一方で女性がするりと抜け出す『エリザベートは愛想が尽きた』(2020年 7月掲載開始)、それを恋とも自覚しなかった幼い初恋が実らない『初恋』(2020年 11月掲載開始・N9916GO)、女性側の初恋が実らない『ダレンは知らなかった』(2020年 12月)、『男爵令嬢の初恋は実らない~どうかあなたの大事な幼馴染とお幸せに』(2022年 11月掲載開始)、『そうだわ、婚約破棄しましょう〜初恋の婚約者は王太子の忠犬になりました』(2025年 4月)、男性側が初恋に固執しているように見える『初恋相手の王女の心配ばかりしている婚約者と、スッキリさよならしました』(2023年 6月)等がある。
とりわけ「初恋」の特徴的な趣向として、主人公の婚約者はそうとは知らずに別人を「初恋の相手」と見定め、あるいは追い求め、真の「初恋の相手」である主人公を粗雑に扱って「婚約破棄」(婚約解消)に至り、その後に真実を知るというものがある。童話『青い鳥』では気付いたときには幸せは身近にあるが、この類型では知ったときには籠を開けて放したあとだった、ということになる。もの悲しい童話の結末である。そのような作品を挙げる。
・『婚約者の王子様は、まだ見ぬ聖女と結婚したいらしい』(2020年 8月掲載開始)
https://ncode.syosetu.com/n0637gl/
・『誇り高きにゃんこ令嬢は元婚約者に今日もにゃーと鳴く。』(2020年 11月)
https://ncode.syosetu.com/n0699gq/
・『青の君を探した報い』(2023年 2月)
https://ncode.syosetu.com/n7172ib/
・『薄っぺらな愛』(2023年 2月)
https://ncode.syosetu.com/n1933ic/
・『初恋の人が『初恋の女の子』に夢中で婚約破棄までしたので、彼の真の『初恋の女の子』である私は受け入れて、辺境伯令息の甘い優しさに癒されます。』(2024年 3月掲載開始)
https://ncode.syosetu.com/n0673iv/
・『忘れられた初恋にさよならを』(2025年 12月掲載開始)
https://ncode.syosetu.com/n0667lm/
この類型の近縁に、成り代わりがある。別人が対象者の「初恋の相手」や「運命の相手」、「恩人」だと申し出るもので、その根拠には外見(頭髪の色など)の一致や愛称の一致、エピソードの披露などいくつかパターンがあるが、こと「姉妹格差」系統の物語においては、主人公に出会いの証として渡されたキーアイテムを「妹」が奪い、何食わぬ顔で対象者の傍に立ち、主人公の不遇な環境下で一縷の希望となっていた再会への想いを踏みにじる。そのような作品に、『初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました』(2020年 6月)、『貴方が先に裏切った』(2024年 1月掲載開始)等がある。
婚約していない場合は「青い鳥」ではなく「逃した魚」ということになるが、成り代わりによって本物を取り逃がす作品に『初恋の相手が私だと今さら気づいても遅いです』(2025年 9月)等がある。やや変則的な「青い鳥」に、主人公が恋を諦めて婚約解消となったあとに婚約者だった男性が恋慕の情を自覚する『過ぎた憧憬は眼を曇らせる』(2021年 9月)がある。こういった時間差で追いかけてくる喪失も「初恋」の妙味である。
また、求めている人物と婚約(婚姻)しておきながら、そうではない人物を本物だと誤認して厚遇し本物を失うという趣向は、「番」にも共通して見られる(『竜族から婚約破棄されて追放された私。今さら「本当の番は君だった」と追って来られても、もう遅い!』(2020年 11月)等)。
「初恋の相手」も「番」も「婚約破棄」(婚約解消)や約束の反故から「ざまぁ(ざまあ)」「後悔」に向かう点で構造が一致するテンプレではあるが、「初恋の相手」に関してはなぜ正体を明かせないか、明かしたとして信じられないか、そもそも婚約者が「初恋の相手」をどのような要素で認識しているかといった仕掛けから種明かしにかかる組み立てが必要である。そのうえで、「ざまぁ(ざまあ)」「後悔」が財産や立場の喪失に対してではなく心のやわらかい部分にかかってくるので、心情とエピソードの繊細な積み重ねによって描出される題材であると言える。




