05 悪役令嬢(後)
「悪役令嬢」の造形として、半ばネタとなっている古典的な特徴が縦ロール(「ドリル」とも)、現行では黒髪や銀髪、吊り目など、「冷たそう」「きつそう」「美人」な描写をされる傾向がある。これは社会通念を前提としたヴィランの造形でもあるし、少女漫画的正統派ヒロインとの対比でもある。
少女漫画的な元祖意地悪お嬢様は甘やかされて我が儘放題というパターンもあるが、「悪役令嬢」ものでは生家で大切にされていない場合がままある。主人公が転生者である場合は現代日本での記憶や知識を活かすことで優秀だと見なされ、現地主人公の場合は能力が高い(王妃教育の飲み込みが良い、執務能力が高い)人物として設定されることが多い。それに対して、主人公の婚約者である王子が妬みや劣等感を抱くというのはよくある設定である。
「悪役令嬢」の家族構成として、「乙女ゲーム」転生風の世界では生家の跡取りとして義兄か義弟、ないし兄か弟がいる。彼は攻略対象者であり、学園ものであれば王子と共に生徒会に所属しているのが定石である。特に「シリアス」や「ざまぁ(ざまあ)」傾向の強い作品では「悪役令嬢」の家族である彼までもがヒロインに籠絡され、断罪に参加する。そのような弟(義弟)視点の作品に『叶わぬ星』(2018年 10月)、『ねぇ、シオン』(2022年 05月)等がある。
王子が「悪役令嬢」に婚約破棄を突きつける場で連れているヒロインは、相対的に身分が低く、平民出身の低位貴族か、学園ものでは平民の特待生、または光魔法の保有者か聖女であるのがテンプレである。「悪役令嬢」と対照的に「親しみやすい」「かわいらしい」造形をされる。発端は不明であるが、頭髪の色が「ピンクビロンド」として記号化されており、そうでない場合もままあるが、2025年現在、「ピンクブロンド」といえば「ヒロイン」に結びつく程度には普及している。後述の「ヒドイン」と結びつき、負のニュアンスを含んで「ピンク頭」「ピンク髪」と略称されることもある。
ヒロインが転生者である場合は俗称「ヒドイン」(酷い+ヒロイン)と呼ばれる悪辣な性格をしていて、「悪役令嬢」が原作通りの嫌がらせをしなくても、足をかけられて転んだように装う、証言をねつ造して冤罪を仕掛けるなど、「悪役令嬢」を陥れようとするのが「ざまぁ(ざまあ)」傾向の強い作品の定番である。「ヒドイン」傾向は現代日本が舞台の「乙女ゲーム」転生である『お前みたいなヒロインがいてたまるか!』(2014年 9月掲載開始)にも見られ、「悪役令嬢」ものの初期から見られる一つの特徴であるだろう。本来、ゲームのプレイヤーキャラクターというのは不確定要素であるのだが、転生者である「悪役令嬢」がその位置に成り代わるので、その引き換えにヒロインが悪役化するわけである。これは断罪・婚約破棄から「ざまぁ(ざまあ)」へ向かう逆転劇が流行したことの反作用でもあるだろう。気持ち良い「ざまぁ(ざまあ)」のために、悪辣な人物が必要となるということである。
原則として「乙女ゲーム」転生の「悪役令嬢」は王子の婚約者であるのに相応の身分、すなわち高位貴族であり、ヒロインは召喚された「聖女」の流れを汲んで特殊な価値を持つ平民である。これに加えて、近年では「悪役令嬢」の義妹や異母妹をヒロインとする系統があるが、設定に関して注意が必要である。
それというのも、まず物語のセオリーとして、『シンデレラ』に倣うのであれば報われるべき物語のヒロインは先妻の娘である。もちろん、「冷遇された庶子が逆境に負けずに幸せになる」という筋もあるが、こと『小説家になろう』において女主人公の「義妹(異母妹)」というのは先妻の死後に後妻と共にやってきて「姉」の全てを奪う存在であるという印象が強い。
そうではなく庶子のみが引き取られる場合、正妻が存命か否か、実家の力関係はどうか、両親のどちらが当主かで話は変わる。条件によっては「悪役令嬢」たる「姉」が同じ家の中でヒロインに対する嫌がらせを継続することは難しいだろう。「学園もの」でいじめが起きる、という創作上の約束事では処理しきれないし、公爵令嬢が強者で平民や男爵令嬢が弱者であるという力の構図にも依拠できない。作中の王子が虚言を真に受けるなり「魅了」にかかるなどして「義妹(異母妹)」に嫌がらせをしたかどで「姉」を断罪することと、「姉」が「義妹(異母妹)」に嫌がらせをするテンプレ「悪役令嬢」として機能するかということは分けて考える必要がある。それが可能であるとしたら、「姉」の母親である正妻が存命でかつ発言力が強いか、父親が「姉」の悪行を見過ごし続けていることになる。
「異母妹(義妹)」を虐げたとして王子の婚約者である「姉」が断罪と共に婚約破棄される物語は早い時期からあり、『婚約破棄する代わりに、家とは縁を切らせていただきます。』(2015年 8月掲載開始)等が該当する。このような転生者のいない現地の物語について、断罪された「姉」をメタ視点(タイトルやタグ)で「悪役令嬢」と見なすことと、異世界転生ものの原作となるゲーム・漫画・小説で「悪役令嬢」に割り当てるのとでは乖離がある。悪者として断罪されたという結果から見て該当することと、はじめからそういう役割であることの相違である。それと同様に、『まさか!?シンデレラストーリーが現実にあるなんて本気で信じたんですか?』(2019年 1月連載開始)のような「義妹(異母妹)」がヒロインぶることと、彼女がヒロインであることとは別である。
まとめると、「乙女ゲーム」転生において先妻・本妻・正妻の娘である「姉」を「悪役令嬢」に、その「異母妹(義妹)」をヒロインに割り当てるとなると、先妻・本妻・正妻の生死を含めて背景が重要となるので、テンプレとして扱わずに個別に設定を詰めるのが妥当である。
「悪役令嬢」とその義妹(異母妹)の軋轢がクローズアップされる「乙女ゲーム」転生の作品の例として、『元、落ちこぼれ公爵令嬢です。』(2020年 3月掲載開始)では、王子の婚約者である主人公は作中では「ライバルキャラ」と称されており、王子ルートの攻略がうまくいくとヒロインである異母妹が頭角を現すのと入れ替わりに失脚して姿を消すという設定で、ヒロインに嫌がらせをして断罪されるタイプのテンプレ「悪役令嬢」ではない。『超弩級チート悪役令嬢の華麗なる復讐譚』(2021年 11月掲載開始)は義妹とヒロインは別である。『望み通り、捨てられましょう』(2025年 8月掲載開始)では、「姉」がヒロインを虐め倒して処刑される「悪役令嬢」でその義妹がヒロインであるが、原作ゲームで「姉」は甘やかされて育った設定であるのに対して、現実では母親を死なせたという言い分によって父親である当主以下使用人にまで虐げられている。




