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エージェント・コックリさん

作者: 参州

降霊術のコックリさんの、人間の目に見えないところのお話です。

「おい、着いたぞウズメ。南本宮中学校、いま向かってる。二階だったな……。ああ?先行がいる?聞いてないぞ。F912だ?おいおい、あいつをまた俺に付けるのかよ……おいウズメ、大体お前は」

「あっ!せんぱーい、こっちでぇーす!」 

「やかましい。目立つな、サルの中にもたまに鋭敏な奴らはいるんだ。感づかれるぞ」

「す、すいませぇん……久しぶりの稼働だったから嬉しくってつい……」


「もういい、で、どうなってる?」

「はい、ひらがな50音と数字だけの初級ランクですね。祈文紙に問題はありません」

「うむ」

「こっちから美咲ユミちゃん、駒沢アオイちゃん、黒川レイちゃん、みんな中学2年生、同じクラスの仲良しグループです」

「だから頭を撫でながら言うな。そっちのひとりモソモソしてるじゃねーか」


(……じゃあいくよ、こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいで下さい。もしおいでになられましたら「はい」へお進みください)


「印呪言確認しました。F912承認。先輩、チェックお願いします」

「ん、よし、F305承認」

「こちらF912、ウズメ、FDR結界、展開よろし」

 

「おう、少しは慣れたみたいだな」

「私だっていつまでも新人じゃありません、この前みたいにはなりませんよ」

「どうだか怪しいもんだが……。それじゃあ、お前やってみろ」

「えっ、いいんですか、やったぁ……。それじゃあ、むん!妖狐!来援!っと、よし!ええっと、「はい」はこっち……」


 (あっ、動いた!動いたよ!)

 (誰も動かしてないよね?レイもやってないよね?)

 (うん、私は何もしてないよ)


「はは、驚いてる驚いてる」

「はしゃぐな。3人を良く見ろ、全員脱力してるか?力入れてる奴がいたら、悪夢と高熱の丸3日コースを食らわせなきゃならん」

「はい、それは大丈夫です。素直な子たちで良かったです」

「だから撫でるな。ちゃんと鳥居まで戻せ」

「了解、であります、フフン♪」

 

 (ねえ何聞く?)

 (ユミかアオイからやっていいよ)

 (じゃあ、私から行くね……。こっくりさん、こっくりさん、私は将来何になってますか?)


「ほら、来たぞ、答えてやれ」

「は、はい。ええとぉ……、お、い、し、や、さ、ん……」


 (お医者さんだってー)

 (ええ、ユミすごーい)


「喜んでくれてるみたいですね」

「まあ、いいんじゃないか。前向きにさせるって意味ではな」

「意味ではって、引っ掛かる言い方ですね」

「あん?美咲ユミはシングルマザーの家庭だ。医学部進学はちょっとばかりハードル高いだろって、まさかお前今の適当にやったのか?呪言者のリサーチはしとけってあれほど……」

「もも、もちろん!もちろん調べてます!ただちょっと調べた事が消化しきれなかったっていうか、入力と出力が一致してなかったっていうか……」

「はあ……まあいい、ほれ、次、来るぞ」


 (こっくりさん、こっくりさん、内村雄太は誰のことが好きですか?)


「かーっ、可愛いー!あーん、これがあるからこの仕事やめらんない!花も恥じらう乙女の頃の、恋に恋するお年頃!くーっ、若いっていい!このプニプニほっぺのハリも全然違う!ああ、私も明治の御代はこれくらいの女の子だっのになぁ……しみじみ」

「「しみじみ」って口で言うな。あとほっぺをつつくな。ほら、さっさとやってやれよ」

「了解。フフ、いいわいいわ、お姉さんがサービスしてあげる、こ……ま……」

「つ、な、お、ひ、た、し」

「うわっ、何するんですか先輩!」


 (小松菜おひたし?何だよそれ?)

 (アハハ、きっと内村くんの好物なんじゃない?)

 (シブすぎんだろ)


「ほらぁ、みんな不思議がってるじゃないですかぁ」

「アホウ、お前「駒沢アオイ」ってやろうとしただろう?」

「だって、それで良いじゃないですか。私調べましたよ、アオイちゃんは中学入ってからずっと内村くんの事が好きで、こんな呪言して来たのも私たちにお墨付きが貰いたかったからでしょう?もしかしたら告白するつもりで勇気づけて欲しかったのかもしれないじゃないですかぁ」

「それが浅はかだってんだF9レベル」

「なっ、わ、私のレベルアップが遅いのは、今は関係ないじゃないですか!」

「あのなぁ、2年生でサッカー部のエースになるような奴だぞ内村雄太ってのは。んな奴が好きな女子が学校に一体何人いると思ってるんだ」

「えっ、そ、それは……」

「美咲ユミだって黒川レイだって運動部の爽やかイケメン男子とくりゃ憎からず思ってるだろ、事によっちゃ駒沢アオイ以上に。そこへ持って来て俺らが「内村雄太の思い人は駒沢アオイです」なんてぶちまけてみろよ。微妙な事になっちまうだろうが」

「で、でも……」

「コックリの呪言なんてのはな、所詮サルどもが慰めにやってる事なんだ。こいつらの調和を乱さないってのが基本だ。忘れるな」

「うう……でもぉ」

「あん?」

「単なる気休めなら、こんな二人掛かりでやらなくても良いじゃないですかぁ。私一人でもこれくらい……、んん?先輩」

「何だよ」

「いつまでアオイちゃんの手を握ってるんですか?」

「はあ?」

「アオイちゃんが可愛いからベタベタそうしてるんですか。セクハラですよ」

「サルに可愛いも可愛くないもないだろ」

「うわ、うーわ。女性蔑視だ、性差別だ。もしもしウズメ?今の録音しました?はいぜひとも懲罰委員会の設置を……」

「オイオイ、やめろって……。おい、次、次が始まるぞ」


(こっくりさん、こっくりさん、ジルコニウム96の半減期を教えてください)


「……、……ん?ええっ?先輩、今この子何て言ったんですか?」

「はあ、いるんだよなあ、こういうこまっしゃくれた事言う奴。大方オカルト嫌いがコックリさんなんていない、みたいな事言いたくてやって来るんだろうが」

「そ、それで、どうするんですか?」

「まあ、任せろ」

「先輩?」

「よっと。う、ち、ゆ、う、の、こ、こ、ろ」

 

 (宇宙のころ?ああ、往復してるから宇宙の心、か……で、何が言いたいのよこれ)

 (わけわかんね、レイ何聞いたん?)

 (いいじゃん別に何だって、ていうか答えられないんじゃんコックリさん)

  

「良かったんですかこれで」

「良いんだよ、この手の呪言にはいかにもそれっぽい事言っとけば」

「でも私たち疑われちゃってますよ?」

「端から疑って来る奴を信じさせる為になってんじゃねえの。言っただろ?」

「調和を乱さない……」

「ああ、呪言者のリサーチをバッチリガッチリおやりになったお前さんには言わずもがなだろうがな、黒川レイはこっちの2人から見下されてるんだ」

「えっ、それって、どういう……」

「サルどもの心理なんかに深入りするつもりはねえが、あるわけだろ、下に扱える奴を傍に置いておきたいってのが」

「そんな、そんな事って……」

「だから、黒川レイとしてはその状況をひっくり返したくて、お前らが熱心にやってるコックリさんなんて下らないと言いたいわけだ。だけど俺たちがそれに手を貸す訳にはいかん。やりたいなら自力でやれ、俺らに頼らずに」

「ううーん……」


 (なんか、シラケたっぽくね?)

 (う、うん……じゃあ今日はもう終わりにしようか)

 

 『下校の……時刻に……なりました……まだ……校舎に……残っている生徒は……速やかに……下校してください……下校の……時刻に……』

 

 (やだもうこんな時間、みんな帰ろ)

 (待って、もう1回だけやらせて)

 (ええ?レイ変な事聞くじゃん)

 (お願い1回だけ)

 (あ、うん。じゃあ。アオイも、ね?)

 (ったくしょうがねえなぁ)


 (こっくりさん、こっくりさん、ベンゼンの分子式を教えてください)

 (あのさあレイさあ)

 (やめなってアオイ)


「先輩、私やります」

「おい余計な事をするんじゃ」

「なんかこのままだと3人の仲ますます悪くなりそうだし、それにレイちゃんにも気休めの範囲なら切っ掛けぐらいあげてもいいんじゃないですか?」

「お前……」

「ウズメ、そう今の呪言。はい……はいはい……了解♪」

「おいおい」

「ええっと、し、い、ろ、く……、え、い、ち、ろ……く……っと、これで良いはず」


(あ、答えた……)

(ああ?何よ)

(すごい、コックリさんてこういうのもできるんだ……)

(答えた、ハハ、答えた、ハハハ……)


「良かった、レイちゃん笑ってるみたいですよ」

「あ、ああ……」


(ハハハハハハ、お前ら!終わりだよ!ハハハハ!ざまあ見ろ!)

(えっ、レイ?何なの?)


「おい、何か変だ」

「えっ、何がです?……うわっ!この光は!?」

「ううっ!」


 (アハハハハハ、死ねよ!死んじまえよ!)


「な、何?何が起きてるの?」

「そうか!あいつ、祈文紙の下に外法の召喚陣を敷いて、ちょうど印が結ばれるように細工して!」

「ええ!?それってどういう……わわ!肢?沢山の肢がワラワラ湧いてくる……」

「まさか……」


(キャア――――!) 

(イヤ!イヤ――――ッ!)

 

「先輩、ヤバいんじゃないですか、コレ?」

「くっ、地グモ……こいつ、地グモか」

「ええっ、地グモって相当ヤバいのじゃ!?しかも滅茶苦茶大きくないですか?」


(あ、開かない!開かないよ!どうしてよ!)

(出して!ここから出して!)


「先輩!あの2人はどうしたら!?」

「今結界を解く訳にはいかん。箒入れの中に押し込めろ」

「箒入れ?」

「ロッカーだ!急げ!」

「は、はい!むん!!」


 (な、何!?体が勝手に)

 (嫌!こんなとこ、嫌!出してったら!!)


 《隠れてんじゃねぇよぉぉおお!!》

((キャア!!!))


「おい!お前の相手はこっちだ!」


 《ジャ――――――》


「久しぶりだな蜘蛛野郎。また性懲りもなく地上に出てきやがったか。わざわざ退治されによ!」


 《貴様は、あの時の狐風情。その顔忘れぬぞ、この折られた前肢の恨み、万倍にして返す日を待っておった》


「はっ、男ぶりを上げてやったんだ、感謝して欲しいくらいだね……ウズメ、金棍だ。超特急で頼むぜ」


 《丁度いい、まずは貴様を8つ裂きにして、その後であの女どもを食らってくれる》


「先輩!危ない!」

「てやっ!へっ、誰がお前のクモの巣なんぞに絡めとられるかって、てりゃあ!……っつう……なんて固い甲羅だ……」

「先輩!」

「下がってろ!……うりゃあ!くっそ!ヒビの1つでも入りやがれ、可愛げがねえ!」


 《死ねぇ――――――》


「おおっと、ヤッベ!こんの!この蜘蛛野郎がっ!!」

「ん、光?……先輩!」

「だから下がってろって!」

「あっちに金棍が!」

「ああ!?」

「あっちの、校庭の方!」

「なんでそんな遠くに……おい!」

「は、はい!」

「任せるぞ!しばらく持ちこたえろ!」

「はい!……ええ!?私が!?」

「仙丸薬があんだろが!それ、1、2の3で結界解除だ!行くぞ!」

「仙丸薬……苦くて嫌いなのに……もう、んんっ、ニッガァ……。さ、さあ来い!」


 《ジャ――――――》


「やっ、はっ、ほっ、この!脊椎動物を舐めるなあ!……痛ったぁい、なんて固い」


 《貴様ぁ、狐男の付録の分際で、我に手を出すなどと!》


「ふっ、付録?私があのおっさんの付録なわけないだろうがあ!」


 《ジャ――!!》


「よっと、おっと、あっ、嫌!足が、何このネバネバ……」


 《貴様から死ねぇ!》


「ひっ、ひぃぃ!」

「ぬありゃああああああ!!!」

「先輩!」

「蜘蛛野郎!もう一遍味わうか!この金棍を!」


 《貴様ぁ、引き裂いてくれる!!》


「うりゃあ!この野郎!!」

「先輩!頑張って!」

「おい!仙丸薬をこっちにも寄越せ!」

「はい!!……あっ!」

「早くしろ!」

「床に!動けない!」

「お前の無駄にでかい尻尾は何のためにあるんだ!」

「なっ、女子に向かって何て事言ってるんですかぁ!?」

「んな事言ってる場合かぁ!」

「んん……恥ずかしい……」

「さっさと掬い投げて寄越せ!」

「……も、もう!知らない!!」


 《ジャゲギャ――――――!!!》


「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」





「ここにいたんですか、先輩」

「煙とナントカは高い所がいいんだよ、で何だって?」

「後処理はDチームがやってくれるみたいです。あの3人も目が覚めたら何も覚えてないだろうって」

「そうか。はあ、Dの奴らに借りを作っちまったな。F101になんて報告すりゃいいんだ……500年掛けてやっとF3レベルまで来たのに……降格かな……」

「そんな、先輩は化け物退治の活躍したじゃないですか」

「また前肢1本だけだった……またとどめを刺せなかった……」

「そうですね、先輩いつも詰めが甘いですもんね」

「慰めるとこだろそこは」

「クヨクヨしてもしょうがないですよ、明日は明日の風が吹くって言うじゃないですか」

「お気楽なのな、お前」

「先輩」

「なんだよ」

「そもそもコックリさんて、本当にあの子たちみたいのが気休めでやるものなんですか?」

「ああ?……まあ、あれだ。ここからの景色を見てみろよ」

「はい?ここからの、景色ですか?」

「ああ、サルどもの作った街だ。”文明”とかいうやつだ。こんなもんが地の果てのどこまでも続いてやがる。サルたちがここまで力を持って、地上の王になったのは何でだ?」

「さあ、何ででしょう?」

「ここだよ、並外れた想像力と好奇心、それがあったからだ」

「想像力?今晩のご飯は何だろうなって想像だったら私だってしますよ?」

「それぐらいなら可愛いもんだがな、あいつらは違う。あいつら1人1人は弱いくせに、いざ事があれば何百万何千万て数で徒党を組みやがる。同じ想像を共有してるんだ」

「同じ想像、うーん、ちょっとよく分からないです」

「俺たち妖狐でも一遍に100万のサルは相手にできねぇって話だよ。ただ、そういう桁外れの想像力は”冥の者”の格好の餌でもあるのさ」

「あの地グモみたいな?」

「そうだな。サルどもの想像力を食って、冥の者はどこまでも大きく強くなる。もし奴らが冥界から抜け出して、この地上に溢れたらどうなる?俺としては、地上と地獄の境目がなくなる日なんてのには、立ち会いたくないねぇ」

「だったらコックリさんなんて辞めて、冥の者との接触を完全に断っちゃえば良いんじゃないですか?」

「言っただろ、サルたちは好奇心も桁外れなんだ。そんな事をすれば不満を溜め込んで何をしでかすか分かったもんじゃない、だから、ほんの少しだけ世界に穴を開けて、冥界の様子を見せてやって、奴らの知的探求心とやらを適度に満たしてやるのさ」

「それがコックリさんをやる理由だって言うんですか?」

「ああ、俺たちの管理の元でな」

「へえ……知らなかったです」

「まあ、これからいくらも知る機会はあるだろうよ、さて帰るか」

「あっ、せっかく人里まで来たんだし、私、1回家系ラーメンていうの食べて、み、た……く……」

「おい大丈夫か?」

「いや、何これ、服が……弾けて……」

「ああん?あ、お前、仙丸薬丸飲みしただろ?だから今頃効いてきたんだ」

「ええ?だって、あんなに苦いの噛み砕くなんて、っていうか、見ないでくださいよ!あっち向いて!」

「うーん、でも何だお前、仙丸薬もなしに地グモの攻撃に耐えたのか……すげぇ奴だな」

「だ、だから見ないでくださいよぅ……」

「あー、俺は帰る。帰って寝る、じゃあな」

「ああちょっと、これ、なんとかして下さーい!」

 


 【終】

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