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第5話:老騎士

王の言葉を受け、家臣が慌ただしく駆け出していった。

広間には静かな緊張が走る。


やがて――


「入るぞ」


低く、落ち着いた声が響き、扉が開かれた。


姿を現したのは、一人の老人だった。

背筋は真っ直ぐに伸び、年齢を重ねたはずの体は鎧越しでも力強さを感じさせる。

銀に近い灰色の髪を後ろへ撫でつけ、鋭い眼光は若者顔負けの光を放っていた。


その一歩一歩が重厚で、広間に集う者たちの空気を自然と引き締めていく。


「……あれが」

思わず息を呑む俺の肩で、リシテアが小さく囁いた。

「只者じゃないわね。精霊の目から見ても、強いわよ」


老人は玉座の前に進み出て、膝をつき、深く頭を垂れた。


「陛下、お呼びと伺い参上仕りました」


その声音は低く、しかし誰に対しても丁寧で、礼を欠かさない気品があった。


「ヴァルドよ」

王はゆるやかに頷いた。

「そなたには、この若者と共に山賊討伐に向かってほしい」


そこで初めて、ヴァルドの視線が俺に向いた。

射抜くような眼差しに、背筋がぞくりとする。

だが同時に、不思議と安心感のようなものも覚えた。


「……心得ました」

ヴァルドは静かに答える。

「陛下の御意とあらば、命を賭して果たしましょう」


王は満足げに頷き、俺へ視線を戻す。


「若者よ、名は?」

「……あ、えっと……」


転生者としての偽名を考える暇もなく、俺は一瞬詰まった。

だがすぐに、リシテアがちょんちょんと肩を叩き、囁いた。


「早く名前教えてよね、英雄様」


そうリシテアに言われ、自分がまだ彼女にも名前を名乗っていなかった事に気づいた。


「……俺の名は、カイです」


勇気を振り絞って名を告げると、広間にざわめきが走った。

短く、異国めいた響きの名。だが王は眉をひそめることなく、静かに頷いた。


「カイか。覚えやすく、よい名だ」


その声音は柔らかで、まるで父親が子に語りかけるような温かさがあった。

俺の強張った肩から力が抜けていく。


「カイ殿」

ヴァルドがゆっくりと口を開いた。

「陛下の命により、共に戦場へ赴くことになりました。……どうか、よろしく頼みます」


深々と頭を下げる老騎士に、俺は慌てて立ち上がる。


「お、俺こそ! こんな俺でいいのか……?」


「ふふ、誰であろうと剣を取って戦場に立てば、同じ戦友です」

ヴァルドの声は低く落ち着いているのに、不思議と胸に響いた。

ただ者ではない気配に圧倒されながらも、俺は自然と背筋を伸ばしていた。


「――決まりだな」

王が玉座に身を戻し、厳かに告げる。

「カイとヴァルドよ。山賊どもの巣窟は北の山間にあると報告を受けておる。討ち果たし、二度と我が領土を荒らさぬようにせよ。成功すれば、その功に見合った褒美を与えよう」


「はっ!」

ヴァルドが力強く返事をし、俺も慌てて頭を下げた。


広間を出る時、リシテアが肩でくすくす笑う。

「やったわね、カイ!最強のじいちゃんとコンビ結成よ!」

「じいちゃん言うな……でも、頼もしいのは確かだな」


こうして俺は、老騎士ヴァルドと共に初めての本格的な戦いへ向かうことになった。

運だけで切り抜けてきた俺が、本当にやっていけるのか――胸の鼓動は不安と高揚で鳴り響いていた。

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