第35話:師の名残
黒狼の拠点に戻ったときだった。
戦いの終結を祝う声が広間に満ちていたが、その中でルカの表情はどこか沈んでいた。
「……カイ」
小さな声で呼ばれ、振り向くとルカが立っていた。
金色の瞳は揺れている。
「さっき、聞いたんだ。……ジノのこと」
言葉が詰まり、拳を握りしめる。
「ラブプラムの倉庫で、ミラと……相打ちになって、瓦礫に埋もれたって……」
その声は震えていたが、必死に涙を堪えているのがわかった。
俺は返す言葉を探せなかった。
ジノとルカの師弟関係がどれほどのものだったか、詳しくは知らない。
ただ、彼にとって大切な存在だったのは間違いない。
「……ジノは、俺を育ててくれたんだ」
ルカがぽつりと呟く。
「情報屋としての技術も、立ち回りも……全部、あの人から教わった。だから……だから、俺はもっと強くなって、あの人に認められたかったのに……」
その肩が震えた瞬間、リシテアが珍しく言葉を飲み込んだ。
おちゃらけた声も、慰めの言葉も出てこない。
俺はそっとルカの肩に手を置いた。
「……ルカ。ジノが残したものは、お前の中にある。これから先、お前がどう生きるかで……本当に死んだのか、まだ生きてるのか、答えは出るんじゃないか」
ルカはゆっくり顔を上げ、かすかに頷いた。
「……そうだな。俺が生きてる限り……師匠の教えも、生きてるんだ」
そう呟く声は震えていたが、そこには確かに前を向こうとする強さがあった。




