第18話:燃える店先
翌日。
俺とヴァルドは宿を出て、街の中心へ向かって歩いていた。
「この街で国を作るわけではないが……物の流れや相場を知っておくのは悪くない」
「確かに。交易都市の経済を理解すれば、後に必ず役に立ちましょう」
ヴァルドは相槌を打ち、落ち着いた足取りで俺の隣を進む。
リシテアが肩の上で手を叩いた。
「いい心がけね! 国づくりを目指すなら“お金の流れ”を読むことは大事よ!」
そうして俺たちは、市場の方へ足を向けた。
だがその途中――
「火事だ! 水を持ってこい!」
叫び声と共に黒煙が視界に飛び込んできた。
「……あそこだ!」
俺とヴァルドは駆け出す。
煙が上がっていたのは、昨日訪れたあの武具店だった。
入口から炎が噴き出し、店主が路上で半狂乱になっている。
「無茶をするな! 死ぬ気か!」
ヴァルドが店主を押さえ込み、俺と周囲の人間は桶の水を運び火に浴びせた。
リシテアは風を操って炎を外へ吹き飛ばさないよう制御する。
必死の作業の末、ようやく炎は収まり、黒焦げの残骸だけが残った。
店主はその場でへたり込み、灰まみれの手で顔を覆った。
「……ありがとう、助かったよ」
ヴァルドが彼を立ち上がらせ、近くの裏路地へと誘う。
「ここでは人目が多い。落ち着いてから話を伺いましょう」
ーーー
裏の小さな石段に腰を下ろした店主は、肩で息をしながら語り出した。
「俺は、このカルナスで二十年以上、ひっそりと武具屋を続けてきたんだ……だが“ラブプラム武器商会”が現れてからすべてが狂った。良質な武具はあいつらが買い占め、鉄も革も独占され、俺の店には粗悪な品しか回ってこない」
「今日もいつも通り帳簿を整理しに来たんだ。そしたら……数人の黒い影が油を撒いて火をつけた。止める暇なんてなかった」
「……見たんだな、犯人を」
俺が問うと、店主はうなずき、悔しそうに歯を食いしばる。
「ええ……だが、証拠は残っちゃいない。役人に訴えても、ラブプラムの金で揉み消されるだろうさ」
店主の声は悔しさで震えていた。
俺は拳を握りしめる。
その時、背後から声がした。
「――やっぱりラブプラムですか」
振り向けば、金髪の少年ルカが立っていた。
「これで三件目です。ラブプラムにとって邪魔な店や商売人はみんな“偶然の火事”で潰されている」
彼は真剣な眼差しで俺を見つめる。
「詳しく知りたいなら……黒狼傭兵団に会うといい。明日の朝、詰め所で待っています」
そう言い残し、ルカは去っていった。
焦げた店を背に、俺は小さく呟いた。
「……いよいよ正面から向き合う時か」