第14話:交易都市カルナス
王都を発って二か月。
広く整備された街道を、俺たちは南へと進んでいた。
馬に揺られ、時折商隊や旅人とすれ違う。アストレアとカルナスを結ぶ交易路は、この大陸で最も賑わう道のひとつらしい。
「ふあぁ……尻が痛ぇ……」
馬上で呻く俺を見て、リシテアは肩の上でケラケラ笑った。
「最初は毎日落ちてたくせに、今じゃ随分サマになったじゃない」
「まあな。最初は運に助けられてばっかりだったけど……今はもう、自分の手綱でどうにかなる」
転げ落ちそうになった時、偶然茂みに落ちて怪我をせずに済んだこともあった。
けれど今は――馬の動きに合わせて体を揺らし、速度を操れる。
努力の成果と、少しの幸運が積み重なった結果だった。
もちろん道は平穏ばかりじゃない。
街道を外れれば魔物が潜み、行商人を狙う盗賊が襲うこともあった。
狼型の魔獣が群れで飛びかかってきたとき、俺は即座に剣を抜いた。
「はぁっ!」
鋭い牙を受け流し、横薙ぎで斬り払う。
体は自然に動き、剣は確実に敵を捉える。
「よし……!」
手応えを感じながらも、心の奥に確信があった。
(これは運だけじゃない。ヴァルドに叩き込まれた稽古が、ちゃんと身についてる)
ヴァルドは少し離れた場所から戦いを見守り、やがて静かに言った。
「……見事ですな。もはや初陣の頃とは別人ですぞ、カイ殿」
リシテアが満面の笑みで飛び回る。
「ほら見て! ちゃんと実力で避けたじゃない! 運ゲー卒業おめでとう!」
「卒業はしてねぇよ。俺の運は、ここぞって時の切り札だからな」
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交易都市カルナス
そしてある日。
潮風と共に、白い石造りの高い塔と、無数の帆船が見えてきた。
「……あれが、カルナス」
港に面した巨大な都市。
幾重にも連なる市場の屋根が陽光を反射し、喧騒と歓声が街道にまで響いてくる。
行き交う人々の服装も、アストレア王都とは全く違う。異国の香辛料、珍しい獣を連れた商人、そして活気に満ちた叫び声。
ヴァルドが目を細める。
「ここが大陸随一の交易都市――カルナス。あらゆる富と人が集まる地……そして、欲望もまた」
俺は拳を握った。
「資金も、人材も……ここで掴む。俺の国の第一歩は、この街からだ」
胸の奥で高鳴る鼓動を感じながら、俺はカルナスの大門へと足を踏み入れた。