第13話:旅立ち
謁見の間。
王座の前に立つ俺とヴァルドに、アストレア王は静かに頷いた。
「……そうか、交易都市へ向かうのだな」
「はい。国を作るためには、まず資金や人材が必要です。そのために交易の中心地を見てみたいんです」
俺は真っ直ぐに言葉を放った。
王は玉座を離れ、俺の前にまで歩み寄った。
「カイよ。そなたの旅路に幸多からんことを。道中の無事を祈る」
頭を垂れる俺に、リシテアが小声で「アンタ、王様にまで応援されてるんだから、絶対コケられないわよ」と茶化す。
王は家臣に合図し、一通の封書を俺に差し出させた。
重厚な蝋封が押されたその書状は、アストレア王の名を冠した正式な紹介状だった。
「これはカルナスの総督宛ての紹介状だ。そなたが我が国の使者であると証明するもの……だが」
王は少し言葉を切り、鋭い眼差しを向けてきた。
「交易都市カルナスは、王族ではなく商人ギルドが幅を利かせる地。王の印など、彼らにとってはただの飾りにすぎぬかもしれぬ」
「……つまり、あまり効力はないと」
「うむ。時に権威よりも、金が物を言うのがあの土地よ。ゆめゆめ、トラブルには気をつけよ」
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玉座の間を出た俺たちは、石畳の城門前で立ち止まった。
大きな門が開かれ、青空の下に続く街道が広がっている。
ヴァルドが馬の手綱を握り、俺に言った。
「さて、カイ殿。ここからが本当の旅路ですな」
「……ああ」
胸の奥が熱くなる。
運だけでなく、志を抱いて歩む旅が、今始まる。
リシテアが空をくるりと舞い、嬉しそうに笑った。
「行こう、カイ! これからが本番なんだから!」
俺は深く息を吸い込み、仲間たちと共に歩み出した。
――目指すは交易都市カルナス。
俺の夢の始まりを告げる第一歩だった。