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霧の中の遭遇戦

 夜の帷が白く染め上げられていく。

 川面を白い靄が走り、梢から羽ばたいた鳥達が軽やかな歌声で新たな一日の始まりを告げる。

 そんな中、朝靄をかき分けるようにして川を移動するメサイア達の中に、美奈代がいた。

 二宮は「メサイアが一騎ようやく通れる」と言っていたが、実際の所は2騎が並んで通れる広さがあるところがほとんど。

 情報部はいい加減だから困る!と怒りっぱなしの二宮と美奈代が前衛を担当し、後衛に長野がついていた。


 眠い。


 美奈代は心底ゆっくり寝たいと思いながら、重い瞼と格闘していた。


「センサーの反応なし」


 牧野中尉が事あるごとに話かけてくれるが、有り難いような迷惑なような、美奈代には何とも言えない。

 ―――これで戦ったら絶対死ぬ。


 美奈代には、その自信があった。


「宗像より二宮教官」

 通信機に宗像の声が入る。

 一体、どうしたらそんな平然としていられるのか教えて欲しかった。

 きっとMCメサイアコントローラーと一緒に寝たとかいうとんでもない理由が帰ってくるだろう。

「チームは私と早瀬でよいのですね?」

「いい」

 二宮が言った。

「柏と山崎、都築は長野大尉と組め」

 ―――あれ?

 美奈代はそこで気づいた。


 私は?


「和泉は私とだ」

「―――へ?」

 美奈代は思わず素っ頓狂な声をあげた。

「私と教官……ですか?」

「イヤか?」

「め、滅相もない」

「とりあえず、隊列はこのまま―――全騎、注意しろ。センサー類がまともに作動していない」

 その言葉に、美奈代はセンサー系統を表示する戦術モニターを見た。

 いくつものセンサー類がブラックアウトしているのにようやく気づいた。

「敵のジャミングかもしれない。気を付けろ」

「和泉候補生」

 牧野中尉が言った。

「極めて濃い霧です。ジャミングもあって前方の様子がわかりません。注意してください」

「了解」

 美奈代は目をこすると言った。

「斬艦刀、準備願います」


 それから3分ほどで谷間の半ばまで来た。


 谷川の流れが、大きく、くの字に曲がる所。

 谷から転げ落ちたんだろう。

 出っ張った大岩が邪魔でメサイア1騎がようやく通れる幅しかない。


 ザン

 ザン

 ザン


 歩く度に、メサイアの脚部が水を切る音が響く。


 ザン

 ……

 ザ……ン

 ザ…………ン


「……あら?」

 不意に騎体の移動が停まったのは、牧野中尉がこっそりレーションの封を切った時だ。

 センサー類は異常を捉えていない。

「どうしました?」

「……しっ」

 モニター越しの美奈代は人差し指を口元に当てた。

「……」

 美奈代が視線をさまよわせ、頭部保護のヘッドユニットにセットされているイヤホンを耳に押し当てる。

 ―――音だ。

 牧野中尉は、美奈代が何をしているのか、それでわかった。

 メサイアの耳が拾ってくる音は、自騎から発せられる音と、後続の騎の音がせいぜい。

 他の音は谷間を走る川の激しい流れの音でかき消されてしまう。

 牧野中尉も、耳を澄ませてみたが、何も判らない。

 ただ、騎体がそっと斬艦刀を背部に格納し、アフリカで取得したメースの剣に切り替えたのだけはさすがにわかる。

 一体、美奈代が何をしようとしているのか、牧野中尉にはわからない。

 救いを求めるように、精霊体の“さくら”を見るが、“さくら”自身もわからないという顔で首を横に振った。

 スクリーンの向こうは、濃い霧ばかりの世界。

 川岸の岩以外、何も見えない。


「……あの?」

 どうしました?

 牧野中尉がそう問いかけた直後だ。


 グンッ!

 弾かれたように騎体が動いた。


「―――えっ?」


 左腕が何かを掴み、無理矢理重い物を引っ張ったような感覚が走る。

 そして、右腕が動いた。


 騎体が、濃霧の中から何かを引っ張り出した。


 そんな感じだ。


 何を引っ張り出したのか、牧野中尉はすぐにわかった。


 霧の中から現れたのは、自分の騎に腕を掴まれた“帝刃ていば”だった。

 胸部から背中にかけてを剣に貫かれた“帝刃ていば”の眼から光が消えた。

 胸部装甲から無造作に剣が引き抜かれ、“帝刃ていば”が力無く崩れ落ちようとする。

 美奈代騎が動いたのは、その時だ。


 撃破した“帝刃ていば”を担ぎ、一気に谷を曲がった。


 ズガンッ!

 ―――バッシャァァァンッ!

 “帝刃ていば”同士がぶつかり合う音がして、一騎の“帝刃ていば”が川面に転がった。

 美奈代騎は躊躇せずにその“帝刃ていば”を踏みつけると、剣を頭部に突き刺した。

 剣の一撃が容赦なく“帝刃ていば”の頭部装甲と、その中身を粉砕する。


 辺りは濃霧。


 数メートル先がわからなくない濃霧の中。


 剣に貫通された“帝刃ていば”のMCLメサイア・コントローラー・ルームに開いた破孔から川の水が流れ込んでいく音でさえ、川の流れにかき消されてしまう。


「……」

 美奈代は、じっとスクリーンの向こう側を食い入るように見た後、呟くように言った。

「敵は2騎……後続なし。二宮教官」


「……」

 通信モニター上の二宮は、ポカンとした顔をしていた。

「二宮教官」

 美奈代にもう一度、名前を呼ばれ、ようやく自分が呼ばれていることに気づいた二宮は、やや裏返った声をあげた。

「あ、ああ!私!?」

「このまま、移動を継続しますか?」

「え?……そ、そうね」

 二宮はとってつけたような声で言った。

「このまま移動しましょう……谷を抜けたら、分散して移動。それでいいわね?」

「了解です」

 “帝刃ていば”を踏みつけ、美奈代騎が移動を開始した。



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