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ハンバーガービーチ

 ●ボルネオ島 米軍上陸地点 仮称「フォックスロット」海岸付近

 上陸用艦艇で埋め尽くされた海から陸にはい上がった海兵隊のAAV7装甲兵員輸送車部隊がエンジン音をまき散らしながら砂浜を走る。

 その横では、揚陸艦から続々と戦車と海兵隊員が吐き出されつつある。

「第一班は戦車の後に続け!」

「第二班、右へ展開!第三班は俺についてこいっ!」

「第一波の仇討ちだ!」

「応っ!」

 第一波として先に上陸、死体さえ回収出来なかった戦友達の仇討ちを心に誓う隊員達は、戦車に続いてランプから飛び降りると、ついにボルネオ島の砂浜に降り立った。

 戦艦の艦砲射撃はすでに止んでいる。

 海岸から見える限り、あらかたの施設が叩かれ、あちこちから黒煙が高々と上がっているように見える。

 中華帝国を思わせるモノは何一つ存在しない。

 海兵隊員達が見たボルネオ島は、むっとする熱気が体にまとわりつき、何か得体の知れないモノが焼ける、吸い込むだけで肺が爛れそうな、そうでなくても吐き出したくなるような、恐ろしい臭いを運ぶ黒煙に満ちあふれた最低の世界だ。


 本来の青い海、青い空、緑に満ちあふれた大地という、神に祝福された世界ではない。


 いつ砲撃が飛んでくるか。 

 どこに狙撃手が潜んでいるか。

 地雷が埋まっているんじゃないか。


 考えるだけで精神がどうにかなってしまいそうな中、海兵隊員達の視線は、一度ならずとも必ず“それ”に向かう。


 グレイファントム達。


 自分達を守ってくれる神像さながらに立ち並ぶグレイファントム達に視線を送るだけで、不思議な勇気を与えてくれる。


 ―――戦場における神とは、グレイファントムのことだ。


 誰が言い出したことかは知らないが、否定する者はそう多くない。

 その存在感だけで、この世に降り立った“戦の神”は自分だと、グレイファントムは見る者に信じさせてしまう。


 ―――大丈夫だ。


 その姿を横目に見ながら、海兵隊員達は、自然と自分に言い聞かせる。


 ―――“アイツ”がいる。だから、俺は生きて帰ることが出来る。


 そう、言い聞かせることが出来るのだ。


 グレイファントム達はゆっくりと移動を開始。

 すでに前衛に出ている部隊の後を追う。


「聞けクソ共!」

 小隊指揮官達が部下を怒鳴った次の瞬間だ。


 ギィィィィィッッッ!!


 背筋が寒くなるような音があたりに響く。


「伏せろっ!」

 海兵隊員達は、その音が何だか知っている。

 さっきまで散々聞かされた音だ。

 訓練通りでなくても、彼らはとっさにその場に伏せた。


 ズンッ!!

 ズンッ!!


 鼓膜が破れそうな音。

 背中の肉がそぎ落とされそうな勢いで突き抜けた衝撃波。

 遅れて走った熱風。

 その中で、海兵隊員達は、その光景を見ていた。

 ゆっくりと移動を開始したグレイファントムの3騎小隊のど真ん中で恐ろしく巨大な爆発が発生。

 グレイファントム達が一瞬にして爆煙の中に消え去った光景を。


 呆然とする海兵隊員達が次に見たのは、奇妙な格好で倒れ伏すグレイファントム達のなれの果てだった。


「じ、ジャップのご、誤射か?」

「違う」

 小隊の新米兵士の呟きを、小隊指揮官である古参の黒人軍曹は聞き逃さなかった。

 伏せた時にヘルメットが外れたことさえ気づいていない新米兵士へ転がっていたヘルメットを放り投げた軍曹は言った。

「“コンゴ”級なら近すぎる」

「じゃあ」

 ヘルメットを抱きかかえるようにして受け取った兵士は、あわててヘルメットを被った。

 中に入り込んだ砂が頭に降りかかった。

 顔をしかめてヘルメットを脱いだ彼を無視するように、軍曹は部隊に命じた。

「一番近い砲撃孔はどこだ!」

「あそこです!」

 一人が10時方向を指さした。

 何両の戦車が巻き込まれたのか。浅いクレーター状態の穴の周囲には、原型を止めないほどに破壊された戦車の残骸が転がっている。

 距離は200メートルほど。

 若干起伏のある地形が、爆発の衝撃波から自分達を上手く守ってくれたなんて複雑なことは、ハイスクールでさえ出ていない軍曹にはわからない。

 ただ、彼が爆撃や砲撃によって開いた穴について知っていることがある。


 ―――一度開いた穴に再び砲弾や爆弾が落ちることはない。


 それは、彼の経験に基づいても証明されていた。

 だからこそ、彼はそれに基づいて部隊に命じた。

「あの穴に移動するぞ!」

「単なる誤射でしょう!?」

 移動を開始した軍曹の後ろを、先程の新米兵士が慌てて追う。

「銃が砂を被っていないかチェックしておけ。終わったらコンドームで銃口を塞いでおけ」

 軍曹は言った。

「砲撃はしばらく続くぞ?これは誤射じゃねぇからな」


 彼らが砲撃孔にたどり着いたその時から、


 ギィィィッ―――ズズン!

 ギィィィッ―――ズズン!

 ギィィィッ―――ズズン!


 海岸には無数の艦砲が飛来しだした。

「司令部!艦砲を止めさせろっ!」

「敵はずっと後方だぞ!」

 これが日本軍の戦艦部隊の誤射だと判断した指揮官達は通信装置で必死に司令部と交信を試みる。

 その間にも、狼狽する兵士達の周囲で、艦砲射撃の着弾と、それに伴う爆発が連続して発生し続ける。

 一発の爆発で、グレイファントムや戦車が粉々に砕かれ、付近にいた不運な兵士達と共に破片となって周囲に降り注ぐ。



「ジャップめ!どこ狙ってやがる!」

「やめさせろっ!」

「司令部!艦砲支援をどこに要請しやがった!」


 砲撃が止んだのは、最初の着弾から10分後。

 後続の上陸は一時停止。海岸付近では、上陸のタイミングを逸した上陸用舟艇が立ち往生している。

 数発、海岸近くの海面に飛来した砲弾が高い水柱をあげたせいで、砲撃から逃れようと舟艇達が列を乱したせいだ。

 海岸では砲撃から逃れるべく海兵隊員が組織的に、あるいは個人で勝手に右往左往した結果、部隊間の連携どころか、部隊内部の連携でさえ寸断された状態に陥っていた。

 きっとホワイトハウスにでもおうかがいを立てているんだろう司令部からは海岸線の確保と、すでに移動を開始した前衛部隊に合流しろという、上陸当初からの指示が通信機に入るだけだ。

 あまりに同じ事ばかり繰り返す通信に業を煮やしたある小隊指揮官が、「司令部の連中、テープを流して女と飲みに行ったに違いない」と毒づいたとしても、誰も文句さえ言えなかった。


 上陸作戦に際して適切と選ばれた広い海岸は、海に接する範囲も広いが、奥行きもかなり広い。

 先日、グレイファントム達がひっかかったメサイア用塹壕のさらに先、敵が潜んでいるとされ、砲撃の的になった小高い丘まで余裕で2キロはある。

 海岸の砂はおそろしく細かく、気を付けていないと足がとられる。

 後続の部隊がようやく上陸を開始し、すでに上陸した後、砲撃のせいで動きを止められた先発の部隊がその針路を塞ぐ格好になった。


 ―――前進せよ


 司令部からは借金の督促同然にそんな命令が飛んでくる。

 それが司令部の命令なら、それに従うしかない。

 指揮官達はとにかく自分の部隊をまとめ、前進を開始した。

 戦車の大半は既に砂浜を抜け、メサイア用塹壕を迂回するルートをとっている。

 徒歩で移動する海兵隊員達だけが未だ砂浜を抜けられない。

 偽装された塹壕やトーチカに潜んで米軍の攻撃に耐えていた中華兵達の放った砲火が彼らに襲いかかったのは、その時だった。


 ズダダダダダッ―――!!

「敵襲っ!」

「どこだ!どこから撃っている!」

「狙撃兵だ!」

「違う!空からだ!」

 突然の銃声、悲鳴を上げることもなく倒れる隊員達。

 生き残った兵士達は、再び混乱の中に叩き込まれた。

 中華帝国兵が作った塹壕やトーチカは、徹底して海岸側からはそれと判断出来づらいように工夫されていた。

 それだけに、海岸に上陸した海兵隊員達にとって、ほんの少し海岸から進んだ所に中華兵達がいるなんて想像さえ出来なかった。

「馬鹿な!」

 指揮官は混乱する部下を怒鳴った。

「ここは阻止線の中だぞ!」


 ―――お袋の腹の中より安全


 ある海兵隊指揮官は、阻止線の中、つまり、今の彼らの立ち位置をそう評していたし、隊員達もそれを信じ切っていた。

 だが、それが油断という彼らの悲劇を産み出す元凶となった。


 海岸に伏せる彼らめがけてトーチカから放たれる濃厚な集中砲火が降り注ぐ。

 海岸のゆるい砂は逃げまどう海兵隊員達の足をもつれされ、その逃げ足を遅くする。

 火線になぎ倒される米兵達によって、海岸は今や死体の山だ。

 少しでも頭を上げれば吹き飛ばされる恐怖が走る。

 吹き飛ばされなくても、恐ろしくて頭を上げようという発想そのものがわかない。

 今や海兵隊員の中で立っている者はいない。

 皆が海岸の砂浜にしがみついて、この銃火の嵐が去るのを待つしかない。

 弾を避ける楯になるなら、戦友の死体まで使うしかなかった。

「塹壕を掘れっ!」

 誰かが叫ぶと、隊員達は脱ぐか戦死者の被っていたヘルメットで必死に砂浜を掘ろうとする。だが、

「くそっ!何だこれは!」

 砂質のせいで隊員達が命がけで掘る穴は、端から埋まってしまう。

 ある隊員は、泣きながら穴を掘る戦友をちらと見た。

 ―――向こうの方が深い。

 ふとそう思った次の瞬間、その戦友が頭を吹き飛ばされ、脳漿と血をまき散らしながら穴の上に倒れ伏した。

 隊員は、その戦友の死体の傍まで這っていくと、死体を突き飛ばして穴を掘り続けた。

 その穴を掘っているのが、自分で3人目だということを、彼は知らない。

 人がやっと入ることの出来る穴が掘れたのはかなり長い時間が過ぎた後だ。

 安心感から息が切れ、ふと見上げた向こうから何かが飛んでくるのを、彼はただぼんやりと見つめるしかなかった。


「前進しろっ!」

 彼らを追い立てるように迫撃砲弾まで飛来した。

 狙いは上陸用舟艇。

 無蓋の舟艇の中に飛び込んだ砲弾が、容赦なく兵士達を切り刻み、舟艇の中を阿鼻叫喚の地獄絵図に変える。

 砲撃が弾薬箱に命中した舟艇は一瞬で沈む。

 それでも舟艇部隊は海岸を目指す。

 海岸に部隊を吐き出せば彼らの仕事は終わる。

 終われば、彼らはこの地獄から逃れることが出来るのだ。


 だが―――


「軍曹!」

 シュルツ軍曹は、横にいたマーク一等兵に肩を叩かれた。

 マークは引きつった顔で空を指さした。

 軍曹は空を見た。


 青い空に星が瞬いていた。


 星?


 ―――違う。


 軍曹は、星の正体が何かを理解して青くなった。

 それは、自国軍が世界各地で敵兵女子供構わずに撃ち込んだ恐怖の嵐。

「MLRSだ!」


 もう遅い。


 こんな場所に撃ち込まれたらもう終わりだ。

 軍曹は思わず首から提げていたロザリオを握りしめた。


 ―――これから、無数に近い子爆弾が自分の周りで炸裂し、自分はこの祖国から遠く離れた場所で挽肉にされるんだ。


 ―――くそっ!神様っ!


 軍曹は神へ何と祈りを捧げて良いのか迷う間に、“それ”は彼らめがけて襲いかかった。

 艦砲とは違う奇妙な飛来音があたりを支配する。


 そして―――爆発音。


「軍曹っ!」

 ロザリオを握りしめた姿勢で目を固くつむった彼は、再びマークに叩かれて目を開いた。

 無事だ。

 自分も部隊も―――無事だ。


「ふ、不発か?」

「違いますよ!」

 マークは泣き出しそうな顔で海岸を指さす。

 そこにはランプが開いた上陸用舟艇が停まっている。

 海兵隊員が勢いよく飛び出してくる―――はずだ。

「ん?」


 様子がおかしい。


 誰も出てこない。


「今の攻撃は」

 マークは言った。

「俺達じゃなくて、舟艇を狙ったんですよ」

 やっと、恐ろしくゆったりとした、千鳥足に近い歩調で一人の海兵隊員が顔を出した。

 全身が血まみれで性別さえわからない。

 ランプ半ばまで歩いて、力尽きたように海に落ち、そのまま浮かんでこなかった。


 それだけで、中がどんな有様か聞かずともわかった。

 そのうち、何かに引火したんだろう。何隻もの舟艇の中で火災が発生し始めた。


 盛大な松明、もしくは死体焼き場となりつつある舟艇の炎を見ながらマークは呟くように言った。

「あ……ありゃダメです」

「くそっ……貴重な人手を」


 戦車部隊が血相を変えて舞い戻ってきたのは、すぐのことだ。

 トーチカめがけて無茶苦茶に近い発砲を繰り返し、片端からトーチカを潰していく。

 海兵隊員達が沈黙したトーチカに這い寄ると、中に手榴弾を放り込み、直後に小銃をその中へ乱射する。

 数名の中華兵の死体が転がる中、隊員達はトーチカの中へと飛び込んで生き残りを捜す。

「誰もいない!」

 一文字に掘られた穴を材木で補強し、遮蔽物で偽装しただけのそのトーチカには、機関銃一丁と無数の空薬莢、そして三人分の死体が転がっているだけだ。


 あとには何も残っていない。

「爆発物はない」

 床を調べていた隊員が言った。

「壁にも金属反応はないから大丈夫だ」


 安全な場所を確保出来たおかげで、隊員達はその場に思わずへたり込んだ。


「馬鹿な」

 隊員達は周りを見回した。

 周囲には、仲間しかいない。

 敵が、どこにもいない。

 死に物狂いで攻めるハメになったこのトーチカだというのに。

 戦車砲の爆発で頭をやられたんだろう、妙に臭い死体だけだ。

「まさか……たった三人で俺達をここに釘付けにした?」

「馬鹿な」

 薬莢を調べていた別な隊員が言った。

「口径が違う。間違いなく、ここでは他の銃も使われていた」

「じゃあどこに!」

 うち続く緊張に、思わず殺気だった声を荒げる。

「死体にでも聞け」

 その隊員がにべもなく言った途端―――


 ズンッ!!


 トーチカの外から、そんな音がした。


 このトーチカを砲撃した戦車の砲塔が吹き飛び、砲塔跡から盛大な炎と煙が上がっていた。

「地雷だ!」

 トーチカの外にいて、その光景を見ていた隊員が言った。

「地雷にやられた!―――この辺一帯、地雷原だ!他も酷いことになっている!」


 隊員は、興奮気味に何かを話そうとしたが、


 パンッ!


 隊員はその音を残して永遠の沈黙に入った。


「狙撃兵だ!」

 トーチカの外でそんな声がした次の瞬間。

 中華帝国軍の攻撃が再び始まった。

「トーチカに入れっ!」

 その号令と前後して外にいた隊員達が続々とトーチカに入る。

 攻撃は、トーチカの背後から襲ってきた。

 それまで沈黙していたトーチカが、突然発砲を開始したのだ。

「どういうことだ!」

「知るかよ!」

 隊員達はトーチカの中から応戦する。

 一人の隊員が射撃ポジションを求めたが、床に転がる死体が邪魔だった。

「どけっ!」

 彼は死体を蹴飛ばした。

 死体がゴロンと音を立てて転がる。

 その動きにあわせて、細いワイヤーが宙を舞った。



 ドズンッ!!

 腹に響く音がして、目の前のトーチカが吹き飛んだ。

 米兵の肉片がトーチカの天蓋に降り注ぐ音を聞きながら、中華兵達は歓喜の声をあげる。

「脳なしの米兵め!」

「ざまあみろっ!」

 

 米兵は、その物量で押しまくる戦術からして、正攻法で勝てる相手ではない。

 米兵とまともに戦うためには、頭を使う必要がある。


 朱少将が着目したのは、海岸の地質と、この島に放棄されていた鉱物資源採掘ロボット達だ。


 海岸の地質は地下1メートルまでは砂質だが、その下はかなりしっかりした地質であることが判明している。


 そして、


 ―――どんな土地でも穴を掘り、坑道を作り上げることが出来る。


 鉱山で捕まえた日本人技師はロボットをそう説明した。


 地質とそこに穴を掘るロボット。

 朱少将は、躊躇うことなくそのロボットで地下陣地を構築する工事に取りかかった。

 その結果がこれだ。

 

 全ては朱少将の作戦通りに進んでいる。

 二度に渡って米兵を阻止しつつある。

 俺達は、勝とうとしている!


 ―――朱少将は智将だ。


 兵士達は心酔にも似た感情で米兵達が吹き飛んだトーチカを見る。


 一カ所ではなく、何カ所でも同じようにトーチカに逃げ込んだ米兵達が殺されているのは明らかだ。

 米兵はトーチカに近づこうとさえしない。


 不意に、目前のトーチカから旗が上がった。

 中華帝国旗だ。

 友軍兵士が誇らしげにトーチカから旗を振るっている。

 トーチカを友軍が奪還した証拠だ。


 戦車が近づいてくるなり、トラップを仕掛けて重火器すべてを即座に坑道に移動し、壁に偽装した坑道入り口を塞ぐ。

 米兵がトーチカを占領した後、壁に仕掛けられていたトラップが作動し米兵は即死する。

 その後、坑道から出た中華兵が再びトーチカに入る。


 単純だが、確実な方法だ。


 地上を這い蹲る米兵を、安全な地下を移動しつつ、中華兵達は翻弄する。


 米兵にとって悪夢となった戦いの主役が登場したのは、このトーチカの攻防の後だ。


 戦いの趨勢を決めた主役の名は、97式93mmサーモバリック弾ランチャー。


 気化爆弾は、従来の火薬による爆発ではなく、霧状に散布された燃料(爆薬)と、空気が適度な比率で混合されることで発生する爆発的な燃焼効果により、高い破壊、殺傷効果が期待出来る兵器である。

 半径50メートル以内の兵士を無差別に殺傷する能力と、車両内部までを一瞬にして酸欠状態にしてのける特性が、海岸の海兵隊員を―――例え戦車や装甲車に乗っていたとしても変わらない―――容赦なく殺傷した。


 米軍は米軍呼称“フォックスロット・ビーチ”からの攻撃を断念し、上陸部隊は即座に海上へ撤退を開始。


 上陸作戦参加約5千名。生還者350名。


 海兵隊史上最悪の敗北となった戦いがこうして終わった。


 米軍呼称“フォックスロット・ビーチ”。


 戦後、その名で呼ぶ者はいない。


 米軍呼称“フォックスロット・ビーチ”。


 そこは、こう呼ばれている。


 俗称“ハンバーガービーチ”




 この敗北をもって、米軍司令部は、ボルネオ島の海上封鎖と、フィリピンに待機していた戦艦主体の打撃部隊、そして航空部隊の動員を決定した。

 目的を、占領ではなく、中華兵の殺傷という単純な目的に切り替えたのだ。



 ただ、今は、今のみ、海兵隊員達の戦いは終わった。



 だが、忘れてはならない。



 戦いを終えた。



 それは、海兵隊だけの事だ。


 海兵隊が全滅したことで予定を大きく狂わされた司令部は、“赤兎せきと”達のゲリラ的攻撃に翻弄され続けた阻止線担当部隊、つまり、前衛に出た戦車隊とグレイファントム隊への撤退命令を出しこそねた。


 その結果―――


 阻止担当部隊は中華帝国軍の包囲網に、完全に孤立した。


 当然、その中には美奈代達が含まれていた。






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