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第二次上陸作戦

●“鈴谷すずや

「ぼさっとしているヒマはないぞ」

 “鈴谷すずや”の飛行甲板に着艦しただけで、騎体から教え子達に降りることさえ許さなかった二宮は言った。

「で、ですけど……」

 さつきは恐る恐るという口調で言った。

「な、何人も死んでるんですよ?」

「被害集計はまだだが、軽く見積もって三千という所か」

「三千って……」

 さつきは目を丸くした。

「ウチの村の人口より多いじゃないですか!」

「だからどうした?」

「ど……どうしたって言われても」

「前の戦争では、一度の戦いで万の単位で戦死者が出るのが相場だった」

「……」

「米軍も、三千の兵隊殺されて黙ってるはずがない。斬り込み隊はやられたが、本隊がその仇を討つ」

「うっ」

「“伊吹”一隻で何人死んで、我々がどう動いたか考えろ」

「攻撃は、いつです?」

「金剛級の弾薬補給が終了してからだから……おそらくはあと6時間後だ」



「急げっ!」

 海岸周辺は、中華帝国兵が汗だくになって動き回っていた。

 上空を友軍の戦闘機が警戒に出ている。

 たった1機にすぎないが、それでもいるといないとでは大違いだ。

 空から襲われたらシャレにもならない。

「地雷は二重に埋めろっ!」

「そこっ!対戦車地雷はもう少し間隔をあけるんだ!」

 砂浜をシャベルで掘る兵士達に指揮官は矢継ぎ早に命令を下す。

 その背後、あのメサイア用塹壕の周囲では、新たな爆弾の埋設や、グレイファントム達の処理が続いている。


 パンッ

 パンッ


 メサイアや重機の音に混じって、乾いた音が響く。

 歩兵隊第二班指揮官の一人、治軍曹は、その音に顔をしかめた。

 砲撃で開いた大穴の辺りだ。

「よう治」

 休憩に出ていた第三班指揮官の悟軍曹がズボンのベルトを直しながら意気揚々と近づいてきた。

 恐ろしくすっきりとした顔をしていた。

「交代は30分後だったな」

「……」

 悟軍曹が何をしてきたか知っている治軍曹は、無言で部下を見張っているフリをした。

「何だよ」

 ポンッ

 悟軍曹は、楽しげに治軍曹の肩を叩いた。

「米兵の女も悪くなかったぜ?」

「……お前」

「おいおい。そんな怖い顔すんなよ―――なんでも、初物だったらしいぜ?米国の女って、9歳位で体売ってるって聞いてたけどな」

「……」

「しょうがねぇだろ?メサイア一気に仕留めた対戦車攻撃班が一番手柄だ。捕虜の女一番にヤれたって。あー畜生っ、俺が30人目だったおかげで、女の反応悪い悪い」

「捕虜虐待って言葉、知ってるか?」

「オトコの方は皆殺しだぜ?」

 悟軍曹は驚いた顔をした。

「女も、始末が始まっている。早くしろよ?残ってるのはそう多くない。我慢出来ずに、メサイアから死体引き出してヤってるヤツもいる……この気温だ。腐るの早いから気を付けろ?」

 治軍曹は、そう言い残して部隊に戻る悟軍曹の背中に毒づいた。

「地獄に堕ちろ―――この馬鹿者が」



 正直、朱少将達は捕虜の処遇に構っている余裕は全くなかった。

 憲兵隊が処理してくれるだろう程度にしか考えていなかった。

 よもや、憲兵達が金をとって、捕虜になった女性を兵士達に強姦させることで、私腹を肥やしているとは全く予想さえしていなかった。

 前線各地で無数に発生した事態ではある。

 耐えられず、舌を噛みきったり、抵抗してその場で殺された女性捕虜の正確な数は、戦後いつまでたっても、いや、永久にわからないままだろう。


 第一、朱少将にとって、問題は次に来るだろう米軍上陸部隊に対する備えをいかに構築するかだ。


 すでにこちらの手の内は一度、明かしている。

 いくら米兵でも、二度も三度も引っかかるほど愚かではないだろう。

 効率的に敵を殺す方法を考えなければならない。

「敵のメサイアの数はどの程度だ?」

「スパイの情報では、第一波の2倍です」

 参謀は答えた。

「第一波に戦力を集中し、メサイア隊だけで戦局を決めるのが米兵の腹づもりでしたが」

「我々が、それを覆したというわけか」

 クックックッ……朱少将は楽しげに頷いた。

「よろしい。久々に楽しい気分だ」

「メサイアの戦力差はそれでも均衡がとれません」

「そうだな」

「まぁ」

 参謀は目をつむって頷いた。

「手は打ちました。後は―――」

「……」

「誰に祈るべきか……命令を」




 メサイア隊による上陸作戦が開始されたのは、第一波の全滅から約7時間後。

 グレイファントム達が海面をホバー移動して突撃する。

 海岸線には敵の姿はない。

 グレイファントム達は海岸に上陸に成功するや、一気に内陸を目指す。

 沖合では、上陸部隊本隊が上陸用舟艇を発進させた。

 第一波失敗の原因は、メサイア隊が艦砲支援の元、上陸部隊の揚陸をのんきに待ち続けていたことであり、それが敵に反撃の余裕を与えたというのが米軍司令部の判断だ。

 だからこそ、今回はメサイア隊に一気に敵陣地へ攻め込ませ、敵戦力をメサイア隊に集中させる。その間に上陸部隊は揚陸を完了させる手はずになっている。


 実際、グレイファントム12騎で構成される“ゴースト・ライダー”隊は、海岸からあの悪夢の塹壕を一気に飛び越え、“赤兎せきと”達が待ちかまえる塹壕への斬り込んだ。

 塹壕同士の距離は約1キロ。

 塹壕に籠もり、速射砲や狙撃砲を構える“赤兎せきと”達からの反撃はない。


 “ゴースト・ライダー”隊の誰もが自分達の勝利を確信した。


 グレイファントム達が半ばまで来た時だ。


 ズンッ!


 激しい爆発音がして、ホバー移動していたグレイファントムが2、3騎、脚部を吹き飛ばされ、ホバー移動のスピードのまま、大地を激しく転がった。

 それが合図だったように、あちこちに潜んでいた“赤兎せきと”達から速射砲や狙撃砲、そしてML(マジックレーザー)による攻撃が開始された。

 右へ左へとホバー移動で移動するが、それが逆に彼らの寿命を縮めることになった。

 そのランダムな動きは、地面に仕掛けられていた対メサイア用地雷への接触の可能性を高めるだけだ。

 足を地雷で吹き飛ばされ、大地に転がったところのもう一発で胴体に風穴を開けられ、そこに火砲を叩き込まれる騎が続出。

 “赤兎せきと”達の塹壕へと無傷でたどり着けたグレイファントム達は、一騎もいなかった。



「ど、どうするんです!」

 その光景を目の当たりにしたのは、“ゴースト・ライダー”隊の後続に命じられた部隊。つまり、美奈代達だ。

 右足が吹き飛ばされ、何とか動こうと藻掻くグレイファントムが、集中砲火を浴びて目の前で沈黙した。

「このままじゃ!」

「全騎っ!」

 パニック寸前の教え子の声を遮るように、二宮ば怒鳴った。

「おとなしくしてろっ!艦砲が来るぞっ!」


 ギュィィッ!

 ギュィィィッ!


 その背筋が寒くなるような音の後、何かが雨のように目の前に降り注いだかと思うと、連続した爆発が辺り一面で発生した。


「―――時雨弾」

 美晴のポツリとした言葉が、通信機に入った。

「時雨弾?」

「海軍が開発した集束砲弾だ」

 二宮は怒りを込めた声で言った。

「和泉―――座学で教えたはずだぞ?」

「えっ?」

「いつもいつも座学で寝ているからだっ!」

「そういうことじゃなくて!」

 美奈代は慌てて怒鳴った。

「目の前、わかってますか!?」

「―――ちっ、和泉、後で覚悟しておけ」

「グスッ……戦死したい」

「全騎っ!地雷は吹っ飛んだ!これから斬り込むぞ!」

「艦砲支援は!?」

「都築、吹き飛ばされたいのか!?」

「くそっ!」

「長野だ。各MCメサイアコントローラーは攪乱幕準備。発射タイミングを二宮騎に同調させろ。ジャマー散布開始とタイミングを同じくしてブースター突撃する」

「こちら二宮騎―――攪乱幕発射……今っ!」

 バンッ!

 各騎に背部ラックに装備されていたロケットランチャーから数発のロケットが飛び出した。

 強力な攪乱幕を展開する特殊魔法が施された重粒子が詰め込まれたそのロケット弾は、“赤兎せきと”達の狙撃によって、その頭上で爆発した。

 その途端、美奈代の目の前、戦術モニター上に並んでいた“赤兎せきと”達の反応が一斉に消えた。

「攪乱幕の効果は3分だ」

 二宮は言った。

「それまでに始末する。陣形楔、全騎―――続けっ!」


 美奈代達は、二宮騎を先頭に一騎に敵陣に向けてブースター全開で飛び込んだ。

 ホバー移動の機動性はないが、それでも突撃のスピードはこちらの方が早い。


 攪乱幕でモニターにまで被害が出た“赤兎せきと”達に、その突撃から逃れる術は無かった。

 

 スクリーン一杯に迫り来る“赤兎せきと”。

 速射砲を構え直すヒマもなかったらしい。

 人間の顔が付いていたら、唖然としたいい表情が見えるだろう。

 二宮はふと、そんなことを考えつつ、“赤兎せきと”めがけてシールドのエッジを叩き付けた。

 “赤兎せきと”の喉元に命中したその一撃で、“赤兎せきと”の頭部が吹き飛ばされ、宙を舞った。

 二宮騎がシールドを構え直すよりもはやく、その教え子達もまた、目の前の敵に食らいついた。

 さつきの槍が連続した突き技で一気に2騎の“赤兎せきと”の喉に命中した。

「よっしゃっ!」

 2騎目の喉に、槍を命中させたさつきは歓声をあげた。

 槍が引き抜かれると同時に、“赤兎せきと”が力無く塹壕に転がる。

「次っ!」

 その横では美晴騎が薙刀を振るっていた。

 塹壕に飛び込むこともなく長いリーチを活かせる長物を使える2騎は、このような戦場では圧倒的に有利だ。

 美晴の薙刀が一降りで2騎の“赤兎せきと”の首を切り落とした横から山崎騎が塹壕に飛び込んだ。

「―――ふんっ!」

 その斧で片端から“赤兎せきと”を切り刻む。

 僚騎が脳天から騎体を真っ二つにされたのを見た“赤兎せきと”が速射砲を逆手に持って襲いかかってくる。

 ガンッ!

 速射砲がへしゃげ、斧との力押しの勝負になる。

「このぉっ!」

 山崎が力押しに負けまいとSTRシステムに力を込める。パワーがレットゾーンにまで一気に飛び込み、“赤兎せきと”の脚が塹壕にめり込もうとしていた。

「山崎君っ!」

 山崎の耳に、美晴の鋭い声が響く。

 途端、

 山崎は自分の騎体に背後から何かがぶつかった衝撃を受けた。

「くっ!」

 山崎は、力押しの勝負になっていた目の前の“赤兎せきと”の腹を蹴りつけてバランスを崩し、ふりかぶった斧で、一気にその頭部を粉砕した。

 ふりかえった山崎が見たモノは、自分の騎にもたれかかるようにして倒れる“赤兎せきと”だった。

 塹壕の上からは、美晴のアリアが薙刀の切っ先を降ろした格好で、自分を見下ろしていた。

 攪乱幕の影響で、恐ろしく接近しないとセンサーが作動しない。

 前にばかり神経を集中して、後ろを疎かにした自分の醜態だと思うと、山崎は恥ずかしくなった。

「美晴さん」

「貸しておくね♪」

 そのあっけらかんとした声が山崎にはありがたい。

「それはどうも」

 山崎はそういうが早いか、美晴騎の脚を掴むと一気に塹壕に引っ張り込んだ。

「きゃっ!?」

 山崎騎が塹壕に落下してくる美晴騎を右手で受け止めると、左手で美晴騎から薙刀を奪い、そのまま塹壕の上に突き出した。

 ガンッ!

 薙刀の石突が美晴騎の背後から襲いかかろうとした“赤兎せきと”の装甲の隙間に飛び込んだ。

 石突が動力バイパスに重大な損傷を与えた“赤兎せきと”は、斧を振りかぶった姿勢で動けない。

 山崎は美晴騎を立ち上がらせると、薙刀を手渡した。

「―――これで勘弁してください」

「勿論♪」

 ガンッ!

 美晴の一撃が、“赤兎せきと”の両脚を切り払ったのはその直後だ。


 ザンッ!

 “赤兎せきと”を袈裟切りに切り倒した二宮は、自分のパートナーである唯に尋ねた。

「戦況は!?」

「この一帯は制圧。後続のグレイファントム隊が続きます」

 攪乱幕が引き始めている。

 ブラックアウトしていたモニターに情報が次々と戻りつつある。

「くそっ。美味しいところだけ独り占めするつもりか?」

 二宮は、ちらりと海岸から接近しつつあるグレイファントム達を恨めしそうに睨んだ。

「バカ娘達は?」

「かなりスコア稼いでいますが……あっ!」

「どうした?」

「都築騎が奧へ入り込んだ模様。和泉騎がその支援に」

「奧?」

「敵、後詰め部隊のいる方角です」

「あのバカっ!」

 二宮がそう怒鳴った途端だ。


 ズンズンズンズンズンッ!


 二宮騎だけではない。

 塹壕周辺にいたメサイア達の周囲で一斉に爆発が発生した。

「何だ!?」

「トーチカです!」

 唯が怒鳴った。

「トーチカからの砲撃。ここは十字砲火交差地点ですっ!」

「―――戦艦部隊へ通報!」

 即座にそう命じた。

 トーチカを潰すだけの装備は持ち合わせていない。

「了解」

 二宮は、トーチカからの火砲を避けるため、塹壕の中に飛び込もうかと考えたが、直前になってやめた。

 横で飛び込もうとした長野騎を押しとどめ、怒鳴る。

「万一のことがある―――下がれっ!」

 教え子達が塹壕に飛び込んでいないことを確認した二宮は、35ミリ速射砲を塹壕の中めがけて乱射した。

 ズズズズズンッ!!

 地面が激しく揺れた程の爆発が連続して発生。塹壕から大量の土砂とメサイアの残骸が吹き上がった。

「なっ!?」

「ゆ、友軍の塹壕にしかけたというのか!?」



 ビュンッ!


 騎体の真横を砲弾がかすった。


 一々感慨に浸っている場合ではない。

 二宮は塹壕に騎体を飛び込ませた。

「どうします?」

 横に滑り降りた長野が訊ねた。

「このまま行きますか?」

「いくら何でも、トーチカの火砲をMCメサイアコントローラーがコントロールしているなんて冗談はないだろう」

 喉で笑ったつもりだが、二宮はうまく笑えなかった。


 二宮の目の前。

 小高い丘に過ぎないと思っていた場所は、よく見ればコンクリートで固められた砲塔が並ぶ立派なトーチカだった。

「くそっ。情報が違いすぎる」

 二宮が、そう恨めしそうに呟いた次の瞬間、

 金剛達が放った40センチ砲弾がトーチカ一帯に降り注いだ。





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