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伊吹の最後 第二話

 “伊吹”へ向かえ。

 総司令部からそんな命令が下されたのは、正午どころか、すでに15時を回った頃のことだった。


 遅すぎる!


 平野艦長が命令文を床にたたきつけたという話を聞いて、無理もないと思ったのは美奈代だけではない。


 14時過ぎに“伊吹”が墜落した方角で大規模な爆発音と煙が立ち上ったのが観測されている。


 “伊吹”が沈んだと、誰もがそう思った。


 それだけに、司令部の決断の遅さに、皆が怒りを覚えていた。

 “伊吹”沈没の報告を受けた時点で救援を許可してくれたら、一体どれだけの仲間を助けることが出来たと思っているんだ―――と。


 しかも、その司令部の命令は乗組員の逆鱗に触れる代物だった。

 最優先目的は、暗号書類の破棄及びメサイアの回収。

 それが不可能な場合は、艦とメサイアの、テルミット弾による爆破処分。

 さらに可能な場合、“伊吹”の機関部を回収しろ。


 そこに、乗員の安否という言葉は書かれていなかった。



「気楽に言ってくれるな!山の向こうに何がいるかわからないというのに、回収任務だと!?」

「偵察ポッドのデータから、沈没地点はわかっていますが……本当に行くんですか?」

 艦長席の横に立つ高木副長が訊ねる。

「本艦を危険にさらすことになりますが」

「行けという命令だろう?」

 美夜は艦長席に座り直すと、制帽の位置を正した。

 高木の経験上、美夜がこの仕草をとる時は一つだけ。

 怒りを内部でねじ伏せている時だ。

 制帽から手を離した美夜は言った。

「二宮中佐騎回収、中佐を艦橋へ」



 所属不明艦の調査を中断した二宮は、生存者の搬入を美奈代達に任せて艦橋に入った。


「偵察ポッドのデータから、“伊吹”の不時着地点はここよ」

 美夜が手元のパネルを操作して、艦橋の壁一面を占めるメインモニターに表示された地図に丸を描く。

 扇状地を形作る山を越えて、すぐ裏手に広がる小さな市街地のど真ん中だ。

「距離にして約5キロ。被弾時に艦橋を破壊されたのは、メサイアから回収されたデータでわかっている。迷走してここに墜ちたのね」

「生存者からの通信は?」

「狩野粒子のレベルが高すぎて通信不能。何とも言えないわ」

「……っ」

「“鈴谷すずや”も回収に出るからね。護衛よろしく」

「沈むわよ?」

「仕方ないでしょう?」

 美夜は肩をすくめた。

「“伊吹”のエンジン回収しろっていうんだから」

「回収してどうするのよ」

「再利用するのよ。当然でしょう?幸い、エンジンブロックのタイプは“鈴谷すずや”と同じだから、ロックを解除してドッキングさせるだけ。作業は半日もかからない」

「そこを敵に狙われたらアウトよ?」

「艦内の生存者探すのにかかる時間は同じくらいを見ているわ」

「……ねぇ」

「ん?」

「エンジン回収は命令?それともあんたの欲望?」

 美夜はニヤリと意味深げに笑った。

「―――どっちだと思う?」



 ロンダ・シティ。


 かつて、そう呼ばれた地方都市があったこと自体、美奈代は知らなかった。

 かつて人口は30万人を数え、この国では首都に次ぐ規模の都市だったというが、美奈代にとっては廃墟でしかない。

 主を失ったビルや木造の家屋の群れの中を、美奈代達はゆっくりと進んだ。

 道路の真ん中、アスファルトの割れ目からは、驚く程成長した木々が幹を延ばし、倒壊した家屋は草の中に消えようとしている。


 街が、ゆっくりと緑の中に帰ろうとしているような、そんな錯覚さえ覚えてしまう。


「“伊吹”周辺をまず焼き払え」

 二宮は美奈代達に命じた。

「遮蔽物の一切を破壊し、視界を確保するんだ」

「そんな派手な動きをして」美奈代は訊ねた。

「敵を誘うんですか?」

「敵はすでに我々の存在をご存じだろうさ」

 ふんっ。と、二宮は鼻で笑った。

「我々の行動がお目こぼしいただけるかどうかは、敵さんの胸先三寸だ」



 “伊吹”の位置はすぐにわかった。

 

 ロンダ・シティの中心部を為すビル群をなぎ倒し、市中央の幹線道路を使用不能なまでにえぐりながらスライディング、舳先を巨大なビルの根本に叩き付けた状態で停止していた。

 崩壊したビルが艦の舳先を押しつぶすように倒れているので、最初、二宮が「見つけた!」といったものの、美奈代はそれがどこにあるかわからなかったほどだ。

 艦体は被弾と不時着時のダメージで見るも無惨な状態。

 というより、艦の形を維持しているとは言い難い。

 もはや、艦としての命運は尽きているのは誰の目にも明らかだ。


「こ……これって」

 それが、つい昨日まで自分たちが乗艦した艦だとは誰にも思えなかった。

 さつきは目を見開いた。

「せ、生存者は!?」

「……か、艦内に妖魔が侵入していますっ!」

 それはすぐに悲鳴のような声に代わった。

「教官っ!」

 美晴までが悲鳴に近い声を上げた。

「あ、あそこっ!ビルの根本のかげっ!」

 美晴騎が指さす場所。

 それは、“伊吹”の体当たりを受けて折れた巨大なビルの根本。

 その残骸に隠れるようにして倒れているのは―――

 “幻龍げんりゅう”だ。

 大の字になって倒れている騎には、無数の白い虫がたかっている。

 人間の死体にたかる蛆虫そのままの光景に、美奈代は思わず視線を背けた。

「全騎っ!脚を地面につけるな!唯っ、だ、誰の騎かわかる?」

「識別受信……」

 二宮の耳に、MCメサイア・コントローラー青山唯あおやま・ゆい中尉が息をのんだ音が聞こえた。

「い……池田大尉です。生存反応、MCメサイア・コントローラーと共になし」

「―――くっ!」

「コクピットブロックのハッチに何か障害があって」

 長野は言った。

「そこにこいつらに入り込まれたんでしょう。両方のコクピットに虫がたかっている」

「これが虫ですか?」

「和泉、他に表現があるのか?……これは……中佐」

「テルミットを。騎体を焼却し、エンジンブロックのみ回収する」

「……了解」

 長野騎が投擲したテルミット弾が“幻龍げんりゅう”の騎体の上で跳ね、爆発した。

 炎が騎体を包み込み、逃げ遅れた虫達が炎の中に消える。

 メサイアのエンジンは構造上、超高熱超高圧に耐えられる特別な魔法コーティングが施されている。

 騎体が高熱によって焼き払われても、エンジンだけは残る。

 このエンジンを回収し、再び組み付ければ、メサイアはいつでも再生出来る。

 なにより、エンジンは機密の塊だ。

 下手に敵や他国に回収されれば、騎体の性能がわかってしまう。

 それだけに、エンジンをそう簡単に放棄することは出来ない。

 例えそれが、どれほど憎らしいヤツの乗騎でもだ。


「各騎」

 二宮は美奈代達に命じた。

「どこにどんな妖魔がいるかわからないぞ。警戒を怠るな。着陸する前に着陸地点をまず焼き払え」


 ロンダシティの一角を焼き払い、その焼け跡に着地した美奈代達は、二宮の指揮の元、“作業”を開始した。

 外部を美奈代達が焼き払い、“伊吹”の生存反応がなく、妖魔が密集する区画を二宮達が焼き払う。

「乗組員の生存者達のほとんどは、艦内の機関部に逃れたらしい」

 長野は言った。

「機関部の分厚い隔壁を閉鎖してその中に逃れた。そこまでたどり着けんかった者は妖魔の餌になった……そういうことだな」

 その口調は決して楽しげではない。

「どうするんです?」

「飛行艦の機関部はそれ自体が艦だ」

 二宮は言った。

「通信装置が破壊されているんだろう。外部からのアクセスが出来ない。機関部に潜り込んで話しをつける」

「危険です」

 宗像が止めた。

「こんな状況下に置かれたんです。誤認されたら蜂の巣ですよ!?」

「それでも」

 二宮はハッチを開いた。

「誰かが行かなくてはなるまい……宗像、護衛を頼んだぞ。ついてこい」

「教官っ!?」

 二宮がハッチから身を乗り出した時。

「……ん?」

 二宮は、視線の端で何かが動いた気がした。

「気のせい……か?」

「中佐」

 青山唯あおやま・ゆい中尉の声が耳に届く。

「平野艦長からです。陸戦要員を回すので早まらないようにと」

「誰が死に急いでいるのよ」

「“死ぬなら貸した金返してからにしてくれ”と」



「落ち着けっ!」

「諦めるなっ!」

「今から助けに行くぞ!」

 “鈴谷すずや”から到着した兵士達が、開かれたハッチめがけてメガホンで怒鳴る。

 その横では整備兵がバーナーでドアを焼き切ろうとしている。

 ドアの向こうからはひっきりなしに、

 カーン

 カーン

 という音がしている。

 中で乗組員達がパイプか何かで壁を叩き、生存を教えているのだ。

 皆、その音のみを希望として作業に没頭する。


「和泉騎はハンガーデッキへ侵入。ハンガー内のメサイアを外に引きずり出せ」

「了解っ!」

 広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムを構えながら、甲板に移動した美奈代がまず目にしたのは、カタパルトに固定されたまま放棄された“幻龍改げんりゅうかい”。


 ……いや。


 “幻龍改げんりゅうかい”の“一部”だったモノだ。


 美奈代の目の前に広がるのは、黒く溶けた床だ。

 まるで延ばされたアメのようになって、溶け落ち、下のデッキが丸見えになっている。

 その真ん中で溶けずに残ったのは、リニアカタパルトのシャフト部分だ。

 その上には、カタパルトと“幻龍改げんりゅうかい”の脚部とおぼしき物体が乗っている。


「こ……これは……」


「発艦待機中に被弾して、広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムのリキッドが」

 牧野中尉は顔を引きつらせながら言った。

「……引火したんでしょう。」


 広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムのリキッドは引火すれば、一瞬にして数万度に達する炎を生み出す代物だ。

 それが艦内で引火したとなればどうなるか。

 美奈代は身をもってそれを知った。


「その引火した……騎体は?」

 

「原型さえとどめていないでしょうね……エンジン以外」

 牧野中尉は言った。

「下に4つのエンジン反応―――騎士のMCメサイア・コントローラーも助からなくても、エンジンだけは残りましたね」

「……」

「引火、爆発はこの飛行甲板を吹き飛ばしただけで済んだようです」

 ズタズタになった飛行甲板の構造物を一別した牧野中尉は言った。

「ここからの侵入は厳しいですね。下デッキは構造上、メサイアの重量に耐えられません。一度外に出て、第2ハッチからハンガーデッキに入りましょう」

「この辺、生存者の反応はありませんか?」

「この周辺では考える必要さえありません」

「で、ですけど」

「リキッドの爆発は、一瞬で周辺の酸素を燃やし尽くす、一種の気化爆弾です」

 牧野中尉は言った。

「その中で生存していたら―――それこそ冗談です」


 墜落の衝撃で吹き飛んだのか。

 “伊吹”のハンガーデッキ物資搬入出用ハッチから侵入した美奈代は、少しだけ安堵の表情を浮かべた。

 前衛作家の作品のようになったフライトデッキとは違い、ハンガーデッキはまだまともだった。

 ハンガーベッドから吹き飛ばされたらしい“幻龍改げんりゅうかい”達が、直立した姿勢のまま床に倒れている。


 大丈夫だと思ったのは、デッキの入り口までのことだ。


 被弾した時、ハンガーデッキ内部で移動作業中だったのが災いしたのだろう。

 内部で固定されていなかったメサイア達がハンガー内部でかなり派手に転げ回ったことは、ハンガーデッキ内部の破損を見れば用意に想像が出来る。

 “征龍改せいりゅうかい”のライトに照らし出された壁は床から天井まで、あちこちがめちゃくちゃにへこんでいる。

 左側の壁では、“幻龍改げんりゅうかい”が半ばめり込んでいる。

 床にはメサイア達が機材や兵器の残骸と共に転がっている。

 ひっくり返った補助動力装置の下には、何かを引きずったようなどす黒い跡が残っていた。

 壁にも、似たような痕跡がいくつも残っている。

 その跡が何かを考えないようにする美奈代の目の前に転がる“征龍改せいりゅうかい”達は、手足が失われた騎ばかりではなく、騎士、MCメサイア・コントローラー用のハッチが爆破解放された物も少なくない。


 美奈代は、五体満足な騎体を探した。


「あった」

 整備用のハンガーベッドに固定されていた一騎の“幻龍げんりゅう”だけだ。

 ハンガーロックを解除するだけで一苦労と気づいたのは、すぐのことだ。

 床に転がる“幻龍改げんりゅうかい”達を前に、正直、何から手を付けていいのかさえわからない。

「まさかと思いますが」

 美奈代は牧野中尉に尋ねた。

「ここに妖魔が侵入してる可能性は?」

「ありえますね」

 牧野中尉は何でもない。という顔で言った。

「整備部隊とベルゲを入れますから、妖魔の探索を優先しましょう。“さくら”?」

「はぁい」

 “さくら”が片手をあげて返事をした途端、“征龍改せいりゅうかい”のセンサー感度が一気に高まった。

「いるよ」

「どこ?」

 さくらは不意に、指先を上に向けた。


 次の瞬間―――


 ボトッ!


 本当にそんな音がして、スクリーンが真っ暗になった。

「えっ?」


 ゴソゴソゴソ


 そんな音だけが聞こえてくる。


「な、何?」


 ゴソゴソゴソ


 不意に、スクリーンの映像が回復した。

 まるで、何か遮蔽物が上に移動することで視界が広がったような―――


 問題は、その視界の隅で動いているもの。

 恐ろしく悪趣味な色彩を持つ何かが、“征龍改せいりゅうかい”の光学合成によって、照明に反射した色を鮮明に輝かせる。

「あのぉ……」美奈代は声が震えていた。

「これ……何かで見た気がします」

「何に見えます?」

 牧野中尉の声も涙混じりだ。

「でっかいクモのお腹」

「たぶん……正解です」

 牧野中尉が言った。

「私―――もうダメです」


 プシュン


 そんな音がして、“征龍改せいりゅうかい”のパワーゲージが一瞬にして半分になった。

 それだけではない。センサーは軒並みダウンしている。


「―――へ?」


 ピーピーピーピー


 聞き慣れない警告音が響き渡り、“MCメサイア・コントローラーに異常事態発生”を告げる警報が視界に表示されたのは次の瞬間だ。

「気絶している可能性あり?―――ちょっとぉ!」

 警告を読んだ美奈代があわてたのも無理はない。

 メサイアを管理するMCメサイア・コントローラーがいなければ、メサイアはまともに動かないのだ。

「起きてください、牧野中尉っ!」

 美奈代はたまらず大声で怒鳴った。

「たかがクモ一匹、ちょっとデッカイだけじゃないですか!」

 当然、返事はない。

「クモなんかよりずっと厄介でバケモノな人が何やってんですか!」

 クモが目の前で動いた。

 尻から出ているのは、間違いなく糸だ。

 本能的な危険を感じた美奈代は、恐ろしく重くなったSTRシステムを操作して、広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムのノズルを上に向けた。

 その灼熱地獄は、かすって無事で済む代物ではない。

 センサーのかなりにダメージが来ることは避けられない。

 だが、ここで死ぬわけにもいかない。

「“さくら”―――恨むなら中尉を恨みなさい!」

 ノズルを慎重に調整しながら、

「これは―――中尉のせいっ!」

 美奈代はそう怒鳴り、トリガーを引いた。


 ギシャァァァァァァァッッッ!!


 騎体表面温度の急上昇の警報が鳴り響く中、騎体の間近を紅蓮の炎が走り、背中を焼かれた巨大なクモがハンガーデッキの床に落下。のたうち回る。

「―――こいつっ!」

 美奈代は腹を見せながらもがくクモにもう一度、トリガーを引いた。

 外に絶対出たくない!

 絶対、恐ろしいにおいが立ちこめているに違いない。

 火葬されたクモの腹からは吐き気を催すような色の液体がにじみ出し、床に広がっていく。

「クモはいなくなりましたから!」

 今、美奈代の感心はクモの死骸ではなく、自分の頭上でノビている牧野中尉にあった。

「起きてください―――よっ!」

 美奈代は“征龍改せいりゅうかい”の上半身を激しく揺すった。

「これで起きない!?どれだけ神経が図太いんだ、あのクソ中尉!」

「マスター」

 ひょっこり顔を出したのは“さくら”だ。

「私、起こしてこようか?」

「頼めるか?」

「うん」

 “さくら”は頷くと、両手の握り拳をリズミカルに繰り出す動きをした。

 “さくら”の愛らしい仕草からすぐに気づかなかったが、それか゜ボクシングだと気づいた美奈代が何か言う前に“さくら”は姿を消した。


 そして、次の瞬間―――


 ガスッ!

 ドカッ!


 牧野中尉のいるMCRメサイア・コントローラー・ルームから、そんな鈍い音がした。

 美奈代は、何か恐ろしくイヤな予感がした。

 不意に、エネルギーゲージが戻った。

 牧野中尉が意識を回復した証拠だ。

 普通なら喜ぶべきだろうが、背筋が寒い。


「テメェ、よくもやりやがったな!?」


 ドカバキグシャッ!!


 聞き取れないほどの牧野中尉の怒鳴り声がコクピットに響き渡り、ドスンバタンと激しい揺れが伝わってくる。時折、“さくら”の悲鳴と命乞いが混じっている。

「―――お待たせしました」

 牧野中尉が通信モニターに現れたのはそれからすぐのことだ。

 両方の頬が真っ赤に腫れ、右目に痣が出来ていた。

「あの……“さくら”は?」

「ちょっと、足下で“勉強”してもらっています。大丈夫です」

 牧野中尉は堅い表情に残酷な笑みを浮かべて頷いた。

「“さくら”にも、オトナの仁義と礼儀ってモノを教えてあげなくてはいけないと思っていた所でしたから」

「あ、あの?映像、見せてもらっても……」

「子供が見ていいものではありません。それより」

 牧野中尉は言った。

「艦内に、かなりの妖魔が侵入しているようです」

広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムはもう危険ですよね」

 美奈代騎の装備する広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムは、文字通り広範囲の敵を焼き殺す兵器であり、こんな狭い場所、しかも友軍の艦内で使用してよい代物ではない。

「歩兵隊が持っている火炎放射器の方が有効ですが……」

 牧野中尉が顔をしかめたのは、床に転がっている兵器の残骸だ。

 ハンガーデッキの床には機動速射砲の潰れたマガジンや砲弾が散乱している。光を反射するのは、メサイアや機材からあふれたオイルだろう。広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムのリキッドだったらシャレにもならない。

「ここで火器を使うのは、自殺行為ですね」

「どうします?」

「小口径の火器で対処するしかありません」

 牧野中尉は言った。

「陸戦隊の仕事ですね。要請しましょう―――“さくら”?お尻と前のソレ、誰が抜いていいって言ったの?」





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