都築の交渉
アメリカ特殊作戦軍の配備するグレイファントムM14。
それは、大統領警護騎士団向けに開発された重装備型グレイファントムM64を高機動強襲型に改造した特殊騎中の特殊騎だ。
騎体の上半身を若干小型化し、装甲がM64より薄くした分、防御性能は落ちるが、機動性の向上と、任務にあわせた様々な改装が可能なのが強みだ。
最悪なことに、その数は美奈代達の倍を超えている。
メサイアの手が持つ小型速射野砲のタクティカル・レーザーがなめ回すように美奈代達の騎体を走る。
相手騎の性能は圧倒的だ。
下手に戦えばひねり潰されるのがオチだ。
―――どうする?
背中を、嫌な汗が流れたのを感じながら、美奈代は自問を続ける。
―――どうする?
下手に動くだけで小型速射野砲で蜂の巣にされる。
広域火焔掃射装置のリキッド・タンクにでも喰らったら火だるまの究極形態にされてしまうだろう。
……。
……え?
……火だるま?
「おい、待てよ」
美奈代が自問する中、動いたのは都築だ。
横を見ると、武器を下げた都築騎のコクピットハッチが開き、中から都築が出てきた。
唖然とする美奈代の前で、モニターにズームされた都築は、両手をあげて薄ら笑いを浮かべていた。
「そっちの隊長さん。名前、なんて言ったっけ……まぁ、いいや。聞こえているか?」
「聞こえている」
ウォーレン中尉は答えた。
「ちなみに、私はウォーレン中尉だ」
「ああ。そうそう、ウォーレン中尉だ」
都築は手を広げたまま、頷いた。
「若い頃のヴァル・キルマーかと思ったよ」
「―――その態度の目的は何だ」
……少しはノレよ。
小さくそうつぶやいた都築は言った。
「こいつを収めたいだけさ」
「収める?」
「要するに、ことの発端は―――」
都築の右手が美奈代騎を指さした。
「ホームズかマーロウだか、とにかくそこのバカが、名探偵だか、タフ気取りのアホ刑事になっちまったのが原因だ」
「……」
ウォーレン中尉は無言だが、“フッ”という鼻息が小さくスピーカーに入った。
「マーロウとは、フィリップ・マーロウのことか?」
「そうだ。俺の憧れさ」
都築は楽しげに言った。
「奴にならケツを貸しても良い」
「たいした心酔ぶりだ」
ウォーレン中尉は苦笑混じりに言った。
「だが、奴は私立探偵だ」
「検事局元捜査官だろ?」
「……ふむ」
ウォーレン中尉は都築の答えが気に入ったらしい。
「よろしい。話は聞いてやろう。何がしたい」
「OK」
都築は答えた。
「最初から無かったことにして欲しい」
「出来ると思うか?」
「何」
ウォーレン騎のタクティカル・レーザーが都築の腹部を照射する中、都築は肩をすくめた。
「ここにいるのは、どうせ俺達とあんた達だけだ。あんた達は、あのコンテナもって帰れば手柄になるし、俺たちは帰って和泉を袋だたきにしてウサ晴らせば、なべて世界はこともなしで回るんだ」
「ムゥ……」
ウォーレン中尉は、少しの沈黙の後、訊ねた。
「名は、なんと言ったかな?」
「都築だ」
「冥途の土産に覚えておけ、若造」
都築の体が、ぴくりと動いた。
「我々の任務は、反応弾の回収ともう一つ、貴様等の口封じだ」
「俺達が帰らなければ、“鈴谷”が黙っていないぜ?」
「お前達を始末したあと、ゆっくり料理させてもらうことになるだろう」
「……はぁっ」
都築は盛大なため息をつくと、大きく手を振り上げ、興奮した口調になってわめきだした。
「何が気に入らなかったんだよ!おっさん!何か金になるようなブツが欲しいのか?それならはっきり言えよ!」
コクピットにも潜り込んだ都築の駆る“幻龍改”が突然、美奈代騎の広域火焔掃射装置のリキッドタンクを掴んだ。
「―――和泉、タンクをはずせ」
突然、レシーバーに入ってきたのは都築の小声。
「え?」
「いいから、責任は俺がとる」
「……」
普段なら反論もしただろう。
だが、その真剣な声を聞いた美奈代の手は、広域火焔掃射装置の整備用着脱スイッチを押していた。
「サンキュ」
都築は言った。
「お前、普段からそれ位素直なら可愛いんだよな」
「なっ!?」
都築騎が、広域火焔掃射装置のリキッドタンクを片手で持ち上げ、まるでウォーレン達に見せつけるかのようにちらつかせた。
「どうだ!?日本製の特殊リキッドが入った火炎放射装置だ!リキッドの成分は非公開だから、こいつ一つ、横流しすれば大もうけ出来るぜ!?」
都築は広域火焔掃射装置を何気なく地上に置いた。
「まだ不満か?―――なら、こいつもつけてやる!」
次に都築が取り出したのは、腰のサイドスカートにマウントされていた手榴弾の入ったウェポンラックだ。
都築はそれを広域火焔掃射装置の下に置いた。
「どうだ!?これだけでもかなりの金額になるはずだ!それとも女か!?そこの騎にいる和泉って女なら、いくら楽しんでくれてもいいぜ?どうせ嫁のもらい手なんて期待出来ない女だ!」
「……き」
「これで見逃せ!それでいいだろう!?」
「……き、貴様ぁっ!!」
そんな声が挙がったのは、美奈代ともう一人。
ウォーレン中尉だ。
交渉を持ちかけられたはずのウォーレン中尉は、モニターの中で顔を真っ赤にしていた。
顔に浮き上がった血管と皺ですさまじい形相になったウォーレン中尉が、レシーバーが悲鳴を上げたほどの声量で怒鳴った。
「貴様、それでも軍人かぁぁっっっ!」




