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メース鹵獲

 奇襲。


 その戦いは、まさにその一言で語り終えられる程、あっさりとしたものだった。


 突然の敵の出現に狼狽した敵は、満足な反撃の姿勢さえ見せる間もなく、斬艦刀の餌食となった。

 

 それだけで、事が足りる戦闘だった。


 美奈代達は敵の増援が来る前に撃破した敵メサイアを回収、撤退に成功した。

 回収した残骸は、すぐに“鈴谷すずや”に運び込まれた。

 そして、津島紅葉を中心とした分析チームが割り出したその性能は―――


 驚異的なものだった。



 分厚い、肥満体を想像させるずんぐりとしたボディに単眼の独特な頭部や、分厚く広がった脚部。

 お世辞にも動きが素早そうなデザインではない。


 ハンガーデッキに横たわるその残骸は、整備兵や乗組員達の好奇と憎悪が混ざり合った視線の元に晒されている。


 美奈代達もその中の一部だ。


「それにしても」

 さつきが征龍改の肩部パーツに腰を下ろしながらぼやく。

「結構、強そうなデザインだね」

「分厚い装甲……骨太のデザイン……これが、魔族のセンスなのか」

「そう……ね」

 美奈代もただ、頷くしかない。

「重厚感っていうのかしら?繊細な近衛うちのデザインの対極ですね」と美晴。

「コクピットは腹か……誰だ?あんな大穴開けたの」

 美奈代の足下に腰を下ろした都築は、ちらちらと美奈代の太股に視線を送りながら言う。

「山崎だ」

 美奈代は、それを知ってか知らずか、頬を赤らめながらもその場を動こうとはしない。

「はぁ……腹部は僕でした」

 山崎は、手の感触を確かめるように、何度も手を握り直して言った。

「あの斬艦刀……あれだけの装甲を、まるで羊羹に包丁を差し入れたみたいにズパッといくなんて思いもしなくて、つい、力を込めてしまいました……」

「あれは画期的だ」

 征龍改の面頬フェイスガードによりかかった宗像が、

「あれは使える」

 そう、魔族軍のメサイアから視線を外さずに言った。

「あれだけの装甲厚をものともしないで、教官は敵を真っ二つにした」

「それって、教官がバカ力だってことじゃね?」

「都築、面と向かって言って見ろ」

「冗談」

「えっとぉ……」

 美晴は思いだしたように言う。

「メサイアのエンジンから直接出力とって、その魔力で電離層を形成、その効果で対象の原子的結合を瞬時に解除して、全てを破壊する?でしたっけ。最大連続使用時間は2時間。それ以上はコンデンサが焼き付いて使い物にならない」

「ウゲ……よくそんなの覚えてるよね。美晴は」

 苦虫でも飲み込んだような顔のさつきが嫌悪感を丸出しにして舌を出した。

「さつきさん、コレくらいは覚えておきましょうよ」

「私は原理や仕組みより、現場で役に立つことが大切だから―――おっ?終わったみたい」




「ま、ご褒美ってことで教えてあげる」

 ブリーフィングルームで、紅葉は美奈代達を前に言った。

「聞いても、気分のいいもんじゃないけど」

 紅葉の顔色は冴えない。

「それほど、敵の戦力は優れていると?」

「あたりまえでしょう?」

 紅葉は、美奈代の言葉に、“何考えてんの?”という顔で答えた。

「そんなにすごいんですか?」

「ええ……今、開発中のβタイプ最新鋭機、基礎から再設計しても……それでも、とてもじゃないけど、単騎同士さしの相手は勤まらない」

「だけど!」さつきが言った。

「私達は、あれを倒したんですよ?」

「数と運。つーか、エモノが物言っただけ」

「なっ」

「―――彼我の推定パワー差は、推定値の時点で既に征龍比で10倍を遙かに超えるのよ?わかる?相手は10倍を超える出力を誇るバケモノなの。

 斬艦刀があった。

 相手が弱かった。

 勝因はそれだけ。

 メサイア開発者の立場からは、そうとしか言い様がない」

「その技術を、メサイアにフィードバックすることは可能ですか?」

「宗像候補生の質問への答えは未知数。研究に10年欲しい」

「戦争が終わります……我々の負けで」

「そうね」

 紅葉はプロジェクターを作動させた。

 映し出されるのは、あのメサイアの各部。

「簡単に、わかるところで―――というか、あんた達にも理解できる所を説明する。

 まず、搭乗員は一人だけ。

 コクピットブロックが両方とも破壊されているから、残骸からの推測だけど、操縦方法は、生体同調……つまり、メサイアの疑似神経とパイロットの神経を同調することで行われる。

 このため、MCは搭乗していない。

 装甲厚は、人類側メサイアで最も厚い装甲を誇るロシア帝國のローマイヤとほぼ同。

 人工筋肉は見たことがない素材だけど、簡単な素材テストの結果、βタイプに搭載されている最新鋭素材と比較して数倍の強度があることは確か。

 ただ―――救いはある」

「救い?」

「そう。機動性は、メサイアとそうは変わらないはずだもん」

「重装甲と重武装、加えて高機動性ってわけにはいかないと?」

 口を開いたのは、二宮だ。

「そう。脚部は間違いなくホバー移動装置を兼ねている。そのかわり、膝関節は曲げることは出来るけど、股関節の可動性からして、走ることは出来ないはず」

「それで?メサイアのホバー移動と速度的に」

「うーん。実際はテストしてみないとわかんないけど、それほどの違いはないはずよ?」

「何故?根拠は?」

「左翼大隊から報告があがってる。魔族の反射能力は、騎士並―――騎士が処理しきれないものは、魔族も処理できない。わかるでしょう?」

「神経と、処理できる情報が人間とほとんど同じだとしたら……成る程?」

 確かにそうだ。

 二宮は思う。

 結局、最後の枷になるのがパイロットであることは、人間も魔族も関係ないのだ。

「つまり、武装と装甲は一流だけど、動きは並―――あなた達が、戦闘機動の時、ホバー移動するのと一緒。かなり速いけど―――それに対処できれば、後はメサイアでもやれる」

「じゃあ!」

「相手が手練れなら、そんなもの、どうとでもなるけどね」




「どうしろっていうのよ」

 食堂に移った面々の中で、さつきがため息混じりに言った。

「機動性だけでも対抗できるように、全メサイアに増設ホバーユニット配備するよう進言するっていうけど、そんなんで戦えるの?」


「なんだかわかんないけど、とにかく相手が強いってことは変わらないのでしょう?」


「まぁ―――そういうことだな」

 お茶を飲みながら、美奈代は頷くしかない。

「あとは、腕でカバーするしかない。本当にどんな代物かは、あたってみないとわからない」

 美奈代は言った。

「精神論にしか聞こえないだろうが、我々は与えられたものが全てだ」


「まぁ―――そりゃそうだけど、さ」

 さつきはコーヒーカップを指で回しながら言った。

「もっと楽したいって思うのは、罪じゃないでしょ?」

「まぁ、ね」

「染谷達なんて、随分と派手に活躍しているんじゃない?都築、何か知ってる?」

「……」

 えっ?

 そんな顔をしたのは都築の方だった。

 まじまじとさつきを見る顔が、途端に真剣なものになる。

「どうしたの?」

「早瀬……お前」

「?」

「死人が出たの、知らないのか?」

「えっ!?」

 その一言に、居合わせた皆がギョッ!となった。

「ど、どういう事!?」

「だ、誰が!?」

「な、なんだよ。みんな、本当に知らなかったのか?」

「つーか、誰に聞いたのよ!」

「二宮教官達、箝口令敷いたな……」

「都築。どういうことだ。そう聞いたのだが?」

「宗像も知ってるだろ?第三分隊の高野と加藤」

「……誰だ?」

「高野はあれだ。入営からすぐの頃、お前に告白するという、オトコとして最低の間違いを犯したバカ」

「都築、ちょっと面貸せ」

「おお恐。とにかく、染谷達に次ぐほどの有望株だったヤツだよ。メサイアの操縦訓練では常に上位ランク入りしていた。加藤は平凡以下だったな」

「そんなヤツが何で」

「事故だよ」

「事故?」

 美奈代達は互いに顔を見合わせた。

「メサイアから墜落したとか?」

「アホ。妖魔掃討作戦に出て、スライムの群を吹っ飛ばした。ところが、破片状態になったスライムをハッチに付着させたままで気付かなかったらしい。地上で休憩とかいって、そのままハッチ開けちまったんだ」

「……」

「スライムは破片状態でも生きる……MCメサイア・コントローラーが気付いて救難を宣言した時にゃ、コクピットブロックに入り込んでいた。除去された時にゃ、残った体はスライムの毒で土左衛門みたいになっちまってたそうだ」

「うぇ……」

 さつきが、心底痛い。という顔で目をつむった。

「マジ?それ……」

「で、隣に駐騎した加藤も加藤で」

「何にやられた」

殺蜂キラービーだよ……頭が三倍位に膨れあがって、脳みそが潰れるわ目玉が飛び出るわ……」

「……」

 皆が沈痛な顔を浮かべる中、都築が話をまとめた。

「休憩を許可した石田教官の責任問題になってるそうだぜ?」

「当然だろう」

 宗像はうんざりという顔で言った。

「更迭程度では済まないだろうな」

「本来なら」

 都築は不愉快そうな顔で、すっかり冷めたお茶に口を付けた。

「キラービーもスライムも、適切な駆除さえしていれば、簡単に根絶させることが出来るんだ。

 アフリカでそんなのがまだ生きていた事自体、俺は驚いたよ。

 他の地域で最後に根絶宣言が出されたのは俺が中学に入った年だぜ?

 それがどうだ?

 よりによって日本の領内で、日本人が死んだ。

 こんなバカな話があるかよ。

 日本政府が、中華あたりの顔色を伺って、適切なことしなかったせいだ。

 高野と加藤は日本政府に殺されたようなものだ」

「おい……立場考えろ」

 美奈代が周りを見回しながら言った。

「不用意な発言はするべきじゃない」

「……」

 都築は苦虫を噛み潰した顔で、周りを一瞥した後、黙った。

「まぁ」

 山崎が大きな急須でお茶を皆の茶碗に注ぎながら言った。

「えっと……その、大変な不幸はあったようですが、染谷さん達は候補生として活躍を」

「ああ。“妖魔狩り”は順調だ」

 都築は茶碗を受け取った。

「ソマリランド方面への足がかりとなるエイルを確保。この作戦で染谷が相当に名をあげたらしいがね」

「どういうことだ?」


 染谷。


 その名に鋭く反応したのは美奈代だった。


「何」

 都築は苦笑いしながら答えた。

「エイルの妖魔掃討作戦を実質的に指揮したのが染谷だ。教官―――特に池田大尉あたりは、自分が危険に曝されるのがイヤで、“伊吹”から降りることさえしない。

 後ろから通じもしない通信装置でああだこうだと言ってくるだけ。

 二人も死人だしている分、命がけで戦わされる候補生達もトサカに来てた所で、エイルの攻略が命じられた」

「……」

「事前情報が当たった試しがない。

 だから、染谷は最初から事前偵察を強く要求したが、聞き入れられなかった。

 池田の命令ってのは、敵の配置も装備も、何も知らずに、海岸線への正面からの突撃しろってんだぜ?

 正気じゃねぇし、染谷の方が正しいに決まっている。

 終いにゃ、染谷と池田が口論になった挙げ句、候補生達の前で池田が染谷をぶん殴って、“いざという時は、俺が何とかする”って啖呵切った。

 で、エイル攻略が始まったら、教官達は誰も出やしねえ。

 理由は“乗騎の不調”。

 候補生達のメンテを最優先した避けられない結果―――だそうだ」

「それで?」

「染谷達は、それでも行かされた。

 行ってみたら、海岸から数キロは対空攻撃の出来る妖魔の巣。

 黒い壁みたいな対空砲火に歓迎された染谷が機転を利かせて、部隊を安全なコースに乗せて、巣を側面から叩いた。

 池田の命令通りに正面から攻略していたら、今頃、靖国は大賑わいだろうさ」


「そ、それで」

 美奈代は茶碗を握りしめたまま、都築に訊ねた。

「染谷候補生は?」


「大金星さ。エイル攻略成功の立て役者は、誰が何と言おうと染谷であって、“伊吹”でぬくぬくしていた池田達、教官ドノじゃねぇ。

 もう候補生達ゃ、池田に敬礼さえしないそうだ。

 いざって時の尻ぬぐいをしたのは染谷だしな。

 次に行われる、ソマリア最大の港湾施設を抱えるボサソ解放戦じゃ、染谷を艦隊司令部が部隊前線指揮官として“公式に”任官した。

 池田達教官じゃない。この事の意味がわかるか?」

「おい……マズいぞ。それは」

 宗像がやや顔を引きつらせながら言った。

「それじゃ、教官達のメンツが立たない。教官が染谷に何をするか」

「それは大丈夫だ」

 都築はポケットから取りだしたチョコレートの包みを開いた。

「“伊吹”の立岡司令が、教官達を艦から叩き出す」

「何?」

「知ってるか?立岡司令ってのは、二代前の富士学校の校長だ。

 “鬼の立岡”と恐れられた切れ者で、二宮教官の指導教官でもある。

 その人を前に候補生だけ危険に曝して自分達は後ろで指揮なんて、続けられると思うか?」

「そ……それは」

「元校長の酷評があったとなれば、教官達は日本に戻っても能力不足を理由に解任されて前線送り……気の毒に。ざまあみろってんだ」

「とにかく、染谷候補生は無事、なんだな?」

「ああ。候補生の肩書きは外された。すでにヤツぁ、戦時任官で前線指揮官だ……鬼の立岡の後ろ盾もあるし、“伊吹”の部隊はもう、染谷でまとまっている」

 都築は、感動の余り舞い上がる美奈代に、わざとらしいため息をついた。


「ウチのヘッポコ分隊長ドノに爪のあかでも煎じて飲ませたいぜ」


「な、なんだ!それはっ!」


「―――まぁ?」

 都築はチョコレートを口に放り込むと言った。

「明日以降は、ラムリアースとの共同作戦だ。二宮教官に叱られないように、課題さっさと終わらせた方が良いぜ?」




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