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津島紅葉

●“鈴谷すずや”艦橋

「残念なことになったわね」

「……そうね」

 美夜と二宮の目の前で炎上を続けるのは、エーランドが放棄したメース、ツヴァイだ。

 騎体の鹵獲ろかくを狙ったが、仕掛けられていた自爆装置が作動。

 騎体は一瞬にしてバラバラになった。

 火葬を前に、敵騎の秘密がわかると期待していた面々には失望の色が走る。

「よっぽど私達に騎体を渡したくないみたいね」

「……“あの子”が暴れなきゃいいけど」



●“鈴谷すずや”ブリーフィングルーム

「正直」

 二宮は苦い顔で言った。

「魔族軍にメサイアが存在したこと自体、私達ですら、初めて知ったことだ」

「慰めにもならないことだが、事実だ」

 美奈代達は、無言で頷く。

「データは、すべて本国に送った。司令部もかなりのショックを受けたらしい。

 情報は既に国連軍にも伝えられているが、魔族軍にメサイアが存在するという共通認識さえない。だから、それを伝えるメディアの中には、巨人か、それとも破壊したメサイアに妖魔が取り憑いているなんて話まで出ている」


 無理もない。でも、初めて、メサイアを見た連中に比べれば楽だろう。

 連中、きっと、それが何物なのかさえわからなかったろうから。



「幸い」

 二宮の視線が、美奈代達の背後に注がれる。

「我々には、魔族軍メサイアとの交戦経験もある。そして、専門家が来艦して下さったところだ。これより所見を拝聴する―――中佐」


「はいはい」

 そんな返事と共に壇上に上がったのは―――どう見ても中学生の女の子。

 赤い髪にあどけない顔立ち。

 やたらと幼さが残る無垢な目元といい、どう見ても、中佐と呼ばれる存在ではなかった。

 羽織った白衣でさえ、給食当番のスモック代わりといわれなければ納得できない。


「開発局特別顧問、津島紅葉つしま・もみじ技術中佐だ」


「あ、あの……」

 柏美晴が挙手の姿勢で発言を求めるが、

「何?私が何歳か?14歳。ただし、正規の近衛技術中佐の待遇よ?“うっそーっ!信じられなぁい!”とか言いたいなら、上官侮辱罪で投獄覚悟してからにして」

 紅葉は一気にそう言ってしまう。

「な……」

 おかげで美晴は、そのまま凍り付いた。

「ついでに、あんた達のメサイアの開発、調整もほとんど私の仕事。わかった?」

「は、はい」

 上官侮辱罪。

 それが恐ろしい美晴は手を下ろした。

「よろしい―――結論から先に言う。こいつは、メサイアに極めて近い存在と言える」

「メサイアに……近い?」

「二宮中佐、メサイアを一番最初に実用化した国は?」

「ロシア帝國でしたね。たしか、1951年」

「正解。じゃあ、そのメカニズムとか理論、どこの誰が提唱した?」

「えっと……ロシア魔法科学アカデミーが」

「それがね?私達の間では嘘だっていうのが常識なの」

 紅葉は、嘘と常識を強調した口調でそう言った。

「?」

 二宮は、その意味がわからない。

「魔法科学アカデミーは、何かをコピーしただけだ……そう言われているのよ。

 まぁ、私は、あの時代、コピーだけでスターリン作り上げたのは褒めてあげたいけどね」

「まさか」

 驚愕に刮目したのは都築だ。

「へぇ?あんた―――わかる?」

「つ、つまり……メサイアは、こいつらのコピーだと?」

「正解♪」

「まさか!」

「そう考えるのが最も妥当なのよ。

 根拠?

 まず、メサイアの基本中の基本、こればかりはどうしようもないっていうベースフレームの構造や、エンジンのマウント方法、他にも、あちこちが似すぎているの。

 ううん?メサイアが似せたといった方がいい。でなければ、あんな短期間でメサイアなんてバケモノを生み出せるはずがない」

「それだけですか?ただの偶然では?」

「それを証明するのが、今回のあんた達の仕事」

「また、あいつらと戦えと!?」

「正解♪」

 紅葉はニコと笑って頷いた。

「他のメサイア部隊もいくつか、他でやってくれてはいる。だけど、これはあなた達のためにも必要な任務なのよ?」

「我々に?」

「昔から言うでしょあ?敵を知りってヤツ。あれよ、あれ」  

「私だって、あなた達に無駄死にしてもらうつもりはないわ。ちゃんと、新装備はあげたでしょう?」

「新装備?」

「あの斬艦刀」

「……ああ」

 美奈代は成る程。という顔で頷いた。

「あれは、あなたが?」

「私じゃないわよ。あんな問題作。あんた達にあげたのは、私が改良した自信作だから、それでも棺桶に乗ったつもりでいてよ!」

「敵前逃亡は……ダメか」

「あんな貧弱な通常装備で魔族軍メサイアブチのめしたあんた達だもん。大丈夫♪ね?ねねっ?」

「信じるしかねぇってことか」

「都築候補生だっけ?さっすがだね♪前衛出てもらうからね?」

「俺が!?」

「ああっ!そんな天井仰ぎ見ないでよぉ!D-SEEDの調整一時ストップして来てるんだからぁ!」

「は?何スか?そのディー何とかって」

「あんなデリケートな子の調整、赤城のババアにやらせたらあの子がイカれちゃう!ね!?そんな大切な仕事止めてまで来てるの!わかる!?」

「わかりません」

「……」

 突然、目の座った紅葉が手を動かし、抜く手も見せずに何かを投げつけた。

「ふさげんじゃないわよ!」


 がんっ!


 アルミ製の灰皿が都築の顔面を直撃。

 紅葉はその都築の胸ぐらを掴み上げた。


「ああっ!?この紅葉様の“お願ぁい♪”を拒むたぁ!テメエ、一体どんな教育しつけ受けてきやがったぁ!?」


「は……灰皿って……ど、どこから」


「ゴラァっ!このクソ新兵!やんのかやらねえのか、どっちだ!?ああっ!?」

 シャカッ

 都築の口の中に銃口が突っ込まれた。

「この場で命令拒否とサボタージュで銃殺してやろうか!?それとも、メサイア細工して自爆装置とりつけてやろうか!?死にてえんだろう!?」

「わ……わかりました」

「―――ちっ、最初からそう謙虚にいりゃあいいんだよ……クソが」

 ぺっ。

 唾を吐き捨てた紅葉は、都築を突き飛ばして壇上に戻った。

 美奈代に助け上げられた都築だが、その目の前で、

「とにかく、紅葉のお願ぁい♪頑張って、このメサイアを1騎以上、擱座の上で確保して♪」

「確保?」

 美奈代は、その意味がわかった。

「つまり、我々は、敵のメサイアの性能を把握するための調査材料となる敵メサイア確保のために動けと?」

「その通り!」



「あーっ、ヒデえ目にあった」

「口元、大丈夫か?」

「ああ……後で消毒してくれ」

「してないのか?」

「口で」

「……」

「わかった!悪かった!頼むから、“ソレ”で殴るな!」

 都築騎が後ずさるのも無理はない。

 征龍改が巨大な刀を振りかざしているのだ。

「っ……まだサービスしてもらってねぇってのに」

「本気で殴るぞ?帰ったら、絶対殴る!」

「生きて帰れたら―――今晩こそ」

「こ、今晩はダメだ」

「何で」

「う、うるさいっ!」

「あーっ。美奈代って、今、そうなんだ」

「柏っ!」

「柏?」

「ふっふーっ。都築クン?オンナにはイロイロと事情があるのだよ♪」

「よくわからんぞ。宗像」

「わからんでいいっ!」

「ダメよ!」

「早瀬っ!茶化すな!」

「避妊はしっかりしないと」

「だぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」

「コンドームじゃだめか?」

「あーあ。これだからオトコは」

「やめて下さいっ!和泉候補生!トリガーを返してくださいっ!」


「いい加減にしろっ!!」


 ギャーギャー始める教え子に、二宮がついにキレた。さすがにその教え子達は、その一喝で静かになる。

「全騎」

 二宮は、あえて任務に集中することで事態の打開をはかった。

「この付近でメサイアの目撃がある。数は不明だが、もし、こちらより数が上なら、一切の戦闘は行わず、最大速度で撤退しろ。その際は、僚騎を省みる必要はない」

「……了解」

 山腹の斜面に隠れる形で集まる各騎がモニター越しに映し出される中、二宮は部下になった教え子達に命じた。

「とにかく、あらゆるデータを確保しろ。MCは、肩部に設置されたデータポットの破損に注意」

「了解」

「武装は各騎、対メサイア戦と同じ。都築、お前の作戦で行く」

「俺の?」

「ああ―――あの演習の時の、だ」

「上手くいきますかね」

「行かせるんだ。失敗を活かせ。教官にあれだけ罵られれば、二度と同じ失態は犯したくなくなっているだろう?」

「まぁ―――やってみせます」

「よろしい。それと」

 二宮は、右下に浮かぶ武器状況表示に視線を送り、詳細データを表示させた。

「各騎、EL刀のデータ表示」


 ピピッ。


 55式EL刀―――仮称“斬艦刀”。

 刀身だけで14メートルに達するまさにバケモノ刀だ。


「いいか?こいつは―――よくわからん仕組みで刃の部分に接触したあらゆる物質を崩壊させ、切断する仕組みだそうだ」


「本当に使えるんですか?」


「しらん。試しに使ってダメならさっさと捨てろ」


「んなムチャクチャな」


「相手はあの津島紅葉だ」


「だいたい、あのクソガキ、何者なんですか?」


「都築が文句を言いたいのもわかる。あれは、開発局のキ印の中でも最悪のキ印だ」


「はぁっ!?」


「あれで、世界最高の“見通者シーカー”だというんだから……」


 “見通者シーカー

 魔導師の一種。

 驚異的な知識の持ち主で、複雑な科学問題を一目で解決出来る頭脳を持つ、いわば“天才”だ。

 この世界では、魔法兵器の他、主な産業製品のほぼ全てが、彼らによって開発されている。

 別名、“魔法の錬金術師”。

 国際条約によって立場が保証された特権的存在でもある。


「まぁ」

 さつきが通信に割り込んできた。

「とにかく、信じなくちゃ、始まらないんでしょう?」

「そうだな」


 ピーッ!!


「ん?」

 二宮は、コクピット内に響き渡った警告音に言葉を止めた。

「唯、どうした?」

「早期警戒システムに反応―――メサイア級3、こちらに向かって移動中」

「来たな」

 二宮は、即座に部下に命じた。

「各騎、戦闘態勢に移行―――打ち合わせ通りに動け」

「了解」

 騎体の振動が高まり、全てが戦闘モードに切り替わるのを体感しながら、二宮は言った。

「第一分隊、第二分隊、マーカーA、Bにあたれ、私と長野はCに」

「了解」

「かかれっ!!」




----キャラクター紹介----------

津島 紅葉つしま・もみじ

・ 近衛軍に所属(正確には契約しているだけで、本当はフリー)する科学者。

・登場時点で14歳。

・この歳で中佐。

・一種の天才である“見通者シーカー”としては世界最高峰を示す六本線ハイパー・スタンドの地位を持つ。

・性格はかなりエキセントリックで、ノリでモノを考えやすい。

・飽きっぽい性格なので今一つ捉えどころがないが、職務には忠実。

・近衛兵団開発部のトラブルメーカーで、事ある毎に実験失敗や爆発を繰り返しており、彼女専用の研究所のある開発局の被害額は、一説には年間メサイア数騎分にも上るというが、彼女のおかげで開発された兵器・装備はそれをチャラにしておつりが来る程。

・近衛のメサイアの改装の大半を担当した他、エルプス系兵器の実用化にも多大な貢献を果たした。

 ラボに籠もっていることが多いので、世情に疎く、同年代の人と接するのが苦手な面もある。

・後のマラネリ王国王妃。

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