表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
372/393

白龍先行試験型、配備

●東京都葉月市近衛開発局

 正直、美奈代は改装された愛騎を受け取っても嬉しくなかった。

 否、嬉しくなれなかった―――そういうべきだろう。


 今回の改装で、“D-SEED”は“死乃天使”と規格を統合したという。

 “白雷はくらい”達も“白龍”へとバージョンアップを完了。

 合計三型に分類されるようになった。


 美奈代達の“白龍”プランA、強襲型アサルトタイプ

 美晴達の“白龍”プランJ、駆逐型ヤクトタイプ

 涼達の“白龍”プランS、狙撃型スナイプタイプ


 駆逐型は、全騎が第四種装甲をより近接戦闘向けに再設計した第五種装甲を付与された。

 狙撃型は、その上にHMC装備で全騎のFCS規格が統一された。

 これらは、覚悟していたとはいえ、各騎士やMCメサイア・コントローラーにとっては大きな負担だ。

 騎体が引き渡された途端、美晴や涼達が模擬訓練に引っ張り出されたとしても文句も言えない。

 美奈代も、6枚の翼を持つ空中機動強化ウィングシステム“アサルト・ウィング”のセッティングが終了次第、空中機動演習が待ち構えている。 

 絶対にロクなメには合わないだろう。


 しかし、今の美奈代にとっては、どうでもよいことだった。

「……」

 美奈代はただ、何もかも忘れて、神戸から到着したTACタクティカル・エア・カーゴから降りた騎士達を―――その中の、たった一人をぼんやりと眺めていた。


 染谷だ。

 

 正直、美奈代は“それ”が染谷だと、最初はわからなかった。

 かつての染谷は、明朗快活とした優等生だった。

 明るく清々しい男だった。

 それが、どうだ?

 今の染谷の顔に明るさはない。

 無表情に近い顔に表情はほとんどない。

 ギョロと睨むような鋭い眼光にかつての優しさはどこにもない。

 あるのは恐ろしいほどの殺気だけだ。

 空気だけで人を殺しかねないほどの強い殺気の塊―――それが今の染谷だ。

 

 変わり果てた。


 そうとしか言い様がない。

 人間とは思えない。

 人間の皮を被った機械。

 美奈代は直感的にそう思った。

 だから、“それ”が染谷だとわかっても、何も言うことさえ出来なかった。


 “自分に気付いて欲しくない”


 美奈代は、そう思ったとしても誰からも文句さえ言われる覚えはなかった。

 その場から―――いや、染谷から逃げ出さなかっただけでも褒めて欲しかった。


 染谷がそうなった理由はわかる。


 フィアだ。


 結局、フィアを失ったことで変わったんだ。

 美奈代にはそれがわかる。

 わかるからこそ、辛い。

 フィアを失った責任は誰にある?

 何故、あの時、彼女を止められなかった?

 彼女を失った、その責任は誰にある?

 その答えが、わかるのだ。


 ―――自分だと。


 わかるからこそ、それを口に出されるのが辛かった。

 かつて愛し、愛し合ったはずの男から、別な女を失ったことを咎め立てられるなんて、美奈代には耐えられなかった。

 その場から逃げだそうとしなかったのは、ただ、部隊指揮官としての立場があったからに他ならない。


「小隊指揮官の土浦涼奈つちうら・りょうな中尉以下、着任」

 赤毛をロングヘアにした背の高い女が紅葉に敬礼した。

 細長い目、尖ったあご、適度にウェーブがかけられた髪といい、大人の女性が求めるパーツを選択して組み合わせたような、そんな女だった。

 染谷達も無言でそれに続く。


「……独立駆逐中隊中隊長代行、葉月開発局第二ラボ施設長津島中佐。着任を認めるわ」


「後藤中隊長は?」

 やや高く、甘えるような声で涼奈は訊ねた。


「この騒ぎでどこにいるかもわかんないわ」

 紅葉は小さく肩をすくめた。

「平野艦長どころか“鈴谷すずや”も動かせないってのに仕事だけは回ってくるわ」


「指揮権は中佐に?」


「一応。まぁ、責任は後藤さんにとってもらうけどさ」


「……」


「心配しないで。私が下すのは、上からの命令をあんた達に伝える所まで。それから先は、あんた達に全部の権限を委ねるわ」


「……はぁ」


「信じてない?」


「というか」

 涼奈は首をかしげた。

「いいのかなって」


「―――勅命よ?」

 紅葉は、中野に見せたあのファックス用紙を突きつけた。


「……陛下も」

 それを受け取ろうともせず、背筋だけ伸ばした涼奈は苦笑まじりに呟いた。

「こういうのをファックスで流すってのが、スゴいところだと思います」


「どこかヌケてるのよ。あの人」


「……同感だと、聞かなかったことにして下さい」


「ええ―――難しいことは言わない。あんた達は、敵の索敵網を混乱させてくれればそれでいいの―――出来る?」


「ええ」

 涼奈は頷いた。

「作戦については、ここに来るまでのミーティングでまとめた通りでしょう?」


「そう―――あれが敵にバレていたら大変なことになるけど……まぁ、魔族が人間の言葉を理解出来ないと信じましょう」


「はい。わが小隊は2騎ずつの計2個分隊にて長野から新潟方面へのAルート、それと、太平洋上空を静岡方面へ移動するCルートを担当します。本命は」

 美奈代は、涼奈の視線を感じて背筋を伸ばした。

「和泉大尉のBルート?」


「反乱軍を潰してくれた中華帝国軍部隊なんだけど、第三眼サードアイによれば福井の若狭湾にそれらしき艦隊が停泊中。部隊はそこを根城にしていると」


第三眼サードアイ部隊にしては頑張ったようですね」


「さすがに陛下が激怒しているこの状況じゃ、いつもみたく、“えーっ?面倒くさぁい”なんてワガママも言ってられないでしょ?いくらアイツらだって」


「そうですね……」

 チラリ。と涼奈は後ろに控える染谷を一瞥した。

「あの水瀬家もいろいろと動いてるようですし」


「ああ。そっちも?」


「ええ。医者からサジ投げられていた染谷少尉を助けたのも、あの家ですからねぇ……あらっ?あの家って確か後藤さんの絡みで」


「よく知ってるわね」


「後藤さんは飲み屋でよく一緒になるんですよ?」

 涼奈は意味ありげな笑みを浮かべた。

「あの人、結構―――スゴいんですよ?」


「何がスゴイか」

 紅葉は額に皺を寄せ、遮るように言った。

「言わなくて良い。ついでに私まだ未成年」


「クススッ……お子ちゃまだから?処女だから?」


「どっちでもいい。“紅龍”に自爆装置仕掛けられたい?」


「ムキになるところがカワイイですよ?」

 チュッ。

 涼奈は紅葉の前にかがみ込むと、その頬に口づけした。

「……」

 キスマークの残る頬に困惑しきった顔を浮かべた紅葉は眼をつむって言った。

「“紅龍”のコクピットセッティングだけ急いで―――和泉大尉」


「はい」

 美奈代は答えた。

「何か?」


「土浦隊のセッティングの間に作戦を伝えるから、こっち来て」





「どっかのバカの起こしたクーデターだの、それ以上のマヌケがやってくれた発注ミスなんかで……うんしょっと」

 ミーティングルームで、紅葉は壇上に脚立を持ってくると四苦八苦しながら地図を黒板に貼り付けた。

 それだけ見ていると、なんだか学芸会の準備みたいで微笑ましい光景ですらある。

「……出来た。今回はあんた達3騎の仕事よ」


「柏達は?」


「駆逐型の仕事じゃないでしょ?強行偵察なんて」


「……ですね」


「柏中尉達には、まだ駆逐型に慣れてもらわなくちゃ」


 ドッシャーンッ!

 派手な音が辺りに響き渡り、室内が揺れた。

 すぐにサイレンが鳴り響く。

 はぁっ。ため息をつき、肩を落とした紅葉が携帯電話を開いた。

「……私、誰がやったの?アホの都築?パワーが違うから気をつけろってのに。今度しくじったら去勢してやるって伝えておきなさい!寧々ちゃんと子作りするキン*マ欲しかったら、メサイアの操縦に全身全霊を注げって!……ったく」

 携帯電話を白衣のポケットに戻した紅葉は続けた。

「おまたせ。騎体のパワーに振り回されているバカがいる限り、駆逐隊は前線には出せない」


「狙撃隊は?」


「寧々ちゃんは寧々ちゃんで、断りもなくエモノが変わったって、かなりゴネちゃってるし、それより、さっきはさっきで、涼が中野大尉と喧嘩寸前になったし」


「涼が!?」

 思わず美奈代はパイプ椅子から立ち上がった。

「ど、どういうことですか!?」


「お姉様は私のモノだとかなんとか。中野はまぁ……大人の対応してたけど、涼ははっきりアンタがレズだと言い切っていたからねぇ」


「れ、レズって」

 美奈代は目の前が真っ暗になった気がした。

「で、中野大尉は!?」


「帰った」


「あっさりと!?」


「仕事あるんだもん。何?何か不満?別な呼び方ならいい?同性愛者とか、ヘンタイとか、人間のクズとか」


「そんな言い方しないで下さい!」

 美奈代は言い返した。

「せめて百合と言って下さいよ!格調高く!」


「どっちにしてもヘンタイだって、あんたの今のセリフからわかった」


「どういう意味ですか!」


「うるさい。14のコドモの前で同性しか愛せないヘンタイが偉そうに口開くな。道徳上悪い」


「わ、私はそこまで!」


「私はレズ嫌いなのよ」


「あら?中佐、何かイヤな思い出でも?」

 祷子が面白そうに訊ねた。


「うるさい、うるさい、うるさぁぁいっ!」

 紅葉は途端に顔を真っ赤にして怒鳴った。

「私に、そのテの過去を聞くなぁっ!」


「……何かあったんですね?」


「うるさいったら、うるさいっ!」

 手をバタバタ振り回し、我にかえった紅葉は、

 ゴホンッ

 わざとらしい咳払いの後に言った。


「作戦の概略を伝えるわ。本作戦の目的は強行偵察により、中華帝国軍が展開していると思われる福井県若狭湾の状況を確認すること」


「E-WACSやFly rulerは?」


「他の戦況の把握や偵察に引っ張り出されて、帰ってこられないわ。忙しいのよ?有珠ありすも神城の三姉妹も」


「……ただ、偵察すればいいんですか?」


「そう。ただし、さすがに福井まで行けば、敵の迎撃は不可避。その抵抗を全て排除した後、ここまで帰還して」


「侵入と帰還のルートは私達で決定していいんですか?」


「あまり良くない」

 紅葉は黒板に張り付けられた地図に指示棒を突きつけた。

「ここから一気に富山湾を目指されると、他の囮が役に立たない。あんた達は神奈川、静岡から山梨、長野県を経由して富山湾に入って」


「質問」

 千鶴が訊ねた。

「兵庫や京都から強行侵入した方がよいのでは?」


「石川県方面は」

 紅葉が言った。

「防空網がしっかりしているし、かなり脚の速いメサイアの配備も確認されている。

 いくら“死乃天使”でも、下手すれば生きて帰れない。

 むしろ、支配地域である長野方面からの方がまだ防空陣地の布陣が手薄だと調べがついている」


「魔法騎士達を投入した方がよいのでは?」


「ほむの言い分ももっともだけど、大型の情報収集装置を担いでってワケにもいかないでしょう?結局、データ収集装置を搭載して、一度に大量のデータ収集となれば、メサイアの方が分があるのよ」


「……」

 こくん。

 千鶴は小さく頷いた。


「洋上にも油断しないで、水中型メースや魔族軍の飛行艦が若狭湾に展開している」


「でも、そんなことしたら」

 祷子が異議を唱えた。

「敵に狙いを教えることになりませんか?」


「大丈夫」


「えっ?」


「そんな余裕を作らせない。というか、敵に狙いを教えないために、明日から数度に分けて、紅龍を駆る土浦隊と第802航空戦隊が総出であちこちの敵陣にちょっかいをかける。敵からすれば、あんた達はその中の一環に過ぎない」


「……犠牲が出ますよ」


「メサイア一騎失っても」

 紅葉はきっぱりと言い切った。

「この偵察で得られるデータの方が価値がある。今は、そういう状況なのよ」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ