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天壇の復活

「……してやられたな」

 雑音しか告げない役立たずのラジオのつまみから手を放した中野は、軽く伸びをした。

 場所は葉月市内のラブホテルの地下駐車場。

 助手席では美奈代が無邪気なまでの寝顔を見せている。

 こんな時に、よく眠っていられるものだ。

 中野はしげしげとその寝顔を眺めながら半ば感心していた。

 実戦部隊で“鬼の和泉”とまで恐れられる女騎士ともなれば、こんな時にでも眠れるのだろうか?

 緊張で眠ることさえ出来なかった自分が、考え方によっては恥ずかしい。

 中野はシートを倒すと、目をつむってみた。

 眠ろうと思えば思う程、意識が高ぶって眠れない。

 薄目を開け、時計を見る。

 時間はすでに5時近い。

 このホテルに入ったのが2時前だったから―――中野がそんなことを考えた時だ。

「少しでも、眠った方が良いですよ?」

 美奈代の声に、中野はハッとなって体を起こした。

 助手席を見ると、美奈代は目をつむったままだ。

「起きていたのか?」

「寝てましたよ」

「俺が起こしたとか言うな?」

「言いません」

「それにしても。男とラブホテルの駐車場にいて、よく寝ていられるな。俺が、何もしないと思ったのか?」

「ええ」

「一々、腹が立つ」

「どんな時でも、少しでも寝ていないと、後々、命取りになりますよ?」

「後でコーヒーでも飲んでおく。一杯のカフェインを睡眠代わりにすることは出来る」

「年寄りの冷や水」

「何だとっ!?」

「こんな時間帯にラジオなんて流しているはずないでしょう?夜は眠るものです」

「くそっ。次からは軍用無線装置を取り付けてもらうことにしよう」

「そんなもの使ったら、ここにいることが一発でバレますよ?死にたいんですか?」

「ああ言えばこう言う」

「言われる方が悪い」

「……ちっ」

「文官のあなたが、何を焦っているんです?」

 美奈代は目を開いた。

「ただ、知らない振りして登庁して、追い返されたら文句も出ないでしょう?武官の私ですら、何とも思っていないのに」

「クーデターだぞ?」

「陸軍や海軍ならともかく、どこのバカが近衛にケンカふっかけるんですか?近衛の恐ろしさは子供でも知っていますよ」

「お前は政治を知らない」

 中野は言った。

「子供でも知っていることを知らないバカが政治を執ると、どうなるか、それを知らないんだ」




「だからですね」

 陸軍省の会議室で、眠そうな声がした。

「私は、今回の事態に対して、何も出来ないんです」

「何故だ!」

 ドンッ!

 殺気だった声を張り上げ、デスクを叩いたのは背広姿の男だった。

 高級そうな背広を着込み、時代遅れのポマードできっちりと七三に分けられた髪。

 胸には磨き上げられた議員バッチが光っている。

「この国家存亡の危機において、陸軍省が何もしないというのか!」

「何のための陸軍だ!」

「この帝都で身内に反旗を翻されて、よくも平然としていられるな!」

 同様に議員バッチをつけた男達も声を張り上げる。

「陸軍の職務上、こんな事態は想定されていませんからね」

「想定が無ければ何もせんのか!?」

「帝都防衛のため、市ヶ谷師団が訓練の名目で動いているではないですか」

「首相は反乱軍鎮圧を命じたのだぞ!岡山先生のご命令が聞けないのか!?」

「ですからぁ」

 デスクに座った男は、肩をすくめて答えた。

「新任の陸軍大臣を早く決めて下さい。首相命令だけでは陸軍は訓練以上の行動に出ることが出来ない。そう政令で決めたのは民州党のあなた方でしょう?」

「陸軍大臣は、首相である岡山先生が兼務されているのだ!その命令だぞ!?」

「なら、書類で出して下さい。それから、私はただの宿直です。陸軍省は、まだ時間的には閉庁されたままです。何でしたら、お越しの際は、開庁する午前9時以降に、関連部門長にアポを取った上でお願いします」



「大人しくしていただければ」

 都築源一郎は、議員会館の部屋に乗り込んできた兵士に開口一番、そう言われた。

「何もしません」

 銃を威圧的に向ける兵士を冷たく見つめた源一郎は、

「なら、部屋から出ろ。私はこの時間には寝ると決めているのだ」

 本当に、そう言い放って兵士達の前で布団を被って寝息を立て始めた。

 しばし呆然としたあと、あきれ顔で兵士達が部屋を出てから既に数時間が経過しようとしていた。

 源一郎は、日々過ごしている通り、午前5時30分に起床。零れる光に誘われるかのように、カーテンを開いた。

「……」

 議員会館から見た外の景色は、日々とあまり変わらない。

 ただ、軍用車両があちこちに止まり、武装した兵士達が街角のあちこちに立っている。

 その程度だ。

 源一郎は、窓際のデスクに置かれていたタバコに手を伸ばし、しばらく考えた後、箱に入った一本を抜き取り、マッチで火をつけた。

 コンコン。

 午前5時35分丁度に、ドアがノックされた。

「入れ」

「……失礼します」

 入って来たのは、スーツ姿の妙齢の美女。

 水野冴子。

 源一郎の公設秘書であり、同時に彼の愛人でもある女が、寝間着姿の源一郎の姿を見ても、何でも無いという顔で会釈した。

「お目覚めですか?」

「眠れたと思うか」

「……党が把握している限り」

 冴子は手にしていたファイルを開くと事務的に話し出した。

「都内14カ所で決起部隊と陸軍正規部隊が対峙していますが、午前5時時点では、戦闘には至っていません。

 陸海軍共に、都外のほとんどの部隊は、決起部隊と正規軍残留部隊のいずれにつくか、未だに様子見を決め込んだまま」

「ライフラインはどっちが掌握した」

「NHK等の放送施設は正規軍が。都内へ通じる送電施設、NTTなどの通信施設は、反乱軍がそれぞれ掌握しています。それ以外の水道やガス、国鉄といったライフラインは、両勢力共に手をつけたという情報はありません」

「……」

 源一郎は、灰皿でたばこをねじ消した。

「マスコミは何と?」

「テレビ、ラジオ、インターネット。全てにおいて政府広報を流し続けています」

 冴子は、視線をチラリとドアの外へと向けた。

「平常通りに―――と」

「……党所属議員との連絡は取れるか?」

「この状況ですが、携帯電話は生きています。私達も、携帯電話で情報をやり取りしている所です」

「各国の反応は」

「今のところは何も―――ただ」

「ただ?」

「近衛だけは大音量のスピーカーで、正規軍めがけて通告しています。誰が反乱軍だ。正午までに皇居周辺から部隊を引き上げろ。さもなければ、官公庁ごと焼き殺した挙げ句、岡山を殺しに茨城県庁へ侵攻するぞ―――と」

「……聞こえていたよ。よく聞こえてきた」

 源一郎は頷くと喉で笑った。

「指揮官は麗菜殿下だな。これが陛下だったら笑うしかない」

「笑う……ですか?」

「笑う以外」

 源一郎はタバコをもう一本、箱から抜き出し、口にくわえた。

「今の私に、何が出来るというのだ?」




 近衛軍の反乱軍指定は誤報だ。


 この宣言がなされたのは、午前8時すぎのこと。

 茨城県庁側にある高級ホテルに巨大な風穴が3つ程出来上がった後だった。


 そのホテルにとって不運だったのは、岡山首相がホテルのスイートルームで宿泊中だったこと。

 幸いだったのは、彼とその取り巻きが最上階に宿泊していた関係で、その日、他の階には誰も宿泊していなかった程度のことだ。

 岡山首相達が泡を食って逃げ出した後、ホテルは音を立てて崩壊。

 次の攻撃を恐れた岡山首相が県庁で緊急記者会見を開き、官房長官が陳謝するとだけ告げた。


 近衛がここを狙ってくる。

 茨城県は陛下の敵になった!

 戦場になれば、皆殺しにされる!


 果たして、それでいいのかと訊ねたくなる恐怖が県民の中に駆け回り、岡山出て行け!と皆が思う中、それでも岡山首相は酒臭い息を吐きながら県庁の知事室を臨時の首相執務室に指定。椅子にふんぞり返っていた。


「反乱軍の鎮圧はどうなった」

「それが」

 官房長官は答えた。

「陸軍に書類が届きません」

「書類だぁ?」

「はい。反乱軍鎮圧が望みなら、書類で提出しろと」

「俺は総理大臣、陸軍大臣も兼ねているんだぞ!?その命令が聞こえないのか!?」

「それが……」

 官房長官はすっかり薄くなった頭と額をしきりにハンカチで拭いながら答えた。

「各部門の稟議を通さないと、都内では兵を動かせない。そういう慣例と、それを強化した政令が効力を発している関係上……」

「どういうことだ!だれがそんな命令を下したんだ!」

「それは先生が……」

「俺がどうした!」

「先生が、政権をお執りになった就任当初にご自身でご命令になったことです。都内で軍隊なんて見たくないとおっしゃって」

「俺が悪いのか!」

「今は亡き、先の鈴木大臣の責任……です」

「そうだろう!」

 バンッ!

 岡山はデスクを叩いた。

「まったく、あの鈴木の若造にも困ったものだ!」

「は、はい」

「何でもいい!俺が都内に戻るためだ!反乱軍鎮圧を最優先にしろ!犠牲はどうでもいい……いや、待て」

「はっ?」

「反乱軍の首謀者は誰だ?」

「……ですから」

 何を言ってるんだ?

 官房長官はあきれ顔で答えた。

「石橋元幹事長ら、石橋派が中心のクーデターです」

「それじゃ、マズいだろう」

「はっ?」

「民州党からクーデターの首謀者が出ただと?世間体が悪いだろうが」

「し、しかし」

「情報は操作するためにあるんだ」

 岡山は、まるで子供に言い含めるように言った。

「民州党が、クーデターに関与しているなんてのは誤報だ。首謀者は憲政党だと、そうマスコミに流せ。世論を憲政党批判へと向けるんだ。それと、全部の議員は軟禁状態に置け。全部の警察と公安を総動員しろ。特にマスコミとインターネットの監視と情報操作に全力を傾けろ。

 絶好の機会だ!

 今後一切、俺に都合の良い情報以外は流すんじゃない。わかったな!?」




「……まぁ、こんな時に」

 天壇の一角で、真菜の報告に耳を傾けていたのは、ダユーだ。

「そんな“お暇”な事が出来るなんて、人類はとても暢気なのねぇ」

「岡山は元来」

 魔族軍の軍服に身を包む真菜は顔色一つ変えずに答えた。

「恐るべき俗物というべき輩です。この危機を自らに都合良く操作して、政権基盤の安定へとつなげるでしょう。そういう生物です」

「元の飼い主によくも言うわね」

「私にとっての飼い主は―――ダユー様だけです」

「それでいいわ」

 ダユーは頷いた。

「あなたの飼い主は私だけ。舌の使い方を間違えなかったことは褒めてあげる」

「ありがとうございます」

「それで?」

「岡山は、陸軍正規部隊が機転を利かせ、放送機関を先手を打って確保したことを良いことに、あからさまな情報操作に走っています。クーデターは対立する憲政党が仕立てたものであり、民州党が関与しているなどは誤報だ。それと、岡山県庁側のホテルに対する近衛軍の攻撃は、あからさまなまでの越権行為だと」

「越権行為?」

「国内での武力行使には、内閣総理大臣の許可が必要であり、その許可を得ず、しかも、その総理大臣の宿泊するホテルへ向けて攻撃を行うなど言語道断。今後、しかるべき措置を講じると」

「変な話ねぇ」

 ダユーはその美しい首をかしげて見せた。

「都内防衛部隊は、反乱軍の先手を打ったからこそ、放送機関だけでも反乱軍の手から守って見せた……とはいえ、都内で軍事行動が禁止されているなら、彼等も罰せられるんじゃなくて?」

「その通りです」

 真菜は頷いた。

「先程、市ヶ谷師団司令部は、首相の許可無く師団を動かした容疑で、身柄を拘束されました」

「……呆れた。放送機関を守った功績に対して罰で報いたのね?」

「そう、なりますね」

「都内防衛部隊は?」

「この措置にはさすがに……正直、師団は部隊としての統率を失っています。主力の機甲2個中隊は、既に近衛軍に対して帰順を表明。対して岡山首相達、政府に従う部隊もあり」

「岡山内閣か帝か、いずれかへ忠誠を示すことで立場を明らかにした?」

「そうなります。都内は現在、近衛軍が帯状に部隊を配置させています。近衛軍支配地域が正規軍と反乱軍の緩衝地帯を構築している有様で」

「……感想は?」

「……恥ずかしい限り、少し前ならそう答えたでしょうが」

「……」

「今は、チャンスだと答えます」

「模範解答ね」

「恐れ入ります。この混乱に乗じ工作は順調に進んでいます」

「ヴォルトモード卿には察知されていないわね?」

「知りようがないでしょう……それでよろしいのですね?」

 真菜のその問いかけの先には、ダユーはいなかった。

「―――結構」

 答えたのは、ユギオだった。

 チョコレート菓子の包みを解きながら、ユギオは満足そうに頷いた。

「人類にとって、約束は破るためにある。その法則に例外は認められない」

「面白いことですねぇ」

「悲しいことです……とでも答えておきましょうか」

「それこそ、模範解答ね」

「まぁ、そんなところにしておいて下さい。それより」

 ユギオは、チョコレート菓子を口に放り込んだ。

「天壇の城壁が完成すると聞いたから、見物に来たんですよ?」

「あらあら」

 ダユーは席を立った。

「ゲストをお待たせするなんて、失礼いたしました♪」

 その声は、とても楽しそうに真菜には聞こえた。

「天壇の往時の姿を、とくとご覧あれ♪」




 大韓帝国海軍第一艦隊旗艦“元山”艦橋

「何が起きているって?」

「観測機からの報告です」

 キム提督の問いかけに、通信兵は答えた。

「浮遊城に対して、巨大な岩石の塊が群れをなして移動中。数、およそ300」

「岩石の塊?」

「提督、観測機が戻ります」

 耳障りなほどの爆音を響かせながら、一機の水上機が着水体勢に入ろうとしていた。

「写真を現像へ回せ……それと、今度こそ、着水にしくじらせるな。もう修理部品はないぞ?」



 提督の心配通り、見事にひっくり返った水上機から回収されたのは、画面一杯に空を飛ぶ岩石の群達の写真。

 提督でなくても、冗談だと思った代物だ。

「水上機1機オシャカにして」

 クレーンで引き上げられた機体はもうバラバラに近い。修理より放棄した方が、スペースの問題上も有効だろう。ヘリ甲板は空いているとはいえ、あんなものは乗せておきたくない。

 まったく、いつになったら、狩野粒子影響下でも飛べるヘリが配備されるんだ!?

「回収できたのは、こんな意味不明の写真だけか」

 提督は写真をデスク上に投げ出した。

「一体、何が起きているんだ?」

 駆逐艦2隻とコルベット艦4隻に過ぎない彼の艦隊では知る術もなかったが、この事態に青くなったのは、日本、ロシア、中国だ。


「岩石による障壁?」

 中華帝国軍極東艦隊を率いる呉提督は、参謀が持ってきた、浮遊する岩石の状況を前に、あきれるしかなかった。

 大小、様々な岩石の群が、帯状になって浮遊城を取り囲んでいるのだ。

「間違いありません」

 参謀は答えた。

「大小様々な数の岩石の塊が、あの浮遊城周辺に帯状に配置されています。ほぼ360度。全周囲に配置された岩石の状況からして、浮遊城へ侵攻する勢力に対する防壁として機能していることに疑いの余地はありません。天文学的にいえば、アステロイドベルトのような……」

「……」

「簡単なシュミレーションしかしていませんが、この岩石達が、邪魔で浮遊城に近づくのは、さらに至難の業になりました」

「一体、どういう仕組みだ」

「不明……さすが魔族とでも言いましょうか」

「ロシアの動きは」

「メサイア部隊を偵察に出していますが、さすがに仕掛けるようなバカなマネはしていないようですな」

「当然だろう」

 提督はしげしげと超高高度から撮影され、本国から運ばれてきた偵察写真を眺めながら唸った。

「俺が祖国全部の軍隊を持っていても、こんな所は攻めたくない」

「元来、揚陸部隊は飛行艦のみをもって揚陸可能。その頭数を揃えるだけで精一杯でしょうに。この帯状の岩石群を突破するにしても、どうやればよいものか……」

「仕掛けなければ、わからないとしか、言い様がないな」

「同感です」



「―――ほう?」

 ユギオは目の前の光景に目を細めた。

「成る程?魔力による無重力帯効果を発揮させ、そこに岩石を浮かせた……」

「ええ。宇宙空間における鉱物資源確保技術の応用です」

「……さすがですな」

「どうも♪」

 ダユーは優雅にスカートの裾を掴んだ。

「人類がここを攻めたければ、まずはあの城壁を突破するしかない。しかし」

「アイバシュラ達をあそこへ配置すると?」

「ええ」

「これで日本海側の防壁はほぼ完璧」

 ユギオは満足げに頷いた。

「中華帝国軍の部隊もそろそろ福井へ到達する頃ですから……資源と戦力の確保は十分……ですね」

「人類の関係をかくも引き裂くとは、あなたは本当にひどい人ですねぇ」

「何とでも」

 ユギオは大仰に肩をすくめてみせた。

「誘いに乗るかどうかは、人類の判断ですよ?」

「自己責任……嫌いな言葉です。それで?」

「カネは出しました。人材は送ってもらう代わりに、ちょっと土地は借りはします。でも、文句を言われる筋合いはないですよ?」

「物は言い様ですね。あの漢民族の皇帝とどういう話しになっているんです?」

「簡単ですよ。あなたを人類唯一の王とする。そのつもりがあるなら、日本に兵を送れ。資金とメサイアは我々が用意しよう……そんな所です」

「人類最後の王、の間違いでしょうに」

「現行型の人類最後の生き残り……にしようかと思っています」

「記念に剥製にでもします?」

「不死の呪いでもかけて、博物館に繋いでおくのも面白いかと―――いかがです?」

「美少女でもない限り、遠慮しますよ。いくら希少でも、むごいほどの醜男ならなおさら」

「……なら、遠慮されるべきでしょうな。あの顔では」

「ダユー様」

 真菜が、ダユーに告げた。

「部下からの報告です。“狼煙があがった”と」

「―――上等♪」





 日本海で岩石が群れを成して浮かび始めたのと呼応するかのように、太平洋でも騒ぎが起きていた。

 駿河湾に待機中の米海軍の駆逐艦“モホーク”の第一砲塔から出火。

 火の手はすぐに弾薬庫に回り、“モホーク”は一瞬にして爆沈した。

 随伴する僚艦が“モホーク”の第一砲塔から煙が上がっているのを確認して、艦が爆沈するまで1分と経っていない。

 問題は、“モホーク”が爆沈しただけではない。

 爆沈する直前まで、“モホーク”がとっていた行動だ。

 第一砲塔は、射撃を続けていた。

 その筒先には、魔族軍の陣地があった。

 停戦期間中だというのに、“モホーク”の第一砲塔は容赦なく魔族軍の陣地へむけて76ミリ砲弾を発砲し続けた。

 発砲を確認した僚艦“シーガル”艦長は、即座に“モホーク”へ向け、事態を問い合わせると共に、発砲を止めるように全ての通信方法で試みたが、“モホーク”からの返答はなく、“シーガル”が把握している限り、46発の発砲の後、“モホーク”は爆沈した。


 艦長以下、“モホーク”確認された生存者は皆無。


 この事態を受けた魔族軍は、翌日には人類に通達した。


 停戦条約違反に伴い、停戦は効力を停止する。


―――そう、告げた。


 人類側のいかなる弁明も通じることなく、魔族軍は動きを示した。

 その矛先が日本でなかったことは、幸か不幸かわからない。

 魔族軍の第一陣が確認されたのは、ゴビ砂漠。

 突然、本当に突然出現した空を覆う巨大な存在が地響きを立てながら大地へ落着。

 落下物は、150キロの距離を隔て、三角形を形成するように大地に降り立った。

 全長数キロに渡るこの落下物に人類が接触するのは数時間後。

 モンゴル政府が派遣した観測機がそれだ。

 だが、その機体は、上空に到達したという報告だけを残し、一瞬にして紅蓮の炎の中へと消えた。

 落着物から出現したのは、無数の妖魔達。

 

 ネスタージュ級アイバシュラが地上で確認された最初の瞬間だった。

 





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