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川上麗央&沢口麻紀

「お呼びですか、殿下?」

「ちょっと、真理……ううっ。あーっ。飲み過ぎた……。美凪、梅干しとお茶……麗央と麻紀の異動辞令って、これ何よ」

「昨晩、承認のサインをされた件ですか?」

「誰がサインしたの?」

「殿下が」

「……いつ?」

「飲み屋で」

「私が?」

「後藤中佐相手に、“いいわいいわ。任せなさい”とか豪語された挙げ句、焼酎、ラッパ飲みしながらサインなさっていたじゃないですか。覚えていないんですか?」

「芋焼酎飲み始めた所までは覚えてるんだけど……そんな大切なこと、飲み屋で決めさせる前に止めなさいよ!―――っていうか、あ……あ、頭……割れそう」

「だから素面で交渉しましょうって申し上げたのに、カワイイお姉ちゃんのいる飲み屋でどうですか?なんて言われて、ノコノコと中佐について行った殿下の責任でしょう?」

「しーっ!」

 麗菜か真っ青になって口元で指を立てた。

「美凪に聞かれたら、私がどんな目に合うかわかんないの!?」

「想像は容易に」

 二宮は頷いた。

「二日酔いだろうが、何だろうが、お休みは一切認めません」

「薄情ねぇ……」

「とにかく、書類には気をつけて下さい」

 二宮は言い返した。

「お願いですから、めくら判を押すのは止めて下さいと何度も」

「んなこと言ったって」

 口元を尖らせて、麗菜が文句を言った。

「私は事務仕事向いてないし、書類なんて大嫌いだから、仕事日菜子に押しつけたくて、皇位を継ぎたくないって言い切っている程なのよ?」

「それ、自慢じゃありませんから」

「大体、メサイア乗りで事務仕事に向いてるなんて、私から言わせれば、異常なのよ、い・じょ・う!」

「……私も人の事は言えませんが」

 二宮はため息混じりに肩をすくめた。

「とにかく、第一小隊から二人、独立駆逐中隊へ異動になります。決定事項です」

「あーあ。欠員補充……どうしよう」




「―――よ。ごくろうさん」

「ご苦労さんじゃありませんよぉ」

 面会に来た後藤に、美奈代は半分泣きながら言った。

「こんなのあんまりです!」

「まぁ、士官教育の一環だと思えよ」

 後藤は笑いながらタバコに火をつけようとして、手を止めた。

「全館禁煙だっけ?」

「……です」

「それにしても」

 後藤は、しげしげと美奈代の爪先から頭のてっぺんまで眺め、言った。

「お前、スーツ着ると印象違ってくるな」

「そ、そうですか?」

 美奈代は、自分の着用している黒いスーツをしげしげと眺めてみた。

「ヘン……じゃないですか?」

「いや?」

 後藤は答えた。

「就職活動やってる学生みたいだな」

「……年の頃からすれば、似たようなものですからね」

 自分でもわからない落胆を感じながら、美奈代は訊ねた。

「ところで?」

「ああ。近くに寄ったんだ。ついでにお前にも、新入りの話、一応しておこうと思ってな」

「新入り?」

「ああ。穂村少尉のツテでな」

「あの子、友達いたんですか?」

「友達……ってのかな?ああいうのは」

「えっ?」

「鵜来を電子偵察に回すって話はしていたよな?」

「EWACSですよね?」

「そう。都築や早瀬でもいいんだけど……さすがになぁ」

「……ですね」

 美奈代は頷いた。

「踏んだ場数が違いすぎますし。何より鵜来少尉は確か」

「ああ。電子戦にもあいつ自身が強いし、逃げ足もいい」

「EWACSそのものは非武装に近いですけどね」

「高度1万5千から2万近くで戦線状況分析を主任務とするんだ。逃げる暇くらいあるでしょうよ。鵜来もそっちの方が良いといっているし」

「鵜来騎の後任が、新入りと?」

「二宮さんが来るって期待しただろ?」

「いえ?」

 美奈代は首を横に振った。

「……おんや?」

 意外そうな顔をしたのは後藤の方だった。

「何だ。もう乳離れが出来たのか?」

「というか……」

 美奈代は肩をすくめた。

内親王護衛隊レイナガーズとの共同作戦が恐いだけで」

「二宮さん絡みだと、あいつらと関わりが増える……」

 そりゃ、意外な方から見ていたな。と、後藤はあごの無精髭をしごきながら頷いた。

「太平洋上空の騒ぎみたいなこと、二度とゴメンです」

「残念だが」

 後藤はポケットから禁煙パイポを取り出し、口にくわえた。

「後任は、その内親王護衛隊レイナガーズからだ」

「え?」

「そう、嫌そうな顔しなさんな。実力の程は、穂村の折り紙付きだ」

「友達づきあいとかで、移籍させたとか、そういうんじゃないんですね?」

「騎士とMCメサイア・コントローラー、コンビでの引き抜きだ。内親王護衛隊レイナガーズに移籍する前、穂村と同じ部隊にいた経験がある」

「その評価を元に……ですね?」

「面談したけど、二人とも穂村の存在そのものを忘れていたよ」

「あの子も気の毒に……」

「何。もう、あの子は津島中佐の下で自分の居場所を見つけようとしているよ。部隊じゃ、柏や鬼龍院あたりが可愛がっている。平野には玩具にされているところがあるがな」

「……へぇ?」

川上麗央かわかみ・れお少尉と、沢口麻紀さわぐち・まき少尉。共に18歳だ」

「どっちが騎士ですか?」

「これが履歴書」

 後藤は持っていたバッグから書類を取りだして美奈代に手渡した。

 ウェーブのかかった、ふわふわした茶髪のロングヘアと整った顔立ちの、人形のような女の子が緊張気味の表情を浮かべている。

 顔立ちからして、かなり背が低く、そして幼児体型だろうことは容易に想像が出来る。

 氏名欄には、川上麗央かわかみ・れおと書かれていた。

「カワイイ娘ですね。宗像がいたら、反応が見てみたかったな」

 美奈代はそう言いながら、履歴書をめくった。

 ボブカットにされた黒髪に、意志の強そうな目が印象的な、すらりとした美少女。

 川村少尉と同い年というより、彼女のお姉さんと説明されたら、全員が納得するだろうな。と美奈代は思った。

「……沢口麻紀さわぐち・まき少尉の方が騎士ですか?」

「んにゃ?逆だよ」

「逆?」

 沢口の履歴書には、MCメサイア・コントローラーとしっかり書かれていた。

「まさか!」

 美奈代が目を見張ったのも無理はない。

 何と、騎士は人形のような幼児体型の女の子の方だ。

「この娘が!?」

「そう―――エースってワケにもいかんが、ハルバード使いとしてはかなりの腕だと、穂村は力説していたな」

「……あの子のお眼鏡にかなったことを信じろと?」

「レベルはAA+だ。内親王護衛隊レイナガーズでも高い方だぞ?」

「……人材不足、ですか」

「無理を言うな。Aレベルの人材なんてそうそういるもんじゃない。穂村のおかげで、眠っていた人材確保出来たと感謝すべきだぜ?」

「……麗菜殿下が黙ってるとは思えませんけど」

「ああ。殿下なら昨日、飲み屋で話しつけてきたよ」

「どこで!」

「六本木のいい所があってさぁ……行く?」

「行きません!」

「ったく、中野が憑りついたんじゃないか?カタブツになってるぞ?」

「そう思うなら、さっさと戻して下さいよぉ」

「ああ。泣くな。中野は悪い奴じゃない」

「私にとっては天敵です」

「―――だろうな。だけどよ?」

 後藤は、禁煙パイポをくわえたまま言った。

「滅多に見ることの出来ない内部情報を知るまたとない機会だ。補給ルートってのがどうやって構築されているのか。部品発注から前線まで何日位かかるのか。途中で何%が失われるのか。こういう所にいなくちゃわからんことも多い。お前、書類を書かされているとばかり思っていると、損するだけだぞ?」

「そこに気付くほどの精神的余裕はありませんよ。もう、うつ病寸前ですよ」

「自分で言ってる内は、んな病気になりゃしないよ」

 後藤は席を立った。

「状況をチャンスに変えるか絶望に浸ってるか。それだけで人生は違ってくるぜ?有意義に生きろ」





「ビームライフルの長径化……ねぇ」

「そうだ」

 テレビ会議システムの向こう側で、殿下が頷いた。

「ビームライフルそのものの構造を頑丈化させ、最悪、逆手で殴れる程度まで硬度を確保する」

「戦鎚……違うな。戦棍の代わりにするの?」

「ストック部分の強度を強めればと思っているけど、僕だってそんな使い方はして欲しくない。本来は、ビームライフルの射撃姿勢のまま、接近戦が出来るためにどういう武器が使えるかってことだ」

「それで銃槍?考える所は一緒だったわけだ」

「紅葉さんも?」

「ええ。サブマシンガンサイズ―――人間ならH&KのMP5位のサイズのビームライフルに銃槍を組み込んだのを配備中よ」

「短くない?」

「短いけどね……何?ロングライフルに?」

「かつて、銃を槍の代わりに使っていた時代の再来だよ。今、ドイツ軍に模擬戦をやらせている。評判はそこそこ。槍の間合いからビームの一発をお見舞いすることだって出来るから、新しい戦法が生み出せるとか」

「……デザインは?」

「エネルギーパックの小型化は僕の方が上だったね」

 殿下はキーボードを操作して、テレビ会議システムのモニターに設計図を映した。

「かつてのM1ガーランドをベースにしている。全長で16メートル。フルオートは無理だけど、10発までのセミオート射撃が可能。銃槍部は6.5メートルで、刀身先端部にエルプス効果を発動させることで、斬艦刀に近い破壊力を持たせている。何より、先端部にエネルギー出力を限定することで、騎体負担を減らす相乗効果もある」

「……成る程ねぇ」

 紅葉はティーカップに手を伸ばしながら、感心した様子で頷いた。

「こっちも、村田銃でも参考にしようかしら」

「リーチは長い方がいいよ?紅葉さん」

 殿下は勝ち誇ったように言った。

「槍と銃槍はかなりの武器になるから」

「わかった。考えておく」

 紅葉は頷くと、“お客を待たせているの”と、テレビ会議システムをカットした。

「―――参考になった?」

「……特には」

 首を横に振ったのは、愛くるしいウェーブのかかった茶髪の等身大人形。

 違う。

 だが、人形と間違える程の美少女だった。

 川上麗央かわかみ・れお少尉

 IDカードにはそう書かれていた。

「私はハルバードの方がいいです。使い慣れた武器が一番ですし」

「あなたのルールで敵が戦ってくれるという保証にはならないわよ?」

「それは……わかってます」

 麗央は、不服そうに頬を膨らませた。

「ですけど」

「―――まぁ、いいわ」

 紅葉は頷いた。

「シミュレーションの申請は受け取った。セッティングは申請書の通りにしておくから、明日の朝一番でシミュレーションに入れるように準備しておく。沢口少尉にもそう伝えておいて」

「了解しました」




「あ、終わった?」

 通路に置かれたベンチでスマホをいじっている沢口麻紀さわぐち・まき少尉が、麗央の存在に気付いて、手を止めた。

「うん」

「どうしたの?」

 麻紀は立ち上がって怪訝そうな顔をした。

「随分、おかんむりじゃない」

「……だぁって」

 麗央は怒ったと言うより、拗ねた口調で言った。

「麻紀のせいで寝不足になるし、遅刻して怒られるし」

「アッハハッ……ごめんごめん。でも、麗央があんまりに可愛すぎるのが悪いのよ?私にとって、麗央の“おやすみなさい”は、“襲って下さい”と同義語なんだから」

「麻紀はもう少し、理性を働かせた方がいいと思うわ」

「働いたら負けっていうじゃない」

「……最近、スケベすぎな少年漫画の主人公みたい」

「それ……なんか、地味に嫌ねぇ」

「……ところで」

 麗央は、麻紀の携帯に目をやった。

「麻紀は、スマホとか、使っていたんだ」

「え?普通でしょ?」

「……」

「まぁ、軍施設じゃ、いろんな電波飛び交ってるから、使いづらいし、ほとんどメールばかりだけどね」

「……で、ま、麻紀は、だ、誰とメールしてるの?」

「へ?」

「誰と、どんなメールしてるの?た、例えば……内容とか」

「今は内親王護衛隊レイナガーズや、他に異動した友達かなぁ。まだ生きてる?とか、大した用事じゃ無いのばっかりだけど」

「……そ、そう」

 ほうっ。

 麗央は少しだけ、安堵した表情になった。

「そ、そうなんだ」

「ふぅん?」

 不意に、麻紀がニヤリと勝ち誇ったように言った。

「もしかして、麗央?それってヤキモチぃ?」

「ち、違うわよ!だ、誰がヤキモチなんか……」

「もうっ。麗央ったらカワイイんだからぁ」

「うるさいっ!もうっ、麻紀のバカっ!」

「もう、そんなに気になるなら、麗央もスマホ買えばいいじゃない。二人でメールのやりとりしようよぉ」

「で、でも……麻紀とは部屋も同じだし、わざわざスマホで話さなくてもいいじゃない」

「まぁ、他にもネットに繋いだり、アプリでいろいろ出来るしね。便利よ?」

「ネット?アプリ?……スマホって、電話じゃないの?」

「えっ?……えっと、まさかと思うけど、麗央?あなた、今まで携帯持ったことないの?」

「だ、だって!」

 麗央はムキになって反論した。

「無線機なら使ったことはあるけど、野戦用携帯型通信装置って。でもあれ、緑色で、重くて、邪魔で、何だか可愛くないし、使いづらいし」

「……まぁ、あれも携帯といえば……携帯だけどさぁ。どんだけ内輪話よ……それ」

「えーと。でも、野戦訓練最後にやったのは、半年くらい前だよ?」

「だけどさぁ。麗央?あんた、かなり時代に取り残されているよ?」

「そんなことない!め、メールってあれでしょ?電話番号入力して、番号の組み合わせてで、短い文章を送ることが出来るって」

「そ、それ違うって言うか……何、それ?」

「ち、違うの?」

「進んでいるとは思えないけど……とにかく、さっき言った様に、最近の携帯は、インターネットも出来るし、アプリ、ダウンロードすればゲームも出来るし」

「い、意味分かんないけど、とにかくスゴいのね……」

「このままじゃ、世間様で恥かくわよ?」

「し、しかたないじゃない!私、ボタンたくさんある機械って苦手だし」

「……メサイア乗りの言葉じゃないわねぇ。それ」

「軍用は大丈夫なのよ!根性あるから、私が使っても壊れないし!」

「……ああ、民生品転用の野戦用調理具、爆発させたの、あれ、麗央だったわね」

「私、触っただけなのよ!?」

「さすが“クラッシャー麗央”……家電品店、下手に連れて行かれないなぁ」

「ううっ―――麻紀の意地悪っ!」

「それでも、自分の部屋のインターフォンの使い方もわかんないほど、麗央って機械音痴だもんねぇ」

「ふんだ!どうせ私は不器用ですよだ!」

「いやいやいや。それが麗央の魅力ですよぉ。“テレビがつかないぃぃっ!”って、泣きながら助けを求めに来た麗央―――可愛かったなぁ。んでもって、単にコンセント外れてたって分かった時のあの顔♪」

「へ、ヘンなこと思い出さなくていいのっ!麻紀のばかっ!」

「怒った顔もカワイイわよ?」

「まぁぁぁきぃぃぃぃっ!」

「ハハッ。ごめんごめん。でも、携帯は持ってほしいなぁ。恋人同士って、やっぱり、一杯メールとかしたり、カメラで写真とったり」

「写真?」

「スマホってカメラもついてるのよ?んでもって、こんな感じで♪」

 ピッ

「……何、これ」

「これ?私の大切なコレクション。題して、麗央の恥ずかしい写真コレクション♪」

「……」

「例えば」

「何よこれぇっ!」

「座学の時間、居眠りしている麗央」

「ヨダレ出てるじゃないっ!」

「お弁当、喉に詰まらせて死にかけている麗央とか」

「どこでこんなの撮ったのよぉっ!」

「最愛のは、この、私のシャツでハァハァしてる麗央♪」

「渡しなさぁいっ!壊してやるうっ!」

「あははっ。でも、スマホは面白いよ?」

「私にとっては全然、面白くないっ!」

「ねぇ。麗央?もし、私と恋人だっていうなら、スマホ買って?」

「えっ?」

「私、恋人同士でメールしたり、その日あったことを語り合ったりするの、憧れているの。だから、ね?」

「麻紀は、そういうの、したことないの?」

「えっ?だって、今まで、恋人なんていなかったもの」

「そ、そうか……なら、私がスマホをもって、メールとか始めれば、私が麻紀の初めてになれるんだ……」

「麗央ぉ」

 感極まった。といわんばかりの麻紀が、麗央に飛びついた。

「なぁんて、カワイイこと言うのかしら?この娘はぁ!」

「ち、ちょっと麻紀っ!?」

「もう、今晩寝かさないからぁ!」

「ちょっ!?ひ、人目があるんだからぁ!」

「私は麗央に一目惚れ♪」




「……随分、お楽しみだったみたいね」

 顔を真っ赤にした麗央が、いたたまれないという顔で、横に立つ麻紀を睨み付けたのは、それから10分後のことだった。

 場所はハンガー横の士官用ブリーフィングルーム。

 美晴があきれ顔で二人に言った。

「一応、美奈代さんの留守預かってるから言うけど」

「……」

 縮こまる麗央の横で、麻紀は平然とした顔だ。

「確かに、ウチの部隊はそういう所はフリーダムだと言われているし、第二の内親王護衛隊レイナガーズとか言われているし、白百合予備軍の掃きだめとか、いろいろ言われているけど」

「……」

 スゴイ言われようだな。と、麗央は内心で呆れた。

「新任の挨拶に遅れてくるってのは、フリーダム以前の問題。しかも、遅れた理由がいちゃついているってのは、感心できない」

「……はい」

「罰として、明日からみっちりシミュレーションをやってもらうから、覚悟しておいて?」

「……了解です」

「とはいえ」

 美晴は笑って言った。

「ほむちゃんといい、あんた達といい、新人が入って来たのは頼もしい限りよ。それと、都築君達はお帰りなさい。かな?」

「―――ああ」

 都築は頷いた。

「迷惑かけたな」

「―――こら」

 さつきが脇で小突いた。

「もう少し、言い様が」

「照れくさいんだよ。これで勘弁してくれ」

「お互い様」

「……なぁ」

 都築は、辺りをキョロキョロした後、訊ねた。

「フィアは?」

「……っ」

 美晴の―――否、ほとんど全員の顔が強ばった。

「あ、そうそう」

 事情がわかっていないのは都築だけではない。

 さつきも言った。

「あの子、どうしたの?今、もしかして染谷候補生の所?」

「染谷候補生はまだ病院」

「え?」

「お腹を撃たれて、リハビリ中。それと……」

「フィアさんは」

 ポンッと山崎が美晴の肩に手を置き、言った。

「……戦死されました」

「……」

 都築とさつきの顔が真っ青になった。

「まさか」

「あんな、あんな元気な娘が!?」

「北米戦線で……皆を助けるために……こんな言葉、僕は嫌いですけど、でも、それしか言い様がないので言わせて下さい。フィアさんは……立派に戦って……最後まで立派に……」

「……そう……か」

 悪かった。

 都築はうなだれたまま、言った。

「部隊で初の戦死者……か」

「……すみません。僕達は」

「責任はないだろう」

 都築は山崎に言った。

「戦争だ。誰だって死ぬんだ……事情はわからんけど、お前やみんながいて、止められなかったってなら、それは仕方ないことだって、俺はそう思うし、それ以外は知りたくない」

「……」

「―――すまねぇな」

 都築は、千鶴達に視線を向けた。

「お前達にゃ、関係ないような話だ。折角の着任祝いだ。和泉のへそくり使って、派手に行こうぜ?」



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