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閑話休題 その4

「陸軍や海軍の戦闘機部隊の仕上がり具合は?」

「順調です」

 美川少佐の問いかけに答えたのは、副官の森中尉だ。

 海軍時代から美川とは腐れ縁に近い間柄で、“美川のいない海軍なんて意味は無い”と、海軍を退役する一歩手前で、美川のツテによって近衛に引っ張られた人物だ。

「志願兵達の仕上がり具合も上々とか」

「機体の方は?」

「烈風改の製造は東北と九州で。スカイレーダーも北米からフェリーされています。特にアメさんは、日本を対中戦の橋頭堡にしたいってワケで、製造には血眼になってくれていますよ」

「……ありがたいのか何なのか」

 美川はコーヒーをすするように飲んだ。


 ここで美川の言っている烈風改とは、赤色戦争当時運用された機体ではなく、加納粒子影響下でも使える航空戦力として三十年戦争初期に再設計された、歴とした現役の海軍主力戦闘機だ。


 烈風改72型・要目

  乗員:1名

  全長全幅:10,55×14メートル

  発動機:タ46改3,500馬力×1

  自重:3,895キロ

  速力:時速715キロ

  航続力:5500キロ

  武装:25ミリ機関砲×4

     または25ミリ機関砲×2

     +ロケット弾・爆弾パイロン×6



 同時に、攻撃機としてはアメリカで開発され、ついに日本がこれを超える攻撃機の開発に失敗したと認めるA-1“スカイレーダー”もまた、美川達の護衛対象である。

 

 A-1 スカイレーダー・要目

   全長全幅:11.84m×15.25m

   発動機:タ46改3,500馬力×1

   最大速度:520km/h

   最大航続距離:4800km

   乗員:1名

   武装

   固定武装:20mm機銃x4

   胴体下部武装:魚雷または増槽

   翼面下部武装:2000ポンド爆弾×2

         またはプロペラントタンク×2、

         ロケット弾・爆弾パイロン×12


 対地攻撃に限定して考えれば、ジェット戦闘機よりも確実に長く戦域を飛行し、高い攻撃性を発揮出来るレシプロ機による対地攻撃支援は、歩兵や機甲部隊にとって心強いだけに、美川少佐達にとっては命がけで守るに値する存在なのだ。


「俺達の任務も輸送船団の航空護衛か」

「停戦期間が終わるまでです。米国のゲートだけでは全てが間に合いません。ベーリング海と北極海経由の輸送ルートもまた、日本にとっては生命線です」

「露助の動きは?」

「問題は奴等です」

 森は頷いた。

「石油の供給はともかく、未だに参戦するとも何とも声明を出さない……ただ」

「ただ?」

「あくまで噂ですが」

「構わない」

「……中華帝国との国境線付近に軍を集結させつつあるとか」

「そんな所へ?」

「すでにラムリアース帝国と秘密協定を取り付け、黒海機動部隊がスエズを超えたとも」

「……成る程?」

 美川はニヤリと笑った。

「魔族との戦争より、自前の領土が大切ってワケだ」

「いざとなれば」

 森はコーヒーカップを弄びながら言った。

「反応弾で列島ごと魔族軍を消滅させろというのが、元からヤツ等の主張ですからね」

「大陸の連中はうらやましいな」

 美川はコーヒーカップをゴミ箱に捨てた。

「やることも言うことも派手で」

「勘弁して下さいよ。俺達の家族はこの国にいるんです」

「俺の家族もそうだ」

 美川は立ち上がった。

「意地でもこの国を守る……そのための俺達だ」

「そうですね」

 森は美川に続いて立ち上がった途端、警報が鳴り響いた。

「スクランブル・アラート?」

「森中尉だ。このアラートは何だ?―――わかった。海軍からの要請だな?よし」

「どうした?」

「風翔のテストには絶好のチャンスです。ロシア軍と思しきメサイア3があと10分で国境線に到達します」

「俺達に行けと?」

「一番近くにいるメサイア部隊は我々です」

「よし……総員搭乗っ!」





「新型?」

 改装中の“白雷はくらい”達を見守る紅葉がその一報を受けたのは、美川達が離陸してから1時間ほどした後のことだった。

「はい」

 頷いたのは、千鶴だった。

 アルバイトと書かれた腕章をした千鶴は、プリントアウトした数枚の写真を紅葉に手渡した。

「ウラジオストック近郊の基地からの離陸が確認されています」

「……これは」

 紅葉が手にしているのは風翔が撮影した写真映像。

 灰色に塗装されたメサイアが、細部までくっきりと映し出されている。

「……シュトゥーゼ」

「情報部は新型と判断しています」

 千鶴は言った。

「津島中佐には、その分析の要請が来ています」

「そうね」

 うーん。

 紅葉はしばらく唸ってから答えた。

「コイツを日本海に配備する……?ほむ、この部隊はまさか、単なる東京急行や日本海で無駄なダンスしてたわけじゃないでしょうね?」

「ルート的には、ウラジオストック近郊の基地から、浮遊城を偵察する定期ルートを通っていますが?」

「……え?」

「何か?」

「偵察に回せる程、シュトゥーゼの配備が進んでいるということ?」

「あの……シュトゥーゼというのは、この騎のことですか?」

「そう。重武装でコストが高いローマイヤの後継騎。汎用騎としては、多分、世界最高峰のメサイアよ。パワー、操作性、汎用性、拡張性、どれをとっても、私が一番恐れているメサイア。本当の所言えば、お手本にしたいんだけどねぇ……とうとう日本海へ進出かぁ」

「……これが?」

「中国人のイカレオタクが作った割にはしっかりした造りでね」

 紅葉は“白雷はくらい”を見上げながら言った。

「こんなハイスペック騎も必要だけど、こういうのの頭数揃えないことには、次の戦いが終わる頃には、この東京にどんな旗が翻ってるやら」

「今の戦いは、魔族相手です」

「そうね」

 紅葉は頷いた。

「前から魔族。後ろからロシアか中華なんて、考えたくないわ。私でもね」

「……」

 千鶴は小さく頷いた。

「ところで、ほむ?“白龍”のシミュレーション結果は?」

「課題範囲はオールクリアしました」

「ほむの実力、甘く見ていたか……設定が緩すぎたかなぁ……後で設定いじっておくわ?退屈でしょう?」

「いえ」

「とりあえず、あんたの要望通り、あんたに預ける“死乃天使”2号騎だけど」

「……最高です」

 千鶴は頷いた。

「“白雷はくらい”だろうと、“幻龍改げんりゅうかい”だろうと、どんな敵にも負ける気はしません」

「そう」

 紅葉は微笑みながら言った。

 天儀中尉に負けたのが相当悔しいんだろうことは、自ら“D-SEED”の同型を希望してきたことから察することが出来る。

「ところで、ほむ?」

「はい?」

「ほむって言ってみて」

「……ほむ?」

「やっぱりかわいいわ。脳みそいじってあげようか?語尾にほむってつけるように」

「結構です」

「それでも……」

 紅葉は、手元にあった書類を手に取った。

「中隊に入る条件として、二人、部隊に入れろってのは珍しい要望よね」

「どうでした?」

「まぁ、もめたと言えばもめたけど」

「もめた?」

内親王護衛隊レイナガーズから騎士とMCメサイア・コントローラーでしょう?人事権持ってる麗菜殿下と二宮大佐がねぇ」

「?」

「空きがあるなら自分達が行きたいとか、騎体回せとか……後で後藤さんにお礼言っておきなさい?飲み屋まで連れて行って、散々苦労したって聞かされているから」

「それで?」

川上麗央かわかみ・れお少尉と、沢口麻紀さわぐち・まき少尉のコンビも明日には、こっちにくる。

 二人には、鵜来少尉が電子偵察騎に搭乗する関係で、空いた騎を任せることになるけどさぁ」

 紅葉は、周りを見回した後、小声で訊ねた。

「この二人、もしかして百合?」

「百合って、何の暗号符丁ですか?」

「同性愛者の俗称」

「……仲はいいですよ?」

 千鶴は答えた。

「前にいた部隊でいつもべったりくっついてましたし」

「……へぇ?」

「いつも、出撃前におまじないだとかいってキスしていたのが印象に残っています。

 ただ、緊急出撃が発令された途端、二人が川上少尉の部屋から半分裸で飛び出してきたのを見た時には、まだ未熟だと思ったのですが」

「……あのさぁ」

「はい?」

「その二人が内親王護衛隊レイナガーズにひっぱられた理由って、考えたことない?」

「二人の腕前ですか?」

「戦果はかなりよね。アンタほどじゃないけど」

「川上少尉は、ハルバードを使わせれば右に出る者はいないと思います」

「……わかった」

 紅葉は頷いた。

「他の改修騎と、ほぼ同時に組み上がる“白龍”試作型を“死乃天使”の装甲使って外見を仕上げて、ほむほむに預ける。これでいいわね?ほむ」

「文句はありませんが」

 千鶴は眉をひそめた。

「……その、ほむとか、ほむほむって、何とかなりませんか?」

「嫌よ」

「何故?」

「かわいいから」

「部隊どころか、整備兵にまでほむちゃんって言われるのは、何だか」

「嬉しくなる?」

「違います」

「照れなくて良いのよ?騎体にはほむほむ専用ってちゃんと書いてあげるから」

「結構です」

「ああ、そうそう」

「?」

「イメージカラーどうする?姫さんは紫。和泉大尉は瑠璃色だけど」

「……」

 千鶴は、しばらく考えた後に訊ねた。

「お伺いしたいのですが」

「ん?」

「姫さんというのは、“D-SEED”のパイロット、天儀中尉のことですか?」

「他に誰がいるの?」

「……何故、中尉は禁色きんじきを使っているのですか?」

 禁色きんじき―――

 実は、近衛のメサイア部隊には、基本的に使うことが出来ない色がある。

 まず、白。

 これは、天皇護衛隊オールドガーズの専用色に近く、この色を採用された騎で敗北することは許されないため、白く塗装された騎は、別名“死に装束”とまで呼ばれ、敬遠の対象となる。

 美奈代達、独立駆逐中隊がこの色に塗装されているのは、実は異例に近いのだ。


 他には金や銀がある。

 これはもう、目立ちすぎる上に、天皇専用騎が金色に輝く騎であることに由来する。


 そして―――紫だ。


 元来が禁色の基本となる紫。

 それは、皇族専用騎にのみ使用が許される色であり、騎士個人に許可されるパーソナルカラーとしても紫は、青紫を含めて許さなれないことになっている。


 それが許されている。


 千鶴でなくても疑問としていいことだ。


「……そうね」

 紅葉は言った。

「正確には紫じゃないからね。あれ」

「……」

「あれ、群青色。ちなみに、和泉大尉騎はコバルトブルー」

「……屁理屈です。青紫じゃないですか」

「それで通るのが、お役所よ?質問は終わり?」

「下手な質問は命取りになる。そういう警告と受け取ります」

「和泉大尉より、ずっと出世するわよ?あなた」

「……どうも」

「で?何色?」

「その理屈でお願いします。ミッドナイトブルーで」

「……色の見本帳、塗装担当兵から借りてきて」




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