制約 ギアス
こんな危険に巻き込んでおいて、誰も見舞いにもこない!
ハンガーに収容された中隊の中で、息巻いているのは涼だ。
“幻龍改”の爆発に、本当にギリギリのタイミングで巻き込まれずに済んだ“死乃天使”の足下に寝かされているのは、“D-SEED”。
腹部を短剣でめった刺しにされ、割れた装甲からはみ出たケーブル類が内蔵、漏れ出たオイルが血液を連想させる。
“死乃天使”が、“D-SEED”を担ぎ上げ、脱出機動に入った途端に爆発した。
あと少し、タイミングが違っていたら、祷子達の命はなかったろう。
損害は“D-SEED”だけではない。
千鶴によって擱座させられた騎も、その多くがそれなりの損害を被っている。
中でも深刻なのは、擱座した際に骨折して、今や病院の世話になっている有珠だ。
コクピットブロック周辺の装甲が大きく変形しており、衝撃のすさまじさを物語っている。
美晴達は体は無傷とはいえ、擱座という屈辱が精神的に与えた影響は軽視できない。
乱暴にコクピットから降りた美晴は、無言のままトイレへと消えたまま。
山崎はそんな美晴を見送ると、ぼんやりと愛騎の足下に立ち尽くしたままだ。
「……」
肝心の部隊長である美奈代は、未だにコクピットブロックから出ていない。
千鶴の存在だ。
TACの間近にわざと騎体を駐騎させたのも含めて、千鶴の処遇に迷っていたからだ。
未だに気絶したままの千鶴。
その生存を、光菱に教えるべきか。
本来なら吉報のはずだ。
だが、美奈代は何故か迷った。
教えるべきではない。
脳裏で何かがそう告げている。
教えると―――大変なことになる。
そう、告げているのだ。
こんな事態になっても、様子伺いにもこないどころか、未だに通信が復旧しない管制センターの様子も気になる。
「ここで」
千鶴の華奢な体つきを腕に感じながら、美奈代はポツリと呟いた。
「下手は打てないな」
「大変な事態になりました」
神宮司がそう告げたのは、美奈代達がわざわざ管制センターに足を運んだ時のこと。
“幻龍改”が爆発してから、時間にしてすでに2時間近くが経過していた。
爆発の危険性が少なくなったという理由で、ようやく消防車が“幻龍改”に近づきつつある中だ。
神宮司の涼しげな顔に神経を逆撫でされる思いがする美奈代は、表向きは平然と答えた。
「何が起きたのですか?」
「“パースエーダー”に格納されていたロケットが暴発―――騎体が吹き飛びました」
「……メサイアが」
美奈代は、神宮司を睨み付けるように視線を外さずに訊ねた。
「暴走したようですが?」
「していません」
神宮司は、はっきりとした口調で答えた。
「強いて言えば、あれは騎士の暴走です」
「MCの福沢中尉は騎体暴走を宣言していましたが?」
「福沢中尉の誤認だと信じています。こちらでは確認出来ていませんので」
「確認させていただいて結構ですか?」
「……というか」
「?」
「通信装置の不具合がありましてね。未だに復旧していないのです」
「通信装置?」
「“幻龍改”とのデータリンクを含め、一切の通信が途中からダウンしていました」
“データなし”と表示されたままの真っ黒なスクリーンを神宮司は軽く指さした。
「……それを信じろと?」
「施設の電気系統の障害でしょう。我々の責任ではない」
「……穂村少尉達は?」
「……」
神宮司は、一瞬だけ戸惑ったような顔に見えた。
しかし、彼女は視線を美奈代から外して答えた。
「……残念です」
「残念?」
ピクリ。美奈代の眉が動いた。
「脱出していないのですか?」
「確認されていません。遺体回収は、消火活動終了を待つしかないでしょう」
「……騎体は?どう見ますか?」
「先程、私も目視で確認しましたが」
神宮司はジロッと睨むような目を美奈代に向けた。
―――余計なことを聞くな。
そんな、強い非難がそこにはありありと込められていた。
「あの状況では“無理”でしょう」
「助からないと?随分薄情ですね」
「残念には思っています。通信手段が根元からダウンしていなければ、我々も脱出を推奨したでしょう」
「……」
美奈代はチラリと技師達を見回した。
皆、仕事にかかりっきりという姿勢だが、実際の所、美奈代達に関わりたくない。という内心がありありと読み取れる。
「我々との通信を確保しようとしなかった理由は?」
「こちらもパニックに近い状況でした。通信ダウンの原因の調査だけで手一杯。少しは察して下さい」
「……」
美奈代は、少しの間沈黙し、そして言った。
「以降、我々はどうすれば?」
「明日、事故調査委員が到着します。状況の説明に立ち会って下さい」
「それまでは、我々は自由行動でよろしいですか?損傷騎の後送手配をしたいのですが」
「それは構いません」
神宮司はようやく笑みを見せた。
「―――ご苦労様でした」
「それと、後一つ」
「何か」
「津島中佐と後藤隊長の所在は?」
「事情はわかった」
紅葉や後藤達の移動のために派遣されてきたTACの中。
美奈代と牧野中尉、そして後藤と紅葉が、そして後藤の副官である涼宮が、機内に集まっていた。
その中、うなだれているのは、千鶴と福沢中尉だ。
紅葉専用に改装されたこのTACは、分類の中でも大型に属する。
機内には、下手な研究所並の電子設備だけでなく、長時間の飛行にも耐えられるように、トイレもあるし、研究員や乗員が仮眠がとれるベッドまで下手な民間旅客機並みの設備を誇っている。
さすがに光菱もここまで入ってこないだろう。という美奈代の判断は間違っているとは思えない。
集まった理由を光菱に訊ねられても、「会議はいつもここでやっていたから」という、その一言でケリがつくのも強みだ。
「和泉、お前の判断は正しいと思うぞ」
くわえタバコの後藤は楽しげに、ニヤリと口元で笑って見せた。
「……それはいいんですけど」
美奈代はジロリと冷たい視線を後藤と紅葉に向けた。
はっきり、非難している。
「今まで、どこにいたんですか?」
「うっさいわねぇ」
紅葉は首に氷嚢を当てながら美奈代を睨み付けた。
「誰かにぶん殴られてのびてたのよ」
「殴られた?」
「そう。首筋ね……管制センターの誰だろうが、後でぶっ殺してやるわ」
「ちょっと……それって」
「だから、んなことする連中が事故なんておしとやかなことしてるワケないの。これは全て、人災よ」
「……で?後藤隊長?」
「大人にゃ、大人の楽しみがあるもんさ」
「……お酒臭いんですけど」
「お前、今年成人式だったなぁ。今度、飲み行くか?」
「話をそらさないで下さい―――まさか、すすきの行ってたなんて言わないでしょうね」
「おっしいなぁ!」
パチン。と後藤は指を鳴らした。
「近いけど、違うな」
「どこです?」
「聞きたいかい?」
その不敵な笑みに、
「止めておきます」
美奈代は堪らずに視線をそらせた。
どうしても、この人には勝てないな。
そう、美奈代は内心で舌を巻いた。
「ロクでもないトラブルを背負い込みそうで」
「賢明だね」
後藤の横では頬をほんのり紅く染めた涼宮遥がおかしそうに笑っていた。
「神宮司さんは、この二人が死んだと断定しているんだな?」
「はい。先程、消火活動が終了。コクピット、MCR共に原形を留めない程の被害を受けています。私と牧野中尉が、意見を求められて現場に立ち会いました」
「何て言っておいた?」
「骨が残っていたら奇跡―――程度です」
「牧野中尉」
「はい?」
「普通の爆発事故―――こういうケースでさ?そこまでなるもんか?」
「……難しい所ですね」
牧野中尉は答えた。
「設計図を少しだけ拝見したのですが、騎体がある程度、改装されています。コクピット周辺とMCRの近くに20ミリ実体弾発射機構がありますし」
「20ミリ?」
「ええ」
福沢中尉が答えた。
「近接防御用です」
「タマの種類は?」
「焼夷榴弾」
「爆発すればそれなり……か」
後藤はタバコをくゆらせながらシートにもたれた。
「それがおかしいんですよ」
牧野中尉は言った。
「MCRやコクピットブロックの装甲を無視するようにドラムマガジンが配置されています。あんなの安全基準から考えると非常識です」
「というか」
紅葉は憮然としていった。
「いざって時に爆発させて、騎士とMCを用済みにするための仕組みでしょう?福沢中尉?本当に」
「はい?」
「CIWSの中に、弾薬が詰まっていた?」
「……ローディングは確認していますけど」
福沢中尉は首をかしげた。
「使用に際しては、管制センターの許可を得るように厳重な通達を受けていましたが?」
「試し打ちした事は?」
「ありません」
「CIWSはガドリング砲?」
「ええ。液体火薬を使用した、単発銃身タイプ」
「それが爆発したってことにすればいいだけよ。試射もさせていなかったのは、最初からいざって時に、こうするためでしょうね」
「そ、そんな!」
驚愕する福沢中尉の前で、紅葉は冷たく答えた。
「否定出来る?」
「……」
中尉は、残念そうに目を閉じると、首を左右に振った。
「……いえ」
「騎体はそんなところだが」
後藤が続けた。
「問題は、そんなこと知っちまったお二人さんをどうするかだな」
「今更、実は生きてましたなんて言ったら?」
「翌日あたりに死体だろうな。“貴重な騎体を壊した責任を死んでお詫びします”とかいう、ワープロ打ちの文章残して拳銃自殺とか」
「……」
美奈代は、二人を見た後、言った。
「二人とも、明日には騎体回収用の大型TACが来る。隊長。それに乗って、ここから離れる手はずをとれば」
「……だな」
後藤は頷いた。
「後は、俺の方でなんとかしてみよう。事態が一段落するまでは、ここから離れた方がいい」
「……でも」
福沢中尉は怪訝そうな顔をした。
「私達は、無事に脱出出来たのですよ?それを何故?」
「ここにいたら」
美奈代は中尉の言葉を遮るように言った。
「殺される。私達はそう言っているんですよ?中尉」
「えっ?」
中尉はきょとん。とした顔をした。
「それは?」
「神宮司さんははっきり言った。暴走は起きていない。確認していないと」
「まさか!」
「通信がダウンしていたと言っていたが、そんな都合のいい話があるものか。それに、どこをどうやったら、外部オプションの爆発で、コクピットやMCRが吹っ飛ぶような爆発が出来る?その結論は出た。近接防御用機構と名付けられた自爆装置が作動したんですよ」
「……そんな」
「福沢中尉」
「……はい」
「もう一度聞きます。騎体が暴走したというのは、本当なのですか?」
「神に誓って」
福沢中尉は胸に下げていたロザリオを握りしめた。
「コントロール不能に陥ったのは事実です。緊急制御を試みましたが、システムは停止しませんでした」
「緊急制止レバーは引いたのね?」
「一番から三番まで、全て」
福沢中尉がポケットからとりだしたのは、3つの安全ピンだ。
「……でも、騎体は暴走を続けて。その間にシステムダウンと強制終了を試みたのですが」
「精霊体は?」
「システム停止と同時に姿が消えて、以降は……」
「……データログは」
言いかけて、牧野中尉は肩をすくめた。
「暴走したら、ログなんて残ってるのかしら?」
「エラーログが確認出来るだけでも貴重よ」
紅葉は答えた。
「中尉?データディスクは回収したんでしょうね」
「脱出は手順通りにやっています」
福沢中尉は、足下に置いていたバッグの中から分厚くて四角い金属の箱を取りだした。
MCR側の戦闘記録ディスク。航空機で言えばブラックボックスに該当する。
「預かるわよ?」
「……構いません」
中尉は頷いた。
「殺されるよりはマシですから」
「うん……で?」
「で、とは?」
「二人の処遇はこれで良いとして、ウチの損害は本当に光菱が保証してくれるんでしょうねぇ」
「そりゃ」
後藤は肩をすくめた。
「あっちの都合ってヤツさ」
「はい……その通りです」
通信装置が“回復”した管制センターで、神宮司は余裕たっぷりに頷いた。
相手は光菱重工本社の重役だ。
「つまり、君は」
時間は深夜に達そうとしている。
高級なブランドモノの背広をブヨブヨに醜く太った体を押し込めている男が、緊張を隠せない様子で、落ち着きのない動作を繰り返す。
回線は専用回線。盗聴の心配はないというのに……。
―――全く、男という生物は。
神宮司は内心でせせら笑いながら言葉を待つ。
どうして、男はこういう時に腹を決められないのだろう。
こんな時にこそ、堂々として、意志を決めなければならないというのに。
「これは事故だというのだな?」
「結論はすでに申し上げたとおりです」
神宮司は頷いた。
「我が社に、少なくとも幹部級の関係者に、手落ちはございません」
「近衛はログデータの提出を求めてくるぞ?」
「データはすでに消去されています」
「消したことはすぐにバレる!」
バンッ
重役は机を叩いた。
「何ということをしてくれたんだ!データを改ざんした形跡とみなされれば、それだけで終わりだと、何故気付かなかった!」
「私は何もしていません」
神宮司は冷たく言い放った。
「やったのは佐藤副主任です」
「なっ!?」
神宮司の後ろに立っていた佐藤の顔が真っ青になった。
「私は、打ち合わせの内容を外部に漏らしたくないから、通信を切れと命じはしました。しかし、データの改ざんは命じた覚えがありません」
「……ふん?」
重役は鼻を鳴らした。
「つまり、佐藤君が暴走した結果、我が社は折角近衛から借り受けることの出来たメサイアを失ったと?」
「その通り」
「ち、ちょっと!」
佐藤は震える手を必死に伸ばしながら言った。
「な、何の話ですか!?私が何を!?」
伸ばされた手を乱暴に払いのけた神宮司は、そのまま佐藤を後ろへと突き飛ばした。
「HDを破壊したのも佐藤ですし、データ消去命令を下したのも佐藤です」
「……成る程?佐藤君が越権行為の挙げ句、暴走した結果がこれと」
「データが消去している事情については、そうなりますね」
「……困ったものだ」
「全くです」
床に尻餅をついたまま、呆然とする佐藤の前で、重役と神宮司が会話を続ける。
「メサイアは演習中に爆発事故を引き起こした。関係するデータを我が社が確保出来なかったのは、佐藤君がデータを破壊したため……か」
「はい」
「……うーむ」
二重顎をしごいた重役は、なにか納得できない。という顔になった。
「説得力に欠けるな。佐藤君が“何故”、そんなことをしたか……だが」
「佐藤は、血縁者に狩野重工の関係者が」
「……ほう?」
「バカな!」
佐藤は神宮司の足にすがりつきながら叫んだ。
「叔母は狩野重工とは関係ない!彼女は単なるパート清掃員だ!」
「そういうルートからでも協力者を獲得しようというのが、あの会社の狡猾な所ですわ」
「―――そうだな」
「神宮司さん、あ、あんた、一体何考えてるんだ!」
ガンッ!
佐藤のアゴを捉えたのは、神宮司のパンプスの爪先だった。
「負け犬に用はないのよ―――後始末はどのように?」
「佐藤君と共に札幌へ向かいたまえ……電話を入れよう」
「はい」
「不幸な事故はあるものだ」
不幸な事故。
それが何を意味するか。
佐藤は冷徹な企業倫理のまかり通る大企業―――光菱の中で学んでいる。
俺はよかれと思ってやったんだ。
会社のためにやったんだ!
家族のために!
みんなのために!
「全く」
重役は深いため息と共に呟いた。
「我々は社会組織の一員として、精一杯、社会通念というか、崇高な倫理に従って邁進しているというのに、一人の社員の暴走によってそれが傷つけられることがあっては困るんだよ」
「本当に、その通りですね。専務」
「私達がどれ程、潔白な身であっても、それを部下にケガされてはたまったものではない」
「一滴の汚水が、ワインの樽に入り込んだらそれは汚水とみなされる」
「佐藤君にも困ったものだ」
「佐藤の裏切りを見抜けなかったのは私の不徳の致す所です」
「いやいや。神宮司君はよくやってくれている。“スーパーパック”計画は、佐藤君の裏切りがなければ、順調に推移していただろう。ところが、佐藤君があの会社から買収された挙げ句、破壊工作に至ってくれたわけだ。これは予測しろという方が無理だ」
「ご配慮に感謝いたします」
「では……記者会見の場で会おう」
―――はい。
神宮司はそう答えたつもりだった。
だが―――
彼女はそれを口にすることは出来なかった。
頷き、喉から言葉を出そうとした彼女。
雄叫びと共に佐藤が振り下ろしたハンマーが、その脳天を叩き潰した。
カシャッ
卵の殻が潰れたような音が室内に響いた。
「このっアマっ!」
グチャッ
グシャッ
倒れた神宮司の頭をハンマーで何度も殴りながら、鮮血に染まってなお、佐藤はハンマーを振り下ろす手を止めようとしない。
「女の分際で!男に刃向かうからこうなるんだ!」
神宮司の脳漿と血がスクリーンにまで飛び散った。
悲鳴を上げて逃げ惑う研究員達。
重役は慌てて通信を切れとスクリーンの向こう側で叫ぶ。
「畜生!畜生めがぁぁぁっっっ!!」
「……うまいか?」
TACの中。既に福沢中尉は眠りに落ちている。
室内灯のぼんやりとした灯りの中、トレイの食事を口に運ぶのは千鶴だ。
シートのない場所。千鶴と真向かいの床に置かれた段ボール箱に腰掛けた美奈代がほほえみかけた。
「……はい」
千鶴は小さく頷いた。
「うまいって、意味がわかるか?」
「……いえ」
「生きているって……そういうことだ」
「……」
「出撃時間はどのくらいだ?」
「実戦で98時間です」
「かなりだな」
「和泉大尉達は」
スプーンをトレイに置いた。
「もっとでしょう?」
「まぁ、そうなるな」
「……仲間を失ったことは?」
「あるさ」
「たくさん?」
「私にとって」
食べろ。
美奈代は続きを促すと少しだけ背筋を伸ばした。
「かけがえのない友達を、目の前で失った」
「……ごめんなさい」
「事実は変えられない。少尉も苦労したようだな」
「いえ」
「“死神”の異名をその歳で取るとはな」
「……」
「話は聞いている。噂としてだが」
「……」
「気の毒だとは思うが……まだ終わっていないぞ」
「えっ?」
「答えを言う前に聞いておきたい。少尉、君はこれで終わったと思うか?」
「何が、終わったんですか?」
「君の戦いだ」
「……終わってないです」
「終わっていない?」
「……はい」
千鶴ははっきりと頷いた。
「何も始まっていませんし、終わってもいません」
「何故」
「“スーパーパック”は、何も完成していません」
「あれを実戦に送れば、君の戦いは終わるのか?」
「“スーパーパック”を全部のメサイアに搭載させて、全部のメースと妖魔を潰して、全てを焼き払って!」
千鶴はスプーンを握った手に力を込めた。
「勝って―――勝って!
みんなの死が無駄じゃなかったって、証明しなくちゃ!」
「それが、君の選択か」
「他に選択肢なんてない!」
ガシャンッ
トレーが床に転がった。
「でも―――でもっ!
他にやり方なんてわかんない!
みんな、みんな砲撃支援を求めて死んでいった、あの戦いで!
“スーパーパック”があれば、みんなが望んだ砲撃支援を必要なくなる!
あんな無残な死に方、誰もしなくなる!
それが望み!
私、私は、私の納得出来る方法をとるしかない!
与えられたのは、“スーパーパック”っていう選択肢だけ!
なら、その中で精一杯のことをしたい!
それしかないじゃないっ!」
千鶴の瞳を大粒の涙が零れた。
「既に騎体はない。“スーパーパック”の計画は大幅に遅延を余儀なくされるだろう」
美奈代はハンカチを取り出しながら立ち上がった。
「君がどう足掻こうと、どうにもなることじゃない」
「でもっ!」
「現に君は」
ハンカチで千鶴の涙を拭いながら、美奈代は囁くように言った。
「その“スーパーパック”開発陣に切り捨てられた」
「嘘っ!そんなの嘘だっ!私が気絶している最中に、騎体を壊したクセにっ!」
「私が君を助け出した時には騎体はまだ暴れていた」
「騎体が暴走するなんて、そんなことは嘘よ!あの子は、“時乃”は優しい子なんだから!」
「“時乃”とは、精霊体のことか?」
「そう」
千鶴はしゃくりあげると、小さく頷いた。
「だから、そんな子が暴走なんて、理論的にもありえないことをしでかすなんて、あり得ない!」
「しかし、現に君の騎は“D-SEED”を滅多差しにした。あれは君のせいか?それとも“時乃”のせいか?」
「そんなの知らない!私達のせいじゃない!」
「じゃぁ、誰が?」
「……違う……ヒック……私達じゃ……ない」
「……」
「どうして?どうして、みんなで私を邪魔するの?私、頑張ってやっている。なのに、どうしてみんな、私が“怠けている”っていうの?」
「……」
「私……どうすればいいの?」
「話をまとめよう。穂村少尉」
美奈代は、そっと千鶴の肩に手をやった。
そして、まっすぐ、千鶴を見つめた。
美奈代は訊ねた。
「君は、本当は、何がしたいんだ?」
「……私?」
「そう。君は“スーパーパック”を完成させたいだけなのか?それとも、誰かを助けたいのか」
「……私は」
「“スーパーパック”が人助けとならないことは、君も知っていたはずだ。それでも君は頑張っていた。それが君の意志だとしたら、それは何故だ?」
「……」
「本音じゃ、君もわからなかったんじゃないか?」
「……違う。私は……」
「誰かに教えて欲しかった。どうして、自分が死神なんて言われて、皆から嫌われて、そしてこんな所に送り込まれたのか。そして、こんな意味のわからない装置の開発なんてやらされているのか―――頑張っている意味が欲しかった。だから、君は自分を」
「違うっ!」
千鶴は怒鳴った。
「そうじゃなきゃ―――痛いっ!」
千鶴は頭を抱え、その場にうずくまった。
「私は……もう、痛いの嫌……みんなを助けるのが、私の仕事……だから、みんなのために、システムを開発する手助けをするが……私の仕事……」
「お前……まさか!」
美奈代は驚愕しながらその場にしゃがみこんだ。
「洗脳管理を受けているのか!?」
「私は……痛いの、イヤだから……」
次第に千鶴の目の焦点がぼんやりとしてくる。
ピントの合わない目で、千鶴はゆっくりと立ち上がった。
「私は光菱重工、開発局所属……」
「許せ!」
ドンッ!
美奈代は千鶴の鳩尾に拳を叩き込んだ。
一瞬、宙に浮いた千鶴。
崩れ落ちるその体を、美奈代はすぐに抱き留めた。
「……」
気絶したのを確認した美奈代。
その肩は怒りに震えていた。
「……光菱」
血走った目が、そこにいるはずのない神宮司を睨み付けていた。
「こんな子供に何を!」




