酷評
●夕方、ミーティング会場
「私どもの結論から申し上げますと」
夕方、ミーティングの席上、後藤は言った。
「両方とも……何ですな」
渋い顔をした出席者を一瞥した後藤は視線を彷徨わせ、
「使い物にならん。となります」
「それは」
額に青筋が立った神宮司が震える声で訊ねた。
「我が社の製品は実戦では役に立たないと?」
「“二兎追う者は一兎を得ず”という奴ですか?ビームライフルと斬艦刀の性能を一本化するってこと自体に、無茶がある……別に言えば、“帯に長し襷に短し”とも言うか、運用上、どうしても、剣としても銃としても、中途半端は避けられない」
「そこを運用でカバーするのが!」
バンッ!
神宮司は机を叩いた。
「軍人の仕事なんじゃないですか!」
「ビームライフル5発撃って」
山崎が言った。
「2分で斬艦刀としての機能を喪失するのは危険です。せめて本体から斬艦刀分だけのエネルギーを確保しないと、切り結んでいる途中でエネルギーダウンします。そうなったら終わりです。運用上でのカバーには無理があります」
「早晩」
山崎の言葉に続けて、美晴が冷たい口調で言った。
「現場から欠陥品のレッテル貼られるか、使用拒否されるのがオチです。会社の名誉を守りたければ、開発を中止するか、エネルギーパックシステムに固執するのを止めるか、どちらかを選択するしかないでしょうね」
「……っ!」
「加えさせていただければ」
美晴の言葉に頷いた寧々も続けた。
「構造上、エネルギーパックの交換に手間がかかりすぎます。グリップから手を離して、左手でフォアグリップを掴んで、右手で交換なんて、白兵戦で出来るとは思えません。左手を故障した時点で使用不能どころか、命運が決まるなんて非常識です。
それに、剣を突き出した姿勢でしか発砲できないなんて、敵に“これから撃ちますよ”とわざわざ合図しているようなものです。とても使い物になるとは思えません」
「“アナイアレーター”だけじゃないけどぉ」
芳も頬杖をつきながら言った。
「“パースエーダー”だって、実戦なら恐くて乗れないよ。装甲カバーが薄すぎて、破片でマルチミサイルに傷でもついたら、中から推進剤漏れるじゃん。一発で火だるまか、こっちが“たまやぁ!”の世界になるよ?“白雷改”の四種装甲だって、あれより分厚いけど、その装甲貫通して、命中した破片が、本体装甲の内側でやっと止まってたなんて、以外とザラにある話なんだよ?」
芳は、ちらりと千鶴を見た。
千鶴はまっすぐ前を向いたまま、微動だにしない。
「いつ吹っ飛ぶかわかんないシステムくっつけて……千鶴ちゃんだよね?あんなおっかない騎に乗ってるだけで私は偉いなぁと思うけど」
●食堂
「つーかさ」
盛岡冷麺をすする美奈代の前で、ソフトクリームをなめる紅葉が幸せそうな笑顔を浮かべている。
甘味類が貴重品となりつつある中、さらに富士学校から先、戦場ばかりを渡り歩いてきた美奈代は、最後にソフトクリームを食べたのがいつなのか、ちょっと思い出すことが出来なかった。
部隊の女の子達も、食後のデザートとしてソフトクリームを買いに列に並んでいる。
美奈代は、冷麺をもう一杯食べるか、それともソフトクリームを食べるか、支給された食券の使い道を考えてしまった。
「エルプスシステムと、エネルギーパックシステムは、特許的に狩野が公開しているから組み込めたようなもので、仰々しい名前つけても、あんなものに光菱らしいところは何もないのよ」
「そうなんですか?」
「特許的公開なんて、斬艦刀やエネルギーパックシステムの製造に必要な製造ラインを確保するための、狩野にしてみたら苦肉の策なんだけどさ……それで一儲けしようだなんて、光菱もセコいことするわよ」
「ふぅん?」
「それにしても、あんな程度のシロモノなら、心配する必要はなかったわね」
「……まさか」
美奈代も頷くしかない。
「柏達があんな厳しい評価を下すとは予想外でした」
「いざって時は命お預けします。それが武器でしょう?信頼性と使い道は絶対的な意味を持つのよ?斬艦刀だって、あんた等や、実戦部隊の意見を貪欲に取り入れているから、仕様変更や小さいバージョンアップを繰り返していることは言っておく」
「……“アナイアレーター”の改装は出来ないのですか?」
「どんな」
「刀身の部分だけ、パワーを本体から取り入れるとか……ほら、斬艦刀と同じで」
「本体と刀剣部を繋ぐ“FPTS”は近衛の特許というか軍事機密扱いを受けている。いくら光菱でも、その部分を取り入れた兵器なんて、近衛や狩野に断りなく発表したら大事よ?」
「企業がどうの言ってる場合ですか?今は」
「企業にとって、戦争ってのは経済活動のことよ―――ほら」
紅葉がソフトクリームのコーンで指した先には、トレイを持ったまま立ち尽くしている千鶴がいた。
美奈代達の会話に聞き耳を立てていたのは間違いない。
ハッとなった千鶴は、ちらっと美奈代達を見た後、そのまま歩き始めた。
「穂村少尉」
それを呼び止めたのは美奈代だ。
「和泉大尉だ」
美奈代は、大尉。という言葉に力を込めた。
「食事がまだなら、こちらで食べろ。いろいろと聞きたいこともある―――少しつきあってもらおうか?」
軍隊における階級。
それは絶対的な意味を持つ。
美奈代は大尉であり、千鶴は少尉。
その違いは圧倒的なものであり、千鶴に拒否権はなかった。
「本当にカワイイよねぇ」
ソフトクリームを手に戻ってきた芳が、千鶴の横顔を、興味津々という顔で眺めている。
「千鶴ちゃん、歌とか歌えないの?」
「……別に」
「むぅ。アイドルユニットで十分活躍出来るよねぇ。ね?涼」
「うん……千鶴ちゃん、戦争終わったらオーディション受けてみたら?」
「興味、ないです」
トレイに置かれた漬け物を口に運びながら、それでも頬をほんのりと紅く染める辺り、年頃の女の子だなぁ。と、美奈代はそんなことを思った。
「少尉、“スーパーパック”についてだが」
美奈代は冷麺を食べながら訊ねた。
「少尉の目から見て、その売りは何だ?」
「―――それは」
千鶴は、箸を止めると、美奈代の顔を見た。
「“スーパーパック”の特性は、その柔軟な武装オプションにあり」
さっきまでの寡黙さはどこへ行ったのか。
千鶴は蕩々と“スーパーパック”について熱っぽく語り出した。
千鶴に言わせると、本来の“スーパーパック”は、追加武装を搭載するフレームのことであり、本来はミサイルポッドを含む“アナイアレーター”なんて、そのオプションの一つに過ぎない。
ただ、対戦域攻撃性能が抜きん出て高いせいで、“アナイアレーター”のみが“スーパーパック”の目玉に据え付けられているだけとなる。
「……つまり」
ひょいっ。
パクッ。
横で聞いていた芳が、トレイに残されていたコロッケを口に放り込んだ。
「あっ!」
ひどくびっくりした顔のぽむら。
その顔がだんだんと涙顔になっていく。
「―――へっ?」
もぐもぐ。
ごくんっ。
きょとん。とした顔の芳は、やっと事情が飲み込めたらしい。
慌てた様子で、涙ぐむ千鶴の前で手をパタパタさせて弁明を始めた。
「ご、ごめんっ!千鶴ちゃんって、好物は最後にとっておくタイプ!?わ、私、つい嫌いなのかと思って!」
「こら、芳っ!」
「だって涼ぉ……私ん家なんて4人兄弟いるから、食卓のルールは“先手必殺”だよ!?」
「知るか、そんなことっ!ああっ。どうしよう!」
慌ててハンカチを取り出そうとする涼の横で、美奈代がテーブルに置かれた食券をほらむらの前に置いた。
「すまん。部隊長として責任とらせてもらおう。これをやるから、後でソフトクリームでももらってこい―――それで手を打って欲しい」
「い、いいんですか?」
「よかったねぇ。千鶴ちゃん」
芳が千鶴の頭を撫でる。
「反省がないっ!」
「うるさいなぁ。涼……っていうかさ」
芳は怪訝そうな顔で訊ねた。
「千鶴ちゃん?支給は食券2枚でしょ?」
「……演習で負けたから」
千鶴は俯いた。
「神宮司主任から罰だって、一枚取り上げられて」
「何それっ!」
皆がぎょっ。という顔になった。
「パイロットの資本は体だよ?それを何!」
「虐待じゃないですか」
「自分達はロクな兵器も作れないのに、それでパイロットに責任とらせるってどういう神経してるの!?あのババァ!」
「“スーパーパック”は!」
皆の憤りを遮ったのは、なんと千鶴だった。
「性能的に十分なんです!面で戦域を叩けるシステムがあれば、妖魔の集団突撃だって阻止出来ます!」
その真剣さに、毒気を抜かれた全員の視線が集まる中、千鶴は続けた。
「正面からの打撃や、メサイア搭載型のロケット弾攻撃だけじゃ、あの高速突撃は阻止出来ない!広域火焔掃射装置の炎が届く前に、メサイアが大型妖魔に潰されちゃう!」
「……」
「だからこそ、妖魔達との近接接触前に、面で叩ける兵器がいるんです!“スーパーパック”はそのために、どんなことがあっても、戦場に送り届ける必要があるんです!私は、“スーパーパック”を戦場に送り出して、一人でも多く助けたいんです!でなくちゃ!」
周囲の視線が自分に集まっていることにようやく気付いた千鶴は、はっ!となった後、顔を真っ赤にして再び俯いてしまった。
「……ずいぶん、苦労したらしいな」
美奈代が優しく語りかけた。
「人は苦労した分、優しくなれるというが、少尉はその典型例というわけだ」
「偉いねぇ……」
芳は感心したように、再び千鶴の頭を撫でた。
「ちょっとは見習いなさいよ。芳」
「涼だって人のこと言えないじゃん―――ねぇ?」
「……悪かったわね」
「だけど」
寧々が、申し訳ない。という顔で言った。
「搭載しているミサイルシステムは、狩野粒子影響下では意味を成さない」
「今は性能評価のせいでマルチミサイルを搭載していますけど、みなさんの評価さえ高ければ、ミサイルじゃなくて、無誘導型のショートロケット弾の開発と評価へ移れるって。ですから、どうあっても、今回の性能評価は高得点を」
「……そう、口説かれたんだ」
遮るように、美晴が冷たく言った。
「神宮司っていう女の人に」
「……はい」
千鶴は頷くしかなかった。
「―――馬っ鹿」
「柏っ!?」
「柏中尉!?」
突然の罵りに、皆が目を見張った。
「口車に乗せられているのよ。いい?神宮司って女の人、言っていたでしょう?“スーパーパック”は、“人類同士の戦争を想定したもの”だって。
つまり、魔族との交戦なんて考えていない。それに、ロケット攻撃で面で叩く。その発想は間違っていないよ?私達だって、幾度となくやってるし、それなりに有効だから。でもね?メサイアの騎体にくっつけたランチャーで、どうやって弾道調整するの?ちょっと考えればわかることよ?出来っこないって」
「―――っ」
「“スーパーパック”は、少尉はいろいろ利点があるというけど、私が見る限り、あのミサイルランチャー抜きにしたら意味がない存在。追加装甲なら、“白雷”の第四種装備を参考にした方がよっぽど現実的だし、実戦でも結果を出している。
体中にロケット巻き付けた騎体に乗りたいなんて、私なら思わないわ。背中にランチャー搭載して近接戦闘するだけで心臓に悪いもの」
「それは」
「広域火焔掃射装置のリキッドタンク搭載しての戦闘にも慣れてきたからアレだけど、最初は装着したまま戦えっていう、上の連中の神経疑ったもの。ここにきて、もし“スーパーパック”が正式採用されたら広域火焔掃射装置の上にロケット巻き付けろって事ですよ?あんまりですよ。恐すぎます」
「白兵戦の前に、敵を殲滅することにこそ、“スーパーパック”は意味があります」
「偶発的な戦闘も可能性の視野にいれておくべき―――違う?」
「それは広域火焔掃射装置でも同じはずです」
「リスクの上乗せは勘弁してほしいってことよ。別に“スーパーパック”の有効性は否定していないつもりです。ただ、普通の戦場に限定しての話」
「現在の日本では使い物にならない―――と」
「結果としてそうなるでしょう?津島中佐、せっかくここまで来ているんです。科学者として、あの“スーパーパック”を狩野粒子影響下では意味を持たせるとしたら、どう改装しますか?」
「改装すべき所を間違えてない?」
コーンをもぐもぐ食べながらやりとりを聞いていた紅葉は呆れた。という顔で言った。
「あのね?“スーパーパック”なんでご大層な名前つけてるけど、あんなのは単なる筒に過ぎない。問題はね?そこに収める中身でしょ?な・か・み」
「?」
「それつまり」
千鶴が答えた。
「ミサイルのことですか?」
「別にロケットでもいいけどね」
紅葉はニヤリと笑った。
「あんたも気付いているんでしょ?柏中尉の指摘が正しいこと。そして、それを実現しない限り、あれに意味はない。だからこそ、意味のあるロケット弾の開発に希望を託している」
「……」
「断っておくけど、光菱にそんな力はないわよ?」
「えっ?」
「あのね?」
紅葉は、白衣の六本線を指で弾いた。
「私や殿下、お師匠様という世界最高の頭脳が揃ってやったことがある。それが、狩野粒子影響下での誘導可能なミサイルの開発」
「……それで?」
「失敗したのよ。狩野粒子から電子システムを守るためには、魔力によるバリアが必要。丁度、メサイアやTACのように、魔晶石自体が発する魔力フィールドに包む必要がある」
「そのフィールドの開発に失敗した?」
「山崎……その失礼な舌ひっこ抜いたげようか?」
「し、失礼しました。ですけど」
山崎は慌てて口元を押さえて弁明した。
「それがわかっただけでも褒めてほしいのよ。発見したのはお師匠様だけど、何でTACやメサイアが狩野粒子の影響を受けないか、学術的にやっと証明できたんだから」
「つまり、人類はその段階―――つまり、何故そうなるか理解した段階で止まっている?」
「そういうこと。かといって、爆弾の誘導システムに魔晶石エンジン搭載するなんて、ダイヤモンドを燃やすようなものだし……」
「どうしようもないと?」
「―――ま、凡人がどんだけ頑張ろうと、天才の立場からすれば、無理の一言でカタが付く。光菱にそれでもやれるっていう技術と知識があるっていうなら、来年あたりのノーベル賞はそいつが総ナメ出来るでしょうね」
「低コストで、弾頭を包み込むような仕組みさえあれば」
「それが出来ないから、苦労してるのよ。わかる?穂村少尉?あんたの気持ちは理解できるし、敬意は持つ。だけど、科学者の一人として、現在の人類の科学技術であなたがやろうとしていることは、死人を生き返らせるのと同じくらい、無理としか」
「……そんな」
「狩野粒子の影響下ではジャイロまで狂う。現在のロケット弾の誤差が大体数十メートルって考えれば……あーっ、もうっ!そんな否定ばかりしていても、意味はないっ!いいっ!?天才がよってたかっても、解決できない問題ってのもあるものよ!」
「ですけど!」
千鶴はムキになって言い返した。
「神宮司主任は私に約束してくれたんです!必ず、戦場で使える誘導兵器を開発してくれるって!」
「あんたと私が老衰で死ぬまでに開発できたら、御の字でしょうね」
「―――っ!」
「そんなことに期待するなら、クラスター爆弾を弾頭に詰めたロケット弾の搭載を検討すべきでしょうし、実際、そんな所に落ち着くんじゃない?」
「そんなことはないです!」
千鶴は怒鳴った。
その瞳には涙が浮かんでいた。
「私―――私はっ!」
タッ。
言葉を詰まらせた千鶴は、そのまま駆けだして食堂から飛び出した。
「少尉っ!」
「千鶴ちゃん!?」
「―――やめなさい」
止めたのは紅葉だ。
「頑固な娘ね」
「中佐?本当に、ダメなんですか?」
浮かせた腰を椅子に戻し、美奈代が訊ねた。
「正確に、敵を面で叩く。それは我々にとっても有益です。あの娘が固執する価値はあるかと」
「だからぁ……」
「例えば」
美晴は言った。
「GPS誘導型とか」
「衛星軌道上の人工衛星は片っ端から魔族軍によって撃ち落とされている。連中は衛星の有効性について知っているわ。自立誘導にせよ、他律誘導にしろ、どっちにしても誘導システムを狩野粒子から守りたかったら、弾頭部を三次元から切り取るくらいの劇的な工夫が要るわ」
「……お手上げってわけですか」
「そう。そんな現実を変えたいっていう、あの子の気持ちはともかく」
紅葉は、美奈代の手から湯飲みを受け取ると、一気にあおった。
「現実への対処は一つじゃない。押してダメなら引いてみる。それでダメなら蹴りつけて、それでもダメならこじ開ける。試験で入れてもらえないなら、コネを使う。正規で入れない大学なら、書類と面接だけの通信制に挑戦して肩書きだけもらうことを考えるとか、打つ手は徹底的に打つっていう、このフレキシブルな気持ちが大切なのよ」
「それ、しつこいって言いません?」
「問題解決に向けた執念と言いなさい。そのしつこい位の執念こそが、人類をここまで生き延びさせても来たし、発展もさせてきた。私はそう信じてる」
「その執念で、ミサイルの誘導は何とかなりません?」
「私は出来ないことはしないの。何が出来て、何が出来ないかを知ることから、天才の一歩は始まるのよ」
「うわぁ。詭弁」
「黙れ、“死乃天使”の修理代、給料からさっ引くぞ?」
美奈代は両手で口を押さえた。
「とりあえず、聞いておく―――和泉大尉」
「―――しゃべって良いですか?」
「慈悲深い私に感謝なさい。返事する以外にも、呼吸のためにも口を開くこと許してあげるから」
美奈代は無言で頷いた。
「穂村少尉は、使い物になる?」
「……そりゃぁ」
美奈代は、昼間の模擬戦を思い出しながら答えた。
「腕は大したものですよ?」
そう。
美奈代は、自分を一度でも本気にさせた相手にほとんど覚えがない。
その中の一人に千鶴は入った。
美奈代は、それを素直に認めた。
「……そっか」
紅葉は嬉しそうに微笑んだ。
「ならいいよね」
「はっ?」
「明日の演習でいい」
紅葉は笑顔で言った。
「事故に見せかけて、あの“幻龍改”を、修復不能なまでに破壊して」
「はいっ!?」
「あの騎体がなければ、光菱のテストは止まる。もう魔族との停戦期間終了まで時間がない。これ以上の予備騎の手配はつかないはずよ?」
「とどのつまり」
美晴が楽しげに微笑んだ。
「ぶっ潰しちゃえば、こっちもさっさと引き上げられると」
「そういうこと」
「……ちょっ」
唖然とする美奈代の前で、
「まぁ、あんなシステムなんてどうでもいいから、あんた達は騎体の破壊と、穂村少尉のこっち側への引き込みに専念なさい。あの子に、うちの部隊への異動希望申請書にサインさせれば、後は私と後藤さんで上手くやるから」
「あの子を!?」
美奈代は自分の大声にハッとなって、周囲を慌てて見回した後、かがみ込んで小声で訊ねた。
「穂村少尉を中隊へ?」
「騎体はなんとかしてあげる」
紅葉はにんまりと意地の悪い笑みを浮かべた。
「AAAなんて素質のある騎士、放っておくのもったいないでしょ?」
「前衛に回していただければ、随分と楽になりますね―――どう思う?柏」
「ポールウェポンが得意なら大歓迎ですけどね」
「あんなの振り回すんだから、苦手なはずはないでしょう?」
「そうですね……後は、さつきさんと都築君が戻るのを待つだけですねぇ」
「そういうこと。不満?和泉大尉」
「いえ」
美奈代は首を横に振った。
「素質のある人材は歓迎します」
「そういうことよ。光菱のアホな計画潰して、あの子を引き抜く。騎体破壊にしくじったら、みんなで明日の晩、協力して頂戴」
「何するんですか?」
「決まってるじゃない」
ウププッ。
口元を押さえた紅葉がこのとき浮かべた笑みを、美奈代は表現する言葉を思いつくことが出来ない。
「楽しませてあげるわよ?和泉大尉?」
「はっ?」
「お姉様はっ!」
きょとん。とする美奈代の横で、涼が真っ赤になって椅子を蹴った。
「私のモノですっ!お姉様と《自主規制》していいのは、私だけですっ!」
「……それ、はっきり言わないでよ」
紅葉は真っ赤になって首をすくめた。
「私、まだ14なんだから」
「えーと」
美奈代はようやく意味がわかったらしい。
「つまり?」
「宗像仕込みのジゴロとしての才能、試す時が来たってわけよ。女同士だから、妊娠の心配ないし……ねぇ?」
「美奈代さん」
何故か祷子が親指を立てながら言った。
「―――リクルート活動、頑張って下さい」
「止めろっ!」




