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死神の涙

「ようするに」

 回収される“幻龍改げんりゅうかい”を前に、かおるは合点がいった。という顔で言った。

「仕込み武器ってワケね」


「ビームライフルと斬艦刀を一緒にしたのが“アナイアレーター”ってことでしょう?」

「そうなりますね」

 寧々が頷いた。

「突き技と一緒に、ビームライフル攻撃……考え方によっては恐ろしい武器ですね」

「でもさぁ」

 かおる達の前で、“死乃天使”が収容を完了した。

 慌てて騎体から降りた美奈代が、左足部の装甲板に付いた黒い焦げ跡を前に泣きそうになっている。


 これ、誰が弁償すんのよぉっ!


 美奈代の号泣をよそに、かおるは続けた。

「使い物になるの?」


 “幻龍改げんりゅうかい”のコクピットハッチが開いて、千鶴が顔を出した。

 あまりに無表情に近いせいで、その顔から感情を読み取ることが出来ない。


「武器の性能を見る模擬戦で、蹴りを入れて勝利なんて、普通なら考えられないことですしねぇ」

 寧々も思案気に首をかしげる。

「とにかく、実際に使えるかどうかは、あの子だけじゃなくて、私達も使ってみない限り、判断もつかないことですし」

「マトになれとは言わないよね」

「まさか」

「……よかったぁ」

 かおるは、その平べったい胸をなで下ろした。

「遠回しな銃殺かと思っちゃったよ。ははっ」




「性能の半分も見せることが出来たとは思えません」

 不機嫌そうに神宮司が言った。

 すでに全騎のハンガーへの収容が終わり、後藤達は会議室へと集められていた。

「“パースエーダー”のミサイル攻撃をお見せしただけで、全てが終わったと思われては困りますし」

「いやいや」

 後藤は言った。

「あの派手な花火は、見物でしたよ」

「……“パースエーダー”開発者としては、十分満足のいく運用がされたとは思いません」

「そうですか?」

「せめて、和泉大尉が空中機動ではなく、通常機動で攻めていただければ、“パースエーダー”は、もっと本来の、あるべき姿を示すことが出来たでしょう」

 ジロリと睨みつけるような視線の先には、千鶴がいた。

「……」

 姿勢を正して、ずっとまっすぐ前を向く千鶴は、その視線に眉一つ動かすことはない。

「―――今回、皆様方の任務は、“スーパーパック”の性能評価であることをお忘れなく。そのためには、二つのシステムの性能をフルに引き出していただきます」

「―――具体的には?」

「明日以降、こちらから指定したシチュエーションでの模擬戦、それから、皆様方が実際に“スーパーパック”を運用していただき」

「それ、無理」

 言ったのはかおるだ。

「だって私、特Sサイズのコクピットユニット必要だもん」

「それが“幻龍改げんりゅうかい”に乗れという命令なら、僕もです」

 山崎が手を上げた。

「僕、このサイズですし」

「……使える方だけでも」

「多分、使えるとしたら」

 美奈代が言った。

「逆に平野少尉くらいでしょうかね。“幻龍改げんりゅうかい”のコクピットユニットは、多分……特Sですよね。あの子の体格から考えて。平野少尉?やれるか?」

「やれと言われればやりますけど」

 うーん。

「でもぉ。私達の戦争には意味ないんじゃありません?あんなの」

 その横では、涼が頷いていた。

「それは?」

 神宮司の問いかけに、かおるは平然と答えた。

「だって……狩野粒子の影響で、電子装備にスゴい影響出てるんですよ?自立したAIって言ったって、狩野粒子影響下でも通常と同じように動くっていうなら、戦争にメサイアなんて要りませんよ」

「……」

「どうなんです?」

「―――確かに」

 神宮司は頷いた。

「狩野粒子影響下でミサイルが使用不能になることは、私も認めるしかありません。そして、現在の科学技術では、有効な打つ手がないことも」

「じゃあ」

「でも、平野少尉?あなたの戦争が魔族との戦争を指すなら、世界にはそれ以外にも戦争があることをお忘れなくと言っておきましょう」

「……対機甲部隊戦、もしくは航空戦」

 寧々が厳しい顔で言った。

「仰らんとしているのは、人類同士の戦争を想定したものだ。ということですね?」

「然り」

 神宮司は頷いた。

「本来、光菱が目指しているのは、そういうものです」




「なぁにが」

 かおるは憮然とした顔で、皿にのったポテトをフォークで突き刺した。

「よもや、職業軍人である皆さんが、それに抗議されるようなことはないですよね?だっての!」

「勘弁して欲しいですよねぇ」

 食堂でポテトサラダを突く美晴が頷いた。

「要するに、満足の行く評価が欲しいから、私達をコキ使おうっていうんですよね」

「大体」

 涼も顔をしかめながらご飯を食べている。

「魔族相手に戦争している時に、人間相手の兵器開発なんて、それ自体が信じられませんよ」

「私、あんなの使いたくないなぁ」

 寧々がぼやく。

「カッコ悪いし、使い勝手悪そうだし」

「重さを破壊力に乗せるとしても、中途半端な重さだろうし、あれじゃ、ビームライフルの照準、つけづらそうですね」と、山崎も頷く。

「山崎中尉達みたく、ポールウェポン使っている方でも、そう思います?」

「そうですねぇ」

 山崎は、横に座る美晴からお茶を受け取った。

「どうも……使い道が思いつきづらい装備なんですよね。諸刃の剣は振り回す時危なそうですし」

「それは言える」

「ですねぇ」

 美晴と有珠ありすが同時に頷いた。

「大体、刀同士で切り結んでいるというのに、エネルギーパック交換なんて出来ると思っているのかしら?」


 評価はもうボロクソだ。


「あんなものに予算つぎ込むなら、福利厚生にでもつぎ込んで欲しいわよ」



 ガタッ

 皆が勝手なことを言うテーブルから少し離れた所で椅子から立ち上がったのは、小柄な少女。


 千鶴だった。



「すっかり遅くなったな」

 報告やヒアリングなどで時間を取られた美奈代が食堂に入ろうとしたのは、その時だ。

 何を食べようかなんて考え、壁に貼り付けられた張り紙に意識が行っていた美奈代は、

 トンッ

 食堂から出ようとした千鶴に気付くのが遅れた。

 そして、互いの肩がぶつかった。

「あ、すまない」

 無意識に謝ったのは美奈代の方だ。

「……」

 千鶴は下を向いたまま、小さく頷いたかどうか。

 そんな具合で、美奈代の横を小走りに通り過ぎていった。

「?」

 痛かったのかな?

 美奈代は、肩で感じた千鶴の体の柔らかさを思い出しながら首をかしげた。

「ケガ……してなきゃいいけど」

 カウンターにトレイを持って立つ美奈代は、千鶴の背を見送るように、出口に視線を向けたままだ。

「はいよ?何にする?」

 食堂のおばちゃんが美奈代に声をかけた。

「あ、何あります?」

「A定食は終わり。C定食ならすぐだよ」

 美奈代の軍服姿に気付いたおばちゃんが、しげしげと美奈代を見た後、

「お嬢ちゃん、軍人さんかい?」

「え?ええ、近衛です」

「ああ。さっきの嬢ちゃん達と一緒かい」

 小太りの60の坂を越えているだろう老婆は、シワだらけの顔を綻ばせて笑顔を見せた。

「死んじまった爺さんもなぁ。海軍にいたんだよ。大尉まで行ったけどなぁ。酒癖が悪くて」

「私と一緒ですね」

「嬢ちゃん。そのトシで酒癖悪いと嫁のもらい手なくなるで?」

「いえ。階級の方」

「ああ」

 老婆は、少し驚いた。と言う顔になった。

「あんた、大尉さんかい」

「ええ」

 美奈代は小さく微笑んで見せた。

「そいつぁ……いかんなぁ」

「……は?」

 意味がわからない。

「あの……それは?」

「だってお前さん」

 老婆は笑って言った。

「若いうちに、あんまり階級あがり過ぎると、選べる相手の数が減るだろう?」

「うっ」

「肩書きってのは、場合によっちゃ、ありがた迷惑なもんだよ?で、何食べる?」

「C定食って何です?」

「地元でとれるポテトコロッケだ。サラダはあっちで食べ放題だよ」

「ありがたいです―――が」

 いいかけて、美奈代は壁紙に気付いた。

「盛岡冷麺があるんですか?」

 美奈代の顔は真顔だ。

 盛岡冷麺は美奈代の大好物。

 高校時代、冷麺食べたさだけで盛岡へ旅行を企画したことさえある。

 シ○ダヤの冷凍冷麺を入れるためだけに冷凍庫を購入した、冷麺マニアと言っても良い。

 冷麺が絡むと人格が変わると紅葉に呆れられても、美奈代はそれを変えるつもりなんてない。

「あるよ?ウチの冷麺は、盛岡の有名店仕込みさ。美味いよぉ?」

「大盛りで」

「はいよ―――ちょっと待ってな」

 老婆は調理の手を動かしながら言った。

「しばらくは、ここにいるんだろう?」

「そのつもりです」

 美奈代は真剣そのもので老婆の調理を見守る。

「ああ。よかった」

 老婆は、手慣れた手つきで麺をゆでながら頷いた。

「千鶴ちゃん、普段から話相手もいないから、寂しい思いしてるんだよ。仲良くしてやってくれや」

「あの子って、いくつなんですか?」

「確か、今年で16と聞いたな」

「へぇ?高校、行ってないんですか?」

「通信制に通っているとかいってたよ。近衛の経営する孤児院にいたとか」

「……ああ」

 美奈代は頷いた。

「雛鳳の出かな」

「知ってるのかい」

「―――まぁ、ちょっと」

「まぁ、何にしても話し相手がいれば、あの子も笑うこともあるだろうさ。何せ、この戦争でいろいろ苦労しているからね。あの若さで」

「実戦経験が?」

「ああ……聞いた限りだけどねぇ」

 老婆は麺をスープを入れた丼に移した。

「かわいそうに、あんな可愛い娘についたあだ名が“死神”ってんだからねぇ」

「は?」

「死神。そんなのにご縁が近いのは、俺みたいな年寄りだけで十分だ」

「何で、そんな名前が?」

「出撃する度に、仲間が死ぬ。ペアっていうのかい?メサイアってのは、2騎か3騎で動くのが相場なんだろう?」

「ええ」

「あの子は、何度も出撃したけど、そのたびに不思議とペアを組んだ相手が戦死するんだそうだ。軍人さん。あんたもそうかも知れないけど、縁起担ぐ連中からは忌み嫌われちまって、行くところがなくて、こんな所に送り込まれちまったってワケさ」

 盛りつけが終わった冷麺がトレイにのせられた。

「ポテトサラダはサービスだからね。食べていいよ?」

「ありがとうございます」

 美奈代は一礼すると、もう一度だけ食堂の入り口を見た。

 電力制限で暗くなった照明。

 廊下はほとんど闇に近い暗さ。

 その中に消えたあの小さい背中。

「……」

 美奈代は見間違いではなかったと思う。

 あのぶつかった時。

 そう。

 間違いなく、



 あの子は、



 泣いていた。





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