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穂村千鶴

 美奈代達に発艦命令が下ったのは夜中の2時頃だ。

 スクランブルかと思ったら、移動命令が下っただけと聞いた時の美奈代達の感情は、ちょっと表現がつけづらい。

「まぁ、単に移動だからね」という後藤に、

「……待ちなさいよ」と、くってかかったのは紅葉だ。

「移動先の十勝研究所って!」

「やっぱ、バレた?」

「光菱が関わってるの!?」

「……そうなる」

 後藤は両手を合わせ、紅葉を拝むような仕草になった。

「頼む。この通り。大目に見て!」

「……っ!!」

 ゆであがったように真っ赤になった紅葉の頭からは湯気が出ている。

「……あのぉ」

 事情がわからない美奈代達はきょとん。とするしかない。

「よくわかんないんですけど、何か問題なんですか?」

「問題どころじゃないっての!」

 紅葉が美奈代の首を締め上げた。

「私は近衛と狩野両方と契約してるの!私の製品は、近衛が設計して狩野が組み上げるって!」

 グェェェッ

 カエルが潰されたような声を上げる美奈代の前で、紅葉は怒鳴り続ける。

「そいつでノコノコ研究所に出向くなんて、近衛と狩野双方の技術の粋を集めた結晶を、光菱にくれてやるようなもんでしょうが!

 大体、いつ、誰が光菱の参入を認めたのよ!

 あんな奴ら、鉛筆でも作らせてりゃ良いのよ!

 ついでに、光菱にメサイアのノウハウなんてないでしょう!?」

「ああ……要するに、光菱が開発した新型兵器の実験、手伝うだけだから」

「ハン……ノウハウない連中の作ったシロモノなんて、いつ爆発するかわかんないわ」

 首が怪しい方向に曲がりつつある美奈代を放り出すと、紅葉がジロリと後藤を睨んだ。

「同行を要求します」

「拒否したら?」

「この仕事辞める」

「……拒否権ないじゃん。俺に」





 美奈代達が北海道音更町にある光菱十勝研究センターに着陸したのは、9時を少し回った頃だった。

「隣にサーキットがあってね。光菱自動車の研究センターが併設されているのよ」

「自動車開発の横で兵器開発ですか?」

「そっち側」

 紅葉は真っ平らな平野を指さした。

「へぇ?」

 美奈代は素直に感心した。

「日本でも地平線って見えたんですねぇ」

「この辺一帯、兵器実験場だから。光菱が社運かけて開発した八式戦車シリーズも、元はここの生まれよ」

「へぇ?」


「おや、これは」

 不意にかけられた声に、皆の視線が集まる。

「誰かと思えば、ドクター・ツシマのご来場とは」

 そう言って近づいてきたのは、紫色のスーツの上に白衣を羽織った中年の女性だ。

 厳しい目つきが、ただ者ではないことを教えてくれている。

「本社の許可はとったわよ?」

「狩野さんからずいぶん逆ねじを喰らったらしいですね。本社も気の毒に」

 女性は、視線を紅葉から美奈代達、先頭に立つ後藤に目元だけ微笑んで手を差し出した。

「失礼―――光菱重工十勝研究所第一課課長の神宮司です」

「近衛兵団メサイア大隊独立駆逐中隊、後藤以下着任」

 後藤は、敬礼でその挨拶に答えた。

「―――ご苦労様です」

 神宮司は表情を変えずに手を引っ込めた。

「我が社の兵器開発にご協力を感謝します」

「仕事ですから」

「……どうぞこちらへ」



 神宮司に案内された先は、巨大なハンガー。

 ハンガー入り口には、無重力地帯を示すオレンジとグリーンの警告帯と、“危険!無重力地帯”の警告表示が張り付けられていた。

「説明は、現物をご覧になってから行わせていただければと思いまして。準備はしていました」

 入り口の向こう。

 つまり、ハンガーの中には、一騎の“幻龍改げんりゅうかい”が片膝をついた姿勢で待機していた。

「S3……違う」

 紅葉は目を見張った。

「これ―――まさか“ME”!?」

「一目で見破るとは、さすがですね」

 神宮司が嬉しそうに微笑んだ。

 ―――へえ?

 微笑むと、冷たい女性と思える神宮司が、不思議と優しい普通の女性に見えてくる。

 美奈代は不思議なものだな。と思った。

「予算不足でペーパープランで終わった“幻龍改げんりゅうかい”の最終強化バージョン。我が社の“協力”によってご覧の通り、完成させました」

「……バカ」

 紅葉は言った。

「こいつは……っ!」

「管轄は我が社です。他社の方はどうぞ、ご見学に留めて下さいな」

「……っ!」

 紅葉の言葉に、神宮司は冷たく応えた。

「この騎の背中や装甲をご覧下さい」

 指さされた美奈代達が見上げた先。

 そこには、普通の“幻龍改げんりゅうかい”にはない翼があった。

 太股や肩には、見たことのない増加パーツが取り付けられている。

「何アレ」

「アーマード・パックシステム……APX1918“パースエーダー”。それと……」

 神宮司の指が、“幻龍改げんりゅうかい”の右腕に向けられた。

 そこには、美奈代達が見たこともないようなデザイン……強いて言えば、斬艦刀を二本、付け根の辺りで一本にくっつけたような外観の巨大な刀とも楯ともつかない兵器が握られていた。

「アサルト・システムASX1919“アナイアレーター”です。弊社では、双方を合わせて“スーパーパック”と呼んでいます」

「“説得者”に“絶滅者”とは……」

 紅葉が見下したような口調で言った。

「随分、思い上がった表現ね」

「“言うことを聞かせる者”と“敵を打ち負かす者”とも言います……共に世界が必要としているはずですよ?」

「異論はないわ―――でも」

 紅葉は肩をすくめた。

「私に設計図を見せるほどの自信はないでしょう?」

「それは、自信ではないと思いますが、とりあえずの説明です―――その前に」

 神宮司がポケットから携帯電話を取りだした。

「穂村少尉」

幻龍改げんりゅうかい”のコクピットハッチが開いて、一人の女性が身を乗り出した。

「えっ?」

 美奈代が驚いたのも無理はない。

 ヘアバンドで留めた黒髪は、腰まで伸びて美しく光り輝いている。

 女性。

 というより、女の子。

 あどけない中にも気品を感じさせるその顔立ちは、どう見ても中学生だ。

 かおると並べて繁華街を歩かせたら補導されるのは確実だろう。

 装甲を蹴って床に降り立った少女は、一回のジャンプで、美奈代達の前、正しくは神宮司の前に着地した。

 無重力地帯にかなり慣れている証拠だ。

「紹介しますね?“スーパーパック”開発専属騎士の穂村千鶴ほむら ちづる少尉。少尉?独立駆逐中隊の後藤隊長です」

「穂村です」

 穂村千鶴少尉と呼ばれた少女は、美しい小鳥のような声で申告すると敬礼した。

 メサイアなんか乗せておくより、アイドルユニットにでも入った方が似合うだろうな。と、美奈代は本気で思った。

「役者がそろった所で、“スーパーパック”の説明に入りたいと思います」

 穂村は、部下が引っ張ってきたホワイトボードを背に指示棒を取りだした。

「先程説明しました通り、“スーパーパック”は、防御兼武装のアーマード・パックシステム、APX1918“パースエーダー”と、制圧兵器兼近接兵器であるアサルト・システムASX1919“アナイアレーター”の2つで構成されています」

「……質問」

 手を挙げたのは美晴だ。

 手を挙げた後、“しまった!”という顔で小さく首を引っ込め、後藤の顔をうかがう。

「はい?何ですか?」

 嬉しそうな神宮司の口調は、生徒から待望の質問が来た時の教師さながらだ。

 まるで学校だな。と、美奈代は内心で失笑した。

「防御兼武装とか、制圧兵器兼近接兵器って……その分類からしてわかんないんですけど」

「当然ですね」

 神宮司は頷いた。

「この分類は、我が社が創設した、独自の分類であり、このシステムが採用された暁には、あなた方にとっては当然の分類となるものです」

「は……はぁ」

 答えになってない上に、この自信はどこから来るのかしら。と、美晴はきょとん。としながら、生返事をした。

「まず、防御兼武装の意味ですが、ご覧の通り、現在、この騎に取り付けられている追加装甲が防御であり、この追加装甲の内外には、小口径MLマジックレーザー、多連装ショートミサイルポッドと、連装ロケットランチャー、旋回型MLマジックレーザー砲塔といった多彩な火器を装備しています」


「そんな物騒なものくっつけて、本当に装甲として役に立つの?」


「ご指摘は分かりますが、内部に耐熱、耐衝撃ジェルを充満させていますし、魔法処理されていますから、装甲としては十分役立ちます。そうですね?穂村少尉」


「……はい」

 穂村少尉はこくり。と小さく頷いた。


「また、増設したブースター側面に大型ミサイルを片方2発ずつ懸架可能。

 これらはMCメサイア・コントローラーを介さずとも、独立した高性能AIシステムで全自動制御されます。従って、敵味方が入り乱れる乱戦下でも敵機のみを正確に捕捉し、かつ最適なタイミングでの攻撃を行えるわけです」


「……アニメみたい」

「スゴイご都合主義なシステムですね」

 かおると涼が同時にポツリとそう言った。


「褒め言葉と受け取らせていただきますが、この装備によって、対空戦を含む、面制圧任務をほぼ単騎、もしくは少数の部隊で実行可能となります」

 

広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムで一発だけどねぇ……」


「野蛮な火炎放射装置なんて……第一、高機動で攻める敵には不向きでしょう?」


「成る程?」

 かおるは、やっと理解できたという顔になった。


「ミサイルで“ハエ叩き”やるわけだ」


「は……ハエ?」


「面で航空機を叩く攻撃のこと。私達、学校ではそう教わった」


「そ……そうですか」

 神宮司は顔をしかめた後、

「続けて、制圧兵器兼近接兵器ですが、これは斬艦刀兼ビームライフルと思っていただければ十分です。内蔵するエネルギーパックシステムより出力を取りますから、騎体出力を奪う斬艦刀より騎体負担が少なくて済む上に、破壊力は斬艦刀と比較して25%程増加します」


「斬艦刀2本で?」

 有珠ありすは不満そうだ。

「斬艦刀で、ほとんどの装甲ぶった斬れるのに、25%出力増す意味あるんですか?

 しかも、エネルギーパックシステムからって、パックが空になったらアウトじゃないですか」


「そ、それは、騎体負担を減らす為の措置で」


「うーん。それより私」

 有珠ありすが興味を示したのは、その脇の兵器運送トレーラーに乗せられた奇妙なデザインの、巨大な銃だ。

「あれの方が使えるんじゃないかなぁって思うんですけど」

「ERS-25B 25mm機関砲ですか?」

「カッコいい呼び名じゃない」

「あれは……歩兵支援車両用の機関砲をメサイア用に改装しただけのシロモノで」

「25ミリあれば」

 山崎が言った。

「破壊力は十分ですよ?」

「―――いいでしょう」

 スーハー

 スーハー

 数回、深呼吸した神宮司は、キッ。とした顔で言った。

「模擬戦をやってみれば分かります」

「模擬戦?」

「元来、性能評価のための仮想敵こそ、あなた方の仕事。ここまで来たからには承知ずくのことでしょうし」

 全員の顔が後藤に向くが、肝心の後藤は知らん顔で明後日の方角を向いた。

「歴戦の猛者の皆様方相手に、“スーパーパック”がどれ程、役に立つか。たっぷりと味わっていただければ幸いです―――よろしいですね?」


 美奈代達に、有無はなかった。


 










-----キャラクター紹介---------



穂村千鶴ほむら・ちづる

・騎士ランクAAAの高レベル騎士。

・初登場時15歳。

・階級は少尉。

・模擬戦で美晴達を全滅に追い込んだ程に強い。

・腰を超えるほどに長い髪をもつ美少女で、後藤達からは「アイドルになれる」と言われている。

・黒いリボンを好む。

・無愛想で冷たい印象があるが、根は善良。ただし、性格はかなりカオス。

・その高すぎる技術故に、仲間がついていけず、所属部隊からは「死神」と忌み嫌われていた。

・愛称は「ほむほむ」や「ほむ」。最初は嫌がっていたが慣れた模様。

・過去に天皇護衛隊へ派遣されていた。

・鉄板を胸に持ち、内心ではかなり気にしている。

・趣味はブラジャー他、下着の収集。ただし、すべて碧のもの。


【ネタバレ】

・イメージは『魔法少女まどか☆マギカ』の暁美ほむら。




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