得意な銃は?
●富士学校 武器管理室
シミュレーション記録が教官達の間であーだこーだ言われる間、特別休暇という名の入院を経験した皆が連れてこられたのは、座学の時間には入ったことのない場所だった。
「白兵戦の装備として、小銃と拳銃、それぞれ一丁をコクピットに設置することが義務づけられている」
どこかやつれている教え子達を前に二宮は言った。
場所は富士学校武器管理室。
富士学校で扱う銃火器のほとんどを管理している部署の一室。
会議机の前に美奈代達が並んで座っているが、その前には拳銃と小銃がそれぞれ各人1丁ずつ置かれている。
黒光りする銃の中には弾薬は入っていない。
そう知っていながらも、実銃を前に皆の顔に緊張が見て取れる。
「貴様等は幸せ者だ。私達の時は、トンプソンM1……知ってるか?昔のギャング映画で使われたシカゴタイプライターとも呼ばれる奴。あれ一丁だぞ?さすがに気の毒と思ってくれたのか。それとも業者からいくらもらったか知らないが、近衛では近頃、後方要員向け及び、メサイアを含めた各種乗員向けに最新鋭のエモノを用意してくれるようになった。実戦に入る前に配られる実包は、2発を別にして……そうだな。袋にでも入れて、首から提げておけ。それからは、その2発が何より効くお前達のお守りになる」
「あの、質問」
宗像が訊ねた。
「それは、自決用ということですか?」
「そうだ」
二宮は平然と答えた。
「こめかみか、口にくわえるか……とにかく脳へめがけて、確実に撃ち込むんだぞ?」
「それが、何故2発?」
「1発が不良だったらどうするんだ?不発のおかげで死に損なった不幸な奴を何人か知っている」
「……はぁ」
宗像は不承不承、頷いた。
「猟師だって、たった一発の弾丸を“守弾”と呼んで大切にしたんだ。この場合、メサイアぶっ壊した役立たずをこの世から一発で消し去ってくれる魔法の薬だ。大切にしろよ?」
「手榴弾は?」
「サバイバルキットの中にある。そっちを使え」
「それなら、拳銃の意味が……」
「手榴弾と拳銃弾とどっちが高いか。それだけの話だが……さて」
ジロリ。
二宮の視線が向けられたのは、美奈代と祷子だ。
「……希望者は別な装備が与えられるとはいえ」
祷子の目の前には、P-90とFN Five-seveNが置かれている。
「本当に希望を出してきたのはお前達だけだ。天儀、和泉」
「そうですか?」と、祷子はきょとんとしている。
「訓練の時、私はいつもこれだったので」
「……ああ、そうか」
祷子は左利き。
指導教官から、“お前はこっち方が良い”と勧められたのが、MC達が主に用いるP90だ。
FN Five-seveNは、P-90と同じ弾薬を使用する、P-90のサイドアームとして採用された拳銃で、近衛では57式自動拳銃と呼ばれている。
「射撃成績は悪くなかったな」
二宮はP90を取り上げ、手の中で感触を確かめた後、会議机に戻した。
「……さて」
二宮が次に声をかけたのは、美奈代だ。
「“フルメタルジャケット”でも見たのか?」
「いえ?」
美奈代は答えた。
「扱いになれているだけです」
そう答える美奈代の前にあるのは、M14とM1911コルトガバメントだ。
「訓練でも扱ったことはないぞ?おい。お家のモデルガンのつもりならいい加減にしろよ?」
「分解整備出来ます」
「……ほう?やってみろ」
二宮は面白そうに言った。
「何分で出来る?マニュアルは必要か?」
「どっちでやりますか?」
「M14で―――2分くれてやろう」
●射撃場
「……まさか本当に」
二宮は、射撃を続ける美奈代の背中を見ながら、感心したように言った。
「野戦整備が出来るとは思わなかった」
美奈代が発砲する度、的への命中を知らせるライトが赤く点灯する。
つまり、全弾が命中している。
横で撃っている都築や美晴達は、おっかなびっくり撃っているのに、美奈代の落ち着き払った射撃は誰の目にも熟練の域に達しているのがわかる。
「射撃の腕前もたいしたモンですよ」
射撃教官の牛島が満足げに言った。
「銃が慣れている」
「銃に、じゃなくて?」
「銃も人を選びますからね」牛島は笑って言った。
「M-14もガバメントも、和泉候補生との相性が良いんでしょう。ここが陸軍なら特級射手――少しシゴけば狙撃兵になれるでしょうな」
「ほう?」
二宮はポツリと言った。
「お前もお前で、裏があるってことか?和泉」




