殿下の自信作
●大ドイツ帝国首都ベルリン王宮
「……陛下にも困ったものだ」
帝国宰相、シックルグルーバーは帰りの車の中でため息をついた。
数日前。
陛下は突然、マラネリ大使を招いて祝宴を開いた。
シックルグルーバーはその日、フランスへ出向いていたため参加出来なかったが、その日の夜の内に参内を命じられた。
翌日の計画全てをキャンセルして、特別便で王宮に入るハメになった。
何が起きたかと青くなった宰相は、その内容を聞いて、思わず怒鳴りそうになった。
皇帝がマラネリからテスト騎2騎、購入したことは知っている。
それがモンキーモデルだから何だと言うんだ?
新領土の国境線を巡るフランスとの交渉が山場を迎えてる最中だというのに、そんなくだらないことでフランスから引き戻されるなんてあんまりだ。
散々、シックルグルーバーを怒鳴るだけでは物足りなかったらしい。
返答次第ではマラネリへの宣戦布告さえ辞さないと、マラネリ国王を衛星通信に呼び出して怒鳴りつけまでした。
マラネリは小国といえど、反応弾保有国だ。
皇帝は、その国の国王めがけてケンカを売ったのだ。
そろそろ夜明けになろうか。
そんな時間までそれにつきあわされたシックルグルーバーに、皇帝は言った。
「ご苦労だった。これからフランスに戻って予定通り仕事にかかってくれ。交渉にしくじったら怒るぞ」
そう言われたシックルグルーバーは、本気で泣きたかった。
「まだお若いとはいえ……」
その時のやりとりを思い出し、シックルグルーバーは暗然とした気分になったとしても、文句を言われたくもない。
「あれでは将来が心配だ」
そう思うからだ。や、
そして今日だ。
「ノイシアの次期後継騎は欧州共同で開発する方針だと何故わからん」
「まぁ、そう言わず」
隣に座る国防大臣は年老いた顔を苦笑に歪める。
「陛下はまだお若い。それに、言い分はわかる」
「何がだ」
「精霊体搭載型運用は、先帝陛下がヴァチカンの言い分に乗せられて開発禁止を命じられた。これまでは、それでもよかったのですが……」
「問題は、この先だな。ドイツが独自規格をここで導入するのは困る」
「しかり」
国防大臣は頷いた。
「開発費の高騰と、軍事費の削減方針―――メサイアを巡る環境の悪化は世界的流れだとして、欧州統一規格を作るのを提唱されたのは宰相でしたな」
「統一した規格でなら、紛争もそうそう起こせない。そういう判断もあるのだが」
シックルグルーバーは、何度目かのため息を漏らした。
「お若い皇帝陛下にはわからないらしい」
「陛下は力を求めていらっしゃる」
国防大臣は頷いた。
「中華帝国軍は帝剣を制式化し、米軍はブラッテイファントムに、グレイファントムの後継騎開発も急ピッチで進めるでしょう。
そんな中、数十ヶ国の勝手な要望が盛り込まれ、ぐちゃぐちゃにして、無茶な規格で作り上げられたメサイアが、そんなものに対抗できるものか。それが皇帝陛下の持論でいらっしゃる。
デュミナスは、そんな皇帝陛下にとって、大変期待された騎だった。
フォイルナー少佐達は、その騎をもって皇帝陛下に多大な戦果とドイツ騎士の名声をもって答えた。
フォイルナー少佐によって飾られた戦果を耳にした時、陛下がどれ程喜ばれたか」
「そして、それがモンキーモデルと聞かされた時の落胆を―――そう言いたいのか?」
「然り。そして」
「……日本軍も余計なことをしてくれたものだ」
「陛下にとってもあれはインパクトがあった模様で、ことある事に、あの時の映像を眺めていらっしゃるとか」
「そのうち、日本製を導入するとか言い出しそうだな」
シックルグルーバーにしてはそれは冗談だった。
だが、
「非公式ながら」
国防大臣は小声で言った。
「信仁に、供与を持ちかけて断られたそうで」
「当たり前だろう」
シックルグルーバーはあきれ顔で言った。
「メサイアをくれと言われて、はいそうですかが通用すると、本気で思ってるのか、陛下は?」
「そこがまぁ」
国防大臣の口から苦笑が漏れた。
「陛下もお若いですから」
「単に熱中するあまり、分別を失ったと思いたいな」
「お若いですからな―――して?」
「ん?」
「マラネリとの話は」
「悪い話ではあるまい」
シックルグルーバーは、シートに身を委ねると目をつむった。
「こちらは運用にかかる費用の一切を持てばよいのだ。予算の範囲内で何とかなるだろう。それに」
「マラネリは、精霊体搭載型を遠回しに陛下に売りつけることで欧州統一メサイア開発計画を壊したいのが本音でしょうな―――それで?」
「マラネリ製だろうとも、皇帝陛下念願の精霊体搭載型を、ドイツ軍人が動かすのだ。文句もあるまい。どちらにしても」
シックルグルーバーはぼやくように言った。
「苦労するのは、あの若造だがな」
●アメリカ合衆国 シカゴ付近 ドイツ北米派遣部隊司令部
「部隊は壊滅。それだけじゃない」
第2メサイア師団のレンネンカンプ司令を前に、フォイルナー少佐は相変わらずのポーカーフェースで立ちつくしていた。
「新型のメサイアと交戦した挙げ句、新種の妖魔まで呼び寄せたというのか?」
「……」
「一体、どういう手を使ったんだ?何だ?どんな魔法を使った?」
「……別に何も」
言われても困る。
普通、ああいうのは不運と言うんだ。
こっちが不運を呼び寄せたなんて言いがかりもいいところだ。
「そうか?」
レンネンカンプ司令は、歴戦の猛者上がりの顔に、意地の悪い笑みを浮かべ続けている。
「おかげで、かなりの数のサンプルが手に入った。見たんだろう?」
「メサイアの方は―――まだですが」
「見ておけ。そして、その真実を知った世論が、中華帝国にどんな非難を浴びせているのかも含めてな」
「非難といいますと?」
「見ればわかる。ただ―――中尉」
レンネンカンプ司令は、何故かブリュンヒルデに言った。
「貴官は見なくていい。これは、俺の紳士としての薦めだ」
「はっ?」
突然、紳士などという、およそ彼から想像できない言葉を聞いたブリュンヒルデは、眼をパチクリさせた。
「それは?」
「フォイルナー少佐」
「はっ」
「ラボ送りになる前に見ておけ。まず、貴様が見て、中尉に見せてよいものか判断しろ。中尉?賭けてもいいが、少佐が中身を見て、それで見ろと言い出したら、君は少佐からの愛情を疑った方がいいだろうな」
「……はい」
「はっ」
「それと……だ」
レンネンカンプ司令は、デスクに置かれていた書類を手にした。
「今回の損害に関して、補充兵はない」
「しかし!」
ブリュンヒルデが青くなった。
「戦力の半数を喪失し、大隊はその機能を喪失しています!」
「グリュックシュヴァイン大隊は、現有戦力のまま、特別任務についてもらう」
「特別任務?」
ブリュンヒルデは、その名に本能的なイヤな予感を否定できなかった。
特別。
その名は、軍隊内においてロクなこととして受け入れられることはないのだ。
「そうだ」
レンネンカンプ司令は何度も頷いた。
「正直、俺はこの任務についてみたい。本当だぞ?」
「……?」
思わず、フォイルナー少佐とブリュンヒルデは顔を見合ってしまった。
一体、レンネンカンプ司令がここまで言うのが、イヤミなのか押しつけているのか、一体、どっちなのか判断がつかないのだ。
「この任務についてもらうため、貴大隊は一時的に36名まで減ってもらう。人選は任せる。精鋭を揃えろ」
「騎士だけで?」
「MCと予備を含めてだ」
「待ってください」
さすがにフォイルナー少佐が異議を唱えた。
「48騎、102名の大隊を中隊規模へ格下げですか?」
「しかたないだろう?」
レンネンカンプ司令は言った。
「配備されるメサイアの数が予備騎こみで19騎。安心しろ。独立大隊として、大隊権限はそのままとする」
「司令」
ブリュンヒルデが訊ねた。
「一体?」
「皇帝陛下からの命令である」
レンネンカンプ司令は姿勢を正すと言った。
「グリュックシュヴァイン大隊は、マラネリ軍よりメサイアを受領した後、マラネリ国王直属部隊との共同作戦に従事すべし」
「まさか」
フォイルナー少佐は、ハッとなった。
マラネリ国王と最後に会ったあの時のことを思い出したのだ。
あの少年王は言っていた。
「またしばらくしたら会おう。少佐」
……そうか。
フォイルナー少佐は、あまりのおかしさに噴き出しそうになった。
「我々の任務とやらは、つまり、マラネリ軍から供与される、精霊体搭載型メサイアの運用試験ですか?」
「何だと思ったんだ?」
レンネンカンプ司令は笑いながら言った。
「供与されるメサイアの数が20騎足らずでは、百何十人で行っても意味はない。そうだろうが」
「―――はっ」
「当面は借家住まいだ。手当は期待するな?クラッチマー中尉との新居購入費は別で稼げ」
新居。
司令室を辞した後、ブリュンヒルデの頭に浮かぶのは、その言葉だけだ。
最近、そんな話題が妙に耳に響く。
子供
出産
そして、新居
通路を歩くブリュンヒルデは、自分がどこを歩いているのか、全く自覚がないまま足を進める。
脳裏に浮かぶのは、フリルのついたエプロンをしめてキッチンに向かう自分の姿。
ぴかぴかに磨き上げられたシンクに真新しいコンロ。
日当たりのいいキッチンに満足げな笑みを浮かべる自分の向こうには、夫がいて、子供がいて―――
子供を抱きしめた所で、ブリュンヒルデは現実に引き戻された。
場所はハンガー区画。
司令室からはかなり離れている。
こんな所まで歩いていたのか。
そう思うと、どれだけ自分が妄想に浸っていたのかを思い知らされ、ブリュンヒルデは恥ずかしくてたまらない。
そんなブリュンヒルデの前。
技師と、彼と話をするフォイルナー少佐の目の前に転がされているのは、サラマンダーの火炎攻撃から逃れた飛鼠の残骸。その頭部ユニットだ。
ハッチがバーナーか何かで焼き切られた痕跡がはっきりと見える。
そのハッチから中をのぞき込んだフォイルナー少佐は、しばらくの後、外に出た。
再び、技師と何かを話す。
―――これか?
ブリュンヒルデは、レンネンカンプ司令との会話を思い出した。
司令は見るなと言っていた。
紳士という似合わない言葉まで使って、見るなと言っていた。
フォイルナー少佐が見ろと言ったら、愛情を疑えとまで。
一体、何?
見たい。
でも、見ない方がいい。と、心のどこかで声がする。
まるでパンドラの箱を目の前に置かれたような気分だ。
技師と会話が終わったフォイルナー少佐が、ブリュンヒルデに言った。
「中尉」
「はい?」
ブリュンヒルデは、彼が“見るな”と言うと思った。
だが、フォイルナー少佐は真顔で言った。
「見ると良い。これは―――酷すぎる」
その眼は、個人の事として物を語っていない。
長いつきあいが軍人として物を語っていることを嫌でも思い知らせてくれる。
内心でわき上がった感情に始末をつけることが出来ないまま、ブリュンヒルデはハッチの中をのぞき込んだ。
「一体……」
フォイルナー少佐が目を覚ましたのは、翌日の昼過ぎのことだった。
軍医の説明だと、療法魔導師の治癒は終わっているが、モルヒネが投与されているから、しばらく動けないという。
言われなくても、全身が痛くて動きようがない。
特に、顔の周りが。
ベッドに横たわる彼の顔をのぞき込むように、診察に来た軍医長が言った。
「何度、中尉を怒らせたら気が済むんですか」
「……」
「軍隊じゃなかったら、中尉は殺人未遂ですよ?女性をそんな立場に追い込んで楽しいのですか?」
「……それが被害者に対する言葉か?」
「懲りないあなたが悪いんです」
ちなみに、軍医長は女性。
フォイルナー少佐よりやや年上だ。
「そうは言うが、大佐。あれは軍人としてみ見ておくべきだ」
「中尉は女性です。あんなものを女性に見ろだなんて、私は少佐の男性としての良識を本気で疑います」
「大佐も見たのか?」
「当たり前です。“あれ”について医師としての意見を求められました。とにかく、今回の件で、大佐の男性としての株価は底値を割りましたね。保証します」
「……意味がわからん」
マラネリ軍の巡航母艦“エトランジュ”がシドニーに入ったのは、その翌日のことだった。
フォイルナー少佐が寝込んでいる間にブリュンヒルデによって行われた選別に残った騎士達が、“エトランジュ”のデッキに向かってラッタルを上がっている。
その列に並ぶエレナがふと、後ろを見た。
それまでの愛騎、ノイシアがセッティングのやり直しのため、母艦に格納されるところだった。
「―――さよなら」
エレナは小さく敬礼すると、列に向き直った。
「ヘルガは、お別れとかしないの?」
「一晩、たっぷりやってきた。MCRで眠ってね」
「……そう」
「さてと……次は新型なんて言うけど。どうせモンキーモデルでしょ?」
「そういう言い方は好きになれない」
私物が詰め込まれたランドリーバッグを重そうに持ちながら、エレナは早く無重力区画に入ることだけを祈った。
「ノイシアよりヒドいことはないでしょう?」
「多分ね」
「きっと、スゴいのが出迎えてくれるわよ」
ラッタルを登り、大きく開かれたデッキに入ったドイツ騎士達は、その場で整列した。
そして―――
「確かに……」
ヘルガは、そこに並んでいたメサイアを見て、唖然として言った。
「こりゃ、びっくりね」
「……えっ?」
そこに並んでいるのは、あのデュミナスだった。
「モンキーモデルが何で?」
「こらっ」
ヘルガがエレナの脇を小突いた。
整列する大隊の前に立つのは、マラネリ軍側の将兵。
艦乗組員や整備兵の丁度真ん中。一番目立つ所にいるのは、小太りの少年。
そう、マラネリ国王だ。
「第303独立大隊グリュックシュヴァイン。ヴォルフガング・フォン・フォイルナー少佐以下、着任」
フォイルナー少佐の声に弾かれたように、エレナ達が一斉に敬礼した。
「“エトランジュ”艦長、キユヅキ大佐。着任を認めます」
人の良さそうな士官が答礼した。
「本艦は最新鋭中の最新鋭だ。設備に不満はないはずだ」
殿下は自信満々に言った。
「艦長、今後の予定は?」
「各員の部屋の割り当てが終了次第、艦内見学、それと各部隊との面通し……終われば夜ですな」
「よろしい。引き渡す騎についての説明は、夕食後のミーティングでやろう」
「……しかし」
フォイルナー少佐の顔には珍しく落胆の色が濃い。
「失礼ですが、これは」
「君のワガママにつきあえる機体がこれしかなかったんだ」
殿下は、少しだけムッとした顔になった。
「あれをモンキーモデルとまで言われたのは、僕にとっては心外なんだぞ?
元来、デュミナスは精霊体搭載型たる我が国正規軍向けのメサイアのフレームの発展型だ。精霊体を具現化出来ないレベルのエンジンは搭載していたが、心臓以外はしっかりしていたんだ」
「それだからモンキーモデルって言うんじゃないの?」
「……私もそう思う」
ヘルガが思わず小声でぼやいた声に、エレナは思わず頷いた。
「搭載されているMCRとエンジンは」
ゴホンッ。
それが聞こえたのか、殿下はわざとらしい咳払いをした。
「我が軍正規部隊向けの最新鋭だ。いくつかの実験的要素は入っているが、決して日本軍のインペリアル・ドラゴン・シリーズに劣る代物ではない。何騎か狙撃用に特化したタイプも用意してある。ミーティングで仕様は説明する。それまで楽しみにしておくといい。
それと、フォイルナー少佐。クラッチマー中尉」
「はっ」
「はい」
「荷物は従兵に任せておけ。君達には特別騎を用意した」
「特別騎?」
「僕が基本設計して、紅葉さんとお師匠様―――六本線3人の意見を採り入れて設計した自信作だ」
●“鈴谷”
同じ頃―――
「狙撃隊の収容作業、急げっ!」
ハンガーデッキは、“自発的訓練”から帰還する涼達の受け入れ作業が始まっていた。
「熱心だねぇ」
その騒ぎを、壁際のキャットウォークの手すりにもたれかかりながら、後藤が言った。
「ちょっとは見習ったらどう?」
「そう思うんでしたら」
美奈代は恨めしそうに言った。
「書類仕事減らして下さいよぉ……」
「書類仕事は士官の義務」
「……はい」
「でもさ」
「はい?」
「あいつら、何、あんな熱心に訓練に勤しんでるワケ?」
「ドイツ軍の騎士ですよ」
「ん?」
「あれに試乗して、射撃テストやったんですけど、記録によると、HMCで6発ワンホールショット決めたらしくて」
「そりゃ」
後藤は笑って言った。
「MCの補正があればいくらでも出来るでしょ?」
「騎士の直接照準だけで―――記録はそうなっています」
「神業見ちまったから」
後藤の目の前で、HMCを担いだ“白雷改”達がハンガーベッドに向かって移動を続けている。
「それに近づこうと?」
「いい傾向だと思いますけど」
「煮え切らないな」
「記録に拘っては欲しくないって……そう思うんです」
「お前、教官に向いてきたんじゃない?」
「勘弁して下さい」
美奈代は首を横に振った。
「私、他人のことまで責任とりたくないんです」
「誰だってそうだよ―――俺だってお前等のとばっちりなんて御免だ」
「そろそろ」
美奈代は無視するように言った。
「作戦が決まったんじゃないですか?」
「おいおい。デートのメニューみたいに言わんでくれよ」
「―――決まってるんでしょう?」
「最近、厳しくなったね。可愛げが無くなってきたよ」
「こんな仕事ですから」
「―――ドイツ軍と共同戦線を張る。連中は30騎程。中隊規模だな」
「うちの倍で、何を不足みたいな物言いを」
「羨ましい?」
「規模だけなら」
美奈代は、慌てて付け加えた。
「指揮官として仕事が増えることは別問題です」
「俺ぁ……」
後藤はポケットから禁煙パイプを取り出しながら言った。
「娘っての育てる自信がまるっきりなくなったぜ。お前見ていると」
「私もあなたの娘をやれる自信はないです」
「ふん……マラネリ軍の最新鋭。恐らく精霊体搭載型を受領して天狗になった連中とおつきあいだ」
「そういう言い回ししてる方が」
美奈代は、本当に嬉しそうに言う。
「貴方らしいですよ。後藤隊長」
「……俺ぁ、真面目な話してんのよ?」
「ええ。存じてます」
眼を細める美奈代は、
「聞いてますから、続きをどうぞ」
「紅葉ちゃんの“作品”とお前らの活躍にすっかり熱を上げてるのは、ドイツの大将達じゃない」
「?」
「―――あの殿下だよ」
「あの子がですか?」
「そう―――国王相手に言い方はあると思うが」
「潰れ肉まん」
「笑っちまうな。それ」
「気に入ってるんですけどね」
「惚れた相手に認めて欲しい。負けたくない一心で、戦場まで顔突っ込むんだ。あの国大丈夫かねぇ」
「惚れた相手?」
「何でもないよ。殿下が意地になって開発した兵器でドイツ人がどういう行動に出るかは知らないが、俺達は俺達でやるだけだ」
「まぁ、そうですね」
美奈代は適当な答えをしながら、後藤の真意を考えた。
「適当につきあっても、深入りして、下手に巻き込まれるなってところですか?」
「ご明察」
後藤は、あのチェシャ猫のような笑顔で頷いた。
「新しい玩具に天狗になった連中の暴走の尻ぬぐいなんて、俺ぁ、お前達に命じたくはないからね。部下にも距離を正しくとるように命じておいてくれや」
「了解です。それで」
「―――ああ、作戦ね?どこだと思う?」
「事態の根元。つまり、妖魔が出現した場所」
「カールスバッド鍾乳洞」
「お前は本当に扱いやすくて気に入っているよ。メサイアで格闘戦が出来るほど、大規模な代物。その地下だ」
「単なる鍾乳洞?」
「いんにゃ?米軍の秘密基地があった所だ」
「……まさか」
美奈代は、眉をひそめた。
「アフリカで鍾乳洞に入ったことがあります。メサイアで」
「……ああ、記録は知ってる。その顔からして―――成る程?お前はたいしたヤツだよ」
後藤は美奈代の頭を撫でた。
「言ってみな?何があるか」
「……反応弾貯蔵庫」
「テキサス周辺で、中華帝国軍の手に落ちなかった反応弾の8割以上が集積されているとさえ言われる。下手に爆発すれば、地形がかわる程度じゃすまない」
「どうして―――どうして、この国はそんなに厄介なの!?」
「俺に言うな」
「す、すみません」
「時々、感情爆発させるのは、人間らしいとはいえ、社会人としては感心しないぜ?」
「く……クセなんです」
「スネるな。慣れろ。感情をコントロールするのも大切な仕事だ」
「……はい」
「妖魔だか魔族だかはドイツ軍にくれてやれ。男になりたがるコドモから、エクスカリバーをもらった、英雄志願の物好き共と同じマネしなくていい。わかるな?」
「回収した反応弾を、米国政府との交渉のカードに使うおつもりですか?」
「米国からの増派が、俺達がここにいる理由だ。アメリカから中華帝国軍を追い出すことじゃない」
「―――はい」
「忘れてたろう?」
「……本当は」
美奈代は、バツの悪い顔になった。
「紅葉ちゃんが、マジックエジェクト・システムの応用として、回収用装置を作ってくれている」
「何です?それ」
「―――四次元ポケットさ」




