戦友
●鈴谷 ブリーフィング・ルーム
「目的はドイツ軍のメサイア様がお通りになる道を開いて差し上げること」
美奈代は黒板の前に立った。
後藤は壇上から降りて美奈代を見つめているだけ。
人の視線に慣れていない美奈代は、表面上は冷静さを保っている。
慣れてきたかな?
美奈代は一瞬だけ、そんなことを思ったが、実際はどうか、それは考えないことにした。
「ドイツ軍の戦力はメサイア2個中隊規模と聞いている。
残念だが、我々との連携はないので、彼等からの支援は期待するな。
彼等が陣地に侵入すれば、我々の任務は終わる。
ドイツ軍が陣地に入り込むのと同時に、我々は撤収する。
作戦そのものは、至ってシンプルだ。
単に、高々度からの降下強襲作戦―――としか言い様がない」
美奈代は、黒板に張り付けられた地図を指さした。
「現在、我々はここ。中華帝国軍砲兵陣地はここ。距離は約150キロ。
メサイアのセンサーからすれば、我々がここに存在することも、まして発艦したことも、全て敵はお見通しのはず。
敵に手の内全部読まれるような状況下で、マトモな手段で攻撃した所で、餌食になるのがオチだ。
敵は絶対に警戒してしまう。なにより、ドイツ軍が目の前に展開しているんだ」
「それで」
寧々が訊ねた。
「高々度の降下強襲なら大丈夫なのですか?」
「成功する保証なんてどこにもない」
美奈代は、さも当然という顔で言った。
「確実なのは、失敗すれば全滅だってこと」
「―――そんな」
目を見張る寧々の横で、有珠がぼやいた。
「テキスト通りにやってたらラチ明かないってことですか?」
「明かなければ明かすだけだ」
「そういうの」
有珠は苦笑して頷いた。
「嫌いじゃないです」
「考えてみろ。鬼龍院中尉」
「?」
「モノが飛んで来るとして、周囲を警戒している。この状況で、一番気付かない場所は?」
「……背後?」
「周囲を警戒して。その条件付きだぞ?」
「……」
寧々は無言で頭の上を見た。
「頭上……対空レーダー相手にその考えが通じるとは思えませんが?」
「当然」
美奈代は頷いた。
「ただ、レーダーが発見しても、対応が間に合わないレベルで、事を為すとしたら?」
「全ては時間との勝負……ですね」
「話を戻すぞ?我々は鈴谷発艦後、高度2万まで上昇。弾道コースをたどって敵陣地へ一気に降下する。
なお、降下に際しての前衛は」
ハァッ
美奈代は、わざとらしい程大きなため息をつくと、
「フィア」
憮然とした顔で椅子に座っていたフィアに声をかけた。
「レーダーを黙らせるには、殲龍の電子戦システムが最も役立つことは間違いない。不本意だが、一番槍の名誉を譲る」
「……あんたさぁ」
フィアの額に青筋が走った。
「モノの頼み方って、誰かに教わらなかったの?」
「悪かったわね」
美奈代は態とらしく、ちいさく頭を下げた。
「やらせてやるから感謝しろ。その間違いだった」
「何ぃっ!?」
「ほざくな。死人が偉そうに」
「何よ!」
「やるの!?やらないの!?」
周りがびっくりする程の気迫のこもった怒鳴り声が美奈代の口から飛び出した。
「ここで負けたら、日本に帰るのがまた遅くなるのよ!?
それとも死体袋に入って無言のご帰還がお望み!?」
「っ!?」
すっかり面食らった格好のフィアは目を白黒させるしかない。
「あんたのご主人には私から挨拶してあげる。“お宅の奥様は残念ながら”なんて心にもないこと言って、心の中で舌出してやるわ!」
「こ、このっ!」
「先立たれた妻の遺影の前でってヤツか?和泉」
後藤が楽しげに訊ねた。
「そいつぁ、豪快だ」
「別にいいですよ?フィア?遺影の撮影は終わってるわね?」
「表に出なさい、美奈代!この淫売がっ!」
「私が染谷候補生と、あんたの遺影の前で結ばれるのがイヤだったら!」
ビシッ!
美奈代はフィアを指さしながら怒鳴った。
「殲龍で、きっちり中華帝国軍の電子防衛網を沈黙せさなさい!」
「や……やってやろうじゃない」
フィアは、目を血走らせながら言った。
「こ……この腐れドロボウ猫……誰にケンカ売ったかわからせてやる」
「どっちがドロボウ猫よ……殲龍を先行させ、レーダーからの隠れ蓑を構成。この時点で敵陣地上空1万メートル。
ここまでを第一段階とする。
フィア?
いいわね?
この第一段階でしくじったら、みんなが対空砲の餌食よ?
部隊全員の命を、あんたに預ける。
言葉の意味を正しく理解して」
「……美奈代以外は、責任もってあげるわよ」
「一緒にいる牧野中尉を忘れないでね」
「人質とるなんてずるい。最低ね」
「後ろからの攻撃に覚悟なさい。この※※自主規制※※。…敵陣地上空1万メートルで殲龍は部隊最後方に移動開始。
前衛に出るのは狙撃部隊。
バリアシステム破壊に作戦が移る。
これが第二段階だ。
狙撃部隊の指揮官は涼。
涼?与えられる時間はわずか20秒よ?バリアシステムの破壊は出来る?」
「はい。お姉さま」
涼は楽しげに微笑んで見せた。
「バリアシステムはMCによる脳波コントールです。コントールしているメサイアだけたたきつぶせは後は楽ですね」
「楽観しすぎるなよ?」
「はい♪」
涼は嬉しそうに頷いた。
「HMCは射撃速度と制限時間から、射撃は部隊全部で10発が限界です。
寧々、じゃない。鬼龍院中尉の実体弾はフルバーストモードで、上空から面で叩きます。
HMCは弾種榴弾、射撃はバーストとし、高度100メートルで空中炸裂設定。これでしたら被害範囲を広くとれますから、チンクを魔法エネルギーで塵にしてやりますし、実体弾はクラスター爆弾並の破壊が期待出来るはずです」
「上等だ」
美奈代は満足げに頷いた。
「ただし、涼。勘違いするな?
バリアシステムの完全破壊に固執する必要はない。
バリアシステムを破壊する理由は、主力隊を敵陣地に斬り込ませる障害を排除すること。
攻撃の成果に関わらず、高度二千で後続のフィアと一緒に指定ポイントに移動して。いい?」
「で……ですけど」
「狙撃装備で斬り込みの中に飛び込ませるわけにはいかない。
高度二千で狙撃部隊と駆逐隊が入れ替わる。斬込隊はメサイアを捜索しつつ同時に降下。駆逐隊の任務は砲撃部隊の破壊。弾薬集積所は、真っ先に狙え。メサイアは斬込隊へ任せろ。頼むぞ?宗像」
「……和泉が」
ちらりと月城を見た宗像が、
「いや、月城大尉が指揮を執るべきだ」
「階級に固執するな。近衛の不文律では、戦場においては、スコアが指揮権に優先される」
美奈代は言った。
「それに私は既に小隊指揮官ではない。中隊前線指揮官だ。前衛小隊の指揮権は、スコアからしてお前になる」
「……詐欺だ」
「慣れろ。お前に必要なのは慣れだけだ」
「……」
「お前は私なんか比べモノにならない程、指揮官の素質があるんだ。間違っていたら」
「間違っていたら?」
「どうしてほしい?」
「……な?」
まるで誘うような微笑みに、逆に宗像は気圧されてしまう。
微笑む美奈代を前に、わき上がった感情がなんなのか、宗像自身がわからない。
「後で後悔するな?」
そんな強がりを言うのが精一杯だ。
「信じてるさ……涼?ホルスターに銃を戻せ」
「……」
「繰り返すが、メサイアは基本的に私と天儀の別働隊が喰らう。いいか宗像。近づくものは全て広域火焔掃射装置で焼き殺せ。どうにも厄介なヤツがいる」
「―――飛鼠が?」
「ああ。なるべく彼奴等は私達別働隊が引きつけるつもりだが、危険だと判断したら撤退してもいい」
「そこまで臆病ではないが」
宗像は小さく笑って見せた。
「かといって卑怯でもない」
「ドイツ軍のお手並み拝見としゃれ込みたいのが本音だが、飛鼠相手にドイツ軍のノイシアがどの程度役に立つか知れたものじゃない。それと」
美奈代は言葉を止めると、じっ。と皆を見た。
「ドイツ軍から流れ弾が飛んでくる恐れは極めて高い。全騎に徹底することは一つ。
これは地上に脚を下ろして行う、従来の戦闘ではリスクを回避出来ない。
リスク回避のため、高機動戦闘モードで全て事に当たれ」
高機動戦闘モード
つまり、メサイアの脚による歩行、及び、ホバー移動ではなく、ブースターとバインダーによる飛行を前提とした、空中戦闘モードのことだ。
「よもや、出来ないなんて言わないな?芳?有珠?」
「大丈夫ですって」有珠は自信満々に頷いた。
「涼の背中は任せてください」と、芳も楽しそうに応じた。
「月城大尉には鍛えられましたから」
「―――明日、日の出と同時に敵陣に斬り込む。日の出は0505。現地の天候は晴れ。視界は100。崩れる恐れはない。最終ブリーフィングは明日0330、ここで行う。何か質問は?」
「……」
「―――各員の武運を祈る。以上だ」
皆からの敬礼に答えた美奈代は、敬礼を解くと、
「後藤隊長?何かありますか?」
「いんにゃ?」
後藤は意地の悪い笑みを浮かべて、
「俺は何にも?」
「なら、ここで解散します。ご苦労だった」
「それにしても」
ブリーフィングが終わった後、皆が集まったのはフィアの所だ。
「どこにいたの?フィアちゃん」
「艦長の所。ごめんね?艦長、絶対に部屋から外に出るなって厳しくて」
「せめて一言言ってくれればいいのにねぇ!」
涼や寧々が一斉に頷くのを、美奈代は少し離れた場所で見ていた。
月城大尉や有珠もその中に参加している。
皆がフィアを心配していたことは、その態度から明らかだ。
フィアも皆と久しぶりの会話が出来たことを喜んでいる。
軍艦の中とはちょっと考えられないほど、場が華やいでいる。
フィアの笑顔は、本当にそれだけで場所を明るくする輝きがある。
それはマネなんて出来る代物ではない。
「私では」
美奈代はふと思った。
「ああは出来ない……かな?」
同じ女の子なのに。
そう思うと、怒るより、惨めさより、何だかおかしさがこみ上げてくる。
私の何が変わったのかわからない。
でも、フィアと初めてあった頃、彼女に抱いていたような感情は無くなっていることはわかる。
不思議なものだ。
美奈代はそう思った。
「―――おい」
ツンッ。
横から突かれた美奈代が振り向くと、そこには後藤が立っていた。
「ちょっとおいで」
「どこへ?」
「艦長室だ」
ちらり。と、後藤は輪の中にいる月城大尉を見たが、
「……まぁ、いいか」
そう言うと、美奈代だけを促して歩き出した。
「ちょっと……他には言いづらい話だ」
●北京 紫禁城
「―――これは、本当か?」
載賢の軍人としての経歴はかなり長い。
彼の才能は、政治家としてより、むしろ軍人としての方がはっきり有能と言える。
ここ20年ほど、中華帝国の軍事行動のほとんどに関与した彼の踏んだ場数の数はハンパではない。
その彼に驚愕の表情を浮かばせることは、そうそうあり得ないのだが、その顔には、その色が明らかに浮かんでいた。
「北米討伐軍の司令部も混乱しています。陛下」
参謀総長の顔色も冴えない。
「元来、我々はこ奴らとの戦闘は想定していません」
「後退防衛は」
後退と防衛という言葉がまとめて出たことに、参謀総長は安堵しながら答えた。
「ニューメキシコより前衛部隊を撤退させ、テキサス州において防衛陣地を構築中。
北部方面を始め、各方面部隊も総司令部のあるヒューストン付近に戦力を集中させています。
相手が相手です。参謀本部は最悪の事態に備えています」
「……無断の撤退は不問にしてやる」
唸りながら載賢は写真をめくった。
「まさか……何が起きたというのだ」
「米軍が奴らを軍事兵器化した可能性が」
居合わせた将校の中からそんな言葉が出てきたが、
「馬鹿な」
載賢は一睨みで黙らせた。
「そんなマネが出来るなら、とっくの昔に俺達は北米から追い出されているわ。北米の銭大将は何と言っている?」
「銭大将は……」
「何だ」
「体調不良をもって、昨日より休暇をとっています」
「階級を剥奪し、家族もろともぶっ殺せ」
「はっ」
「無能の指揮官に用はない。後任は?」
「指揮権を代行する江中将でよろしいですか?ヤツからは既に進言が出ています。交戦は無意味。北米の滅亡に巻き込まれる前に、撤退を許可されたし。一時的な恥辱に耐え、北米滅亡の後、我らの植民地としてこの地を手に入れるが上策なりと」
「悪くない判断だ」
載賢はニヤリと笑った。
「だが―――撤退以外にも策があると思い至らない辺りが、そいつの限界だな」
「は?」
「……」
載賢は、戦域の情報が書き込まれた地図を睨みながら、数分間、身じろぎ一つしなかった。
その気性の荒さから、こんな時に下手に声をかけるとどうなるか、皆がそれを知ってるだけに、息を殺すしかない。
素手で殴られただけで確実に相手を殺す人食い虎の尾を踏む程、彼等はバカではない。
「……参謀総長」
気の遠くなるような空気の中、載賢はやっと口を開いた。
「は、はい?」
「東部方面をのぞき、北部、西部攻略部隊のヒューストン付近までの完全撤退を認める。それと、諜報部及び情報機関を総動員し、本件に我が国が一切関与していないことを宣伝させろ。
この話は、後で口にした方が罪を被ることになるぞ―――急げ」
「は、はいっ!」
参謀総長は立ち上がると頭を下げた。
「全ては偉大なる陛下の御為に!」
「……」
載賢は、そんなことは興味がない。そう言わんばかりに写真の束をめくり続けた。
中華帝国軍と魔族軍のつながり。
それは全人類が知る所であるにも関わらず、肝心の中華帝国国内で、そのつながりに関与する人物は全く知られていない。
載賢ですから、本当に知らないのだ。
そこを調べることで、この事態の裏が明らかになる。
否、調べなければ、大変なことになる。
全てが終わる前に、手を打つ必要がある。
載賢の全てが、激しい警告を出していた。
「……調べる必要がありそうだな」
●北米大陸 北部方面軍砲兵陣地
「撤退!?」
砲撃部隊に配属される金軍曹は、やっと眠ることが出来ると寝床に潜り込んだばかりの所を叩き起こされた。
周囲は右往左往としている。
隣に布陣していた40センチ連装砲搭型載陸戦艇“上海2”が重苦しい重低音を響かせながら移動を開始している。
「どういうことですか!?布陣が完了したのは昨日ですよ!?」
「知るか」
上官の李准尉が苛立った声を挙げた。
「北部の部隊は全てヒューストン付近まで下がる。俺達は、その撤退を支援するために準備するよう命じられた。それだけだ」
「撤退って……だから何で!?」
金軍曹にはそれがわからない。
我々は今、勝っているんだぞ?
それが―――何故?
「余計なことを考えるな!」
パンッ!
李准尉の平手が金軍曹の頬を殴った。
「それが命令なら従うだけ。それが軍隊だろうが!」
そんな金軍曹達の横を、メサイア達が地響きを立てて移動していった。
●深夜 鈴谷艦内
「……」
「……ねぇ」
ぼうっ。と窓の外の夜景を眺める美奈代。
その後ろではフィアが苛立った声をかけていた。
「ねえったら」
「……」
「ねぇっ!」
乱暴に肩を掴んで後ろを振り向かせた。
「きゃっ!?」
まるで、美奈代はそれで初めてフィアに気付いたと言わんばかりに驚いた顔を浮かべた。
「な、何?い、いつからそこにいたの?」
「さっきからずっとよ」
眉間に皺を寄らせ、怪訝そうな顔をしたフィアが訊ねた。
「どうしたのよ。早く寝ないと」
「……い、いや」
美奈代は何故かフィアから視線を離すと、窓の外に向き直った。
「ちょっと考え事を」
「何よ」
フィアは笑って言った。
「魔族でも攻めてきた―――って」
フィアの笑顔はすぐに硬い表情に変わった。
美奈代が驚いた顔をしているからだ。
「……ねぇ」
フィアは美奈代の横に立つと、美奈代と同じように窓の外に顔を向けた。
「艦長室で、何を聞かされたの?」
「―――別に」
「別に?」
「……何でもない」
「ホントのこと言いなさいよ」
フィアは静かに、しかし、はっきりとした声で言った。
「魔族軍が、この北米にも出現した……そんな所でしょう?」
「……だとしたら……どうする?」
美奈代にしては、軽口のつもりだった。
「北米に、魔族が出たとして、フィアならどうするんだ?」
「……別に?」
フィアはあっけらかんと言った。
「私がいる限り、魔族はどこにでも出てくるわ」
「?」
美奈代は、フィアの口から出た言葉に、目をぱちくりさせた。
「……正気か?」
「……勿論」
「買いかぶりすぎだろう?まるで、魔族がフィアを探して北米に来たような、そんな感じに聞こえたぞ?」
「その通りよ」
「はぁっ?」
美奈代はフィアの額に手を当てた。
「平熱のようだが……どこかで頭ぶつけたか……どうだ?首でも吊って、全ての熱を止めてみたら」
「何すんのよっ!」
乱暴に美奈代の手をふりほどいたフィアは怒鳴った。
「人が真面目な話しようとしてるのにっ!」
「……」
美奈代は、どうやって顔を真っ赤にしているフィアをあしらおうか考えたが……。
「……おい」
美奈代の脳裏に浮かんだのは、この少女との出会いだった。
人のいないアフリカに一人でいた。
あの時だって―――魔族の追撃を受けた。
アフリカから撤退したのに、魔族は追いかけてきた。
そして―――神戸では。
「……」
ふるふる。
美奈代は、強く首を左右に振って、疑問を頭から追い出そうとした。
あり得ない。
あってはならない。
そんな考えのはずだ。
だけど―――
美奈代は、その疑問を、その結論を、脳裏から追い出すことが出来ない。
「お前の考えすぎだ。フィア」
やっとのことで、美奈代は言った。
「……悲劇のヒロインにでもなるつもりか?」
「……あんたなら」
フィアは、失望の色を隠さずに言った。
「あんたは―――あんたなら、私を信じてくれると思ったのに」
「……」
ふぅっ。
小さくため息をつくと、美奈代は答えた。
「私の理解を超えている。だいたい、お前の何を信じろと?」
「……」
「……まぁ、いい」
美奈代はぽんっ。とフィアの頭に手を置いた。
「私はバカだから、難しい話は聞かされてもわかんないし、聞きたくもない。深刻な話なんて大嫌いだ。手に負えない厄介事に巻き込まれるから」
「……私、お荷物?」
泣き出しそうなフィア。
「その……なんだ」
その視線に気圧されるように、美奈代は視線を彼女から外し、態とらしい咳払いをした。
「コホン……お前は、私達の―――戦友だ」
「せん……ゆう?」
「みんなが、お前が生きていたことを喜んでいる。それは、つまるところ、お前が友達だと、そう思われているからだ」
「……」
「つまり、お前が何者で、どんな過去があろうとも、私達にとってはどうでもいい。魔族が来るなら叩き潰すだけだ。みんな、そう思っているはずだ」
「……悪いわね」
フィアはぽつりと言った。
「私、迷惑で」
「バカ」
美奈代は苦笑しながら言った。
「友達が困っていれば助ける。それが人だ。同じ人間ならわかるだろう?」
「……」
フィアは、小さく、本当に小さく頷いた。
「……まぁ、私にとってお前は」
「?」
「大嫌いなケンカ相手にすぎないが」
「何よそれは!?」
その近く、物陰では、携帯電話片手の有珠が息を潜めていることを、ここにいる二人とも、知るよしもなかった。




