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死乃天使、強襲

 グゥォォォォォォォッッ!


 鈍くて重い音が闇夜に響き渡る。


 木々をなぎ倒し、前進するメサイアの駆動音が鼓膜を叩く。


「……畜生」

 誰かがそう呟いた。


「こちら、メロンTVのレポーター、ブラックです。現在、ウォーターブリッジ村からチンク共の非道な攻撃をライブでお送りしています」


 地方のローカルテレビ局に勤務していたマイク・ブラックは、他の多くの避難民と一緒に方々を逃げ回ってきた。

 テレビ局から脱出する際、スタッフと逃走用に使ったテレビ中継車はまだ奇跡的に動かせる。

 カメラからの映像は、この中継車を通じて全米の誰かに届いていると、そう信じている。

 報道関係者として、避難民の苦しみを取材し、そして世界に伝えるという責務がある。

 彼と仲間達は、そう信じている。

 大都会のオフィスでクーラーの利いた部屋に籠もって、インターネットと政府や圧力団体の伝えてくる身勝手な情報を適当に組み合わせて記事を作る大マスコミと俺達は違う。

 そんな自負が、彼等にはあった。


 避難民の待避は完了している。


 昔のビール醸造工場の地下に大きな地下倉庫がある。

 そこの換気システムが生きている。

 避難民達は、ほとんどがそこに逃げ込んでいた。

 収容できない者や、病人は赤十字が大きく書かれた病院に収容されていたが、それこそ危険だという意見が出て、小学校の体育館に集められた。

 案の定。

 メサイアが侵攻してきた時、病院の赤十字はマトのような扱いを受けた。

 炎上し、崩れ落ちる病院。

 もし、あそこにいたらどんな目にあったかは誰の目にも明らかだ。


「……畜生」

 ブラックはマイクを握りしめた。

「チンク共は―――いえ、この国に攻め込んだ悪魔達は、みなさん!どうか私にそう呼ばせてください!

 奴らは―――無抵抗の村に対して、ご覧下さい!

 このような非道な振る舞いです!

 病院をダーツのターゲットのように打ち壊し、村民の建てたささやかな家々を踏みつぶしています!」


 ダンッ!


 巨大な火柱が上がった。


「村でたった一つのガソリンスタンドが破壊された模様です!」


 ブラックがこの村に来た時。

 村人達は避難民を受け入れてくれた。

 残り少ない食料を惜しげもなく分配してくれた。

 互いに助け合う開拓者時代からの、アメリカ人の良心がここにはあった。

 豊かな自然に溶け込みながら暮らす生活が、ここにはあった。

 神に感謝しつつ、日々を穏やかに暮らす人々の生活が、ここにはあった。


 それが―――


「マイクっ!」

 スタッフの一人が悲鳴を上げた。

 カメラマンのトミーが燃える村を指さした。

「教会が!」


 炎上する家々の炎に照らし出されるのは、ちっぽけな教会の尖塔。

 この村で病院に次いで目立つ建物だ。

 避難民を救うよう、指示を出した村長を兼ねた神父が護る教会だ。


 神父の慈悲に満ちあふれた笑顔が、すぐに脳裏に浮かんだ。


 あの神父は―――


「教会には神父様が!」

 トミーの言うとおりだった。

 教会には、神父と何人かの避難民が残っていたはずだ。

「畜生っ!」

 ブラックの叫びが届くより先に、尖塔に砲弾が命中。

 教会は爆発の煙の中へと消えていった。

「悪魔め、地獄に堕ちろっ!」

 ブラックは声の限りに叫んだ。

「クソ忌々しい黄色い悪魔共っ!俺達が何をした、神父様が何をした!?何のいわれがあって、俺達をこんなに苦しめるんだ!」

 物陰からこっそり撮影していることを、彼等は完全に忘れていた。

 ブラックの叫びは、スタッフ達の叫びでもあったのだ。

「ここは俺達の国だ!自由の国、アメリカだ!中国人の来るところじゃないっ!」

 叫びに反するように、村が炎の中へと消えていく。

「畜生……畜生……」

 幾度となく見てきた集落の最後。

 またもやブラックは、その光景を目の当たりにすることになった。

 罵り声を張り上げていた喉から出てくるのは、今や嗚咽だけだ。

 畜生。その罵りが、もう出てこない。


「―――ブラック!」

 トミーが何かを見つけたのは、まさにその瞬間だった。

「教会を見ろっ!」


 もうもうと立ち上る煙が晴れていく。

 その中に立つのは、破壊された尖塔と―――


「何だ、あれは……?」

 ブラックの目の前。教会の代わりに現れたのは、白い壁だった。

 白い壁?

 違う。

 メサイアのシールドだ。


 シールドが、教会を護る壁となって帝剣達の前に立ちはだかっていた。


「い、一体!?」


 帝剣達もそのシールドを見つけたらしい。

 我が物顔で村を蹂躙していた帝剣達の動きが止まった。

 帝剣達の何騎かが、互いに顔を見合ったのを、トミーのカメラが映し出した。

「……誰だ?」

 白と紫の二色で塗装されたシールド。

 それは見たことのないタイプのシールドだった。

 帝剣達がシールドに接近を開始した直後―――


 ズンッ!


 鈍い音を立てて帝剣の胸板が光の槍に貫かれた。

 貫通の衝撃に、重装甲の帝剣の脚が宙に持ち上げられ、そして帝剣は後ろへひっくり返った。


 撃たれたのは2騎だ。


 帝剣達に狼狽が広がったのはわずかだ。


 空からの攻撃。そう判断した帝剣達は密集隊形を作り上げると、ブースターを点火した。

 魔晶石エンジンが生み出す重力力場の光が白く輝き出す。


 帝剣達が密集陣形を作ったまま、空中に浮いた。

 燃える村の建物を吹き飛ばしながら、浮かび上がった。

 まだ加速に入れない帝剣達は、周囲を警戒しながら、ゆっくりと前進しようとしていた。


「何っ!?」


 その光景の一部始終を撮影していたトミーのカメラに、白い二つの物体が浮かび上がったのは、その時だった。


 浮かび上がった。


 トミーには、そうとしか見えなかった。


 一瞬。


 ほんの一瞬にして、その二つの物質は、その場に出現したようにしか見えなかったのだ。



 白い物体―――メサイアだ。


 目を見開くトミー達の目の前で、白いメサイア達は、青白く輝く剣を振りかざした。


 帝剣達の反撃は間に合わない。



 騎体を互いに半回転させるように、斬艦刀を横に振り払った。


 ズズンッ!


 空中で帝剣4騎が真っ二つにされた。

 胴体と下半身が身勝手に宙を舞う中。帝剣達は騎体を地面に下ろそうと降下を開始した。

 

 白いメサイア達は、そんな帝剣達に容赦なく襲いかかった。




 帝剣の目玉武装であるガードスパイクが展開される。


「そんなもの!」

 美奈代は斬艦刀を振りかぶって一気に振り下ろした。

 帝剣が真っ二つに切り裂かれ、その残骸を“死乃天使”が蹴り飛ばした。

 美奈代の狙いはその背後のもう一騎。

 目の前の味方が真っ二つにされることも、味方をぶった切った間から攻め込まれることも予想出来なかった帝剣は、身じろぎする間も与えられずに頭部を吹き飛ばされた。

「―――っ!」

 敵撃破の戦果を確かめることなく、美奈代は騎体を空中で一回転させつつ、左手でビームライフルを抜いた。

 天地がひっくり返った姿勢のまま、ビームライフルが光の矢を放った。

 普通に考えれば“矢”というより“槍”というべき破壊力を持つ一撃が、D-SEEDの背後に迫りつつあった帝剣の土手っ腹を貫通。背中に搭載していた実体弾兵器の弾薬を吹き飛ばした。

 帝剣の背後で派手な爆発が連続して発生。

 その帝剣は、爆発に弾かれるようにして地面に落下。

 そのまま爆発した。


 祷子が油断した?


 違う。


 D-SEEDもまた、ビームライフルを構えていた。

 そして、“死乃天使”の背後では、先程、D-SEEDを襲った帝剣同様に、喉部を打ち抜かれた帝剣が地面へ向かって死の降下を始めていた。


 祷子と美奈代。


 二人は何事もなかったようにビームライフルを格納すると、残存する帝剣めがけて襲いかかった。


 この間の戦闘時間―――実に10秒。


 圧倒的な敵。


 中華帝国軍の切り札―――帝剣。

 欧米と魔族軍からの技術を反映したそれは、今やベースとなったロシア帝国製メサイア“ローマイヤ”よりも、その性能と量産数の双方で圧倒しているとさえ言われて久しい。

 北米大陸戦線において米軍側メサイア部隊を圧倒してきた恐怖の代名詞―――帝剣。

 それが、瞬きする間もない戦闘で12騎が葬られた。


 最後に撃破された帝剣から斬艦刀を引き抜いたD-SEEDは、教会の庭に突き刺さっていたシールドを引き抜いて再び腕にマウント。

 そのまま、何事もなかったかのように“死乃天使”と共に空に舞い上がった。



 米軍のメサイア大隊が村に到着したのは、それから5分後のことである。





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