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美奈代達、米国到着

●アメリカ合衆国 ネバタ州 ネリス空軍基地

「や、やっと着いた……」

 美奈代は、ハッチを開いた途端、コクピットに流れ込んできたムッとする空気に顔をしかめた。

「暑っ……」


 アメリカ合衆国ネバタ州にあるネリス空軍基地。

 その一角に設けられた簡易ハンガーに騎体を収容する作業が終了。

 ハンガー周囲には、基地関係者が珍しそうに見物に集まっていた。


「ご苦労様」

 TACタクティカル・エア・カーゴから降りた紅葉が“死乃天使”の足下で待っていた。

「長旅で大変だったわね」

「いえ」美奈代は小さく笑って首を軽って敬礼した。

 詳しくはあっちで。紅葉に案内されハンガーを出る。

 ハンガー内部の“死乃天使”とD-SEEDが見せ物にならないよう、ハンガーの閉鎖が始まった。


 上空。

 抜けるような青空に飛行機雲を引きながら戦闘機が飛行していく。

 少し飛べば戦場だと、美奈代は改めてここがどこか思い出した。


「おい。ありゃ何だ?」

 解散する米軍の士官達が呆れたような声で会話するのが耳に入る。

「あの派手な色だ。ありゃデモンストレーターか?」

「日本軍は、戦線にテスト騎まで持ち込むつもりか?」

「セールスだろう?あんな女の子が乗ってくるんだし」

「アメリカも舐められたもんだ」

 その会話は散々だ。


「……ねぇ」

「はい?」

「金鵄勲章持ってきた?」

「やめておいた方が良いです」

 牧野中尉や祷子達と合流した美奈代は苦笑しながら言った。

「勲章ぶら下げても、略綬でモザイク作っても、コスプレと間違われるのがオチです」

「階級章は―――向こうもわかんないでしょうしね」

「そういうことです。ところで」

「部隊は大戦果。司令部からの評価は最高のものがあるわ」

「部隊は無事なんですね?」

「ええ。メサイア24騎、機甲一個師団をわずか30分で殲滅……」

「……」

「伝説作っちゃったんだもん。それで司令部に文句を言えと?」

 美奈代は無言で首を左右に振った。

「私達、必要ないんじゃないですか?宗像達に任せておけば」

「そうもいかないわよ」

 紅葉は、ちらりとハンガーの方を見た。

「仕事よ仕事。中華帝国軍なんてどうでもいいけど、せっかく、試し切り用のヤツがわんさといるんだから。斬らないともったいないでしょ?」

「どういう発想ですか」

「黙れ。今日一日は時差ボケ直すのに使って。基地司令に挨拶に行ってからは基本、あてがった部屋で待機して」

「……」

 美奈代は、周囲を見回した。

 さっきから気になっていたのは事実だ。

 米軍兵士達から受ける視線だ。

 奇異や下心の影に見え隠れするのは、憎悪や警戒心。

 間違いなく、自分達は歓迎されていない。

 それが、嫌でもわかる。

「わかりました」

 美奈代は、そっと祷子達と目配せして互いに頷きあった。

「室内での休養と食事だけは認めてください」

「ええ。基地外部から食事を確保してあげるからしばらく待ちなさい。日本人のレストランが近くにあるの。そこから手配してあげる……まだお店があればの話だけど」

「別に、この基地でも」

「……あんた、度胸あるわね」

 紅葉は苦笑しながら言った。

「米軍の飯っての食べたことないでしょ?」

「え?ええ」

 美奈代は頷いた。

「自分は―――そういう経歴ですから」

「幸せよ」ちらりと紅葉は牧野中尉や水城中尉を見た。

「一度食べたら」

 牧野中尉が苦笑しながら言った。

「二度とは食べたいと思いませんよ」

「そういうものですか?」

「一言で言えば」

「一言で言えば?」

「―――豚のえさです」



 基地司令はウォーリスという退役間近の将校。

 でっぷりと肥えた腹を抱えた、休日にはケンタッキーダービーの会場で、ミントジュレップ片手にケンタッキーの我が家を大合唱していそうな、そんな感じの男だった。

「インペリアルガーズの来訪を歓迎する」

 口ではそう言っているが、その目付きは決して歓迎なんてしていない。

 何しに来た?

 顔でそう語っていた。

「感謝します」

 紅葉がわざとらしい敬礼をした。

「滞在期間中、なにとぞよしなに」

「こちらも色々と」

 ウォーリス司令は、紅葉と視線すら合わせなかった。

「不足しておりましてね。人も、物資も」

「存じております。しかし、大統領ホワイトハウスの許可は」

「上が何と言おうと」

 ねっとりとした視線が紅葉の嫌悪感に触れた。

「不足しているものはしているのです」

「早く出て行けと?」

「ストレートな物言いは嫌いなのだがね」

 クックックッ……。

 彼は喉の奥で笑った。

「その通り―――そう、答えておこうか」

「……了解しました」

 紅葉は胸に付けた飾りを見せつけるようにしながら言った。

「それが同盟国軍に対する合衆国軍人の礼儀ならば」



「―――まぁ、正直」

 夕食は、ハンガー横の宿舎でとることになった。

「脅しが利いたんでしょうね」

「脅し?」

「津島中佐は世界的に顔が利きますから」

 牧野中尉は空になったノンアルコールビールの缶を弄びながら言った。

「軍高官あたりに文句が行けば、あの司令官、どんな末路をたどるか知れたもんじゃないですもの」

「あの子って」

 幸い、紅葉と祷子は外出してここにはいない。

 姫さんの胃袋満たしてくる。

 そう言い残して、祷子達とハマーに乗って基地から出ていったばかりだ。

「そんなに有名なんですか?」

「世界最高峰の天才ですもの。世界中のアカデミーで引っ張りだこですよ?」

「……へぇ?」

「あの津島中佐の胸飾り」

「?」

 美奈代は、紅葉の白衣につけられている何本かの線で構成された装飾を思い出した。

 金色の鎖を横に通したような、奇妙な装飾だ。

「あれが?」

「あれが、スタンド・ラインというのです。主に“見通者シーカー”をはじめとした技能者が社会的身分をはっきりさせるためのもので、あれを付けている限り、国際法上の絶対的保護を受けられます」

「……へぇ?」

「最高位の“見通者シーカー”に与えられるのが5本線。これで“フル・スタンド”の称号を得られます。現在、これを持っているのは世界でも100名いません。この上を行く6本線が“ハイパー・スタンド”と呼ばれ、世界では津島中佐を含めて3人だけ」

「……つまり」

 美奈代は、あれ?となった。

「あの子と同じレベルでの能力を持つ人がいるってことですか?」

「あのフェルミ博士と、もう一人」

「誰です?聞いてもわかんないと思いますけど」

「マラネリ王国の少年王……世界的にはメサイア開発の世界第一人者の地位にいます」

「津島中佐じゃなくて?」

「津島中佐は」

 牧野中尉は苦笑しながら言った。

「そういうのに興味がないんですよ。自分がやりたいことを勝手に出来ればいい。そういうタイプですから」

「なんだかそういうの」

 美奈代は楽しげにペットボトルに入った緑茶に口を付けた。

「あの子らしくていいですね」




  日本人レストランのシェフが腕を振るったという食事は、TACタクティカル・エア・カーゴの乗組員や整備兵達に大歓迎で受け入れられた。

 黄色人種への差別がひどく、近頃では日本の国旗を大きく掲げなければ経営どころか町中さえ歩くことが出来ないという。

 “極東で中華帝国軍と戦う日本は仲間だ”という意識を地元の人々に持ってもらえなければ、アメリカから日本人は追い出されていただろうと、料理を持ってきたシェフ達は口々に言った。

 北米戦線で勝利した暁には、是非、食べに来てくれ。

 そう、言っていた。


 思い思いに食事と談笑を楽しむ彼等の耳に、誰かが持ち込んだラジオからはクラシックジャズの心地よい曲が流れてくる。

 質素なテーブルと殺風景な室内は、それだけで明るい雰囲気に満ちあふれている。

 見ているだけで、何だか幸せだ。


 バンッ。

 乱暴にドアが開かれ、皆の視線がそちらに集中したのは、そんな騒ぎが一段落した頃。

 一目で騎士だとわかる、メサイア用の戦闘服に身を包んだ男女が部屋に入ってきた。

 体格はいいが、はっきりガラが悪い。

 周囲を威嚇するような態度と視線に、皆が一斉に視線を外した。

「―――んだよ」

 突然、一人の整備兵の襟首を掴むと乱暴に床に引き倒した。

 そして、テーブルの上にあったローストビーフを一切れ口に放り込むと、すぐに皿の上に吐き出した。

「まずいぜコイツぁ!」

 ガシャンッ!

 騎士の力で蹴り上げられたテーブルがへしゃげ、料理が天井にまで吹き飛ばされ、整備兵達の頭から降り注いだ。

「かぁっ!イエローモンキーのエサはまずいなんてもんじゃねぇ!」

 最も大柄な黒人兵が大げさな仕草でそうわめく。

 その脇では、ドレッドヘアの黒人女性士官が腹を抱えて笑っている。


「……あ、あの」

 美奈代が恐れたのは、彼等ではない。

「……」

 飛んできた料理を頭から被った牧野中尉だ。

 トマトケチャップまみれになった顔を丹念に拭き終えた中尉に、美奈代は泣きそうな顔で言った。

「お、抑えてくださいね?ね?」

「……」

 牧野中尉は、ニヤリと背筋が寒くなるような笑みを浮かべる。

 シャカッ

「な、何だか、テーブルの下で、何だか考えたくないような音がしましたけど……」

「大丈夫です」

 牧野中尉は笑みを崩さずに言った。

「ちょっと……世界共通の仁義と礼儀ってヤツを教えてあげるだけですから」

 そう言って、席を立った。

「ち、ちょっと!?」

 美奈代もまた、慌てて席を立った。

「軍曹!憲兵隊に通報しろ!死人が出る前に!」


 バカ騒ぎを続ける米兵達も、牧野中尉の姿に気付いたらしい。


「おやおや」

 女性士官が、下からのぞき込むような仕草で牧野中尉を睨み付けた。

「島ザルのメスが、このアタシに何のご用だい?」

 女性士官は、それ以上に何かを言おうとしたが、その言葉が出る前に、顎に感じた冷たく、固い感触に言葉を奪われた。

「―――なっ」


「中尉っ!」

 駆け寄った美奈代が、とっさに銃を持つ牧野中尉の腕を叩いた。

 ダンッ!

 銃口がわずかにずれ、銃弾が天井に穴を開けた。

「銃を離してくださいっ!」

 頬のすぐ間近を銃弾が走り、驚きのあまり腰を抜かした女性騎士の前で、美奈代が力ずくで牧野中尉から拳銃を奪い取った。

「な、何しているんですか!」

「見て分かりません?」

 手をさすりながら牧野中尉は言った。

「国際親善です」

「見えませんよ!」


「テメェっ!」

 居合わせた他の騎士達が身構えた。

 こりゃマズい。

 美奈代がどうしようか本気で迷う後ろでは、

「おらぁっ!?やるかコラ!?」

 整備兵達がビール瓶やベルトで武装して席を蹴った。


 一触即発。


 北米到着と同時に軍法会議なんて冗談じゃない。

 とにかく、憲兵隊が来る前に何とかしないと!



「何をしているか!」

 鋭い声が通路から響き渡った。

 武装した兵士達を率いた金髪の若い士官が仁王立ちになって入り口に立ちふさがっている。

 短く刈り上げられた金髪。

 白く整った顔立ち。

 はっきり美形だと存在が語っていた。


「ラスタマン!ここに立ち入ることは禁止されていたはずだな!?」

「親善に来たんですよ」

 最も大柄な黒人騎士がイヤイヤながらの態度で答えた。

「それを突然」

 黒人騎士が指さしたのは天井だ。

「全く、日本人ってのは何考えてるんですかね。俺達文明国の人間様にゃ、わかりませんぜ」

「その文明国の人間様がテーブルをこんなにしたのか?」

「挨拶ですよ。パフォーマンスともいいますけどね?」


「ふざけたことを!」

 激怒した士官が怒鳴る。

「貴様、今度もめ事起こしたら営倉入りだと教えていたな!?」


「ええ」

 黒人騎士はあっけらかんといってのけた。

「いいですよ?営倉に入っている間は、少なくても前線で死ぬことはないですからね」


「くっ!」


「ああ。俺も頼みます」

「俺もね」

 騎士達が次々と手を挙げる。

「前線に出たら死んじまうもんで!」


「この―――っ!」

 若い士官が拳を握り、騎士達に殴りかかろうとした。

 まさにその時だ。

 ガッ!

 いつの間に立っていたのか、士官より背の高い男が、士官の腕を掴んでいた。

 脚を負傷しているのか。松葉杖をついていた。

「やめるんだ、チェスター」

「離せ、ジョエルっ!」

「ランドルフ」

 チェスターと呼ばれた松葉杖の男は、背後に待機していた武装した兵士達―――憲兵隊に向かって命じた。

「ラスタマン達を、例の場所に連れて行け」

「はっ」


「部下を失った無念は俺にも分かる。チェスター」

 連行されていく騎士達を見送ったジョエルが、そっとチェスターと呼んだ士官の腕を放した。

「……だが、それでは誰も付いてこないぞ」

「……わかっている」

 チェスターは、無念そうに顔をしかめながら腕をさすった。

「なら、いい」

 その仕草を微笑みながら見つめながら、ジョエルは、そっと言った。

「仕事だ」

「チンクか!?」

「日本軍の方も同席願いたい。チンクに動きが見えた」




 もっと食べられたのに。と、憮然とした顔で戻ってきた祷子が横に座っている。

 米軍のブリーフィング・ルームは、革張りのしっかりとした椅子だ。

 軍隊に入ってからというもの、パイプ椅子が基本の身には、ちょっと信じられない贅沢な話だ。

 座面が少し大きいあたりに、アメリカ人と日本人の体格の違いを思い知らされる。

 何度も座り直しながら周りを見回す。

 あの部屋に乱入してきた男達はいない。

 なにより、米軍側の騎士達の数が多くはない。

 むしろ、美奈代が驚くほど少ない。

「……あの」

 ブリーフィングが始まる前に、こっそりと牧野中尉に訊ねた。

「ここって、米軍のメサイア大隊がいる所……ですよね?」

「ええ」

 何故か、うっとりとした顔の牧野中尉が答えた。

「第41メサイア大隊―――ヒストリアルカンパニーです」

「ヒストリアルっていうのが……部隊名なんですか?」

「二桁ナンバーの部隊を、そう呼ぶのです」

 美奈代は、牧野中尉の視線の先に誰がいるのかやっとわかった。

 先程の、チェスターとジョエルと呼ばれた男達だ。

 席に座り、互いに書類の中身を確認している様子だ。

「……はぁ《はぁと》」

 もうたまらない♪と、牧野中尉の背筋が寒くなるような独り言を、美奈代は聞かなかったことにした。

「そんなに歴史が古い部隊なのに?」

 それにしては騎士の数が少なすぎる。

 騎士から考えるに、どう見積もっても10騎前後だ。

 大隊というからには、30騎が揃っていておかしくないのに……?


 時計のチャイムが鳴り響いた。

「……時間だ」

 立ち上がったのは、チェスターとジョエルだ。

「これよりブリーフィングを始める」

 チェスターが、不意に美奈代に視線を送った。

「今回の作戦には、インペリアルガーズから2騎が参加する」

 一同の視線が、美奈代達に集まる。

 美奈代はどうしていいのかわからず、小さく頭を下げるに留めた。


「昨日、スプリングフィールド郊外でチンク共のメサイアと機甲大隊を殲滅した部隊の別働隊。特にイズミ大尉は、元その部隊長だ」

 ヒュウッ

 品のない口笛が米軍騎士の間から上がった。


「紹介が遅れて申し訳ない。私はチェスター・ワイズマン中尉。隣が副官のジョエル・クラークマン中尉だ。イズミ大尉」


「はい」

 美奈代は努めて冷静に答えた。


「作戦に協力を」


「最善は尽くしますが」

 美奈代は答えた。

「私達の指揮権は現在、そこにいらっしゃる津島中佐のものです」


「失礼」

 チェスターは、美奈代のすぐ隣に座る紅葉に言った。

「中佐―――それとも、ドクター・ツシマと呼ぶべきですか?」


「中佐で結構」紅葉は冷たく答えた。

「我々を気にすることなく、作戦内容を」


「感謝します」

 チェスターは、ちらりとジョエルに視線を送った。

「ここから250キロの地点にウォーターブリッジという小さな村がある」

 ジョエルが言った。

「チンクの機甲部隊は、昨晩の敗北に懲りることもなく、支配地域拡大を目指して侵攻を再開。この村に迫りつつある」


 ジョエルはプロジェクターに地図を表示させた。


「村そのものに戦略的価値はない。問題は、この村に周辺から逃れてきた避難民を含め、多数の民間人が孤立していることだ」


 地図上に中華帝国軍の勢力図を重ね合わせると、その意味がよく分かった。

 村の周辺は、大きく中華帝国軍の支配地域に包まれている。

 つまり、完全に敵の包囲網の中に孤立しているのだ。

 

 避難民は、その支配地域から逃れてきたんだろうと、すぐに見当が付いた。


「避難民の数は千人を超える。彼等を見殺しにすることは許されない。敵包囲網に穴を開けてゆっくりと、被害を最小限度に抑えた状態で救出作戦を実施する予定だったが……」

 ジョエルの顔が曇った。

「敵は、この包囲網に開いた穴を潰しにかかっている。

 村に対してメサイア主力の戦闘部隊が接近中だ。

 確認されている限り、メサイア12。軽装機械化歩兵1個中隊程度。

 奴らが避難民を人道的に扱うとは思えない。

 我が軍は、飛行艦隊から大型TACタクティカル・エア・カーゴ20機を動員した救出作戦を実施する」


 孤立した村があって、

 その村が攻撃を受けつつある。

 故に、村人を救出に向かう。


 美奈代は作戦を、そう理解した。


「前衛は第二小隊と第三小隊で受け持つ。残りの部隊は損傷が出た場合の穴埋めに入れ。残念ながら、俺は先日の負傷が原因で出撃出来ない。ピット、俺の代わりにチェスターのサポートに入れ」


「了解です」

 ピット。と呼ばれた中年の男が頷いた。


「インペリアルガーズには申し訳ないが、連日の戦闘で我が大隊は戦力の大半を消耗しており、現状においては1個中隊の戦力を維持していない」


「……」

 成る程?

 美奈代はそれで、この異様なまでの騎士の少なさの意味を悟った。

 消耗しているのだ。

 騎士達の多くは病院か……それとも……。


「敵の数も決して多くはないが、連中は帝剣で武装している。

 それに対して我が大隊の装備はグレイファントムM16……荷が重すぎる。

 今までの経験では、帝剣一騎撃破するのに3騎を大破させたことになる」


「……わかりました」


「大尉達は」

 ジョエルが訊ねた。

「帝剣との交戦経験は?」


「過去なんて意味ありません」

 美奈代は言った。

「前衛は我々が引き受けます」


「しかし」


「我々2騎で十分だと―――そう言ったのです」

 美奈代はちらりと祷子を見た。

 落ち着き払った相変わらずの穏和な表情で、祷子がニコリと微笑んだ。

「やれるな?天儀」


「勿論です」

 祷子は有無を言わせぬ笑みで答えた。

「そのための私達ですよ?」

    


「はぁっ♪」

 MCRメサイア・コントローラー・ルームで、牧野中尉がうっとりとした声でため息をついた。

「ママぁ」 

 “さくら”があきれ顔で言った。

「何回、ため息をつくの?」


「最高の見物でした」

 牧野中尉はどこか危険な顔で言った。

「あの二人」

 出来れば関わりたくないが、今は発進準備中。

 イヤでも牧野中尉の声が聞こえてくる。

「絶対、デキてます」


「……あの?中尉、それって誰のことです?」

 “死乃天使”の起動を行う手が、一瞬だけ止まった。


「決まってるじゃないですか!」

 牧野中尉が気色ばんで怒鳴った。

「あの二人!チェスター・ワイズマン中尉とジョエル・クラークマン中尉です!」


「……は?」


「あの二人、私はワイズマン中尉受けだと思うのですが、どう思います?」


「……意味がわかんないんですけど」


 牧野中尉は、それを冗談だと思ったらしい。

 ワイズマン中尉とクラークマン中尉の受け攻めについて熱く熱弁を振るい、


 受け攻め

 下克上


 美奈代にとってわからない言葉を連発し始めた。

 同意を求められ、困り抜いた美奈代がそっと知らないと、そう答えたのがまずかったのか。

 牧野中尉は途端に不機嫌になった挙げ句、美奈代を“ノンケのフリした裏切り者”とか、散々にこき下ろし始めた。


「つまり」

 美奈代はうんざりした顔で言った。

「あの二人、そういう関係なんですか?」


「当然です!」

 牧野中尉の声はまだどこか刺々しい。

「私の目はごまかせません!」


「勘弁して下さいよ……」

 美奈代は言った。

「とにかく―――津島中佐?」


「巻き込まないで」

 ブチッ

 紅葉は一言、そう言い残して通信を切った。


「それこそ勘弁して下さい!」

 美奈代は抗議した。

「ヒドい言いがかりです!牧野中尉のイカれた変態趣味と、私は無関係―――」


 ガンッ!


 コクピットに、そんな音が響き渡った。


「天儀より津島中佐」


「……何?」


「美奈代さんの生命反応が消えたんですけど……」


「ったく、手間かかる子ねぇ……“さくら”?さっさと魂戻してあげて」


「はぁい♪」




「とにかく、真面目に聞いて」

 美奈代が復活した所で、紅葉は言った。

「救出作戦は、失敗に終わろうとしている」


「……え?」


「天儀です。それは……どういう」


「メサイアが村を襲撃中……それで十分でしょう?」


「避難民は!?」


「村の家々を破壊しつつ、避難民をいぶりだしている」


「……」

「……」


「後ろのグレイファントムの機動力なら無理だけど、あんた達なら出来る」

 紅葉は言った。

「先行して敵騎をなぎ倒して。避難民が逃げ込んでいる施設は判明次第、データを送る。今、彼等を助けられるのは、世界中であなた達だけ。自分の義務を果たして」


「了解っ!」

「はいっ!」


 “死乃天使”とD-SEEDの翼が開き、驚愕する米軍騎士達の前から、一瞬で消えるほどの超高加速をかけた。







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