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地の底にて

 ●ニューメキシコ州 

  カールズバッド洞窟群国立公園内

 “グレート・ケイブ”洞窟


 米軍は、テキサス州を始め、敵の侵攻を受けた区域に配備されていた反応弾兵器を予め定められていた本土防衛戦計画“ケース・ゴールド”の想定に従って、この公園内にある巨大な鍾乳洞に隠した。

 83あるとされるカールズバッド洞窟群は、現在は米軍の厳重な監視下にあり、一般人は近づくことさえ出来ない。

 その中でも最も厳重な監視におかれているのが、84番目の洞窟。


 “グレート・ケイブ”と呼ばれる洞窟。


 発見されたのは赤色戦争時代のこと。

 公表されているデータでは、カールズバッド洞窟群における最大の洞窟は、レチュギア・ケイブ(Lechuguilla Cave)、全米で最深(489メートル)の深さと、世界第5位(203 km)を誇るの石灰岩の洞窟とされる。


 “グレート・ケイブ”は、その比ではない。


 深さ最も深いところで1500メートル。長さは200キロに達することが判明している。

 世界最大、非常識な巨大洞窟だ。

 この洞窟の何がそれ程、軍の目を引いたのか?

 それは、この洞窟のサイズだ。

 長さや深さだけではない。洞窟のサイズそのものも、メサイアが空中戦を行えると誇張される程に巨大なのだ。

 軍は、その巨大さを利用して、当初は本土戦闘時の軍司令部及び航空機ハンガーとしての利用を考えていたが、メサイアの普及によりメサイアの基地として、最終的には反応弾の貯蔵庫として利用されることになった。


 最も奥部にある“女王の間”に保管されている反応弾は500発近くに登る。

 米軍としては、意地でも中華帝国軍に引き渡すわけにはいかない。

 そのために、ここにはメサイア部隊をはじめとして、様々な防衛部隊が配置されている。

 セキュリティは厳重に厳重を重ねられ、生半可な装備では反応弾貯蔵施設までたどり着くことは出来ない。

 その性格故に、“グレート・ケイブ”は軍内部でも知る者が限られる、米軍の秘密の要塞でもある。


 中華帝国軍がその存在を知ったのは、外部からの情報による。

 北京の司令部によれば、“親愛なる情報協力者”となるが、何のことはない。

 あのユギオ達だ。


 500発以上の反応弾を確保する施設。


 それは、戦局においては致命的な意味をもたらすだろう。


 中華帝国軍司令部は、その奪取に本気になったのはむしろ当然なのだ。


 自らののど元に存在する反応弾というナイフを奪い、逆に西海岸の諸都市に突きつけることが出来れば、米軍の西海岸側からの攻撃を躊躇わせるのには十分だ。


 中華帝国軍が、そのために派遣したのが、方術騎士団。

 一般に魔法騎士と呼ばれる騎士によって編成された騎士団。

 その中でも、隠密行動に特化した特殊部隊が送り込まれた。

 

 米軍高官を買収し、入手した暗号帳。

 それは、各部に通じる扉のパスワード。隠し扉のありか等……“グレート・ケイブ”を丸裸にするのに足る情報。

 売りつけたのは―――後に判明したことだが―――“グレート・ケイブ”司令官の妻だった。

 ユギオ達がしかけたハニートラップにかかった彼女は、愛人の言うままに夫の書斎からデータを盗み出し、ユギオ達はそれを中華帝国軍に引き渡した。

 それだけのことだが、とにかく彼等が攻撃を受けたのは、月城達が中華帝国軍機甲部隊を殲滅した翌日の深夜のことだった。


「ぐっ!?」

 “グレート・ケイブ”第17層の通気口管理室に近い曲がり角で、そんな鈍い声がした。

 背後に深々と短剣が突き刺さった米軍兵士が力無く床に転がる。

 死体から短剣を抜いた黒ずくめの男が、背後に控えていた別の黒ずくめの男と視線をかわし、無言で頷いた。

 死体を物陰に隠すと、通気ダクトの点検ハッチを開いた。

 ダクトを通じてさらに下層へと入り込もうというのだ。

 最上部の第一層からこれまで、全く問題なく繰り返されてきたダクトへの侵入工作。

 今度も無条件で上手くいくはずだった。

 彼等もそう思っていた。


 その彼等の動きを阻止したのは、兵士達の活躍ではなかった。


 ダクト建築業者の怠慢だった。


 ダクトの点検ハッチを開いた途端、


 ガランッ!


 乾いた音を立てて床に転がったのは、ダクトの外壁の一部。

 立て付けが悪い所に、ハッチを開いた衝撃が走ったせいで、外壁の一部が脱落。

 床に音を立てて転がったのだ。


「何の音だ?」

 部屋の外から軍靴の音が聞こえてくる。

 しかも複数。

 警備兵だ。


 男達はダクトに潜り込もうとしたが―――


「何をしている!?」

 警備兵が、彼等を発見する方が早かった。

 男達がナイフを抜くのと、警備兵が警報を作動させるのは、ほぼ同時だった。



「何をしているか!」

 司令官が苛立った声を上げる。

「ダクトを閉鎖したんだろう!?」

「侵入者はダクトから出ました。阻止ゲートと警備部隊をなぎ払いながら地下へ向けて移動中!」

「目的は―――」

「そ、それが」副司令官が首を傾げながら言った。

「この侵入ルートでは、女王の間にはたどり着くことが出来ません」

「道を間違えた?」

「侵入者の動きのスムースさから、それはないと思います」

 副司令官は答えた。

「女王の間を狙わないとしたら……このまま進むなら、敵の狙いは―――恐らく、反応弾ではありません」

「じゃあ何だ?―――ええい!一般兵では犠牲を増やすだけだ!火炎放射部隊を前に出せ!騎士はどうした!?相手は魔法騎士だろう!?魔法騎士小隊は何をしているか!」



「くそっ!」

 覆面をとった男達の前に現れたのは火炎放射器を担いだ兵士達。あんなものを喰らったら―――冗談じゃない!

 近くに転がっていた米軍兵士の死体から手榴弾を奪うと、安全ピンを引き抜き、接近する米軍兵士達めがけて放り投げた。

 バンッ!

 手榴弾の爆発音。

 火炎放射器のタンクが手榴弾の破片にやられた。

 漏れたジェル状のリキッドが何かの炎に引火。一瞬にして兵士達が火だるまになる光景を見せつけられた。

「やったぞ!」

「急げっ!」

 彼等は炎に追い立てられるように目的地を目指す。

 地図に定められた通りの角を曲がり、警備兵を殺し、ゲートを破壊して下の層へと侵入。その繰り返しだ。



 形勢不利と判断したのか。

 それとも、別な理由があるのか。

 警備兵の追撃が、ある層への侵入を境にぱったりと止まった。


「どういうことだ?」

 彼等は時折、背後を確かめながら通路を急ぐ。

「知るか!」

 一人が息を切らせながら怒鳴るように言った。

「とにかく―――ここだ!」

 そこは、通路が途絶えた行き止まり。

「地図によると、友軍兵士達からまで反応弾を隠すため、ここが壁として擬装されているという」

「よし……ブリーチをセットする。どいてくれ」

「頼む」

「設置完了―――起爆する!」



 硝煙の向こうに開いたのは、全く照明のない、しかも、舗装さえされていないむき出しの岩の上。

 鍾乳洞だ。


「これは?」

「情報は疑うな。それが命令だろう」

 一人が照明をつけると鍾乳洞に入り込んだ。

「最悪でも、何か情報が手に入るはずだ―――行かないのか?」

「……うっ」

 これはおかしい。

 彼はそう思うが、何がおかしいと聞かれても答えようがない。


 むき出しの鍾乳洞は、それこそ擬装かもしれない。

 

「怖じ気づいたか?」

 仲間のバカにしたような声がかんに障った。

「バカを言うな」

 彼等は、鍾乳洞を歩き続け、そして、目的地にたどり着いた。



「これは何だ?」

「この石柱を指示通りにセットすればいいらしい」

「……こうだな?」

「ああ―――うわっ!?」

「な……なんだ!?」

「―――ひっ!?逃げろ!逃げるんだ!」

「待て!待ってくれぇぇっっ!」





 カールズバッド洞窟群国立公園内“グレート・ケイブ”洞窟は、米軍の秘密要塞という性格を持つ特殊な場所だ。

 元来から、電波通信による位置把握を嫌う上層部命令で、外部との通信は極めて限定されていた上に、戦域全体が混乱していることが致命的となった。


 洞窟司令部との通信が途絶したことを知ることを、外部が知ることが出来たのは、数日の後のこととなる。





 

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