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精霊体、へそをまげる

●ハンガー

「なぁにが“ヒヨコには相応しい棺桶”よ!」

 毒づいたのはさつきだ。

 他分隊向け向けに“角龍かくりゅう”や“幻龍げんりゅう”が続々搬入され、にわかに忙しくなるハンガーの中は、まるで戦場だ。

 移動する“幻龍げんりゅう”達を見るだけで羨ましさを通り越して悔しくさえ思えてくる。

 目の前に並ぶのは、演習で美奈代達が使う“雛鎧すうがい”達。

 一代前の近衛軍標準メサイア“征龍せいりゅう”を訓練騎トレーナーに仕様変更したモデル。

 頭部MCLメサイア・コントローラー・ルームとコクピット双方を複座型にしているため、外見は乗りたくないほど不格好だが、美奈代達が唯一動かした、なじみ深いメサイアだ。

 すでに他分隊は騎士が単独で動かす“角龍かくりゅう”や“幻龍げんりゅう”での訓練を受け続けているというのに、何故か第七分隊たる美奈代達は、いつまで経っても“雛鎧すうがい”の搭乗しか認められていない。


「こんな半端な騎体で実戦なんて出来るわけないじゃん!」

 さつきが文句を言いたくなる気分もわかる。

 練習機で戦闘機相手に戦えると思うのは素人以下だ。

「まぁ、そう言うな」

 美奈代は苦笑しつつ言った。

「訓練が完了しないまま、卒業検定じゃ納得出来ないのは確かだけど」

「これで実戦部隊回されて」

 “雛鎧すうがい”を前に、さつきは顔をしかめた。

「訓練騎以外、乗ったことありませんって言ったら、納得してもらえるのかしら?」

「さぁね」

 宗像が言った。

「女ってことで大目に見てもらえるんじゃないか?」

「それって良いこと?」

「役得だな―――だが早瀬」

 宗像は言った。

「“雛鎧すうがい”は、単に“征龍せいりゅう”の複座型にすぎないぞ?。基本性能は高い」

「中身はそうかもしれないけど」

「しかも、転倒防止のバランサーシステムは“幻龍改げんりゅうかい”のS型《指揮騎仕様》と同じグレードが取り付けられています。コクピットブロックの装甲も追加されていますし……気休め程度ですけど」と、美晴も“雛鎧すうがい”の弁護じみたセリフを口にする。

「……“雛鎧すうがい”も悪くないってこと?」

「ま、そういうことだ……というか早瀬」

 美奈代が小声で言った。

「そろそろ褒めておかないと、精霊体がヘソ曲げるぞ?」



「うわぁ……スゴ」

 “雛鎧すうがい”のモニターの中で、教官騎としても異例の“幻龍改げんりゅうかい”、その最上級グレードたる特殊部隊指揮官騎“アリアS2”がハンガーから出ようとしていた。

 二宮がこの富士学校へ教官として赴任する際、最高司令官たる麗菜殿下より、個人専用騎として与えられたとさえいわれる騎。

 長野騎の駆る“征龍せいりゅう”がその後に続く。

「あんなの……よく使える」

 それをスクリーン越しに見た美奈代の本音だ。

 敵騎のデータを測定するための計測システムは、計測相手として“幻龍改げんりゅうかい”を捉えて以来、レッドゲージに入りっぱなしだ。

 メサイアの中でも細く女性的とさえ評されるその優美なデザイン故に、“幻龍改げんりゅうかい”が“貴婦人”の異名をとるのも納得出来る。


 麗しき貴婦人。


 だが、そのスペックは“悪魔”とさえ囁かれるまさにモンスターマシンだ。

 “雛鎧すうがい”が相手になる存在ではない。


 その“幻龍改げんりゅうかい”の動きが止まった。

 不意にその顔が横を向き、しばらくするとコクピットハッチが開き、二宮が出てきた。

 その視線の先にいるのは美奈代ではない。

 美奈代騎の横のハンガーベッドに格納されている早瀬さつき騎だ。

「?」

 美奈代が横を見ると、さつき騎のコクピットブロックにはさつきや整備兵が張り付いていた。

 何故か、コクピットのハッチが開いていない。

 半泣きになったさつきが何か怒鳴っている。

 二宮の乗騎からさつき騎に飛び乗って、何かさつきや整備兵達と言い合っている。

「どうした?」

「あのね?」言いづらそうにそう口を開いたのは、美奈代騎の精霊体“さくら”だ。

 白いスモックを着た幼稚園児。

 外見は四歳位の愛らしい女の子。

 だが、同時にこのメサイア“雛鎧すうがい”の搭載するエンジンの化身でもある。

「“他の騎がいい”って、さつきちゃんが言ったの聞いた“霧香きりか”がヘソ曲げちゃったの」

「はっ?」

「“霧香きりか”が一度ああなると大変だよぉ?」


 実際、第七分隊のこの日の訓練は、騎体不調を理由に中止となった。





-----用語解説---------


MDIJα-015「幻龍」

・αタイプの量産騎。

・近衛騎士団のメサイアといえば、この騎を指す。

・この世界におけるジムⅡ。

・三十年戦争後半に戦線投入されて以降も生産が続き、総生産騎数は400騎を超える。

・操縦は常に安定、整備性も高く、稼働率も高いとなると、騎士・整備士共に評価は高い。

・その代償として、パワー不足、軽装甲、満足な防御はシールド程度と問題も多かった。

・戦争で最も戦ったのは当然、このメサイアの系統。

・はっきりいって、思いっきりプレーンな騎。

・だからすぐ改装されることになる。

【ネタバレ】

・イメージは『ファイブスター物語』のクロス・ミラージュ



MDIJα-015B2「幻龍改 カノン」

・幻龍の改良騎。

・上級騎士の中に、幻龍のプレーンな能力に不満を持ったり、騎士の能力が発揮しきれないケースが続出。改良騎の開発が現場から強く要望されたことから、新人設計技師として近衛に招聘されたばかりの津島紅葉が中心となって開発されたのがこの騎。

・量産騎用に抑え気味に設定されていたエンジン出力を本来の性能へと、倍近く増大させ、装甲も大幅強化した。

・強化武装とアクティブバインダーが選択式で搭載可能。

・出力が向上されたエンジンと各種武装によりスペック上の戦闘能力は米軍本国仕様のグレイファントムを上回る。

・ちなみに、カノンは試作騎搭載のメサイア精霊体の名前、「華音かのん」から。


広域火焔掃射装置スイーパーズフレイム

・『ファイブスター物語』に出てくるインフェルノ・ナパームをイメージした兵器で、火炎放射兵器というより一種のプラズマ兵器。





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