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それぞれの進路

●富士学校 食堂

 実騎を使った模擬演習のシーズンが終わったら、候補生達の次の話題は進路に関してとなる。

 というのも、生徒の採用を意味する配属内示が出はじめるのがこの頃のためだ。

 富士学校の伝統として、内定を勝ち取った者の名は、食堂に名前が張り出される。

 今年の内定第一号は染谷だ。 

 メサイア第一中隊の配属が内定。

 一週間もすると、壁には二十人近い内定者の名前が張り出された。

 しかし、一方で胃が痛い思いをするのが教官達。

 このシーズン、前途を絶望した学生達が授業を拒否し始めたり、下手すれば医者の世話になる事態を引き起こすのだ。

 富士学校に入学出来たからといって、全員が無条件でメサイアに乗れるわけではない。

 実際、様々な理由で退学していった学生の数は両手の指では足りない。その苦難を乗り越えて掴んだメサイア搭乗者の栄光なだけに、名前を張り出される者も、それを見る者も、共に感慨深いものがある。

 そんな中、染谷の張り紙を見た美奈代は、デートで何とお祝いを言うべきか悩みながら、沢庵をかじっていた。

 その目の前で、

「眠い……」

 茶碗を持ちながらうつらうつらするのは双葉だ。

 一葉と光葉もご飯を食べながら器用に船をこいでいる。

「最近、別行動ばかりだけど、どうしたんだ?」

 美奈代は訊ねた。

「うん……今日から私達三人、本格的にカリキュラムが別になるって」

「へっ?」

「この前ね?」

 双葉は言った。

「新型のシミュレーターが入ったんだよ。それ使っての本格訓練が始まるの」

「新型のシミュレーター?」

「うん。何だか、戦闘機みたいなヤツ。普通のSTRシステムじゃないの」

「私達、何も聞いていないぞ?」

 美奈代は横にいたさつきの顔を見た。

 さつきは無言で首を横に振った。

「私達三人専用だって」

「すごいじゃん!」

 びっくりした様子でさつきは言った。

「カスタムモデルが与えられるってことは、双葉達、特務部隊スペシャルフォース配属ってことでしょ!?」

「シミュレーターはゲームみたいで楽しいけど、それより眠いよぉ……」

「戦闘機といっていたな」

「うん……あんまりしゃべるなって言われているけど、普通のメサイアじゃないよ。足ないし。私達はみんな、大好きになったけどね」

 ふわぁぁっ……と、生あくびをした双葉を前に、美奈代は少し複雑な顔になった。

「神城達も内定……か」

「私、後方勤務がいいな」

 さつきは、どこかほっとした顔でお茶をすすった。

「宗像も、二宮教官と一緒に中央に面接に行って、今朝帰ってくるけど」

「あいつも、どうなるんだろうなぁ」

「普通の部隊に行っても、あの素行だからねぇ」


 おおっ! 


 不意に、食堂にいた生徒達から、そんな歓声が上がった。

 見ると、脚立に登った長野が、壁に八切サイズの半紙を貼り付けていた。


 祝内定 内親王護衛隊 第七分隊 宗像理沙


内親王護衛隊レイナガーズ!?」

 美晴が目を見張ったのも無理はない。

 内親王にして近衛最高司令官である麗菜内親王の親衛部隊、それが内親王護衛隊。近衛最強部隊たる天皇護衛隊オールドガーズと肩を並べるエリート部隊だ。

 しかも、女性のみで編成された珍しい部隊でもある。

 とにかく、普通ならば候補生から直接入れる部隊ではない。

「さっすが宗像!」

 思わずさつきは言った。

「レズが身を助けた!」

「おい。二宮教官の古巣でしょ?それなら教官も」

 言いかけて、美奈代の思考は止まった。

「つまり……二宮教官って実は」

「あれ?和泉知らないの?」さつきは、おや?という顔になった。

「二宮教官の別名」

「?」

「……白百合の守護者。つまり」

 きょろきょろと辺りを見回した後、テーブルに身を乗り出して小声で言った。

「教官は両刀なんだよ」

「うぞっ!?」

「本当だって。麗菜殿下のお手つきだって聞いたことあるし」

「……」



●富士学校校舎

「お前達の罰ゲームの件だが」

 二宮はわざとらしい咳払いをした。

「よくやった……とでも言っておく」


 美奈代達の罰ゲーム―――コスプレ接待の件だ。


「第一分隊撃破によって、全てはお流れだ」

「質問」

 山崎が挙手の後、訊ねた。

「連中はどうして定数で参加しなかったのですか?」

「“幻龍げんりゅう”を使いこなせたのが、あの三人だけだった。それだけだ」

 二宮はにべもない。

「――まぁ、これまで黙っていたが」

 コホン。

 二宮は咳払いした後、言った。

「第一分隊とはいえ、せいぜいがランクBが精一杯の連中だ。そんな奴らがどんなに粋がった所で、所詮は“幻龍げんりゅう”でさえ手に余る程度の実力しか無い。当然、貴様らに勝てる訳がないのだ」

「えっ?」

「染谷でさえBBB+。他の連中だってBBあたりが精一杯だ。貴様らとは格が違う」

「あ、あの……」

 皆が思わず互いの顔を見合ってしまった。

「教官。質問です」挙手をしたのは美晴だった。

「それは、どういう意味ですか?」

「第一分隊が“幻龍げんりゅう”を操れたのは、連中の努力の賜。

 ただし、その騎数が3騎というのは、十人いる分隊の中で“幻龍げんりゅう”の戦闘訓練を任せるまで成長できたのが3人だけという証拠だ。

 一方、わずかな時間で、貴様等が全員、実騎を手足のように操れたのは」

 じろり。

 二宮が全員を見回した後に続けた。

「まさに貴様等の素質の賜だ」

「つまりは」山崎が訊ねた。

「メサイア操縦適格者としてのランクが高かったために、自分達――いえ、少なくとも自分は」

 その顔には困惑の色が浮かんでいた。

「敗北したとはいえ、初の実騎搭乗にもかかわらず、“幻龍げんりゅう”を相手に渡り合うことが出来たと」

「そうだ」

二宮は頷いた。

「貴様等、45期候補生は、全員がAランク以上の素質の持ち主だ。元の素質が違うんだ。そんな連中が格下の44期生相手に負けるとしたら、経験不足か運が悪かったか、いずれしかあるまい」

「それであの」という美奈代の声に、

「そうか!」

 二宮はうれしそうに頷いた。

「そんなにアフリカへ行きたかったのか!」

「へ?」

 美奈代達は思わず、皆で顔を見合わせた。

「……いえ、私達の」

「志願します!?教官としてうれしいぞ!」

「き、聞いてないし」

「アフリカ行きは10日後だ」

 二宮は早口で言った。

「後で正式に伝えるが、お前達の任務は、中央アフリカに巣くう中型妖魔達の掃討になる」

 ポカン。とする美奈代達に、二宮は事務的に伝えたが、

「……質問があります」

 美奈代は、棒読み同然の口調で右手を挙げた。

「生理出産盆に正月。その他、いかなる理由があろうとも、訓練課程の総仕上げである最終演習は参加が義務づけられている。日本に残る連中も実戦部隊相手に演習だ」

 二宮はきっぱりと、反論を許さない厳しい口調で言った。

「退学という選択肢は、死亡以外では認めない。逃亡は問答無用で銃殺だ。私が殺す」

「……どうして」

 美奈代は泣きそうな顔になった。

「妖魔の掃討に、戦闘経験豊富な実戦部隊ではなく、我々が?」

「その問題に対する答えを出せ」

「……対メサイア戦ではなく」

 美奈代は本当に涙声で言った。

「単なる妖魔掃討作戦である以上、ベテランが参加するより、新兵の経験値確保の格好の機会だと上層部が見なしている」

「私の説明が必要か?」

「当たっているなら結構です」

「ただし」

 二宮は言った。

「天儀」

「は、はい?」

 ぼんやりした顔で話を聞いていた祷子は、思わず自分を指さした。

「私ですか?」

「神代達の進路が決まったが、お前も針路が決定した。お前は今回の演習には参加しない」

「え?」

「ちょっ!?」

 さつきが真っ青になって立ち上がった。

「き、教官!?それってまさか!」

「落ち着け早瀬―――別に天儀がクビとか、そういうわけじゃない。天儀は他の候補生とは違う所に送る」

「精神病院?」

「聞こえているぞ和泉。これは軍機に抵触するため、本人のみに内容は告げることになる。天儀、あとで残れ」

「……はぁ」

 祷子は、どうにも理解できない。という顔で小首を傾げた。

「まぁ、天儀も頑張ってもらうとして、問題は他の全員の演習だ」

「あ……あの?」

 ようやく話が見えたらしい。さつきが恐る恐るという顔で手を挙げた。

「つまり、私達?」

広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムの使い方は明日から始める」

「妖魔焼却のためですか?」

「その通りだ。学校は、もし、何かの間違いで貴様等が生き延びた場合のみ、卒業を認める方針だ。貴様等の最大の目標である卒業のためにみっちり訓練してやるから楽しみにしていろ」

「……で」

 宗像が、まるで念を押すような口調で訊ねた。

「我々はメサイアに乗って、広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムで敵を焼き殺すだけ。対メサイア戦はないということですね?」

「その通りだ」

 二宮は頷いた。

「演習としては簡単な方だろう?」

「我々の搭乗騎は?」

「富士学校所属騎を回すから感謝するように」

「えっと?つまり」

「そうだ」

 二宮はニヤリと笑った。

「お前達の棺桶は“雛鎧すうがい”―――ヒヨコらしいものが与えられてよかったな」






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