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反戦運動家の末路

 どんなに反戦運動に理解を示しても、祖国の勝利を喜ばない程にアメリカ人は祖国を嫌ってはいなかった。

 それまで反戦一色だったメディアが戦争での勝利にわき上がる中、青くなったのは“戦争懐疑派”だった。

 目に見えて寄付の額が減ってきた。

 運営組織のスタッフの給与も遅配が続く。

 世論が次第に自分達から離れていくのがはっきりと肌身に感じられる。


 どうする?

 このままでいいのか?

  

 懐疑派の中で幾度となく会合が開かれ、“自分達の今後”を巡って議論が交わされたが、結果として懐疑派は分裂する。


 議会での政治闘争を目指す議会闘争派。

 穏健な反戦運動を継続すべきとする穏健派。

 武力に頼っても戦争を止めさせようとする急進派。


 それぞれが運動の主導権を握ろうと互いを相手に内部闘争を始めたのだ。

 まず、穏健派の集会が急進派によって襲撃され、学生ら25名が重軽傷を負った“サンタ・モニカ教会事件”。

 急進派幹部が大学校内で身内に射殺された“メロン大学事件”。

 政治クーデターを企てたとして捜査に動いた警察を相手に三日間籠城した挙げ句、ほぼ全員が自殺、もしくは身内に殺害された“ジロンド・パーク事件”


 これらは、その一例に過ぎない。


 彼らの活動は、単なる市民活動の域を出た時、つまりは政治活動化した時点で、役目を終えていたのかもしれない。


 彼らは、

 

 “この戦いはおかしくないか?”

 

 そう、世論に語りかけるだけの存在であり続けるべきだったのだ。




 “戦争懐疑派”は、各州で危険団体に認定されることで政治活動が規制されると、ほとんど自然消滅に近い形でその存在を失っていく。

 彼らに変わって戦争を巡る世論の中心に現れたのは、戦争支持派の中で最も急進派であり、最も強硬な態度をもった集団だった。

 南米の戦いは、人類の過ちを原因としない。

 魔族は悪魔である。

 悪魔との戦いは、神から与えられた試練である。

 故に、人類はこれに打ち勝つ必要がある。

 悪魔との闘争における勝利は、人類の義務である。

 そう主張する、行き過ぎた反戦運動に警戒感を持った保守主義者やキリスト教系政治活動家を中心に組織化された、俗に“聖戦派”と呼ばれる人々だ。


 “戦争は投資であり、慈善事業ではない”

 “家族を祖国に捧げるに相応しい対価を国家は用意すべきだ”


 彼らが戦争を支持する代わりに、アメリカ政府に強く要求したものがある。


 それが、戦争の見返りだ。


 戦争を支持する対価を祖国に寄越せ。


 彼らの主張は、“戦争懐疑派”同様に(方向は正反対だが)、単純であるが故に世論には受け入れられやすかった。 

 南米の戦況は、“害虫駆除”と揶揄される程、“楽”な状況だ。

 アメリカも世論もほっと一息ついた頃でもある。

 皆が、戦争が終わった未来を、ちょっとだけ希望を持って夢見る事が出来るようになった。そしてアメリカ政府も、やっと落ち着いて南米の今後を考えることが出来た。

 南米の亡命政府の連合組織である旧南米諸国派との合同会議の席上、アメリカは、はっきりとこの戦争に関してアメリカが負担した戦費に見合うだけの負担を各国亡命政府に求め始める。


 戦後の南米を巡る国際会議――ワシントン会議の開催だ。


 会議に難色どころか激発したのは、相手側だった。


 ―――我々、南米人は最早、何も持っていない!

 ―――アメリカ人は全てを持っている!

 ―――そのアメリカ人が、我々から何を奪うつもりか!


 驚いたのはアメリカ側だった。


 ―――南米は戦争の旨みだけを我々から奪うつもりか!

 ―――我々が求めているのは、状況に見合うだけの対価だ!

 ―――我々は、奉仕活動をしているのではないっ!


 認識の違い。


 そう呼べば簡単かもしれない。


 元から、アメリカなど先進国からの投資で成長してきた南米諸国は、金やモノは「もらうもの」であり、我々は「受け取る」側だという認識が強い。

 彼らは、戦争で祖国を失った今、我々は祖国の土地を始め、復興とその後の発展のため、先進国はより一層、多くの金とモノを、戦争中に受け取り損ねた分も含めて、我々に寄越す義務があると考えていた。


 当然、アメリカ側にはそんな意識はない。


 血の対価を求めて何が悪い。


 困惑するアメリカに、旧南米諸国派は傲然と言い放った。


 ―――祖国の解放が遅いのは、アメリカ政府の怠慢が原因であり、我々は、その被害者である。 

 

 冗談ではなく、本気で彼らはそう主張したのだ。

 それでも根気よく会合を続けたアメリカ政府の忍耐力には敬意を表すべきものがあるが、それでさえ、旧南米諸国派要人にとっては自分達が優位だと誤認させる要因でしかなかった。

 

 難民の兵役免除。

 アメリカ市民権の無条件付与。

 戦後における南米全政府の最恵国待遇の確約。

 戦後の復興と発展に必要な費用の全額負担。

 

 どこかで現実を見失った旧南米諸国派が、莫大な人的、経済的犠牲を負担して南米で戦うアメリカ政府に突きつけた主な要求は、そんなものだ。


 すべてが崩壊した南米の復興には、百年近いスパンでの復興政策が必要と考えるアメリカ政府に対して、あくまで復興を自分達の手柄にしたいと考える旧南米諸国派は、自分達がその復興の利権に預かることが出来るようにと、復興を数年から遅くても十年で完全に終了することを画策し、そのために必要な要求をまとめあげた。

 その内容の滅茶苦茶さは、これまでの経緯から察することが出来るだろう。

 特に、要求された復興費用の額は、文字通り天文学的金額であり、アメリカ一国が負担しきれるものではなかった。


 「この額を用意するには、アメリカ全部を売りに出す必要がある!」

 

 書類を一読したアメリカ財務長官は、そう叫ぶなり、その書類を二度と読むのを拒否したと言うが無理もないことだ。


 この旧南米諸国派による要求に、真っ向から激怒したのは“聖戦派”だった。


 「南米人は、戦争をただで乗り切った挙げ句、金までむしり取る図々しい連中だ」

 「戦争で血を流したのはアメリカ人であり、南米人ではなかった」

 「南米人こそ、アメリカ人に見返りをよこせ」


 莫大な戦費負担に耐え、苦しい生活を余儀なくされていたアメリカ世論がこの要求に激怒したのも当然視された。 

 その怒りの矛先にいたのは、旧南米諸国派を構成する特権階級とは完全に無縁な、無力な難民達だった。

 各地で南米人の難民キャンプが暴徒によって破壊された。

 苦難の末、アメリカでの生計をやっと確保出来た者が街角で襲撃された。

 犠牲になったのは少なからぬ数だ。

 ところが、難民の苦労など知るはずもない豪奢な生活を送る旧南米諸国派首脳は、そんなことに斟酌する必要もなかった。

 酒におぼれ、食に酔いしれ、高価なスーツに心砕くアメリカ上流階級顔負けの放漫な日々は、薄汚い難民となった同胞のことなどどうでもよいと考えるまで政府首脳部を腐らせていたのだ。


 「要求はあくまで要求」

 「アメリカは南米の未来に責任がある」


 餓死者まで出るほどに飢えに苦しむ難民に対して、高価なスーツに肥満を隠さぬ体格の首脳部は、マスコミにも常に強気に接し、世論の怒りに油を注ぎまくった。


 そしてついに、アメリカ大統領も議会もサジを投げる時が来る。


 彼らの放埒な生活を支える資金源はどこだ?


 メディアの一部が、その内実をすっぱ抜いたのだ。


 結果は、意外なモノだった。


 アメリカ国内の秘密工場での合成麻薬の密造と販売、そして、アメリカ政府からの援助として受け取った難民の生活支援費のピンハネだ。


 この報道を受け、旧南米諸国派が窮地に陥ったのは言うまでもない。


 密造工場は次々とFBIの摘発を受け、資金援助は停止。旧南米諸国派要人の口座は欧米各地の銀行で閉鎖された。

 アメリカ政府どころか、旧南米諸国の難民すら彼らを見捨てる日が来たのだ。


 ―――最早、南米には交渉に値する亡命政府が存在しない。 


 アメリカ議会は、全ての南米系亡命政府の承認取り消しを議決。併せて南米での最終作戦承認に際して、戦後の南米全土のアメリカ領編入を要求する決議も執り行い、すべて賛成多数で可決した。


 「以降、アメリカは旧南米諸国派に用事はない。南米は我々のものだ」

 大統領は、戦後の南米政策をそうまとめた。


 もう、旧南米諸国がどう騒ごうが問題にはされなかった。

 戦後、魔族が駆逐された南米は、戦争復興をうたう「サウス・ニュー・フロンティア」政策のかけ声の下、アメリカの大企業主導の復興と開発が推進されている。

 国境線はない。

 南米のすべてがアメリカのコロニー(植民地)となった。

 数十年をかけて自然に戻りつつあった南米の地にコロニーが造成されたのだ。

 多くの人々が新たなフロンティアで一旗揚げるべく南米に押し寄せ、農場や鉱山が賑わいを見せるようになった。 

 とはいえ、自分の祖国が植民地にされる屈辱は、祖国復興を純粋に願う人々にとって許されるべきものではなかった。


 これだけはどうしようもない。


 首脳部の腐敗と祖国復興の純粋な願いを同列に扱われた屈辱は、やがて旧南米人を先鋭化させる。

 大企業に雇用されるなどして、新たなアメリカの植民地になった祖国へおとなしく戻る者が大多数とはいえ、その一部は、難民時代から今日まで受け続けたアメリカでへの屈辱を、祖国復興という形で取り戻そうとする武装組織に参加。州軍や大企業の私兵とのゲリラ戦争を繰り返すようになったのだ。


 「アメリカは南米を人類の手に戻すことは出来たが、南米に安寧をもたらすことには失敗した」


 後の歴史家は、アメリカの南米への介入をそんな風に酷評しているが、おそらくはその通りだろう。


 宗像も、南米のどこかでコロニーが武装組織に襲撃されたというニュースを朝、新聞で見たばかりだった。




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