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模擬演習 第六話

「“マスター”!」

 “さくら”が言う。

「どうするの!?」

「やるしかないっ!」

 美奈代は口ではそういいつつ、自問した。


 どうやって?


 あんな器用な技をかけてくるヤツ相手にどうやる?


 装備は剣―――長刀2本と短刀4本、そして楯。

 MLは使用出来ないから―――


 美奈代は即座に雛鎧の武装を頭に思い浮かべた。


 ―――自分でも勝てそうな武装が、ない。


「祷子じゃないが、スペシウム光線くらい欲しいな」

「あれだって、殴ったり蹴ったりした後だよ?」

 “さくら”が言った。

「よく知っているな」

 ん?

 殴ったり、蹴ったり?

 ―――そうか。


 ガンッ


 美奈代は突然、剣を鞘に収めた。


「“マスター”!?」

「和泉候補生!?」

 “さくら”と牧野中尉がほぼ同時に驚きの声を上げた。

「戦闘放棄か?」

 後ろで教官が呆れたような、見下げたような声を上げた。

「それとも、本気でベッドの中に戦場を移す気か?」

「剣が必要ないだけです」

 美奈代は言った。

「剣では勝てませんが―――せめて五分まで!」

 美奈代は雛鎧のシールドだけを構えた。

「和泉」

 そんな美奈代に、教官は鋭く言った。

「戦いは、そんなに甘くないぞ?」


 無論、戦っているのは美奈代ばかりではない。

 この状況下で、第一分隊相手に五分以上に渡り合っているのは―――


 ギインッ!


「―――ちいっ!」

 鋭い舌打ちと同時に、宗像は騎を急速後退させた。

「あれをしのぐか!?」

 恩田騎には、数回に渡ってダメージを与えている。

 だが、その全てが致命的なダメージとはなっていない。

 打ち込み時の力加減がまるでわからない。

 おかげで、攻撃がどうしても中途半端になってしまうのだ。

「本気で潰し合いになるとは思えないが―――」

 目前の幻龍は、すでに肩部装甲を吹き飛ばされ、それでも剣の正眼に構えている。

「―――気に入らないな」

「宗像候補生っ!」

 MCメサイアコントローラーの当麻中尉からだ。

「間合いを正確にとってください。突っ込みすぎです!打ち込みが負けてます!」

「了解!」

 汗ばむ手でコントロールユニットを握りしめた宗像の目前で、早瀬騎が突入した。

「早瀬っ!」 


「このぉぉぉぉっ!」

 さつきは一気に恩田騎に襲いかかった。

 先程の攻撃で、楯はすでに吹き飛ばされている。

 防御が装甲しかない。

 それがむしろさつきをふっきれさせていた。

 シールドマウントが破損した左腕で槍を掴み、飛びかかりざまの一撃。


 それがようやく恩田騎に命中した。


「やった!」


 ドギィィィィ!!


 コントロールユニット越しに伝わる衝撃に、さつきは歓声をあげた。

「致命傷じゃありませんっ!」

 MCの武藤中尉からの警告より早く、さつきは動いた。

 恩田騎からの足を狙った一撃。

 それを地面に槍を突き立てることで凌いださつきは、返す刀でを恩田騎に槍を突き立てた。

 左肩に深くめり込んだ槍。

 恩田騎が大きくバランスを崩し、よろめいた。

「まだかっ!」

 ガインッ!

 体がとっさに動き、シールドのエッジが恩田騎に叩き付けられた。

 恩田騎はそのまま横倒しになり、ぴくりとも動かない。


「宗像っ!」

 さつきが宗像の助太刀を求め、わずかに視線を恩田騎からそらした瞬間。



 ビーッ!


 鋭い警告音がコクピットに響き渡った。


 敵、接近の警告音。


「―――えっ?」


 それはわずか数秒にも満たないわずかな時間。


 ほんの一瞬といえる出来事。


 それなのに―――


「しまった!」

 数は向こうの方が上。

 一騎にこだわっていると、他の騎に襲われる!

 それを完全に忘れていたさつきは、側面から迫り来るモニター一杯に映し出される敵騎の姿を、呆然と見つめるしかなかった。



「早瀬っ!」

 早瀬騎が東騎のショルダーアタックに突き飛ばされた。

 ショルダーアタックは模擬戦でも最大レベルのダメージを与える危険な技だ。

 ―――教官が何とかしてくれるだろう。これが模擬戦でよかった。

 宗像は舌打ちしつつ、どこかでその言葉、模擬戦という言葉に甘えている自分に気づいた。

 確かに模擬戦だ。

 だが、第一分隊がそれで手加減してくれるほど甘くないことは、経験が実証済みだ。

 勝てる自信はないが、それでもやれないことはない。

 宗像の中で、何かがそう囁いていた。


 対峙する敵は、あの恩田だ。


「レズの分際でっ!女の分際でぇっ!」

 恩田は警告音が鳴り響くコクピットで顔を真っ赤にして怒鳴った。

「この俺に、どこまで恥をかかせるつもりだぁっ!」

 迫り来る宗像騎。

 恩田騎は逆襲に出た。

 宗像の初手を下に構えた剣でうち払い、振り下ろして勝敗を決めてやるっ!

 ガンッ!

 互いのパワーに任せた一撃がぶつかり合い、あとは力押しだ。

 ギギギギキッ!

 あちこちの関節から悲鳴が上がる。

「パワーは五分なんだよ!」

 恩田は口元を歪に歪めながら思った。

 後はパワーで押し切ればいい。


 一方、

「バカめっ!」

 宗像騎のブースターが光り、宗像騎は斜め後ろへ急速後退をかけた。

 力の押し合う相手が突然いなくなった恩田騎が前につんのめった後、すぐに宗像騎に迫る。

「お見通しだ!」

 宗像は突っ込んでくる恩田騎に完全に合わせて動いた。

 ブースターの加速にまかせて接近する恩田騎が上段から振り下ろした一撃を宗像は、ブースター操作だけで難なくかわし、体を入れ替える要領で、恩田騎の背後に回った。

「しまった!」

 焦る恩田が反転するより早く―――

「ふんっ!」

 宗像は恩田騎を突き飛ばし、騎体を急旋回させた。


 ガンッ!


 急旋回で回した雛鎧の左脚部が幻龍の頭部に命中し、頭部装甲がパーツをまき散らしながら吹き飛ぶ。

「回し蹴りだと!?」

 後席の教官が驚きの声を上げたのを無視した宗像は、即座に恩田騎に斬りかかった。

 人間同士なら脳しんとうの一つも引き起こしているだろうが、相手はメサイアだ。

 装甲が少し吹き飛んだ程度でどうこうなる相手ではない。




 地面に背から落ちた恩田騎は、ぴくりとも動かない。


 宗像は、その恩田騎に止めを刺すべく、剣を構えた。


 ブンッ!


 先に動いたのは、恩田騎だ。


 突然起きあがった恩田騎の横薙ぎの一撃は、胸部を押さえつけるために上げられた宗像騎の右脚部を切断。左脚部に半ばめり込む形で止まった。


「―――しまっ!」

 宗像はバランスを崩して倒れる騎の中で、剣を逆手に持ち直すべくコントロールユニットを操作した。

 モニターに、急接近してくる“幻龍げんりゅう”がズームで映し出されるのを、宗像は祈るような気持ちで睨み付けた。



「こいつらっ!」

 実際、第一分隊の3騎のうち、もっとも苦戦を強いられたのは、東候補生が駆るA騎だ。

 東が接触した3騎―――神城三姉妹騎は、完全に相手を翻弄していた。

 東は、時間と共に焦りすら感じていた。

 問題は、3騎の連携攻撃。

 1騎が引くと見せかけて、他の2騎が動く。

 かと思えば、3騎同時に撃ちかかってくる。

「こんな連携プレー、教本にもないぞ!?」


「双葉!行けるよ!」

 東騎を狙い通りの場所に追いつめた一葉が言った。

「ここなら!」

『うんっ!』

『お姉!やっちゃおう!』

 双葉・光葉共に損傷は軽微。

 対する敵は、関節各部の発熱が激しい。

 自分達が敵を追いつめているのは間違いない。

 何より、敵をここまで追いつめた。


 そこは山の切り立った斜面。


 東騎は後退が出来ない。


 そこまで追いつめたのだ。


 後は―――


「奥の手、いくよ!」

 一葉の号令で、3騎の雛鎧は一斉に東騎へ襲いかかった。


「ばかなっ!」

 東だけでなく、後席にいた教官までもが、思わずそう怒鳴った。

 3騎同時に襲撃する戦法は山ほどあるが、これは初めてだった。

 それは、3騎の機動。

 完全にシンクロしているとしか思えないほど、一糸乱れぬ連携攻撃。

 熟練の騎士を3人集めてもこうはなるまい。

 それを、初めてメサイアに乗った三人の騎士がやってのけている?

 そんな馬鹿な!

 東が応戦するより早く、3騎の剣の切っ先は、エモノを捕らえていた。




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