第七十六話 打ち上げ
ライブ終わりはみんなで打ち上げをした。
楽屋には豪華なご馳走が並び、お酒やジュースが置いてある。
私達が復活ライブをしている間にスタッフが用意したものだ。
「おつかれー」
「カツカレー」
「キャハハハ」
私達はくだらないギャグを言いながらお互いを労う。
「復活ライブよかったね」
「思っていた以上に盛り上がったからね」
「やっぱり練習して来たかいがあったわ」
復活ライブがうまくできたのも日々のレッスンのおかげだ。
この日のために汗水流して来たかいが十分にあった。
私がスキャンダルを起こした時はヒヤヒヤしたが乗り越えられた。
これでスキャンダルの余波は消えて下火になるだろう。
「お疲れさま」
「マネージャー」
「ライブ、よかったわよ」
「「ありがとうございます」」
「全てはこれからよ。この先でvoiceの真価が問われるわ」
「「はい」」
「あなた達がどれだけ頑張れるかで人気もアップダウンするでしょう」
「「はい」」
「だから、あなた達はトップ街道を走りなさい」
「「はい」」
マネージャーに認めてもらえたことが本当に嬉しかった。
誰よりも厳しくて、誰よりもvoiceのことを考えてくれている。
私がスキャンダルを起こした時もマネージャーがいたから乗り越えられた。
だから、マネージャーは私達voiceには欠かせない人物なのだ。
「じゃあ、乾杯するからみんなグラスを持って」
マネージャーが声をかけるとスタッフ達は個々にグラスを持つ。
私達はお酒が飲めないのでコップにジュースを注いだ。
「今回の復活ライブの成功はみんなの働きがあったからよ。Voiceのメンバーはもちろんのことバックで支えていたスタッフの協力がなければなせなかったわ。この成功はみんなで勝ち取ったものよ。これを契機にvoiceは増々躍進して行くわ。そのためにもみんなで力を合わせて乗り越えて行きましょう。乾杯」
「「乾杯」」
マネージャーの挨拶が終わると私達はグラスを合わせて乾杯した。
大人達はビールを煽って美味しい吐息をこぼしている。
その様子を見ているとビールがいかに美味しい飲み物なのか伝わって来る。
だから、大人になったらビールを試してみようと思った。
「ぷはーっ」
「まとい、ジュースなのにそんなことしないでよ」
「おじさんだな」
「気分だけでも味わいたくて」
私はジュースを煽って大人達の真似をしてみた。
だけど、ジュースはいつもの味しかしなかった。
「このから揚げ美味しそう」
「食べてみたら」
「美味しい」
「どれ……外がカリカリで中がジューシーだね」
「きっと手間をかけたのだろう」
料理のことはわからないがから揚げはお店レベルの美味しさだった。
「あとで見繕って弟達のお土産にしよう」
「そうだね。これだけあれば残るしね」
「なら、私もお土産にしようかな」
ここなとるかは待ってくれている人がいるのでお土産を持って帰れる。
だけど、私の場合は誰も待ってくれてないから必要はない。
マネージャーはここにいるしお土産を持って帰っても意味はないのだ。
すると、急に楽屋の灯かりが消えて真っ暗になる。
しばらくすると、スタッフが巨大なケーキを運んで来た。
「今回の復活ライブの成功を気に用意したんだ。みんなでろうそくの火を消してくれ」
「すごい」
「感激です」
「誕生日みたいね」
ケーキは四角くてデコレーションが施されてある。
その上にチョコレートでvoice祝と描かれれあった。
私達はケーキの上に並べられたろうそくの灯かりを消して行く。
そして全て消し終わるとスタッフがクラッカーを鳴らした。
「「おめでとうー!」」
「ありがとうごさいます」
「何だか照れるな」
「もっと自信を持っていいと思うよ」
スタッフの温かい言葉に私達の心もほっこりした。
「ここな、ケーキを切り分けて」
「わかった」
ここなはちょっと大きめのナイフでケーキをちょうどいいサイズに切り分ける。
それをそれぞれのお皿に乗せて私達に渡した。
「うわぁ、中にフルーツが入っている」
「イチゴやミカン、マスカットまであるわ」
「すごく美味しそう」
ケーキのスポンジの間にたっぷりクリームが挟んである。
その中にゴロリとした大きなフルーツの塊が入っている。
ケーキの断面だけを見ていても幸せな気持になる。
きっと食べたらすごく美味しいのだろう。
私はたまらずにケーキに貪りついていた。
「うぅーほんのり甘くて美味しい」
「フルーツの酸味とクリームの甘さが絡み合って口の中が幸せ」
「フルーツが大きいから食べごたえもあるわ」
私達は心行くまでフルーツケーキを堪能した。
そんな楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまう。
気がつくと時計の針は20時を指していた。
「これで打ち上げを終了にする。未成年はすみやかに家に帰りなさい。残りの人は2次会へ行くわよ」
「いいなー2次会。私も行きたい」
「私達、未成年だからダメだよ」
「大人達ばかり楽しい思いをしてズルいわ。私達が主役なのに」
「仕方ないじゃない。未成年なんだし」
2次会と言えばカラオケや居酒屋が定番だ。
羽目を外してみんなで盛り上がって楽しむ。
酔い潰れた人はそこで終わりだが3次会に行く人もいる。
とかく大人たちは楽しくお酒が飲めたら何でもいいのだ。
「ノンアルコールじゃだめなの」
「ダメよ。あれも一応お酒なんだし」
「諦めな、まとい」
「ヤダヤダヤダー」
せっかくいい気分なのにここで終わりだなんて悲し過ぎる。
私達も2次会に参加してカラオケで盛り上がりたかった。
久しぶりに羽目を外して楽しめるのだから貴重だ。
「まとい、だだを捏ねないで」
「そうだ!私達だけで2次会をしよう」
「ダメよ。もう20時を過ぎているんだから」
未成年と言うだけで時間制限があるなんて大問題だ。
もう、女子高生なのだから物事の分別はできる。
それなのに子ども扱いされるのは心外だ。
「から揚げとケーキとローストビーフと」
「私はお寿司にしておくよ」
「いいな~、2人とも。待ってくれている人がいて」
私はマネージャーの家に帰るだけだから誰も待っていない。
それにお土産を持って帰ってもマネージャーと食べるだけだから何の味気もない。
こんなにも家族がいることが嬉しいことだなんて初めて知った。
「これでよしっと」
「それじゃあ、帰ろうか」
「あ~ぁ、つまんない」
私はひとりふて腐れながらここな達の後をついて行った。
夜のさいたまスーパーアリーナはまだライブの余韻が残っていた。
ライブを観れたファンもライブを観れなかったファンも集まって騒いでいる。
このまま楽しいことが終わってしまうことが悲しいから盛り上がっているのだろう。
私達はアリーナの裏口から出てファンに見つからないように帰って行った。
「帰りは送迎がないのね」
「仕方ないじゃん。みんな2次会へ行っちゃったもん」
「タクシーぐらい用意してもらいたかったわ」
「まあたまにはいいんじゃない。みんなで夜の街を歩くのも」
夜の街はすっかりクリスマス一緒に染まってる。
街路樹にはイルミネーションがきらめき、街行く人はサンタの格好をしている。
クリスマスのおかげでいつもは見られない光景が広がっていた。
「あっ、これカワイイ」
「なになに」
「”ちぃかま”のクリスマスバージョンじゃん」
ファンシーショップのショーウインドウを覗くとサンタの格好をした”ちぃかま”が並んでいた。
”ちぃかま”がトナカイの格好をしていて”なるとくん”がサンタの格好をしている。
そして”ちぃかま”がそりを引いて”なるとくん”がプレゼントを配る係だ。
「これほしいな」
「私は買うわ。”ちぃかま”グッズを集めているし」
「私はやめとく。家族のプレゼントを買わないといけないからね」
「それなら私もやめておこうかな。弟と妹のプレゼント買わないといけないから」
と言うことで私だけが”ちぃかま”のクリスマスバージョンを手に入れた。
これでコレクションが増えたからまたお部屋も賑わうことだろう。
ただ、ほとんどの”ちぃかま”グッズは和斗の家に置きっぱなしだ。
今度、暇を見て取に戻ろうかと思っている。
「それじゃあ、私こっちだから」
「またね、るか」
「またね」
私達は駅前でるかと別れて最寄りの駅に入っていた。
「まとい」
「なに」
「これから頑張ろうね」
「うん」
「私達ならプロになれるから」
「アイドル活動だけじゃなく声優活動にも力を入れよう」
それが一番の目標だ。
もう、スキャンダルなんか起こさない。
あんな辛い思いをするのは今回限りにしたい。
これからプロになるためにもそうしないといけないのだ。
「それじゃあ、まとい。またね」
「うん。弟さんと妹さんによろしくね」
家の方向が逆なのでここなとホームで別れる。
向かいのホームなので荷物を持ったここなが見えた。
すると、ここなのホームに電車が入って来る。
「兄妹がいるっていいな」
私はひとりっ子だから兄妹がいる楽しさを知らない。
いつもひとりで遊んでいたからスマホゲームが中心だ。
みんなでトランプをやったりボードゲームをしたらさぞかし楽しかったことだろう。
「タクとツヨシに会いに行こうかな」
スキャンダル以来、和斗のアパートには近寄っていない。
アンチが潜んでいるだろうから行けなかったのだ。
もう、時間も経っているしアンチもいなくなっているだろう。
「けど、邪魔になるかな」
せっかく親子水入らずでクリスマスをしているに迷惑になるかもしれない。
きっとおキヨさんのことだから尋ねて行けば歓迎してはくれるだろう。
だけど、邪魔をするのも嫌だからおキヨさんの家を尋ねるのはやめた。
私はそのまま電車に乗って最寄りの駅まで移動した。
「はぁー、ここに来ると気が重くなるのよね」
マネージャーの家に帰るから余計に気が重くなる。
半ば監禁されているかのような生活をしていたからだ。
ただ、今は自由ができて以前のような思いはしていない。
だけど、最悪だった頃の印象が強いので沈むのだ。
「ちょっと寄り道して行こうかな」
私は繁華街を歩いてクリスマスの様子を見て回った。
街の装いはどこもいっしょだ。
街路樹はイルミネーションで飾られて、街のあちこちにクリスマスリーフが飾られてある。
街行く人もサンタとトナカイの格好をして足早に家路に急いでいる。
きっと家に帰ってからみんなでクリスマスを楽しむのだろう。
一方でカップル達は寄り添い合いながらブラブラと街を歩いている。
彼氏の方はすっかりその気になっていてスケベ面を浮かべている。
恐らくこの後でラブホに向かって二人でよからぬことを楽しむのだ。
「何だか虚しくなって来たわ」
クリぼっちに加えてシングルベルだなんて悲し過ぎる。
せめてクリスマスを祝ってくれる家族がいれば救われただろう。
だけど、今はマネージャーと二人ぐらしなので楽しめない。
マネージャーはクリスマスを楽しむようなタイプじゃないからだ。
今日は2次会に行っているから帰るのは明日の朝になるはずだ。
「帰ろっと」
私は回れ右をして来た道を戻ろうとした。
その時、3人組の男達に道を塞がれる。
「か~のじょ。ひとり?」
「だったら悪い」
「よかったよかった。俺達も飲み相手を探していたんだ」
「私、未成年よ」
「だからいいんじゃないか。今日は羽目を外して朝まで飲もう」
「付き合ってやりたいけど私帰るから」
「そんな切ないこと言わないでよ。ちょっとだけだから」
3人組の男達は周りを取り囲んで私が逃げられないようにする。
「警察を呼ぶわよ」
「おぉ、こわ」
「けど、粋がいい方が萌えるんだよな」
「本気よ」
私はスマホを取り出して警察に連絡を入れようとすると止められた。
「ちょっと離してよ」
「警察を呼ばれるとこっちも困るんだよ」
「おイタはしちゃいけません」
「「ギャハハハ」」
男達は私を子ども扱いしてバカにして来る。
その態度にムカついたので私は男の足を踏みつけた。
「イタッ。何するんだよ、この女」
「捕まえろ」
「ちょっと離してよ」
「口を押さえろ」
「んー、んー」
二人の男が私の両腕を掴んでもうひとりの男が私の口を押えた。
「裏路地に連れ込むぞ」
「んー、んー」
私は何の抵抗もできずに男達に裏路地に連れ込まれてしまう。
そして壁に押しつけられると男達が私の服を脱がしはじめた。
「んー、んー」
男達は腹をすかせたハイエナのように私の体に貪りつく。
服の上から胸を揉んでスカートの中に手を入れて来た。
「ここでやっちまおう」
「ぱんつを脱がせろ」
「んー、んー」
男のひとりが私のスカートの中に手を入れてぱんつを脱がせようとした。
その時に男達の背後に大きな影が浮かび上がって声をかけて来た。
「お前達、そこで何をしている」
「あっ、シオンさん」
「おい、手を離すんじゃねぇ」
「ぶはっ、助けて。犯される」
男のひとりが私の口から手を離したので私は助けを求めた。
「どう言うことだ」
「えっ、こ、これには理由がありまして」
「どう言う理由だ」
「そ、それは……」
シオンの問いに男は返す言葉を失う。
そもそも私を犯す理由などないからだ。
「お前達、街のルールは知っているよな」
「も、もちろんです」
「だったら行け」
「は、はい。すみませんでした」
二人の男たちは逃げるようにその場から立ち去る。
ただ、夢中になっている男はまだ私を捕まえていた。
「おい、何をやっているんだよ。獲物が逃げるだろう」
「おい」
「うるせーな。今、いいところなんだよ」
「おい」
「邪魔をするんじゃねぇっ……ってシオンさん」
「その手を離せ」
シオンに凄まれて夢中になっていた男は手を離す。
おかげで私は解放されてようやく自由を手に入れた。
「さよならーっ!」
夢中になっていた男の顔が青くなると血相を変えて逃げて行った。
「大丈夫だったか?」
「おかげさまで」
「ぱんつ、下がっているぞ」
「はっ」
シオンに指摘されて下を見るとぱんつが膝のところまで下がっていた。
すると、急に顔が熱くなってしまい慌ててぱんつをズリ上げた。
「前にもこんなことあったな」
「あの時もシオンが助けてくれたよね」
「この街の秩序を守るのは俺の仕事だからな」
「おかげで助かったよ」
シオンは鋭い目つきを和らげて優しい眼差しで私を見つめる。
その目はまるで妹を想うような温かな視線だった。
「だけど、このところ輩を増やしているけどな」
「仕方ないんじゃない。シオンひとりだけじゃ無理だよ」
「自警団を作った方がいいのかもな」
「それがいい。シオンならできるよ」
街の治安を守る正義の味方だなんてまるでヒーローみたいだ。
いつもピンチの時は助けてくれるシオンだからできることだろう。
「駅まで送るよ」
「まだ帰りたくない」
「もう21時を回っているんだぞ」
「今日はクリスマスよ」
「……わかったよ。ついて来い」
シオンはしぶしぶ納得してくれて私を秘密の場所へ案内した。




