第六話 盗賊団は宝箱と誰かが言っていた気がする
「半裸モブ魔族……というより、これほぼ全裸だよな」
誰もいないのに呟いてしまうほどに、この状況が辛すぎる。分身の術によりピンチを脱した代償として、服が半分になるとか、これギャグ表現になってしまってるのだが。
実際にリアルで体験すると、ただただ恥ずかしくて、情けなくなるんだな。
ピンチから脱したと言えど、まだ森の中である為、幸いなことに人に出会う心配がないのが救いだが、とりあえず敗れた服でふんどしもどきと腰巻き的なものになったから、最低限の尊厳は守られていると信じたい。
「さてと……これから俺は何をしたら良いのだろうか?」
災厄の女神と名乗っていたお姉さんによって、俺の魂を自作小説の世界に転生させられた……らしいのだけれど、この辺りの地理的知識とかも含めて全く記憶らしいものがないんだが?
普通、転生モノってなったら〝前世の記憶が!?〟とかいう感じに、この世界の知識とか持っている上に、前世の記憶を活かした活躍とかではなかろうか?
俺にこの世界の記憶、つまりはこの肉体が持つ記憶とか全くないのだけれど、これはアレか? いわゆるスペシャルハードモード系転生だというのか?
「作者として設定した世界観、知識で勝負しろと?」
確かに俺は、作品を書き始める前は結構設定を考える。
だけどもさ、あれよ? そう言う設定ってさ、大概はパソコンとかノートとかにメモるじゃん? で、今はそれが見れない訳よ。結構、書いてた訳だけどもさ。
覚えていると思う?
作者だからって、全部の設定記憶してると思うなよぉおおおおおおお!!! あぁああぁあああああ!!!
閑話休題。
「はぁはぁ……ふぅ……良し、先ずは魔族の街を目指すことにするか」
ひとしきり駄々をこねるように理不尽に対する怒りを、その辺の木々にぶつけまくったおかげで、少し気が晴れたのはよかった。発散することは、大事である。
そのおかげで、主人公の覚醒イベントだったさっきの砦は、隠し砦という設定だったことは何とか思い出した結果、ここが魔族に対立する国の領地の中であること、魔族が砦に来るために使用していた短距離型転移魔法陣が主人公に砦を落とされた際に、自戒していることに気付いてしまった。
そう、気付いてしまったのだ。要は、魔族領に転移魔法で帰れないということだ。
「モブ魔族としては、これ……詰んでるよな?」
人族側に紛れようにも、額の角が邪魔であるし、そもそも破れた服で股間を隠すだけの男など、変態以外の何者でもない。
「だがしかし、慌てることはない。裏設定を活用すれば、危機を脱することが可能なはずだ」
小説執筆の楽しみの一つが、裏設定である。
小説中で明言する訳もなく、とくにその設定がなくても基本的には問題がない部分の設定を考えるのは、とても楽しい。
実は、そっちの方がノリノリでメモ書きとかしていたので、表の設定よりも覚えていたりするのだ。
「〝変化〟【蝙蝠擬き】」
確か隠し砦の周辺には、山賊の根城がいくつかあって、行商を度々おそう街道があるみたいなことを書いていた記憶がある。
何故かって? そりゃ勿論、異世界転生人と山賊の戦闘は、ある種のレベル上げみたいなもので、定番といえば定番だからね。
書き始めた頃って言うのは、やっぱり異世界ファンタジーのお約束は、自分でも書いてみたいじゃないか!
堂々と蝙蝠に変化した状態で、破壊された砦の周囲を探っているのは、理由がある。魔族の砦に設置されていた転移魔法陣が自戒した際に、主人公やラスボスキャラを含むその場にいた全員を、無作為に強制転移させた筈だからだ。
え? 何故、現場にいないのに知っているかって? それは、俺がそう書いたからだよ! ぬははははは! 書いたんだよって何なんだよ!? 何でこんなことになってんだよぉおおおお!!!
閑話休題。
「キキィ」
一見すると単なる蝙蝠に見える今の俺の姿は、実は魔物の一種なのである。蝙蝠に擬態している魔物で、音波のようなものを広範囲に発することが出来る能力を持ち、攻撃力が低い代わりに、魔物の中でもトップレベルの索敵能力を持つ、という本編にも登場させていないような裏設定能力の力で、俺は上空から周辺の探索を行った。
その結果、思った通りに洞窟にしては不自然な数の人がいることが分かった。
「キキキ キィ キキ」
首都圏近郊で活動する盗賊団として設定した〝金欲の小鬼〟は、元は三十人規模の窃盗団なのだが、今では十人ほどに減っている。これは、魔族の隠し砦を窃盗団の斥候が見つけ、魔族とは知らずにちょっかいをかけてしまった結果、逆に狩られてしまったのだ。
「さてと、場所は分かった。あとは、どう金やら何やら奪うかだが……」
この世界にもファンタジーの定番魔導具であるマジックバックは、ちゃんと存在している。だが、そんなものはモブ魔族の俺が初期装備として持っていることはない。
変化から元の姿に戻った俺は、とりあえず盗賊団のアジトから、持ちきれないであろう金や物資を盗み出す算段を考える為に、ある事を確認した後で行動を起こしたのだった。
その方法とは……
「急に霧が出てきたな……オイ、警戒しろ」
「あぁ、分かってる。この時間にしては、怪しいな」
流石、警備が厳しい首都近郊で名前有りの盗賊団の見張りだな。突然、アジトが濃い霧に見舞われれば、怪しいと思うよな。つい最近、盗賊団自体が襲われ、団員の多くが命を奪われたのなら尚更に警戒心も高まっているのだろう。
だが、一分後には何も彼らの身に起きずにこの霧は消え去る。
そして、再び森の中に居る俺の足元には、金銀銅貨が詰まった宝箱が数箱と、上等な生地で仕立てられた服と見るからに怪しげなオーラを纏う太刀が、地面に転がっていたのだった。




