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第五話 ニンニンドロン

「動くな。私は貴殿と戦いに来たのではない」


 本当です。


「自身の砦の背後から、人目に付かずに潜入しようとしていた俺に対して、そっちの戦う意思がないだと? 面白くもない冗談だな! ハッッッ!」


 背後をとっている俺に対して、たじろぐことなく振り向きざまに斬撃を飛ばすとか、バトル漫画かよ!


「〝霧化〟」


「これは……さっきのも、これで避けたってことか。魔族っては、完全に人じゃないってのは、本当らしいな」


 そうなんです、ハーフヴァンパイアなのです。だからもう一回、今度はしっかりと戦線離脱させてもらう!


「だが、勇者たる俺様に、二度も同じ手が通じると思うなよ」


 こちとら霧化三秒ルールなので〝そのドヤ顔で決めた台詞に対して、リアルでそれ言う人いるんだぁ〟とかリアクションとってあげられらないんだから! 


「聖剣よ 我が力となりて 勇ましき者の眼となれ 〝千里眼〟」


 うわぁ、片目を掌で隠した状態で、痛い詠唱唱えちゃってるよ。かっこいいと思って、台詞書いてたけど、リアルで聞くと痛く見えちゃうのはご愛嬌かな。


 霧化している時の視界は、霧が広がっている範囲全てとなるのはありがたい。これなら〝変化(へんげ)〟する直前まで、こいつの言動を確認出来るからな。


 俺はこの時、元の世界ではあり得ない力を手に入れて、その能力に酔っていたのだと思う。そして、自分が創りだしたキャラ達に対して、どこか現実味を欠いていたのだろう。


 文章で記した世界は、今や現実となって自分に襲いかかる。この時のことは、今後の自分を考える上で転機になったと言わざる負えない。


 何故なら、生まれて初めて刃物で斬られるという、絶対に経験したくないことが起きてしまったからだ。


「が……嘘……だろ……」


 霧化の境界線で実体化した瞬間、背中が酷い痛みと共に熱く感じた。ついさっきまで、平穏な高校生活を送っていた俺が、この感覚が〝斬られた〟ことによるものだと理解するのに、時間を要したのは仕方のないことだと思う。


 しかし、これは非常に不味い。既に斬られてしまったという事実は、時を止めたとしても代わりはしないだろう。過去に戻れる訳ではないのだから。


「くそ……死にたくねぇ……」


 長期連載の弊害が、こういう時に出るんだな。まじで、この序盤でのキャラの能力設定とか覚えてないぞ。大体、序盤の能力って、後半とかに使うこと少なくない? なんだかんだと二年は毎日投稿してた訳で、序盤の敵になるキャラの能力設定とか、忘れたわ!


 唯一の幸運材料は、最終的なラスボスだとしても、この序盤は未だ異世界転移してきて日も浅い為、一撃の威力が俺を即死させるほどではなかったことだ。確か序盤は、割と能力に溺れるタイプで、今回の主人公の覚醒を目の当たりにして、自らを鍛える重要さを理解したんだよな。


「〝変……化〟」


 もはや木にもたれかかってないと、身体を支えることすら出来ない状態だが、幸いにして追撃は来ていない。奴の設定上の性格上、弄ぶことはしない筈だ。おそらくは、俺を攻撃した力が、割と消耗が大きいのだろう。その辺りのバランスは考えて、当初は(・・・)俺も能力設定したからな。


 さて、俺が生まれて初めて刃物で斬られたわりに、今は心に余裕があるように見えるかというと、何に〝変化(へんげ)〟したかがポイントである。


 この世界が、本当に俺の小説が舞台となっているということであれば、モンスターも|俺が考えた筈である。もちろん、ファンタジー定番モンスターはいるのだが、その他にも俺が考えたモンスターも多い。


 そして〝変化(へんげ)〟の制約は、拳ひとつの大きさと効果時間三分ということのみである。


「ニンニン」


 くくく、素晴らしい。この艶、この弾力、この鳴き声、全てがパーフェクトに可愛らしい! このニンジャスライムこそ、至高のモンスター!


 あ、見た目はどうなっているかと言うと、拳ほどのビッグサイズのグミだね。ただし、通常状態であれば、そのお菓子のグミのような身体の表面に、デフォルメされた忍者装束がデザインされているのだ!


 ニンジャスライムは下忍から始まり、種族進化すると中忍、上忍となるのだが、俺が変化できるのは下忍だけだった。だが、それでも全く構わない。


 何故、このニンジャスライム改めゲニンスライムに変化(へんげ)したかと言うと、スライム族には共通の特徴があり、その一つが〝痛覚がない〟ということである。その為、スライムに変化した瞬間から、先程の燃えるような痛みと熱さが感覚から消え失せた。


 このおかげで、思考がクリアになった。


 ただし、傷は残っており消えてくれたわけではない。そこでもう一つがが〝分裂〟である。しかし、ニンジャスライム以外のスライム種では、種族進化をしていない最下級スライムは、その能力は獲得していない。


 しかし、ニンジャスライムのみ最下級である下忍スライムだとしても〝分身〟を自身の体から作り出すことができる上に、その分身に傷を移す(・・・・)ことが出来るのだ。


ニンニン(分身)!」


 拳一つほどの大きさだった身体が、半分ほどになってしまったが、負っていた傷を写した分身を作り出すことができた。そして、ここからが下忍スライムの真骨頂!


ニンニン(水月の術)! ニン(からの)ニンニン(隠遁の術)!」


 傷を写した分身を囮として、相手の注意を向けさせ、その隙に隠遁の術で気配を消して逃げ出すのだ!


 下級モンスターである下忍スライムが、こんな力を持っているのは、下忍は何よりも先ず情報を本体に持って帰るという役割を持っている、という設定で考えたモンスターだから逃げだす力は、並のモンスターより高い設定なのだ! 


 最初からネズミではなく、ニンジャスライムに変化すればよかったじゃないかって?


 ごめんねぇえ! ここまで追い込まれて、やっとモンスターの設定とか思い出したんですぅうう! 


ニンニンドロン(戦術的撤退)!」


 俺の囮が向かった方向から、何が起きたか分からないが爆音が聞こえてきたことから、しっかり俺の囮に釣られたのだろう。


 こうして俺は、とりあえずこの場から逃げ出すことに成功したのだった。


 と、思っていたこともありました。


「分身すると着ていた服も、半分になるってどう言う仕様なの? ねぇ? 右半分裸で左半分だけ服着てるってさぁ……誰だこんなスキル設定にしたやつ! 俺だよぉおおおお!!!! もういやぁああああ!!!!」


 こうして危機から脱した代償として、俺は半裸変態モブ魔族にクラスチェンジしたのだった。


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