第三話 ご都合主義とは一体
「大丈夫だよね!? 信じてるぞぉおお! モブ雑魚魔族の俺ぇええええ!」
窓から飛び出した俺の目が確認したことといえば、想像していた以上に地面が遠かったと言うことだった。
こんな高い階の窓から飛び降りるなんて、普通だったら絶対にしないけれども、何故か今の身体であれば、無事に済むと確信めいた何かを感じた。だからこそ、思い切り良く飛び出した訳だ。
本来の俺の感覚的には五段ぐらいの階段から、勢いよく走って飛び降りる感覚だったからこそ、今の背中の悪寒の原因は、着地を心配しているなどでは決して無いことを、この魔族の身体によるものなのか、生存本能が警告を発しているのだろう。
間違いなくそれは、この視界に入っている青年から発せられる不気味な気配が、俺にそう感じさせているのだろう。
城議 鬼三夏は、俺が小説サイトに投稿していた自作小説のラスボスとなるイケメン高校生だ。主人公のクラスメートであり、女神を騙る厄神から〝勇者〟のジョブを授かった男である。
すなわち、厄神が己の快楽を満足させる役回りをすると判断して〝偽りの勇者〟のジョブを与えるほど、彼の本性は外道である。
という設定を、俺が考えて創った訳である。
主人公が敵の城の真正面から殴り込みに来ているのも、城議 鬼三夏が主人公を騙した結果であり、そして主人公を魔族への囮役として、ヒロインは自分が裏からコッソリ助けに来たわけである。
まさに外道であるが、勿論それを書いたのは俺なのである。
「これは自業自得って言うのかなぁあ!!!???」
あ……鬼三夏が。俺を見据えながら剣の柄に手をかけて、居合の構えをとったね。これは、アレだ。勇者の称号を得る程のキャラであれば、使えて当たり前の剣技。
「飛ぶ斬撃は浪漫だけども!? 斬られるほうの気持ちは体験したくないぃいい!!!」
居合い抜きのモーションと共に、分かりやすいエフェクトを纏いながら、城議鬼三夏から俺に向かって、浪漫斬撃が放たれた。
目算で大体五十メートルくらい離れていると思われるが、俺に斬撃が届くまで一秒あるかないかだろう。では何故、俺が悠長にこんな事を考えられているか。
これこそが、俺がこの世界に強制的に転移された際に、得体の知れないお姉さんから与えられた能力【文字を書く者】である。
である、とかドヤ顔作りつつ言いつつも、それを知ったのは、俺に向かって斬撃が放たれた瞬間〝あ、コレ詰んだ〟と悟った瞬間に、おそらく時間が停止した。まぁ、いきなり無音になって、空中で停止したら、時間が停止したんだろうなと気付くよね。
時間が停止したからと言って、ムフフな展開や時間停止による最強キャラへの覚醒ということもないんだろうなって事は、すぐに理解でした。何故かって?
だって、俺も動けないし……
俺も動けないのに、この能力意味ある? とか思った訳ですが、視界に色々コマンドが出てるのよねぇ。AR的な感じで、意識をコマンドに向けるとタップしたことになるみたいなのだが、大層に〝【文字を書く者】が覚醒!】とか出てきたし、能力説明とかのテキストも視界に表示されたし、いや、ほんとに、何これだよね?
【文字を書く者】って、あの得体の知れないお姉さんが俺に与えたんだろうなってのが、表示されているルビを見ても分かる。ルビがデイリーアップデートって、読者が推しのネット小説に望むやつだものね。
いやぁ、分かる。分かるよ? 俺だって、好きな小説は毎日更新してほしいし? でもさ、書く時間とかさ必要な訳な事も知っているから、楽しみにしながら更新を待つ訳でしょ?
なんか俺の心の執筆が、編集された挙句にネット小説としてアップされるからと言って、時間を停止してまで、俺に心の執筆時間を与えるとかやりすぎでは? いや、まぁ、そのおかげでゆっくり状況を確認できるのだけれどもさぁ。
だったら停止した時間の中で俺を動けるようにしてよぉおおおおお!!!!!!!!!!
どうするのコレさぁ! 自分の意志で能力解除しないと、時間が動き出さないって説明テキストに書いてあるけど、解除したら空中で斬られちゃうんでしょ!? 怖すぎて解除無理じゃぁあああん!?
閑話休題!
少し気持ちも落ち着いたところで、現実逃避をやめて、この状況を打破することに集中することにする。ところで、現実って何だろうね……
【文字を書く者】は、とにかく書き手として欲しい力みたいなものが使えるらしい。書くための時間が欲しいってのは、その一つであるが、この状況をなんとかする直接の手段とはなり得ない。
しかし、この状況、すなわち何もしなければ死という、詰みがある場面のみにだけ発動出来る力があるみたいだ。
〝加筆修正〟
ルビが示しているように、自分に都合の良すぎる加筆は無理そうだが、この世界の設定を壊さないようなものであれば、作者である俺は現状に対して神の如く理を改変する事が出来るようだ。
ただし、この力は一日一回しか使いないようだけれど。
ここで重要なのは、この状況でご都合主義と認識されない程度に、加筆しなければ俺はここで死ぬと言うことになる。死んだらどうなるか分からない以上は、全力で生き抜こうとしないとやばい。
と言うことで、色々考えてみた!
①実は、俺は魔族と吸血鬼の混血であるため、モブと見せかけている強者。
②たまたま瓦礫が飛んできて、飛んできた斬撃に衝突して斬撃が防がれる。
③実は俺には、無二の親友がいて、俺のピンチに颯爽と現れる。
あかん、ご都合展開しか思いつかん。だって、生きるか死ぬかの場面に直面してて、助かろうと思ったら、ご都合展開以外に何があるっていうのさ!?
しかし、ここでありがたい機能がある。この〝加筆修正〟だが、入力ウィンドウに記入したとて、認められるもの以外は赤文字になり、発現可能なものだけ黒文字になる。
ということで、誰判断か分からないけども、試しに記入してみた加筆候補の内、一つだけ黒文字となったので、そこで〝実行〟アイコンを選択したのだ。
一角魔族で、前髪で目元隠れた黒髪ボサボサ頭で、中二的闇属性ビジュアルなキャラに転生した俺は訳だが、こんな盛り盛りに属性盛ってるキャラなのだから、こんな技を持っていても不思議は無いはずだ。
吸血鬼の定番能力。
それは〝霧化〟だ。