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淀河源五郎によるラズィヲ体操暗殺術のすゝめシリーズ

淀河源五郎によるラズィヲ体操暗殺術のすゝめ

作者: シギ



 ここは超日本、超東京都、うんももす町にある第3公園!!!


 8月の朝っぱらからバチクソ暑い、超地球温暖化が限界突破した中、町内会と呼ばれる大人の都合を凝縮した組織が、超和(令和の先の元号)生まれのキッズどもを噴水の前に集めて半ば抑留していた!!


「さあ、6時半だよ! 全員集合!! …なんっつて!!」


 ガキ共にはわからんオヤジギャグを飛ばしてヘイトを集めているのは、どこに行けばそんなん売ってるんだっていつも思う、真っ白な無地の野球帽に、真っ白なシャツ、下が緑のジャージというモブったオッサンであーった!

 もちろん洗顔料なんて使わないんで、朝からお顔が脂ギッシュであーる!!


 ガキどもの眠そうかつシラけた視線などどこ吹く風、朝っぱらからキツいハイテンションで、「いい朝だぞ! 元気! 元気!」などと連呼する。


「さあ、準備はいいかなぁ?! もっと元気になるために始めちゃうぞォい♡」


 胸にぶら下げたスタンプカード(もちろん現在まで彼は皆勤である)をかざし、ウインクしてくる町内会の回し者に、ガキどもが殺意を抱いたことは説明するまでもあるまい!!


「ポチッとな!」


『チャー、ザザーッ! チャ、ザーッザー! チャー、ザッー! チャン♪ チャーチャ、ザーッザザー、チャーチ、ザーッザ、ャン♪』


 白帽子のオッサンが、ベンチに置いてある赤いラジカセのボタンを押すと、例のBGMがノイズ混じりに流れる!


『テレテ、ジッジー! ガッガッ! ザー! テ、テレテテ、テッ、ガッピー! テテ、ザーッザー! テーン♪ ラズィヲ体操、第…』

 

 ゴッガシャーンッ!!!


 そこまでで赤いラジカセはブッ飛んで行き、イチョウの木にブチ当たって地面に落ちた!

 ラジカセは半壊して、キュルキュルとテープを回す音だけが響く。


「な、なにが…」


「邪魔だ。どけ」


「ッッッ!!」


 いつの間にか近づいていた巨躯の老人が、よく日焼けしたハゲ頭を太陽光に反射させ、鬼のような表情でオッサンの帽子のツバにキスせんばかりに圧をかける。白髪混じりの短い髭が、ジョリジョリとツバの縁に触れた。


「聞こえなかったのか? 邪魔だ」


 老人は痺れを切らしたかのようにオッサンを突き飛ばす。


 その乳首の浮き出た白タンクトップから出ている鍛え上げられた腕は丸太のように太く、血管が見えてドクドクと脈打っていた。

 小汚い茶色い麻のズボンも、競輪選手が履いているスパッツじゃないかというぐらいにパッツンパッツンだ。

 下駄の素足からのぞく肥厚爪は、獰猛な猛禽類の爪を思わせる。


 そして、老人は自身が肩に担いでいたウーファー付の真っ黒な高級CDラジカセを、さっきまで赤ラジカセがあった場所に置く。


「オマエは淀河(よどがわ) 源五郎(げんごろう)…63歳…ッッッ!!」


 小説や漫画であるある展開のフルネーム呼び、しかも年齢つきで、作者の手間を省く解説をしてくれるモブの鑑のオッサンが源五郎を震えながら指差す。


「オマエは公園出禁のハズだろう!!」


「貴様ら町内会の決めたルールなど知ったことか。ワシらはワシらのラズィヲ体操をやる。ただそれだけだ…」


「ワシ“ら”?」


 オッサンが振り返ってガキどもを見ると、彼らは上着を脱ぎ捨てて白タンクトップになっていた。その白タンクトップには、『源』が丸で囲われている、明らかにマジックペンで書いたであろう印があった。


「き、キサマ! 子供たちに…」


「そうだ。コイツらは、ワシの編み出した源五郎流ラズィヲ体操“暗殺術”をマスターするために集まっている!」


「ら、ラズィヲ体操を暗殺術だなんて…気でも狂ってるのか! 子供たちにそんな危険な物を教えるから出禁になったのを忘れたのか!」


「貴様らの軟弱な健康体操では、この超和の時代は生き残れん! 真の健康とは、日々の健康増進意識にて培うためだけにあるのではない! 健康を蝕む“ストレス”!! これを“物理的に排除”することこそが真の健康の秘訣なのだ!!」


 源五郎はツバを飛ばしながら豪語する!


「アンタ、なに言ってんだ!!」


「しかし、ガキどもはワシの思想に共感してくれておるぞ」


「え?」


 ガキどもは中指を立てて、オッサンに向かってブーイングを繰り返していた。

 ちなみにそんな彼らの拳には100円玉がしかと握りしめられていた。“現金”なことに、彼らは源五郎によって買収されていたのであーる!


「く、クソッ! 町内会長に言いつけてやるゥゥゥ!」


 あまりのアウェイさに耐えられなくなったオッサンは、涙目になってその場を逃げ出した。


「フン! 町内会長だぁ? そんなモンになにができる! ワシを止めたければ、蔵菊堂(くらきくどう)の超和菓子屋職人でも連れて来るんだな!」


 源五郎は、右腕の肘を上げて見せる。そこには上腕に深い古傷があり、これはかつて彼が死闘を繰り広げた証であった。


「……さて、邪魔者はいなくなった。真に意味のある体操を開始するぞ、ガキども」


「ちょっとお待ちになって」


 源五郎のカセットポチを止めるように、ガキどものひとりが手を上げた。


「貴様は? 見かけないガキだな」


「ガキなんて言い方はおよしになって。見かけないのは当然ですわ。私は昨日、この町に引っ越して来ましたの。申し遅れました。越宮(えつみや) 紫苑(しおん)と申します。シオンとでもお呼び下さい。9月から蒼蘭(そうらん)学園に通う予定の小学6年生、12歳ですわ。以後お見知りおきを」


 作者を助けるべく、やはり説明口調で自己紹介をしてくれるシオンは、やはり読者の期待を裏切ることのない金髪縦ロール付きのロリお嬢様であーる。

 もちろん、このクソ暑い夏休みなのに赤いドレス姿であり、どう見てもラズィヲ体操に来たとは思えないんだが、お嬢様がTシャツにハーパンっていうのも…いや、ありか? ありなのか?


「ほう。やけに垢抜けているガキだな」


 周囲の鼻垂れガキどもを見やって、源五郎はそう言う。


「まるで超都会の超東京から来たみたいな出で立ちだ」


「…ここも超東京でしょうに」


「そんなことはどうでもいい。…それでシオンとやら。ワシの源マーク印のタンクトップも着ずにラズィヲ体操暗殺術の邪魔をするとは、死ぬ覚悟ができてるってことだな?」


「は? 死ぬ?」


 源五郎が拳を握りしめるのを見て、シオンは真っ青な顔で首を横に振る。


「いや、おかしいですわ! 私はそのラズィヲ体操…暗殺なんちゃらなんて聞いたことが…」


「源五郎流ラズィヲ体操暗殺術だ」


「ええ。その源五郎流ラズィヲ体操暗殺術なんてものがなんなのかを知りませんの」


「いいだろう。教えてやる」


 源五郎はドカッとベンチに座る。


「…ラズィヲ体操は単なる健康増進のための体操と思われておるが、実はすべての動作に無駄がない暗殺術の型が隠されておるのだ」


「……は?」


「貴様は太極拳というものを知らんか?」


「太極拳…? おじいちゃんおばあちゃんがよく朝から集まって、ゆっくりと動いているアレ?」


「そうだ。太極拳も今や健康体操として親しまれておるが、本来の姿は極めて合理的な武術。達人の放つ浸透勁(しんとうけい)は、鍛え上げた鋼の大男ですら一撃で倒す」


「……それとラズィヲ体操のなんの関係が?」


「つまりラズィヲ体操も優れた武術を巧みに覆う隠れ蓑だったというわけだ。192☓年のラズィヲ体操成立時に、超日本武術会の重鎮たちが暗躍し、国民たちにそうと知られずに武術を授けることで、超欧米列強に対抗しようとしたのだ!!」


「そ、そんなことが…」

 

「……と、ワシは思う」


「ちょっと! 今のは聞き捨てなりませんわ!」


「うるさい奴だ。しかし、これを見ればわかる。タケシィィィッ!!」


 いきなり叫び声を上げる源五郎に、皆が耳を押さえる。


諸好(もろずき) 健司(たけし)ゥィィィッ!!!」


「はい!!」


 ひとりの地味なガキ…よく物語で最初の犠牲者になるような取るに足らん少年が、背筋をピィーンとさせて手を上げた!


「タケシィィィッ!!!」


「? はい!!!」


 返事をしているにもかかわらず、源五郎は首を横に振る。


「あの…」


 そして、源五郎は大きく息を吸い込む。


「モロズゥキィィィタケスゥイイイイイッッッ!!!」


「は、はい!!」


「返事をしろォォォッッッ!!!」


「だから、はいって言ってるでしょ!!!」


「……ん? 存在感がなくて気づかんかった」


 タケシは文句を言おうとしたが、源五郎が正拳突きの構えを取るのを見て考え直した。


「ワシの1番か2番か3番めか…たぶん、どこかには入る弟子のタケシだ。奇しくも貴様と同い年だが、120%の確率で男女の関係にはならんから安心しろ。物語の中盤で意味もなく死ぬタイプのキャラだ。エンディングで思い出すこともない」


「なんかヒドくね!?」


 タケシは泣いた。


「わかりましたわ。タカシね」


「タケシだよ!」


「タケシでもタカシでもマサシでも馬刺しでもなんでもいい」


「馬刺しってなんだよ! よくないよ!」

 

 タケシのツッコミは、モブにしてはそこそこ冴えていた。


「とにかく、見た目通りのイジメられっ子だった。そうだな?」


「見た目通りって言うのは気になるけど…うん! だけど今はさ、源五郎先生の源五郎流ラズィヲ体操暗殺術のお陰でイジメられなくなったんだ!」


「そうだろう、そうだろう。それでイジメっ子は殺したんだよな?」


「へ? こ、殺すって…」


「悪い悪い。ついな。殺すは言いすぎだな。…で、敵の片腕ぐらいは使い物にならんくらいにはしたんだよな?」


「い、いやそこまでは…」


 源五郎は深くため息をつく。


「いいか。イジメなどというのは他者の尊厳を無視した恥ずべき行為だ。しかし、大人は…親も教師も児相も警察も当てにはならん。『イジメはよくないから止めよう』で止まった例をワシは知らん。本人の力で、“コイツをイジメたら面倒なことになる”と相手に思わせることだけが唯一の解決方法だ」


 源五郎の上半身がムキムキに盛り上がる。


「タカシ。貴様が軟弱者になるのは、このワシが許さん。ここで選べ。イジメっ子を半殺しにするか、ワシに殺されるかを」


 究極の二択を迫られるタケシ。


「3つまで数えるまでに決めろ。ひとーつ、ふたーつ、みー…」


「わ、わかったよ! イジメっ子を半殺しにする!」


「それでいい。暴力に対抗するには、圧倒的な暴力しかない。完膚なきまでに叩き潰せ。それで貴様は健康になる」


「おかしい! おかしいですわ!」


 常識人シオンは眼をグルグルさせながら指差す!


「なにもおかしいことはない。…まだ理解できぬと見えるな。おい。タカシ。そしてシオン。今ここの場でラズィヲ体操をやってみろ。普通のつまらんラズィヲ体操でかまわん」


 シオンとタケシは怪訝そうにしながらも頷き(小学生は素直が一番!)、ラズィヲ体操の動きをする。


「いたッ!」「ゴメン!」


 “腕を振って、脚を曲げ伸ばす運動”で、タケシの腕がシオンに直撃した。 


「ほれみろ! これだァァァ!!!」


「汚い!」「臭い!」


 源五郎は多量のツバを2人にぶっかけながら叫び立ち上がる!

 

「今のラズィヲ体操の動き…これはまさに“他者を排除する動き”。貴様もラズィヲ体操をやった者の端くれとして知っているだろう! いま、狭いスペースでラズィヲ体操をやったら、どうなるか身をもって体感したハズだ!!」


「う、腕がぶつかる…」


「そうだ! そして『もっと拡がって』と言われる。これはラズィヲ体操が真実、危険なモノであることに他ならん!!」


「い、いや、おかしいですわ!」


「うるさい! 黙れ! 体操しに来たのに、問答はもう沢山だ!! 次になにかを言ったら圧倒的なワシの暴力で解決する!! ワシの健康のためにッッッ!!」


「……」


 殴られたくないシオンは黙った。


「それでは源五郎流ラズィヲ体操暗殺術を始める! 広がらず密集体形になれ!」


「密集したらぶつかるんじゃ…」


「避けろ! 避けつつ自分の体操を完遂する! これは中国拳法でいうところの散手(さんしょう)、スパーリング、組手に相当する!!」


 ガチャコンとラジカセのボタンが押された!


 そしてウーファーからの大音量で鳴り響くは、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲したレクイエム二長調K.626の第3曲『怒りの日(ディエス・イレ)』であーる!!


 まさか天才作曲家モーツァルトも、ラズィヲ体操のバックミュージックとして自身の曲が使われることになるとは夢にも思わんかっただろう!



『源五郎流ラズィヲ体操暗殺術、第1ィィィッ!!!』



 音楽とまったく合ってない野太い声が響く!



『腕を上空に向けて〜、対空の敵を突き殺す運動ッッッ!!!』



「えっ!?」


 シオンがびっくら仰天しているのも関係なしに、源五郎は指先に力を込めて、頭上でパァンと合わせた両手で一気に天を突く!!


 ガキどもも当然真似をする!!


「尻に向けて打てば浣腸となり、指先を捻ることで直腸部分を破壊することができるッ!!!」


「「「「はい!!」」」」


「いや、“はい”じゃないですわよ!!」



『腕を後ろに大きく振って〜、後方の敵の顔を叩き潰す運動ッッッ!!!』



 源五郎は前で交差させた腕を大きく後ろへ振り、背後に裏拳を繰り出す!! ボシュッ!! という空気を斬り裂く音が響いた!!


 ガキどもも当然…以下略。そして、互いに裏拳に当たらぬように機敏に躱す! 鈍いヤツは鼻パンされたことで鼻血を滴らせる。


「鍛え上げられた裏拳は、ハイペリオンの大樹をも叩き折るッ!!!」


「「「「はい!!」」」」


「だから!! おかしいですわよ!!!」


 シオンは走り出し、ラジカセを止める。


「なにをするかッ! 小娘がッ!!」


「こんなの体操ではありませんわ!」


 怒り狂う源五郎に、シオンは常識人らしいお嬢様の如く、堂々と手刀を下に切ってみせる。


「体操ではない!? なにを!! 寝言は寝て…」


 その時、役所の方から7時のチャイムが鳴った。


「チッ! 朝飯の時間だ!! 貴様のせいで、“弐之型”までしかできなかったではないかッ!!」


「知らないですわよ! お父様に言って、明日からは普通のラズィヲ体操をやるように、町内会や警察庁に強く働きかけますわ!!」


 お嬢様あるあるで、越宮家は地元の権力者にして名士なのであーった!


「なぁにぃ!? この猪口才(ちょこざい)な小娘が!!」


 源五郎の腹がグーッと鳴った。


「クソが! 腹が減っては戦はできん! 貴様のコロネパンみたいな髪を見ていたら、とっても腹ペコになって(りき)が出ん!」


 説明しよう! 源五郎はお腹が空くと、普段のパワーの半分以下のパーフォマンスになってしまうのだ!


「クソガキども! スタンプカードを出せい!! 今日だけは特別に押印してくれるわ!!」


 源五郎は象牙の実印を取り出し、ガキどものカードにハンコを押していく! 当然、ハンコの径が大きすぎてはみ出てしまっている!


「私のは押さなくて結構ですわ」


 源五郎から隠すように、シオンはカードを後ろ手にする。


「なにぃ? 貴様はどこまで反抗的なのだ!」


「ふん」


「くッ…!」


 一言だけでも言ってやろうと思った源五郎であったが、彼のストマックはベリーベリーハングリーであった!


「覚えておけよ! このままじゃすまさんからな!!」


 まるで三下の悪役みたいな捨て台詞を残して立ち去る源五郎に、シオンはずっと中指をおっ立てていたのであーーった!!!




✡✡✡




 さてはて、シオンはセレブが食うような朝飯を食べたあとに、また件の公園へと来ていたのであった。セレブとはいえ中身はJSであーる!!


「シオンちゃんてスゴイね。あの源ジイに面と向かって言えるんだもの!」


「勇気あるよね!」


「たいしたことないですわよ。相手が大人だからって、間違っていることは間違っているんですもの」


「カッコイイー!」


 先程の源五郎とのやり取りを見て、単純な思考回路のJSな友達がシオンにはできていたのであーった!!


 と、JSがブランコの回りでたむろっていたら、“ヤツ”がやって来るのは必定である!


 いつの間にか彼女たちの側にやって来ていたのは、ボサボサの髪、指紋だらけの丸い眼鏡、潰れたニキビだらけの顔、ピチピチのアニメ絵の女の子が描かれたシャツ、コーラとポテチのこびりついた古びたジーパン…そんな清潔感の欠片もない中年男性であっーた!!


「な、なんですか…?」


 男の気持ち悪い視線に気づいたJSのひとりが、警戒した様に尋ねる。


「こ、こんにちは。ドゥフフ、ロリコンです♡」


 そう! ロリコンは自らロリコンとは名乗らないやもしれないが、物語の都合上、スムーズな展開にするためにロリコンと名乗らせる!


「キャアー!!」


 そして阿鼻叫喚! 脱兎の如く逃げる少女たち! そりゃロリコンが来たら逃げるに決まっている!! ロリコンを見て「オジサン、ロリコンなのぉ♡」「ざぁこざぁこ♡」みたいな展開を期待している人は、エロ漫画の見過ぎである!!


「な、なんなのですの!? 私の友達を怖がらせないで!!」


 一緒に逃げりゃいいのに、無駄な正義感を振りかざし、シオンはロリコンの前にと立ちはだかる。


「お嬢様キャラキタコレ! しかもツンデレと見た! 大人になりかけつつある子供! オベベは大人っぽくても、パンツはイチゴかクマちゃんというので決まりですな!」


 物凄い早口でペチャクチャペチャクチャ喋りまくる! なんかオタクみてぇな喋り方だが、ロリコンってそういうのに多そうだからそうなんだ(偏見)!


「近づかないで!」


「ブヒヒッ! 仲良くしようよぉ〜♡ お人形さんも、あ、あるんだな!」


 ロリコンは自分の尻ポケットから、アニメ美少女フィギュアを取り出す。確かにお人形さんだが、これで遊ぶ女児がいたらビックリだ!


「や、やめて…」

 

 さっさと逃げればいいのに、涙目になって後ずさるシオン。小学生から見た大人はデカいからそりゃ近づかれたら怖いに決まっている。でも、それならさっさと逃げりゃいいのに近づいてくるオッサンに抵抗しないのはロリの鑑であーる!


「ハァフゥ、ハァフゥ♡ さあさ、お人形さん遊びしまちょーね♡」


「い、いやぁ…」


 絶体絶命! 高学年にもなってお人形遊びをさせられるという屈辱的セクシュアルハラスメントにはたしてシオンは耐えられるのか!?


 と、思いきや、危機的状況にあって彼女の脳裏にあの文言が甦ってきたのであーった!!



──腕を上空に向けて〜、対空の敵を突き殺す運動ッッッ!!!──



 無意識のうちに、シオンは源五郎流ラズィヲ体操の第壱之型の構えを取っていた!!


 そして、合わせた両指をロリコンの喉仏に向かって突き出す!!!


 スドッ!! JSの小さな指が、剃り残しのある喉を急襲する!!


「オブォェッ!! ゴッホゴッホッ…ゲホッ!!」


(き、効いたァァァ?!)


 女子小学生のかよわき一撃がどうして中年男性に通用したのか!? それは喉という部分はどうやっても鍛えられない人間の急所だからであーる!!


「ゲホゲホゥ! ん〜、もう! でもカワイイから許す! わ、悪い子でちゅねぇ〜♡」


 しかし、ロリコンは退かない! なぜならばJSからの攻撃は快感でしかないからであーる! それが変態の(さが)!! 彼らは上履きで股間を潰されることを妄想し、悶え悦ぶ猛者なのであーる!!


「クッ! わ、私の力じゃ所詮、大人には勝てないってことなのですわ…」


 無力感に打ちひしがれるシオン。しかし、ロリコンはそういうところにも興奮するので逆効果だ! 


「前からがダメならば、後ろからハグするまででしゅぅ〜♡」


「!?」


 小太りの男ができるとは思えない速度で、ロリコンはシオンの後ろにと回り込む! なぜこのような素早い動きができるのかと言えば、そりゃ獲物を前にすりゃそういう動きもできるからとしか言いようがない!!


「い、いや、やめ…」


 抱きつかれようとした刹那! そんな折、またしても彼女の脳裏に刷り込まれた例の文言が流れてきた!!



──腕を後ろに大きく振って〜、後方の敵の顔を叩き潰す運動ッッッ!!!──



「ハァイイイッ!!」


 それはたった一度、見ただけの“技”だ。しかし、彼女の体はそれをしっかりと記憶していた。ラズィヲ体操というのは老若男女、誰でもが見ただけでも行えるように工夫が施されているからであーる!!


 シオンは若干前屈みになり、腕を膝前で交差させ、胸を反らす勢いでロリコンの顔面に裏拳をぶちかます!!


「ぷぎゃああッ!!?」


 黒縁眼鏡を叩き割られ、鼻血と唾液を撒き散らし、ゴロゴロと後方回転して、ブランコの前にあった安全柵にしたたかに後頭部を打ち付ける(言うまでもなく激痛である!)!!


「…ろ、ロリコンを撃退、した? 私が?」


 シオンは血濡れた自分の裏拳を見やり、ゴクリと息を呑む。


「そうだ!! これこそが、源五郎流ラズィヲ体操暗殺術の真髄だ!!」


「ハッ! げ、源五郎…おじいさま?!」


 いつの間にか、砂場に源五郎が立っていた。なぜか砂山を踏み潰しているせいで、近くにいたスコップを持った幼児が泣き叫んでいる。


「ラズィヲ体操とは、何気ない単純な動作の集まりではある! しかし、その奥底に眠っておるのがまことの護身としての力! 女子供でも変態を撃退する力を得る!! これがワシの願い!! 誰も泣くことのない平和な社会の実現!! これこそワシの悲願!!」


 幼児が側でギャン泣きしている中、理想ばっかの綺麗事を並べる源五郎。

 それは国内支援より国外支援に精を出す、そんな腐った政治の縮図を見せられているかのようであーった!


「真の健康! …それはロリコンから己自身を護ることも含まれる!」


「はっ! ま、まさか私たちに護身術を教えるために…あなたは…」


 源五郎はコクリと頷く。


「…実に見事な裏拳だったぞ。シオン」


 源五郎はニッと笑うと、象牙の印鑑を取り出した。

 シオンは少し顔を紅くして、おそるおそるスタンプカードを差し出す(まだ首にぶら下げてたんかーい!)。


 自分の手の平を下敷きにして、ズゴンッ! と1日目にハンコを押す源五郎。


「あ、あの…」


「なんだ?」


「わ、私も…もっと強くなれますかしら?」


「もちろんだ。明日も6時半からだぞ」


「は、はい!!」


 恋する乙女のように源五郎を見やるシオン。チョロすぎね? とは思うが、まあ、世の中なんてだいたいそういうもんだ!!


 めでたし、めでたしであーる!!!




✡✡✡



 

 しかーし! そこで問屋はおろさない!



 源五郎は自宅へ戻ろうとする帰り道、電柱の影からズタボロのロリコンが姿を現す。


「…へ、へへ。まさかこんな痛い目に遭わされるとは思わなかったぜ」


 割れて歪んだ眼鏡をクイッとさせてロリコンは歯抜けの笑みを見せる。


「ご苦労だった」


 源五郎は巾着袋から1,000円札を取り出して渡した。


「…おいおい。たったこれっぽっちかよ?」


「…約束した金額はそれだ。ニートには充分すぎるだろう」


「ふざけるな。こっちはこれだけの怪我をして、警察を呼ばれるリスクだってあったんだ。せめて怪我の治療費は払ってもらうぜ。そうだな。10,000円だ。最低でもそれぐらいは貰うぜ」


「……」


 源五郎の眉間にシワが寄る。


「いいのか? 払わねぇってんなら、あのシオンって女の子に言っちゃうぞ。あの“ロリコンが襲う”ってのは自作自演だったと…」


「ハァイイイイイッ!!!」


「な!?」


 いきなり源五郎は両手を開いて、高く高く跳躍する!



──拾壱之型 飛び上がって敵の鼓膜を破裂させる運動──



 源五郎の分厚い手の平が、ロリコンの両耳を挟むように激しく打つ!! ※


 ※…危険だから絶対に真似しないで下さい。


「あぶべしぃッ!!!」


 顔中の穴という穴から出血し、その場に気絶して前のめりに倒れるロリコン。


「ワシは変態とは取引せん!」 


 ロリコンの握る1,000円を奪い、源五郎は激昂する!


「源五郎式ラズィヲ体操暗殺術は正義だ!! 覚えておけ! そして、大義のためにはなにをやっても許されるッッッ!!」


 とんでもないことを言っている源五郎だったが、残念なことに鼓膜を破壊されたロリコンにはまったく聴こえてやしなかった!!


「ワシはいずれ、全国民を“健康”にしてやる!!」


 源五郎はグッと拳を握りしめる。


「そうだ! 貴様のような薄汚いロリコンニートも、心身を鍛え上げて再び働いて社会貢献できるようにする! これがワシの掲げる“全超日本人健康補完計画”の全貌だ!!!」


 健康のためには死ぬことも辞さない覚悟で、源五郎はそう宣わったのであーーった!!



 そして近い未来、越宮紫苑の多大な資金力を用いて、この源五郎流ラズィヲ体操暗殺術は全国に一大ムーブメントを巻き起こし、一般普及化していくこととなるのだが、それはまた別のお話であーーる!!!




─終─

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