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大和家の就任発表

唯一自分がこの時代の人間では無いと証明できるリュックサックを所持して、3人の下女と彦太郎、夜鷹と共に左馬助から言われた部屋に従者について行きながら、たどり着いた。ここは、元は忠成の居室だったらしい。しかし、誉という謎の人物がやってきた挙句、次期当主として定められたので、急遽部屋を入れ替えることになった。

そうして、案内された部屋は客人の部屋として昨晩泊まった部屋と比べて遥かに広く、気持ちよく走れるくらいだ。


「こうして見ると、嫌な奴じゃないのか? 僕って、突然やってきた挙句に当主になりますって言ってるようなもんだし」

「いえ。若殿の振る舞いを皆、期待してますよ」

「それはそれでプレッシャーだよ」

「ぷれっしゃー…?」


と、ここまで来て今更ながら気付いた。この時代の人にとっては聞きなれない言葉であった。


「緊張するってことだ」

「ははっはっ。若殿が緊張なされるとは」


何故、こんなに陽気に笑っていられるのか分からなかったが


「若様」


そのやり取りを今日何度も見た夜鷹はキリのいいところで、割ってきた。夜鷹はこの部屋に着いてからずっと頭を上げずに座礼をし続けている三人の女子がいた。


「この娘らはどうしますか」

「うん、一先ず頭を上げて」


女子たちは確かに頭を上げたが、角度が90°から135°くらいに上がっただけだった。


「いや、そういう事じゃなくて…」


それでは顔が見えないだろうに…

誉は女子たちの前に移動すると、その場で片胡座をした。


「僕の顔が見えるまで顔を上げよ」


そう言ってもすぐに上がろうとはしなかった。主人の命令に従わなければという使命と自分の身分を考えると、そんなことは恐れ多いと恐怖が葛藤しているのだ。この3人の娘らは生まれも育ちも違うが、この時は思考が合っていた。

すると、誉から見て右端に座っていた最年長らしき女子が頭を上げた。しかし、その顔には恐怖がまだ残っていた。手篭めにされるのでは無いか、と思っているのだろうか。

だが、誉はそんな邪なことはしなかった。これから、このように苦しい思いをせずに誰もが幸せに戦のない世に暮らせるようにするのに、襲っていては本末転倒だ。

顔を上げた女子に


「名前はある?」

「晴です」


晴はボブだが、同じくボブの葵と比べると童のような顔つきであった。


「晴…か。いい名だね」

「はい…」


う〜ん。やはり、まだ強ばっている表情だ。


「よし、食事だ。丁度腹減ったし飯食おうか。君らも一緒に食べなよ」


すると左端に座礼していた最年少の女子が思わず頭を上げてしまったようだ。そして、両端が既に頭を上げたからなのか、真ん中の女子も顔を上げるようになった。


「コミニュケーションは食事が大事だよ」



急遽、すぐに用意できる飯を誉、夜鷹、彦太郎、女子三人の六人分を運ばせた。しかし、この場合においては上座と下座のような礼儀があるが今は無礼講だ。

円を囲んで食べるように命じた。現代社会で裕福に恵まれていた誉から見たら、質素な食事だが、晴達にとっては大変美味だったようで、左の女子は号泣していた。


「おっ…い……しい……!」


頬から流れた涙が汁物に入ってしまってるのを気付かないほど、泣いていた彼女を真ん中の女の子が袖で拭いてあげたようだ。


「おかわりはあるそうだ。食うと良い」

「そんな…贅沢でございます…」


晴はそんなことを言った。贅沢でいいんだよ、もっと食べなよ。そう言うと不思議なものを見るような顔付きだった。

この反応をこれからもされるのだろうか?


「君らも名前はなんだ」

「雨…」


ロングの髪だが、キリッとした目つきに何かを睨むような表情をしていた。


「怒ってる…?」

「滅相な。生まれつきこの顔でございます。お許しを」

「あぁ。それは仕方ないよ」


「私は雪です」

雪はまつ毛が目立つほど長く、いわゆる波ウェーブの髪型であった。


右から名前は晴、雨、雪。天候の名前か。そのままでもいいが、それでは何だかややこしい。しかし、名前を変えてもいいのだろうか。立場上、上なのだから変えていいのだが…


「この子らに改名させてもいいか?」

「若様のお好きに」

「これから、君らには晴代、雨代、雪代と名乗るがいい」


そう言われた三人は感嘆のあまり、雪代は嬉し笑いをしながら泣いているし、雨代は座礼をして、晴代は「お父、私生きてるよ」と胸を抱いていた。

各々の様子は違えど、それなりに喜んで貰えたようだった。

すると、彦太郎は「そろそろ、家臣団との懇談を…」と断りを入れてきた。全員で移動しようかと思っていたが、


「若様、この子らは私が世話するので先にどうぞ…」


との事なので、彦太郎と共に大和家を支える家臣達との邂逅だ。ちなみに、昨日会った誉に仕える家臣団と別で代々仕えている家老らしい。


「若様、家臣家臣と言っていますが公には陪臣と申すようにお願いします」

「陪臣?」

「主君が三成様ですので、その家臣であるのは若様。さらに若様を仕えているのは陪臣、そう申しますので」

「なるほどね」


この大和家に仕えている陪臣や大和家らが集う評定に向かう前に一応、正式な場に出るので、泥色の肩衣に紺色の袴を着せられた。そして、付き人の彦太郎には青柳色の肩衣に紺色の袴だった。肩衣はそれぞれで用意するが、袴は倹約家の上坂正純の御用達であり、全員紺色で揃える決まりらしい。なんでも、その方が袴を作る着物屋への支払いが安く抑えられるとか…

いざ、大広間に入ると奥には当主といった偉い人が座る上段の間があった。しかし、その席には空座だった。

何処に座ろうかと周りを伺いながら適当に1番右奥の上座に座ると


「誉様はこちらでございます」


名を呼ばれて気づいたが、誉の前にいた左馬助が手を差し伸べた方向へ向くと、そこは上段の間であった。

まさかな、と思ったがあんなところに座るとは…期待と不安を抱きながら、上段の間に座った。

すると、翁の面で怒らなさそうだった左馬助がいきなり声を出した。


「これより、評定を始める。此度は佐和山の城から大和に来館なされた大和誉様じゃ。皆のもの、いきなりであるが儂は誉様に家督を譲り、隠居しようと思う」

「なんですと!」

「いきなり過ぎますぞ」


と予想したとおりに、批判や疑問が飛んだ。その中で


「落ち着けなされよ。その誉様の素性は既に樂信殿に調べさせてある。にして、どうであったかの」

「それには及ばぬようでの。治部様が警戒する三河殿の間者でもなければ、忍でもない。大抵、こういうのにはなにか裏付けがあるものですが奇怪なことに何も無い。よって、迎え入れても良いのかと」

「農民の場合もあるのでは? 農民ならば今や百万人いるこの日の本を調べることが難しいであろう…そもそも、なぜ左馬助殿がこの男にどんな思いがあろうかと気になる所望でござらんがな。それまで後継者と決めていた忠政様はどうなされるので」

「堀殿! 言葉を慎めるように。仮にも現当主で在られるぞ」


声を荒らげる武人らの中で唯一、冷静に声を発したのが左馬助の隣にいた男だった。その男は左馬助と変わらない年齢のように見え、企業の役員のような威圧感を醸し出している。そして、その男が樂信と呼んだ老齢の男は坊主姿で少し髪が生えている。しかし常に浮かべている笑みには何故か背筋が凍るようだった。

今も尚、役員そうな男と口を交わしている堀は細長の顔に人を小馬鹿にするような口調であった。


「秀村、正信。その辺で構わぬだろう…確かに、儂が突然誉様を推薦した訳がある。だが、今はそれを明かさぬ。このように内部から疑う者がいる限りでは、な。そして、誉様の出自は忠政とすれ違いにすることにする。忠政の顔は漏れておらぬからな」


左馬助が区切りをつけると、本格的に評定を始めた。

こういうのは、新当主が出てきたらその日は評定のような会議はしないと思うのだが、関係なかったようだ。

評定の進行は役員そうな男───正信だった。その他は進行に従い、意見交換や施策提案を出していくようだ。議題は分からなかったが小一時間、様々な意見や提案を出して、終わっていった。仮にも新当主なのに置物気分であった。


「最後に、新当主から当家の方針を定めて頂ければと」


正信から思ってもないことを聞かれた。言われて最初は困ったが、つい今朝のことを思い出すとすんなりと気持ちが静まった。


「私は、戦のない世を創りたいと思う。しかし、それには私の言論ではどうにもならん。だから、あなた達の力が欲しい。戯言だと思うかもしれんが、戦が続いては日ノ本に朝日は訪れない。そのため、泰平の世になれるのなら、私は修羅の道へ歩む」


少々誇大表現もあったが、嘘は1度もついてない。汚い手だってしてやる。夜鷹という仲間を最大限に利用して、泰平の世を作れる。二度と女子のような苦しい人を出させてはならぬのだ。

すると、左馬助を初めに自分に対して座礼を正すようになった。大の大人がこうして座礼されると高揚感と中身はなんも出来ないベーべーなギャップに少し申し訳ない感がある。

その後解散すると、腕っ節が太く、剛毛な男に呼び止められた。この時代、174というまあまあ大きい自分よりデカイ図体のくせに、どこか笑みが不自然でわざわざ腰を曲げて話をしてきた。


「某は、赤島雪平でございます。ええ、康介の養父です」

「養父? 親子関係では無いのですか」

「あれの母親と俺は異父兄弟でしてね…一応、その事は大和家以外で知られてないしわざわざ公表するまでもないんで赤島の家で預かってるのです」

「そうだったのですね。で? 用は」


そう言うと、雪平はもう早速本題行くのか?! 分かりやすい顔で返事してきた。すると、急に始まりの言葉が途切れ途切れで中々会話が始まらない。


「なんなのですか…先に行きますよ…?」

「待ってくだされ。言いますからお待ちを」

「はぁ…」

「誉様は先程、戦の無い世を。と仰られたようで」

「言いましたね」

「俺はいいのですが、あれ…康介は槍以外才能がないのでして…どうか、罷免だけは免れるように…」


雪平は手を股関節の部位に当て、頭を下げた。成程、確かに僕の言い分では、戦にしか才能がない奴は罷免か暗殺だ。って言ってるようなものだしな…それは親ではなくとも甥の将来に心配するようなもんだ。


「安心してください。今はまだ分かりませんが、罷免するつもりもないし、消すつもりもありませんよ。いつも通りにしてくれたらいいのでしから」

「え、いいのですか? そんなんで…それはありがてぇございますね。今後も良しなに」


そう言って、ドカドカと反対側へ歩き込んだ。嬉しそうに歩きながら、「っしゃー!」と叫んでいた。その声にすれ違った下女が驚いていた。


「今のは、赤島雪平様でございますね。康介殿の養父…」

「そうだなぁ……。夜鷹!?」


いつの間にか隣にいた夜鷹に驚くと、いつも通りに澄まし顔でこちらに目を向けた。


「大頭領がお呼びです」

「大頭領?」

「私の養父でもある織田樂信様です」

「なんでその人にお呼びなの」

「要件は会ってから言うということで…」


それ、後継者問題で殺されないよな?


「ご安心を。大頭領は誉様に忠義を尽くしていますので」

「君がそう言うのなら…」


と夜鷹の強い頼み事に連れていかれると何故か左馬助の私室へ訪れた。すると、そこにはあの老齢な樂信と大和家の役員であろう正信と左馬助がいた。この空気を感じただけでわかった気がする。この三人が中心に大和家を存続させているのだ。逆に言えば、この三人のうち、一人でも崩れてしまったら大和家に傾きが生じてしまうほど…かもしれない。

左馬助に促され、左馬助の前に坐る。両端に樂信と正信がいた。ちなみに、夜鷹は私室の周りを警備するために、誉の後ろに控えていた。


「改めて紹介しましょう。こちらは織田樂信であり、あの信長公の末弟でございますぞ」


あの信長の弟? にしては、地位が低すぎないか?そう疑問に思っていたら


「残念ながら、私は双子の弟でな。双子は忌み嫌われ者なので捨てられたと同然にお寺に預けられてなぁ。その後、『新月』の前身となる忍者組織に入ったが、どうも坊主よりもこっちの方が身にあってたわなぁ」


勝手に聞いてもないのに出自を語り始めて、困っていたらそれを察したのか左馬助が続いて紹介をしてくれた。


「次に、こちらは儂の右腕として働いてくれる上坂正信でございます」

「上坂正信でございます。先日はご挨拶に向かわれた息子らの父でございます」


そう言って頭を下げた。どうもこの男はやる男ですって感があって凄い。まあ実際は分からないが…


「それで要件とは…?」

「もう早速入るのかね? 若様よ」

「話が進まないよりは良いであろう」

「そう硬くなるな。お主の頭が硬くては、理解出来ぬ部分が出てくるかもしれぬぞ」

「……」


少し談話しながら本題に入るつもりだったのが、何だか申し訳ない気持ちになった。左馬助本人は二人の話を聞いてるような聞いてないような…相変わらず、誉のことを見ていた。

しかし、樂信さんがこちらの陣営についてもらえれば百万力だ。正信さんは…少し分からないけど。


「まあ、誉様がそう言うのなら我らもそうさせてもらおうぞ」

「御意」

「はっ」


お〜息ぴったりじゃん。と感心した。忘れてしまうけど、左馬助も実は前まで当主だったから、こういう仕切りも出来るわけだ。だから、皆は左馬助に着いていくのかな…そう思ったら、左馬助は


「誉様に仇なす者は誰か?」


…自分をよく思ってない者があの中にいたのだろうか…。でも確かに、当主表明した時には色々な声が飛び回ってたからなぁ。


「樂信、引き続き警備を頼む」

「大和家は儂がやるが、若様のは夜鷹がやるでよ」

「夜鷹か。頼むぞ」


左馬助が前のめりになって、夜鷹にそう伝えると


「はい…」


流石のスルー女。左馬助のしつこいお節介に、サラッと流した。正信が懐から取り出した扇子をトントンと掌に響いた。


「話を戻しましょう。誉様が当主になることについては容易ですが、その事が家臣団の崩壊に繋がるのは悪手。ならば、大和家より高い家柄と婚姻関係を持つ方が一先ず、安心でしょう」

「結婚か…それに上の人間と結婚でもされたら、逆らう理由が無くなるんなぁ」

「妙案だな、流石。正信よ」

「しかし、この場合、正室は何処から貰うのかが重要でございます」

「ちょっと待ったァァァ!」


黙って聞いていれば、本人を抜きに結婚話を進めていやがる…。確かに、話を聞くと婚姻関係を持った方が、色々と動きやすいのは分かる。そりゃあ、自分だって女性と結婚できるのは嬉しい。だからと言って、あれよこれよと決めていくのはまだ早くないか。


「左馬助さん、大和家を再結束させるには結婚する手も悪くありません。しかし、それは最終手段にして欲しいのです」

「何故に?」


うわぁ、正信から睨まれている…それに対して、樂信は不気味な笑みを浮かべて、こちらを見ていた。まさかと思うが衆道の相手として見定められてるのでは…。ゾッとする。その二人に対して左馬助はニコニコと見ていた。


「今、強硬策として結婚を進めると、内部で納得がいかない者が出ると思います。それは避けたいですし、大規模な家柄ならまだしもこの家柄では陪臣が少ないので分裂でもされたら混乱して、一家取り潰しの可能性があります。ですので、ここは慎重に進めるべきかと」

「ふむ…一理あります。では、誉様の言う通りにここは慎重に行きますか」

「慎重に行くってよぉ、どうやって行くんだかねぇ」

「…代案では無いが、3日後に行われる佐和山での謁見にて、治部様から就任の命を承るのはどうか?」


左馬助の案に皆はそれでいいというような反応を出し、かつ現実的であった。


「これで火種が絶えた訳では無いです…先程も申したように、樂信。貴殿が頼みの綱となってる」

「何度も聞いたわ。この老齢に鞭を当てやがって…」


樂信が私室から退出すると、正信も今後の流れや変更点を左馬助と軽く話した後に退出した。

残るは誉、夜鷹、そして左馬助であった。


「大変でしょうが、お勤めお疲れ様です」

「いえ…こちらこそ」

「真ならば、誉様の就任をめでたく祝うはずですが…恥ずかしい話、疑う者が出てきて…」


それが普通だと思うけどな…。やはり、左馬助は誉に対して妄信的で少し心配だ。そもそも後継者は忠政だったはずで、それが突然誉がやってきたのだ。忠政を担いで、反抗する派閥がいつ出てもおかしくない。だが、忠政の本音はどうなのかは分からないが…

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